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第三章

「君の今の言葉だとな」
「しかしな」
「確かに悪質だよ」
「そうだろ、頭にきてるんだよ」
「気持ちはわかるよ、だがね」
「君を疑うことはか」
「僕がそんなことをする人間に見えるのかい?」
 声を少し怒らせてだった、クレーシーはグレイブに問う。
「個人のプライベートを盗撮して公にする様な」
「いや、それは」
「そうだろう。僕はそんなことはしないよ」
 絶対にというのだ。
「誰かがやったにしてもね」
「それだ、本当に誰なんだ」
 本気でいぶかしむ顔で言うグレイブだった。
「誰があんなことをしたんだ」
「君の家に出入りしたことのある誰かであることは間違いないね」
「じゃあ大体目星がつくな」
 グレイブは険しい顔でこう言った、クレーシーの話を聞いて。
「探し出してやる、絶対に」
「徹底的にやるみたいだね」
「俺にとっては絶対だからな」
 プライベートを守ることはというのだ。
「だからな」
「おかしなことはしない様にね」
 クレーシーは一応注意する、だがここで。
 グレイブの今の顔を見てだ、心配する顔でこう言った。
「しかし今の君は」
「俺は?」
「オセローに見えるよ」
 彼が最も得意としているその登場人物にだというのだ。
「冗談抜きにね」
「馬鹿な、俺は嫉妬深くない」
 オセローの様にだと、グレイブはクレーシーのその言葉にすぐに否定で返した。
「オセローと違ってな」
「だといいがね」
「確かに俺はオセローが好きだし演じることも得意だ」
 自分でこのことは認める。
「しかしだ」
「君はオセローじゃないね」
「絶対に違う」
 このことを強く言って否定を表す。
「オセローじゃない、オテロでもな」
「ヴェルディの歌劇の方だね」
 こちらも不朽の名作となっている、伝説の名テノール達が演じ歌うことによってその名を残している。
「そちらでもないね」
「そうだ、違う」 
 このことは絶対にだというのだ。
「ましてや妻を殺したりもしない」
「けれど奥さんを疑ってないかい?」
 クレーシーは問い掛ける目で親友を見つつ問うた。
「そのことは大丈夫だろうね」
「オセローの様にか」
「うん、大丈夫だね」
「それはない」
 このことも否定するクレーシーだった、やはり強く。
「絶対にな」
「だといいがね、しかし今僕があれこれ言っても」
 クレーシーはここであることに気付いた、それはどういうことかというと。
「危ういね」
「どうして危ういんだ」
「君をかえって疑心暗鬼にさせかねないな」
「イヤーゴみたいにか」
「ヤーゴとも言うね」
 この辺りは発音の違いだが役は一緒だ。
「あの旗手になるね」
「あいつは悪意の塊だが御前は違うだろう」
「善意で言っても相手の疑心暗鬼を肥大させる場合はあるよ」
 この辺りは話を聞く者の状態による、猜疑心にとらわれている者は善意の言葉でも疑いの心を増していくものだからだ。
 それでだ、クレーシーはこう言ったのだ。
「僕はもう言わないよ」
「そうか」
「そう、とにかく疑っていい相手と疑っていけない相手はいるよ」
 クレーシーはこのことはどうしても言っておかねばならないと思い釘を刺した。 
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