渦巻く滄海 紅き空 【上】
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六十八 禍の根
前書き
捏造多数です。ご注意ください!
火影の件に関しては完全に自己解釈です。ご容赦ください。
頭悪いのでこんな形になりました、すみません(泣)おかしい箇所が多いと思いますが、なにとぞご了承願います!
「ナルトさん?」
突如名を呼ばれ、彼はハッと顔を上げた。
背後でこちらを窺うように佇む重吾と白。二人の姿を認めて、ナルトは苦笑した。
どうやら随分長い間、物思いに耽っていたようだ。不在に気づいて探索してくれたらしい二人へ、微笑みかける。
その笑みはどこか弱々しく、そして哀しげだった。
用件を告げるとすぐさまこの場を立ち去った、招かれざる客。その客が当初潜んでいた大木は今や地に伏している。腰を下ろしていたその大木の幹をナルトはそっと撫でた。
小さな謝罪と共に手を翳す。次の瞬間、腐れ落ちた大木から芽吹く緑に、彼はようやく気を僅かに緩ませた。
おもむろに立ち上がる。気遣わしげな視線をその身に受け、ナルトは眼を細めた。
「…すまないが、此処から暫く離れてくれ」
突然の一言に白と君麻呂が戸惑う。狼狽する彼らを尻目に彼は言葉を続けた。
「あのジャングルの要塞。其処で待機していてほしい。再不斬・香燐・ドス・キンは勿論、水月、それにお前達も…」
「…ナルトさんは?」
「俺は…――――」
重吾の問いにナルトは一瞬目を伏せる。直後上げた顔には、何時もの穏やかな笑顔が広がっていた。
「少し、休みたくてね。白も勧めただろう?」
わざと何でもないように振舞った後、背を向ける。背後で重吾が何か言いたげに手を伸ばす気配がした。
即座にそれを制した白が従順に頭を垂れる。
「…承知しました。再不斬さん達にはアジトへ向かうよう進言します」
文句を言う素振りすら見せず、むしろ己の意見を尊重する白に「…――頼む」とナルトは感謝の念を込めた。そうして謝礼を告げるや否や、突き刺さる視線をそのままに踵を返す。
濃霧の中へ無言で立ち去るその背に、「ですが、」と唐突に白が口を開いた。
「僕は残ります」
立ち止まる。歩みを止めたナルトの背中に頭を下げたまま、白は言葉を続けた。
「ナルトくんのお帰りを此処でお待ちしています」
白に倣って頭を下げた重吾もまた、伏せ様に「俺も待つ。ナルトさんが帰ってくる場所が、俺の居場所だから」と確固たる口調で告げる。
背中で聞いた二人の宣言にナルトは目を瞬かせた。やがて、ふっと口許を緩ませる。
苦笑とも微笑ともつかぬ微笑みを湛え、彼は双眸を閉ざした。
「……行ってくるよ」
木立を漂う霧。一度沈んだら二度と這い上がれないのではないかと思われるほど白濁しているそれは、まるで道行く人を引き摺り込む底無し沼のようだ。
深き霧の中。緩やかな歩みだが徐々に遠ざかる背中に向かって、項垂れる二つの頭。
霧に呑まれ、ナルトの姿が完全に見えなくなっても、白と重吾は何時までもその場で見送っていた。
「カカシ…ッ!!」
家主の許可なく、飛び込んで来た教え子。勝手に部屋へ乗り込んで来たサスケに、カカシは苦笑を漏らした。
「お前ね…。不法侵入でしょ~が」
「そんな事はどうでもいい!五代目火影が決まったってのは本当か!?」
「…やけに耳が早いね」
珍しく切羽詰まったサスケに圧倒され、目を丸くする。カカシの驚愕を余所に、サスケは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。
「……志村ダンゾウだと聞いた」
ギリッと唇を噛み締める。不満を隠しもしない教え子の苦い顔を、カカシは訝しげに覗き込んだ。
「何?ダンゾウの事、知ってるの?」
「……いや」
一瞬動きを止めたものの、ゆるゆると頭を振る。直後「だが、裏の人間だと聞いた」と付け加えるサスケの顔を、カカシは横目で窺った。
僅かな動揺を察しつつも、素知らぬ顔を作り、腕を組む。サスケと向かい合うよう窓を背にして、瞑目したカカシは静かに語り出した。
「確かにダンゾウは裏の人間だ。不穏な噂も絶えないし、冷酷非道な野心家と言われている……―――サスケ。お前、『根』の事は?」
「暗部を養成する為の組織らしいな。あんたもいたのか?」
サスケの問いを耳にした途端、真顔になる。ややあって口端を歪め、カカシは自嘲した。
「暗部に所属していた事もあったよ……でも俺は、ダンゾウの味方じゃない」
言葉を濁した前半に比べ、後半はきっぱりとした口調で答える。そしてカカシは、ダンゾウについて意外と博識なサスケを怪訝に思いつつも、話を続けた。
「ダンゾウは三代目とは真逆のタイプだ。穏健派と対立しているのをよく見掛けるよ。非情な作戦もよく実行してるし、今回の火影襲名の事だって半ば強制的…。根っからの武闘派だな」
「…………」
「まぁ、まだ大名からの任命だけだから…」
そこでカカシはわざと言葉を切った。サスケの真摯な眼差しを受け、力強く答える。
「まだ正式には火影と認められていないよ」
あからさまに安堵したサスケの様子を見て取って、カカシは内心奇妙に思った。
火影を夢見るナルならともかく、あのサスケがなぜここまで拘るのか。
もしかしてナルに触発されてサスケも火影を目指すのか、とカカシは少しばかり微笑ましい心持ちになった。勘違いされてるとも知らず、サスケが意気込んで訊ねる。
「それじゃ、まだ撤回は出来るんだな!?」
「う~ん、それはどうかなぁ…。今現在、火影の椅子が空席なのは事実だ。何れにしても誰かが火影にならないといけない。このままだとダンゾウの就任は時間の問題だな」
大名からの承認は既に得ているみたいだし、と肩を竦めたカカシの前で、サスケは怒鳴り散らした。
「そんなもの、脅したに決まってる!」
「ちょっとちょっと!そんな大それた事、口にするな。いつ何時、誰に見られてるのかわからないんだから」
慌ててサスケの口を手で押さえ、カカシは口許に人差し指を寄せた。し~…と子どもを宥めるような仕草に、「ガキ扱いするな」とサスケが顔を背ける。
青筋を立てつつも罰が悪そうな態度を見て、カカシは含み笑った。
「現に子どもでしょーよ…―――それで結局、お前は何が言いたいわけ?」
「…ダンゾウ以外に火影候補はいないのか?」
「あー…そういうこと」
兄との和解時に、サスケは綱手の事をナルトから聞いていた。故に自来也とナルが綱手を捜索しに向かっているのだと分かっているものの、自分がそれを知っているのは妙なので、わざと知らないふりをする。
素知らぬ顔で訊ねると、案の定カカシは得心がいったとばかりに頷いた。
「サスケは知らないよな…今に自来也様がその火影候補を連れ帰って来るよ。自来也様と同じ三忍の一人、綱手様だ」
一方のカカシは、取材旅行と称した旅の目的を自来也本人から直々に聞いていた。だからこそ彼はダンゾウの火影就任の件について余裕染みていられるのだ。
今にきっと、自来也が綱手を里に連れ帰る。それまで辛抱すればよい話だと。
だがその楽観的な考えは、瞬時にサスケが一蹴した。
「そんな悠長にしてていいのかよ!?その火影候補が本当に火影就任の話を呑むかも分からないんだろ!」
「………っ、」
「見つかるかも分からない、火影になるかも分からない…何の根拠もないじゃねえか!そいつを待ってる間にダンゾウが何も手を打ってこないと本気で思ってんのか!?」
「…………」
「カカシっ!!」
畳み掛ける。駄目押しとばかりに名を呼ばれ、カカシは逸らしていた視線をサスケに向けた。その真っ直ぐな眼差しとうちは一族の証である『写輪眼』に、彼は昔の友の面影を見る。
(……俺はいつも、口先ばかりだな…)
なぜか、かつての親友に叱咤された気分に陥って、カカシは改めて自身を嘲った。そしてやにわに印を結ぶ。
「【口寄せの術】!」
突然忍犬を口寄せし、何事か言いつけているカカシを、サスケは呆然と眺めていた。頷いた忍犬が颯爽と窓を飛び出してゆく様を見送ってから、ようやくカカシが振り返る。
「今、俺の忍犬が自来也様にダンゾウの件を伝えに向かった。既に綱手様と接触なさっているのなら、すぐにでも里へお戻りになるよう言付けを頼んでおいた」
「……協力、してくれるのか?」
我に返ったサスケがおそるおそる訊ねると、悪戯っ子のようにカカシは今一度口許に人差し指を寄せた。
「大きな声では言えないけど、俺もダンゾウのやり方は好きじゃないんでね。それに、何時になくお前必死だし」
未だに唖然とするサスケの頭をカカシはぐりぐりと撫でた。
「教え子の意志は大切にしたいからね」
その一言を受けて、サスケはぽかんと口を開けた。やがてじわじわと真っ赤になった顔を隠すように思いっきり俯く。サスケの珍しい反応を目にして、カカシの口端が秘かに緩んだ。
だがすぐさま顔を引き締めて、声を潜める。
「火影に認められるには大名と上忍衆の承認が必要不可欠。だけど、大名からの承認を得た時点でダンゾウが火影に就く事は事実上確定している」
「じゃあ、どうするんだよ…っ?」
カカシに合わせて、サスケもまた声を低くした。今や二人の会話は、ほとんど囁き声に近い。
「まぁ聞け。火影を選ぶ権利は何も大名と上忍に限った事じゃない…―――そもそも大名に対してもダンゾウは一方的に火影就任を宣誓したと聞く。三忍は誰一人として里におらず、火影候補は一名のみ…これだけの条件が揃う今、大名がダンゾウの要求を呑んでもおかしくはない」
「三忍の不在時を狙った、という事か…?」
「さぁ…?でもダンゾウの意思がどうであれ、自来也様が捜索中にも拘らず火影就任を早めるのは、里の意志に反していると俺は思うよ」
「……それじゃ、俺達に出来る事は…」
眉根を寄せるサスケに対し、カカシは目を細めた。そしておもむろに、ぴんっと指を二本立てる。
「俺達が出来る事は二つ。一つはダンゾウ承認の件を認めないよう上忍達を説得する事。もう一つは署名を募る事だ」
「署名?」
首を傾げるサスケに、カカシは立てていた指を下ろして説明を始めた。
「火影候補が一名のみの場合、その支持率が全有権者数の三分の一以上でなければならない。そこを逆手にとる」
「…つまり?」
「ダンゾウの支持率を三分の一未満に抑えることで、再度綱手様を火影候補として挙げる。そうすれば大名も再検討せざるを得ない」
火の国の大名と設けた会議において、ダンゾウはまず有力候補の自来也を封じる為に強硬手段に出た。自来也が里を出た機を見計らい、決定権を持つ大名へ火影の即決を求める。
聊か決断力に欠ける大名はダンゾウの気迫と巧みな話術で言い包められ、彼を火影に任命してしまったのだ。
火影任命の権利は大名と上忍衆が大きく有している。だが有権者は一応里人も含まれており、なかでも血継限界が多い木ノ葉において一族の力は大きい。
そして大名からの承認を半ば強引に得たダンゾウは、今現在上忍衆からの信任投票を控えている。
つまり信任投票が終わる前に、日向や奈良、油女・犬塚といった名族から出来るだけ多くの署名を募り、その署名状を提出すれば、ダンゾウの火影罷免も夢ではないという事。
「運の良い事にお前の同期はほとんどが名門の嫡子だ。その子達に協力を仰げ。俺は上忍達に呼び掛ける」
「……………」
今まであまり人と慣れ合わなかった為、サスケは正直気乗りしなかった。見兼ねたカカシが苦笑しつつ、助言する。
「そうだな…まずはシカマルに相談したらどうだ?シカマルのお父さんのシカクさんはかなりの切れ者だから、心強い味方になってくれるかもしれないよ」
「………わかった」
暫し逡巡したものの、渋々頷くサスケ。彼にとっては、自身のプライドより兄との約束のほうが大事だった。
こうしてカカシとサスケはダンゾウの火影就任を阻止すべく、秘密裡に行動を開始する。特にサスケの署名運動は同期の下忍達に秘かな衝撃を齎した。
彼らのサスケにおける認識が『スカした奴』から『意外といい奴』に変わるのはこれから後の話…---。
冴えた月が皓々と輝く空。
月を背景に佇む城は圧巻で、綱手は思わず感嘆の吐息をついた。
「流石、文化遺産に保存されてるだけあるねぇ…」
先ほどまで酒を飲んでいた彼女は、酔い醒ましがてら散歩していた。自来也とは居酒屋で別れ、観光名所である短冊城を見物する。
「いや~…やっぱり短冊城って堂々たるものですねぇ!」
綱手を居酒屋に迎えに来たシズネも、彼女の散歩に付き添っていた。威風堂々たる城の景観を楽しむ。
「アマルとトントンも連れて来れば良かったですね、綱手様!」
「また明日にでも連れて来ればいいさ……こんな見事な月が見られるんだったら、酒でも持ってくれば良かったねぇ」
「まだ飲むんですか!?」
さっきまで自来也様と十分飲んでたじゃないですか、と呆れ果てた表情でシズネが苦笑する。軽口を言い合いながら楽しげに歩いていた彼女はふと、今思い立ったように「そういえば、」と綱手に尋ねた。
「自来也様のご用事は何だったんです?」
「ああ。それは…---」
シズネの問いに答えようとした綱手が不意に口を噤んだ。
急に立ち止まった綱手の背中に「……綱手様?」とシズネが不思議そうに声をかける。だがやけに険しい横顔を見て、彼女もまた眉を顰めた。
厚い雲が月を覆い隠し、深まる夜。綱手とシズネの姿が城の影に呑み込まれ、辺りはたちまち闇に包まれた。
幽暗に閉ざされたその場で身動ぎ一つしなかった綱手がスッと目を細める。
突如、雲が途切れた。
再び顔を出した月明かりに、城が鮮やかに浮かび上がる。そして同時に崩れ落ちた。
目前で堅固な城が崩壊してゆく様を綱手は動揺する素振りもなく見つめる。
「……見つけたわよ」
一瞬で城を瓦解した犯人。月を背景に冷笑する相手を綱手は鋭い眼光で見据えた。
「――――綱手」
「―――大蛇丸」
綱手・自来也・大蛇丸。
共に『伝説の三忍』と謳われたかつての同胞。その三人が、今、この街に集結した。
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