雰囲気

「そうだったのよ」
「じゃあこれからも」
「飲む時はね」
「焼酎と焼き鳥をだね」
「そう、居酒屋でね」
　飲めばいいというのだ。
「そうすればね」
「そういうことだったんだ」
「じゃあね」
　妻はまた夫に言った。
「飲む時はそうしたらいいわ」
「わかったよ。じゃあ今は」
　今飲んで食べている焼酎と焼き鳥はというと。
「どうしようかな」
「焼酎はよかったら私が貰うけれど」
　映見も飲める、それでこう夫に提案したのだ。
「焼き鳥はね」
「僕が食べていいんだね」
「ええ。そうしない？」
「君も肴が必要だろうに」
「ピーナッツがあるわ」
　酒の肴の定番の一つのそれがだというのだ。
「柿の種とね」
「それで飲むんだ」
「そう、だからね」
　そのことへの心配はしなくていい、映見は田所に話した。
「飲ませてもらうわ」
「じゃあ僕も焼き鳥を食べるから」
「一緒にだね」
「そうしましょう」
　妻は微笑んで夫に言った、二人は今も新婚の時の様に仲がいい。それで今もそうしたものを口にして楽しんだのだ。
　そして次の機会から田所はまた居酒屋で飲む様になった。口にするものはやはり焼酎と焼き鳥である。その二つをカウンターで楽しんでいると。
　尾花が来た、そのうえで笑顔で彼に言って来た。
「今夜もですね」
「うん、居酒屋でね」
「焼酎と焼き鳥ですか」
「それを楽しんでいるんだよ」
　今の様にというのだ。
「僕はね」
「そうですよね」
「それで君は今日はどうするんだい？」
「今日はソーセージで」
　尾花は笑ってまずはこれを出した。
「それと刺身で」
「和食系もだね」
「それを白ワインでと思ってます」
「そうするんだね」
「今日はこれで」
　尾花は田所の隣の席に座って彼に述べた。
「そうします」
「そうして色々なお酒と肴が楽しめるのも」
　田所は注文したメニューを待つ尾花を見つつ言った。
「雰囲気かな」
「雰囲気ですか」
「うん、尾花君も飲む雰囲気は味わってるよね」
「そうですね、お店で飲む時も家で飲む時も」
　そのどちらでもだというのだ。
「独特の雰囲気があるじゃないですか、飲む時は」
「そう、それを楽しんでるよね」
「そうしています、課長もですね」
「僕はこうした店でね」
「焼酎と焼き鳥ですか」
「それを楽しんでるんだよ」
　家で妻と共に飲んでわかったことを彼に話す。
「そうなったよ」
「そう言うんですね」
「そうだよ、じゃあ今も」
「はい、飲みます」
　そうするとだ、尾花は田所に笑顔で答えた。そうしてだった。　
　注文したものが届いて田所と乾杯して飲み食いする、そのうえで満面の笑顔で言った。
「やっぱりいいですね」
「この雰囲気がだね」
「はい、最高です」
「そうだね、これがね」
　田所は満面の笑顔の尾花に温厚な笑顔で答えた。酒を飲む時は何を楽しんでいるのか、彼はそのことを理解して飲むのだった。


雰囲気　　　完


　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　２０１３・１０・２７