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第五章

「何か異様な感じよ」
「そうなっているか」
「人相も」
 それもだった。
「もう睨んでる感じで」
「悪くなっているか」
「本当にオセローみたいよ」
 悪い意味でだというのだ。
「何かね」
「デズデモナを疑っている時か」
「その時みたいになってるわ」
「本当に誰彼なしに疑ってるからな」
 それも当然だというのだ。
「そうなるだろうな」
「そうなのね」
「誰が盗撮した」
 またこう言う彼だった。
「一体」
「だから疑っていてもね」
「仕方ないか」
「確かに私も気になるけれど」
 それでもだと言うカデリーンだった、彼女も盗撮をされたが夫程気に病んではおらずこう言えたのである。
「それでもね」
「俺程じゃないか」
「本当に気に病み過ぎだから」
 かえってよくないというのだ。
「さもないと本当にね」
「よくないか」
「いい筈ないわよ、心を落ち着かせてね」
「そうしたいがな」
「無理なのね」
「今はな」
 到底だというのだ。
「どうしようもない」
「困ったわね」
 妻もお手上げだった、今の彼については。
 グレイブは妻とクレーシー以外の誰もを疑う有様だった、家の中に来たことのある者なら誰でもである。それは続いていた。
 そしてその彼に疑われた者は距離を置く様になった、クレーシーはその状況を見て親友に忠告をしたのだった。
「今君はまずい状況にある」
「誰彼なしに疑っているからか」
「疑われていい思いをする人間はいないよ」
 そんな人間はいない、クレーシーの言う通りだ。
「だからだよ」
「そうだろうな、しかしな」
「疑わずにはいられないか」
「どうしてもな」
 彼にとっては、というのだ。
「今は誰もが疑わしい」
「それで僕も疑ったね」
「済まないと思っている」
「そのことはいいよ」
 許したというのだ。
「だがそれでもね」
「疑うことはか」
「孤立しているからね、今の君は」
 だからだというのだ。
「本当に大変なことになっているから」
「疑うべきじゃないか」
「そう思うがね」
「しかしな」
 それは頭ではわかっているのだ、グレイブにしても。しかし彼はどうしてもなのだった。
「今の俺はな」
「疑ってしまうんだね」
「どうしてもな」
「まさに病気だね、けれど探偵の報告は」
「そろそろだ」
 それが届くというのだ。
「多分それで誰かわかる」
「それでわかって欲しいよ」
「俺が疑うことを止めるからか」
「そうだよ」
 その通りだというのだ。 
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