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第四章

「僕にしろそうだし」
「妻もか」
「そうだよ、奥さんがそんなことをする人かい?」
「違う、ましてあいつが自分のプライベートを晒すものか」
「そうだね、そんなことはしないよ」
「じゃあ誰がしたんだ」
「僕でも奥さんでもないことは確かだよ」
 このことは念を押すクレーシーだった、あまり言うとグレイブの猜疑心を刺激することはわかっているが注意しつつ告げた。
「その他の誰かだよ」
「そうか、探偵でも雇うか」
「信頼出来る探偵か刑事さんにね」
「バージル=ティッブスを呼ぶか」
 アフリカ系の名刑事だ、小説の中の人物だがシャーロック=ホームズのアフリカ系版だと言われる程の人物だ。
「あいつでも」
「彼は確か特別任務で出張中だよ」
 彼が所属しているとされている署では実際にそうなっている。
「それでも呼ぶかい?」
「じゃあマイク=ハマーにするか」
 今度は行動型の探偵だ、バイオレンスな人物でもある。
「あいつでも」
「とにかく信頼出来る確かな探偵さんに頼むんだね」
「ああ、そうする」
「とにかく誰彼なしに疑わない様にね」 
 オセローの様になるなというのだ、そう告げてだった。
 クレーシーはステーキを食べることを再開した、そのうえで同じものを食べているグレイブに今は笑顔で話した。
「やっぱりこのお店のステーキはいいね」
「いい焼き加減だな」
「それにスパイスとソースもいいよ」
 だからだというのだ。
「美味いね」
「そうだな、もう一枚食べるか」
「いいのかい?今はダイエット中じゃないのかい?」
「昼に食べて夜は野菜中心にしている」
 そうしてダイエットをしているというのだ。
「酒も飲まない様にしてな」
「それでトレーニングのメニューを増やしてだね」
「そうしている、だからだ」
 安心していいというのだ。
「ちゃんとしている」
「じゃあお昼はね」
「もう一枚だ」 
 グレイブもこのことは笑顔で言う、とりあえず親友と妻については疑うことを止めた、だがそれでもだった。
 彼の猜疑は止まらない、家に出入りしたことのある人間を二人以外は徹底的に疑った、それでいつも思うのだった。
「あいつか、それともあいつか」
 こう言ってであった。
「誰なんだ」
「またなの?」
 妻のカデリーンは家の中でもほぼ誰彼なしに疑っている夫を見て言った。
「盗撮をしたのは誰かって思ってるの」
「ああ、そうだ」
 その通りだとだ、グレイブは血走った目でカデリーンに答えた。
「誰かな」
「最近いつもそうだけれど」
「盗撮されてネットに出されたんだぞ」
 プライベートを暴かれたからだというのだ。
「それならな」
「探偵さんはもう雇ってるのよね」
「今調べてもらっている」
 実際にそうしているというのだ。
「誰がやったかな」
「そうなのね」
「しかし時間がかかるからな」
 調べるにあたっても時間がかかる、このことは探偵も同じだ。
「その間はな」
「辛いの?」
「辛くはないな」
 それはないというのだ、だがだった。
「疑って回ってるだけでな」
「あなた今顔が」
 カデリーンは夫の顔を見て言う、普段は整って逞しいまさにオセローに相応しい顔である、しかし今はその顔が。
「目が血走ってるわよ」
「そうなっているか」
「ええ、しかもギョロギョロとしてて」
 ただ血走っているだけではなかった、その顔は。 
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