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雰囲気

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第三章

「結構な種類がね」
「焼酎だったら何でもいいのよね」
「うん、普通のも黒糖も」
 焼酎ならいいのだ、田所は焼酎しか飲まないが焼酎ならばどんな種類のものも飲むことが出来るのだ。それも美味く。
「飲めるよ」
「それで焼き鳥は」
「焼き鳥屋さんで買ってね」
「そうすればいいね」
「そうしてお家でね」
 飲んでみてはとだ、映見は話す。
「そうしてみる?」
「うん、それじゃあ」
 田所は妻の言葉に頷いた、そしてだった。
 彼は次の日早速だった、まずは会社帰りに駅前の焼き鳥屋で焼き鳥を買った。
 それから酒屋で焼酎を買った、そうしてだった。
 その二つを持って家に帰りテーブルに着いた、そのうえで妻に言うのだった。
「じゃあ今からね」
「飲んでみるのね」
「そうしてみるよ」
 話した通りそうしてみるというのだ。
「今からね」
「それじゃあね」
「うん、じゃあ」
 焼酎を自分でガラスのコップに入れて焼き鳥のパックを開く。焼き鳥はタレを付けたものであり焦げ目の黒にダークブラウンがかかっている。
 その焼き鳥を一本手に取って口に入れて噛んで味わう。それから。
 焼酎を一杯くい、と飲む、そのうえで妻にこう言った。
「おかしいね」
「おかしいって?」
「味は一緒なんだよ」
 こう言うのだった。
「焼酎も焼き鳥もね」
「そうよね、同じものだから」
「うん、焼酎の種類もね」
 いつも店で飲んでいる種類の一つだ。
「それだし」
「しかも焼き鳥も」
「よく行くお店のだよ」
 居酒屋もやっている焼き鳥屋のものだ。
「だからどっちもよく知っている味で」
「美味しいのよね」
「その筈だけれど」
「違うのね」
「いや、美味しいんだよ」
 このことは確かだというのだ。
「実際ね。けれどね」
「何がどう違うのかしら」
「ううん、飲んだ気がしないんだよ」
 田所は右手に焼酎を入れたコップを、左手に焼き鳥の串を一本持ったままそのうえで妻に話したのだった。
「どうもね」
「お酒飲んでるのに?」
「それに肴も食べて」
「それでもなの」
「おかしいな、いつもと同じ筈なのに」
 同じものを飲んで食べている、しかしだというのだ。
「何か飲んだ気がしないよ」
「そうなの」
「どうしてかな」
「それは多分ね」
「多分?」
「あなたいつも飲むのはその焼酎と焼き鳥で」
 そしてだというのだ、映見はそのいぶかしんでいる夫に話していく。
「それで飲む場所はね」
「居酒屋か」
「居酒屋で飲んでいるからじゃないかしら」
「だから飲んだ気になれるんだ」
「そう、場所よ」
 そのこともあったというのだ。
「それもあったのよ」
「そうだったんだ」
「焼酎と焼き鳥を居酒屋で飲む」
「僕はそうしないと飲んだ気がしなかったんだ」
「そうなのよ。多分だけれど」
 あくまで仮定だがそれでもだとだ、映見は夫に話す。 
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