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IS 〈インフィニット・ストラトス〉~可能性の翼~

作者:龍使い
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第二章『凰鈴音』
  第二十六話『総力結集、少女たちの戦い』

 
前書き
本日のIBGM

○教師としての自分、姉としての自分……
神無月の人魚(Xenogears)
ttp://www.nicovideo.jp/watch/sm17432479

○乱入者の正体
Vestigial Dream(VALKYRIE PROFILE-LENNETE-)
ttp://www.youtube.com/watch?v=CjebLP21KWg

○非常時に何やってんの、お前ら…
酢昆布おかわりヨロシ?(銀魂)
ttp://www.youtube.com/watch?v=5q77hjKaQgo

○黒き不死者
殺戮言語永久機関(VALKYRIE PROFILE-LENNETE-)
ttp://www.nicovideo.jp/watch/sm15099546

○戦乙女達の連携
Confidence in the domination(VALKYRIE PROFILE-LENNETE-)
ttp://www.nicovideo.jp/watch/sm12816555

乱入者の下りから、途中の口論を除けば、開始前→強敵戦→処刑用BGMの流れになっているなぁ(汗 

 
第二アリーナ・Aモニタールーム――

赤く暗い空間内で、強烈な速さでキーボードを叩く音がこだましていた。
「システム奪還率、六十三.二パーセント突破……!」
「よーし、良い子だ。大人しくしておいてくれよぉ……」
拓海と真耶のタッグが、外部からのハッキングに対して抵抗し、さらにそこからシステムの権限を猛スピードで奪還しにかかっていた。
(まったく、恐ろしいヤツだ……)
千冬は画面に映る修夜たちの戦いの動向を見つつも、拓海の常人離れしたプログラミングの才能と技量に、内心で驚くばかりだった。

――よくそんなに早く打てるな……?
――へへ~ん、こればっかりは“ちーちゃん”でも無理でしょ~?

思わず、自分の知る“天衣無縫の鬼才”と、その面影が重なって見えた。
(拓海、やはりお前も追っているのか、あの能天気の往き着いた“彼岸”を……?)

――ちーちゃんって、ホント“ぶらこん”なんだから~。
――貴様が言えた義理か、この“妹好き”っ……!
――ふぎゃぁっ、な……なんで叩くの~!?

(……いかん、余計なことまで思い出してしまった)
少々、思い出したくなかった記憶まで掘り起こしてしまい、しくじった気分になる千冬。
だがその余計な思い出は、千冬の中で燻る何かに触れ、徐々に焦れはじめる。
(……言われなくても、自覚はあるさ)
がんじがらめにする気はなかった。
単純に、自分と同じ道と同じ夢を追っていることが、微笑ましく、そして嬉しかった。
だから自分の出来得る導き方を、公私を混同しないよう、出過ぎぬほどに示してみせた。
しかしながら、拓海に突かれて気が付いた、自分の中の“影”。
長く離れた三年の月日の中で、弟とその幼馴染たちは、ずいぶんと逞しくなっていた。
そして大人っぽくなり、生意気にも自分なりの指針を持ちはじめていた。
そこにふと、去来したもの――

……もう自分の役目は、終わりはじめているのではないか?

そんな何とも言えない思いが、急に自分の内側で首をもたげてきた。
それを“気のせい”にして、“いつもの自分”に切り換え、前を向いていたつもりだった。
その“つもり”が、自分に大きな影を創っていた……。
(言えない……。言ってしまえば、きっと私は……)
心の奥に弱音を吐き出し、同時に少し呼吸を整え、彼女はまた“教師・織斑千冬”に戻る。
画面の向こうでは、大切な弟と、弟同様に大切な年下の幼馴染たちが、未知の敵を相手に必死の抵抗を見せている。
自分のそばでは、自分の影を浮き彫りにした少年と、自分の後輩が、このアリーナで起きている窮地のために、データ上で未知の敵と戦っている。
待つことしか、祈ることしかできない身の上に、彼女は“再び”心の中で歯噛みした。
「生きて帰ってこい、みんな……」
いつもの凛々しい顔つきで、画面の向こうで奮戦する少年少女たちに、小さくエールを送った。

――――

第二アリーナ・バトルフィールド――


大爆発とともに、半ば自滅に近い倒れ方をした所属不明機(アンノウン)を、仁王立ちで見据える鈴。
「ふんっ、良い気味ね……!」
少女の表情は、誰の目に見ても判るぐらいイライラしていた。
「りぃーん!!」
ふと鈴が上空からの声に振り返ると、ほうほうの体で自分のいる位置に向かって降下してくる、四人のIS操縦者の姿があった。
声をかけてきたのは、自分と約束事を巡って戦っていた、お人好しな幼馴染だった。
四人は地上まで近づくと、地面から少し浮遊した状態で鈴に近寄った。
「まったく、驚かせたうえに、美味しいとこ持って行きやがって……。
 来るな来るって、言ってくれよ~!」
まるでサプライズ・ゲストを迎えるように、一夏は鈴の登場を喜んでいた。
「うるさいわねぇ……、あんな下手くそな戦い方してたら、見てられなくなったのよ……!」
憎まれ口を叩きつつ、何故か気恥ずかしそうにそっぽを向く鈴。
「どーせ、さっき一夏が前に出て構えたのが見えて、急いで飛び出してきただけだろ……」
鈴の分かりやすい態度に対し、呆れ気味に修夜がその裏を読んでみせた。
「だだ…、だれが…こんなっ、ど忘れ最低生意気説教ボランティア男のことなんてっ……!!」
おおよそ図星だったようである。
「……最低……ボラ……」
相変わらずひどい反論のされ方に、一夏も思わずトーンダウンしてしまう。
「ま……まぁ、最悪の事態は避けら得たことですし……!」
やんわりとセシリアがあいだに入り、修夜と鈴がいらぬケンカをしないように抑える。
「そ……そうだな、一夏が無駄に『零落白夜(れいらくびゃくや)』を使わずに済んだことだし……」
箒もセシリアに乗っかるかたちで、“よかった探し”をして場を和ませようとする。
「……あれ、アンタそのIS……」
鈴は箒の「打鉄(うちがね)」の変化に気が付き、その観察しだす。
「あ……あぁ、詳しくは分からないんだが……、クイズに正解したら、変身した……」
その返答に、鈴は凄まじく怪訝な顔で応えた。
ややもとすると“頭の残念な人”を見る様な、そんな憐れみさえ含まれている。
「わわわ…、私だってどう説明すればいいか、分からないんだっ……?!
 そんなっ……、そんな変な目で見ないでくれぇっ!!」
その態度が精神的にきつかったのか、箒も半ベソをかきながら必死に弁解をはじめる。
(まったく、これだから胸ばっかりデカイ女って――)
((脳みそに栄養がいってなんだか……))
(――とか、考えてんだろうな、あの馬鹿……)
鈴の思考パターンは、おおよそ修夜には筒抜け同然であった。
「まぁまぁ、まぁ、とにかくみんな無事なワケだし、あとは拓海がシステムを――」
一夏が言いながら、場を収めようとしたそのときだった。

――ぎしゃり

その背後から、この場の一同が“聞きたくない音”が、聞こえてきた気がした。
ギアとマニピュレーターが駆動する機械音。
その次に聞こえたのは、土埃を吹き飛ばしながら噴かされる、スラスターの稼働音。
全員が、その音のする方向を、恐るおそる振り返る。
「……おい、冗談だろ」
「マジかよ……」
「そんな……これって……」
「こんなことって、あり得ますの……!?」
「何なのよ、アレ……!?」
そこに立っていたのは、爆発で全身をボロボロにしながらも、なおも立ちあがる所属不明機。
ただし、一同が驚いたのはそこだけではなかった。
先ほどの爆発で、頭を覆っていたアーマーのヘルメットが半分に割れて落ち、四つあった目の左二つが欠けていた。
その欠けた左側から覗いていたもの、それは――


 機械部品の塊と、ショートしかけた配線の束

 あるべき“生きた操縦者の頭”が、そこにはなかった


「……“瓢箪から駒”ってか……!?」
笑えない冗談に、修夜は思わず引きつった笑みを浮かべる。
「本当に……【無人機】……でしたの……!?」
「何の冗談だ、これは……!」
セシリアも箒も、目の前の現象に愕然とするしかなかった。
「マジかよ、マジでロボットだったのか、あの真っ黒野郎……?!」
「ナニあれ、気色わるっ……!」
そして一夏も所属不明機の正体に驚愕し、鈴は敵の正体を見て生理的な嫌悪感も催す。
全身を引きずるかのように、フラフラと前へと進む、所属不明機改め“無人機”。
その動きも、もはやSFホラーのゾンビさながらに、緩慢で不安定なものだった。
操縦者らしきものが着る破れたISスーツの切れ目からは、人間の肌とは考えにくい、銀色に鈍く光る物体が見えており、露出した肩はマニピュレーター状で、そこから血というよりは油のような液体が流れていた。
全身の装甲の隙間から、煙と回線のショートする音が漏れ出し、二つの肩のビーム砲は暴発で潰れ、腕の砲門も亀裂が入って使いものにならない状態である。かろうじて右腕は無事だが、青い火花が激しく散っている様子から、撃てば暴発は必至であろう。
それでも、無人機は進撃をやめない。
怨念が取り憑いた甲冑のように、死してなお血肉を求める死霊の如く……。
残った右目を炯々(けいけい)と光らせ、ただ無言で五人に押し迫る。
()(たい)を引きずるその不気味な姿に、修夜たちは例えようのない不気味さを感じていた。
「ホントにしつこいわね……!」
そんな中、真っ先に一歩を踏み出したのは鈴だった。
「お、おい、鈴……!?」
「あれだけボロボロなら、もう一発ぐらい決めてやれば倒れるわよ。
 アタシの大事な試合、台無しにしたらどうなるか、思い知らせてやるんだから……!!」
自分と一夏との間にある約束を巡り、戦っていたはずの試合。それを台無しにされたことが、かなり鶏冠にきているらしく、一発どころか、その二本の出刃包丁で粗みじんにしそうな勢いである。制止する一夏も、その怒気にあてられ、いつもの弱腰が出てしまっている。
「待て、凰……!」
ぐいぐいと前に出る鈴を、箒が前に出て止めにかかった。
「ちょっと、どきなさいよ……!」
「勢いだけで攻めようとしても駄目だ。いくら死にかけでも、ヤツのしぶとさは侮っていいものじゃないっ……!」
事実、普通の操縦者ならシールド切れ以前に昏倒していそうな攻撃を、あの無人機は自分が機械であることを最大限に利用し、すでに何発も耐え抜いている。
「だったらナニ……、アンタがやるっていうの?」
「そうじゃないっ、感情任せに独りで突っ込むのが危険だと……!」
「ナニよっ、国家代表候補生に向かって、ただの一般生徒(ていへん)が口はさんでくるっていうの!?」
怒りで先走る鈴を抑えようと説得にかかる箒だが、鈴のほうはあくまで自分で片を付けないと気が済まないらしい。加えて、もともと箒への心証が良くないこともあって、鈴の口はさらに悪くなっている。
「てっ……て…い…底辺だと……!?」
この言葉には、箒も個人的な怒りを禁じえなかった。
「自慢じゃないがな、これでも中学生剣道で全国一をもぎ取ってきたんだ、私はっ!!」
「たかが中学生のショボイ大会じゃないっ、私は中国人口十数億の中の精鋭なのよっ?!」
段々とケンカ腰になっていく二人を見て、修夜はイライラし、一夏は戸惑い、セシリアはかぶりを振りながら嘆息した。
「いい加減にしなさいよ、このスイカ女……!」
「スイカ女じゃない、篠ノ之箒だ!!」
「箒だかチリトリだか知らないわよ、そんな無駄な脂肪が付いていてまともに戦えるワケ?」
「む…胸は関係ないだろっ……!!
 だいたい、こんなもの増えたところで、恥ずかしいだけで、何の得にも……!」
「……っ、その無駄な脂肪で一夏を誘惑しておいて、しら切ってんじゃないわよ、牛女っ!!」
「ゅゅゅ…わ……なな…なんで、私がそんなはしたない真似なんて……!?
 それを言うなら、あんな強引な迫り方で、一夏に迷惑がかかるとは思わなかったのか!?」
「せっ…迫るって……、誰があんな優柔不断で最低でへらへら野郎なんかにっ……!?
 ぁぁ…あたしは単純に、だらしない一夏を…き……鍛え直そうって…思って……!」
この非常事態に、このくだらないケンカである。
(これって、ご本人を目の前にして“告白”しているのも、同然なんですけど……)
イライラする修夜と、オロオロする一夏を心配しつつ、箒と鈴のケンカを眺めるセシリア。
彼女の目から見ても、“一夏”という単語が飛び交うたびに、二人の顔が耳まで真っ赤になっているのは明白だった。
そんな二人の顔から、セシリアはうろたえる一夏のほうを一瞥する。
(たぶん一夏さんご本人は、何もご理解していらっしゃらないでしょうね……)
英国淑女は何故だが情けない気分になり、もう一度深くため息をついてうなだれるのだった。
その直後に――
「……ぉい、テメェら、いい加減にしろよ……」
そんな事態を見かねて……否、事態にしびれと堪忍袋の緒を切らせて、修夜がぼそりと呟いた。
ただその声は、地獄の穴から響いてきたような、ずいぶんとドスの利いたものだった。
(あ……、ヤバい……)
幼馴染として、【鬼モード】の修夜の危険性を知る一夏は、最悪の事態を懸念し、しぶしぶ自分が罵られる役を買って出ることにした。
「はいはい、はいっ、二人ともストップ!!」
とりあえず前に出て、二人を制止しにかかる一夏。
それでもまだ、両者は視線をぶつけ合って火花を散らしている。
「今は非常事態で、言い争っているヒマは――」
「……っ、大体、誰のせいでこんなことになってると思ってのよ、馬鹿一夏っ!!」
「一夏は関係ないだろっ、人のせいにするなんて、どういう神経をしているんだっ!?」
一夏の決心もむなしく、両者のいさかいの火が消える様子は見えない。
すると一夏は、おもむろに二人の肩を引き寄せ、スクラムを組むように互いの頭を近づけさせた。
「ちょ……ななななっ、何やってんのよっ、エロ馬鹿っ、スケベっ……!?」
「いいから、後ろを向け、後ろをっ……!」
「ぅぅぅ……うし……ろ……?」
二人とも顔を真っ赤にして慌てふためきながらも、ちらりと一夏の背後を見てみる。
そこにいたのは、背中から怒りの炎を揺らめかせ、鬼をも一睨みで退けそう平伏させそうな眼光を放つ、“明王”の如き修夜の姿だった。ISで武装している分、その“らしさ”と厳めしさも倍増している。

さ っ さ と そ の 痴 話 ゲ ン カ を や め ろ、 阿 呆(あほう) ど も !!

口に出されずとも、その威圧感だけで何が言いたいか、嫌が応でも理解できた少女たちだった。
「頼む、後生だから……」
今にも泣きそうな青い顔で、弱々しく懇願する一夏を見た二人は、スクラムから外れると、矛を収めることに無言のまま同意した。
何とか事なきを得て胸をなでおろした一夏だったが、その背後から盛大な舌打ちが聞こえてきたのは、敢えて耳にしなかったことにした。
「……とにかく、あれはあたしが倒す。それだけは譲らないわっ……!」
啖呵を切った鈴は、そのままこの場を離れ、無人機に対して地上からの突撃を開始する。
「待て凰っ、だから一人で突っ込むなっ……!」
それを後から、箒が追いかけた。
「おいっ……、待てよ二人とも……!」
せっかく収めたケンカだったが、一夏の努力の甲斐無く、二人を飛びださせる結果に終わった。
「ほっとけ、痛い目を見たらアイツらの責任だ……」
悪人のような面構えで機嫌を損ねる修夜に、一夏はもう何の言葉も思い付かなくなった。
とっさにセシリアに顔を向けて助けを乞うも、頼みの綱は疲れた顔でかぶりを振った。
そこを何とかと、一夏は合掌して拝むジェスチャーをすると、しぶりながらもセシリアは「フォローしてきます」と小さく言い、二人のあとを追っかけてくれたのだった。
(お願いだから、みんなまとまってくれよ……)
このときばかりはこの唐変木も、こめかみがズキズキと痛む感覚に襲われたのだった。

――――

死に体を引きずりながら、三秒に一メートルの歩幅で目標ににじり寄る無人機。
先ほどの暴発で、エネルギー系列に支障をきたしているらしく、もはやスラスターも歩くためのバランサー程度の役目しか担えていない。
その眼前に、赤紫の装甲をした第三世代型ISが迫り来る。
「食らいなさいっ!!」
空間衝撃砲【龍砲】を連射モードに設定し、鈴は無人機に向かって衝撃の雨を浴びせかける。
対して無人機は拳を地面につけて前かがみになり、ここに来て隠していた“局所(フェイス)バリアーシールド”の能力を解禁し、衝撃の雨を防いでみせた。バリアーシールドを全身ではなく、ある一面に集中させることで鉄壁の盾を生み出す力である。
「生意気なヤツ……!」
悔しげに無人機を睨みつけた鈴は、ならばと二刀一対の青龍刀【双天牙月(そうてんがげつ)】を構え、接近戦に持ち込む体勢に入る。
それを見た無人機は、今度は残った右目から赤いレーザーを放ち、牽制しはじめた。
「うざいヤツね……!!」
そう吐き捨てると、背部のブースターに仕込んだ特殊機能【短距離加速(クイック・ブースト)】を起動させ、跳ねまわるウサギのように、ジグザグの軌道でビームを避けながら近付いていく。
【近距離加速】は接近戦向きの機体に持たせる機能の一種で、四~七メートルほどの短い距離間で加速をおこない、機敏な回避運動と攻撃のチャンスを生むために考案された。鈴のIS【甲龍(シェンロン)】には、まさにうってつけの機能なのだ。
双方の距離、およそ十メートル。
鈴は双天牙月を左で“二”の字に構え、斬撃を繰り出そうとする。
「こんのぉ……、くたばれぇっ!!」
近距離加速で勢いを付け、一気に斬り込んでいく鈴。

二刀双閃。
体の軸回転も利用して、和太鼓を打ち込むように、双天牙月を振り抜いた。

だが、当たったのは局所バリアーシールドであり、無人機に攻撃が通ることはなかった。
赤く妖しい光を放ちながら、鈴の刃を防ぐバリアーシールド。
鈴も躍起になってそれを打ち砕こうと、二刀に力を込める。
そのこだわりが甘かった。
無人機は着いた両の拳の内、左の拳の戒めを解いて、それを鈴に対して振りかざした。
その気配に気がついた鈴だが、近距離加速で逃げようにも、既にタイミングを逸していた。

しまった――
そう戦慄し、全身に打ちつけられだろう痛みを予期し、恐怖する。

ところがその拳は下ろされず、代わりに碧緑の閃光が拳に命中し、小さな爆発を起こす。
恐怖から我に返った鈴は、その隙を狙って近距離加速でその場を離脱した。
見れば、箒が肩のビーム砲で無人機を牽制し、その周囲を旋回していた。
「無事か、凰っ!?」
離脱に成功して無人機の周りを旋回する鈴に、箒は近付いて声をかけた。
「あ……、あれぐらい、自分で避けれたわよ……!」
箒の心配を、鈴は無用のお節介と言わんばかりに、憎まれ口で返す。
「だからあれほど独りで突っ込むなと……!」
「うるさいわねっ、誰に命令してんのよっ?!」
箒に忠告の無視を咎められたことに、鈴は反発を覚えて言い返す。
「お二人とも、いい加減にしてくださいませ……!!」
そこに、低空を飛びながら二人に追いついたセシリアが、ケンカの抑止に入った。
「今、わたくしたちが優先すべきは、あの無人機を止めることではございませんの……!?」
「アンタもしつこいわねぇっ、あれぐらい私だけで……!!」
色々とイライラが溜まっているらしく、セシリアにも噛みつく鈴。
「あら、それにしてはずいぶんと、見事な不意の突かれ方でしたわねぇ?」
「ぅぐっ……」
セシリアにしれっと態度で痛いところを突かれ、鈴は思わず黙り込んでしまった。
「何か方法はないか、セシリア?」
箒はセシリアに対し、率直に無人機への対抗策を尋ねる。
それに対し、セシリアは少し思案した後、二人を『目からビーム』の予測射程範囲外に誘導し、そこで二人を停止させた。経験を積んだ射撃手だからこそなせる業である。
無人機はというと、標的を射程外に逃したことを歯牙にもかけず、仕切り直して一夏に向かって亀の歩みをはじめた。
「ちょっと、ナニ離れてんよ。あれじゃ、一夏が……っ!?」
「いいえ、大丈夫です。次で終わらせますから……!」
鈴の非難を尻目に、セシリアは死に体を引きずる無人機を見据え、決然と言い放った。
「それで、どうするつもりだ……?」
箒の問いに、セシリアは自身の論を語りだす。
「現状でクリアすべきは、あの局所バリアーシールドの盾ですわ。あれはたしか、大気圏突入に耐えるために考案された特殊機能で、その気になれば、大型荷電粒子砲からの砲撃にも耐え抜く力があると聞いたことがあります。
 一対一で戦ったところで、おそらく微々たるダメージしか入らないでしょうね……」
「ナニよそんな機能、聞いたこと無いわよ……!?」
「仕方ありませんわ。よほどの防御型にでも設計しない限り、解禁されない能力ですもの。覚えている人の方が、少ないと思いますし……」
ISのバリアーシールドは、前時代の兵器では傷一つ付けられないほどに堅牢である。
小銃やダイナマイト程度などでは、話にもならない。その気になれば、非核戦略爆弾の炎にさえ耐えるといわれている。ゆえに、ISにこれ以上の防御性能を持たせること自体、よほど機体コンセプトに沿わせない限り、無用の長物なのである。
「セシリアは、どうしてそれを?」
「ISの基礎を本国で学んでいた頃に、予備知識程度に……」
鈴や箒の声に返答しつつ、セシリアは言葉を続ける。
「一見、無敵に思えますが、盾は盾。防げるのはエネルギーを集約させている面のみで、ほかの面の防御はむしろ、バリアーの幕が薄くなって弱体化したはずですわ。
 ならば、三人全員で同時攻撃を仕掛け、うち一人がバリアーに攻撃を一点集中させ、あと二人がその隙を見て攻撃を仕掛けて倒す。この方法が、現状で最良かとの作戦かと……!」
「つまり、【連係プレイ】……ってことか……?」
「えぇ、端的に申し上げれば……。
 わたくしの蒼い雫(ブルー・ティアーズ)のビットなら、上からの一点集中でバリアーを使わせることができますわ。その隙に、お二人で横から一気に斬り込んで決定打を与え、それで終幕(フィナーレ)になるでしょう」
セシリアの真剣な表情と物言いに、箒はつられて顔をこわばらせる。
ところが、ここでもそれをしぶる頑固者が一人。
「ちょっと、アンタはまだしも、この“平凡”のお守もしなきゃいけないっていうの?
 冗談はよしてよ。その作戦なら、切り込み役はあたし一人で充分じゃないっ?!」
さっき泣きっ面をみたことをもう忘れたのか、鈴はこの期に及んで箒をのけもの扱いする。
「構いませんわよ、それならどうぞお独りで。こちらはサポートもフォローもいたしませんので、ご存分に戦ってくださいな」
とっても爽やかな笑みで、あっさりと鈴を突き離すセシリア。
「アンタっ、さっきと言っていることが……!?」
あっさり掌を返したセシリアに、鈴は思わず狼狽した。
「まぁ、冗談はさておきまして……」
(いや、割と本気のトーンだったよな……)
箒がセシリアの軽口に肝を冷やす間にも、セシリアは鈴に対して言葉を続ける。
「先ほどあなたお独りで無理だったのは、明白なこと。それでも片意地を通されて、一夏さんにご迷惑をおかけしても、凰さんは平気とおっしゃるのですね?」
「な……、何で一夏のことなんか……!?」
セシリアの指摘に、鈴は思わず反発する。
「よろしいのですね……?」
セシリアからの強い視線と念押しに、鈴はたまらず閉口した。
寸の間に流れる、重苦しい雰囲気。
「……分かったわよっ、やればいいんでしょ、やればっ!!」
吐き捨てるように啖呵を切ると、鈴はそのままブーストを吹かして無人機へと突っ込んでいった。
「おいっ、凰。だから勝手に突っ込んでは……!?」
逃げるようにこの場を離れる鈴を、箒は制止しようと叫ぶ。
「いいですわよ、箒さん」
「いや、でも……!?」
それを悠々と眺めるセシリアは、鈴への制止をやめるよう、箒をなだめる。
「あぁいう、“自分にルールを作って片意地を張っている人”は、このぐらい発破をかけないと動いてくれませんから。まぁ、かくいうわたくしも、ひと月前までは凰さんの同類でしたし……」
セシリアの言い草は、まるで鈴の中にある“何か”を、直感的に見抜いているようだった。
「さぁ、箒さん。凰さんのサポートの方、よろしくお願いしますわよ」
「あ……あぁ、了解した……!」
腑に落ちないことを残しつつ、箒は急いで鈴のあとを追う。
「さて、わたくしも自分のなすべきことを果たしましょう」
少女はそんな独語をこの場に置き去り、一呼吸の後に顔を引き締め、二人のあとを追った。

――――

フラフラと一夏を目指して歩く、瀕死の無人機。
その真っ黒な死に体に、赤紫の装甲が旋風のように攻め寄せる。
その反応をレーダーに捉えた無人機は、体の向きをスラスターの噴射で回転させ、障害の対処にモードを切り替える。
「さっきみたいには、いかないんだからっ!!」
まずは【龍砲】による連射モードでの牽制。
これに対し、無人機も先ほどと同様、局所バリアーシールドと目からのビームで応戦する。
「今度は私もいるぞっ!」
そこに箒も追い付き、ガラ空きになった反対側にビーム砲【螢火(けいか)】での射撃を撃ち込む。
だが器用なことに、無人機は鈴の【龍砲】を受ける面積を半減させ、そのもう半分で箒の攻撃を防いでみせたのだ。
「くそっ、面妖な……!」
面妖なのはこれにとどまらなかった。
鈴と箒は、無人機の周囲を旋回しつつ同時攻撃を続ける。しかし無人機は、この同時攻撃を自分も体を回転させることで見事に防御してみせたのだ。
するとその回転が、徐々に早さを増し、無人機は腕を横に突き出して、竜巻のように自分の体を回しはじめる。加えて、そこに目からのビームも絶えず乱射しはじめ、辺り構わずビームの弾幕をばら撒きはじめたのだ。しかも、局所シールドは回転によって横全体に作用し、【龍砲】の連射や【螢火】のビームを、いとも簡単に弾いてしまっている。
「何なのよっ、もう!?」
「これじゃ、近づこうにも近づけない……!」
無人機の奇行に、箒も鈴も攻め手を奪われてしまった。
そこに、四つの蒼く小さな影が飛来し、その回転軸に向かって集中砲火を浴びせかける。
「横からは無理でも、上からならどういたします!?」
無人機の頭上から五メートルの低空、セシリアがビットによる攻撃を仕掛けていた。
しかし、ビームの集中砲火も、局所バリアーシールドの切り替えと回転の勢いによって弾かれ、意味を成していない。どうやら無人機は、自身を回転させることでバリアーシールドそのものを回転させているらしい。
(防御を上に集中させるまでは計算通り……。でも、この計算外の回転を止めなくては……!)
態勢は整っている、だが肝心の好機を逸してしまっている。
何度目かの膠着状態に、少女たちはまた焦りはじめていた。
そんな中で――
「そうだ……!」
ふと、箒があることを思い出しす。
「凰、龍砲を大出力で放つ攻撃があったな。あれで、あの回転を止められないか!?」
「はぁ……!?」
聞いた鈴は、思わず素っ頓狂な声を上げた。
「聞いてくれ、いくら堅固でビームも弾丸もはじく防御でも、上に防御を一点集中している状態なら、横からあの大火力をぶつければ、あるいは……!」
「な……ナニいきなり言いだすのよ、馬鹿じゃないの!?」
「馬鹿でもマヌケでも、この際なんとでも言え。必要なのは、やるかやらないかだ……!」
おそらく、可能性は限りなく低い。
そんな単純な手で、この回転が止まってくれるかは甚だ疑問でしかない。
『やりましょうっ、お二人とも!!』
そのとき、マイクで拡大されたセシリアの声が、二人の耳に届いた。
「セシリア……!」
「あの子、今のハイパーセンサーで聞いてたの……!?」
『こうなれば、一か八かでも文句は言っていられませんわ。やるだけやってみましょう!?』
その声に、ためらいや戸惑いは一切なかった。
「凰、頼む……!」
駄目押しにとばかりに、再度頼みにかかる箒。
「……も~~ぅっ、失敗したら、絶対に責任取りなさいよっ?!」
「凰……!」
とうとう鈴も根負けし、箒の提案を受けることとなった。
『セシリア、凰が承諾してくれたぞ!』
『ありがとうございます、凰さ~ん!』
今度は嫌味ではなく、純粋な感謝の念で笑顔を見せるセシリア。
それを見た鈴は、どこか恥ずかしげに顔を逸らしたのだった。
「じょ……じゃあ、遠慮なく最大出力まで溜めさせてもらうわよ……!!」
鈴は周回する円の半径を大きくし、無人に対して一定の距離を取りはじめる。
「わたくしも、一度【スターライトmkⅢ】を最大出力(フルバースト)で撃ってみたかったですの……!」
危なっかしい発言をしつつ、セシリアもレーザーライフルを構え、チャージの態勢に入る。
「お前の相手は私だ!!」
無人機が不用意に回転を止めないよう、箒もビームでの攻撃を休みなく続ける。
【螢火】のビームは回転するバリアーシールドに弾かれ、右に左に逸れていく。
『凰、充填は!?』
『急いでるわよ、あと二十秒待ちなさい!!』
そのとき、不意にビームの雨が箒の方に集中して襲いかかった。
(不味い!?)
そう思うが、見えた週間では命中は避けられない。
そのはずだったが、急に箒の体は、鈴が短距離加速を発動させたときと同じように、機敏に右に横滑りし、難なくビームの回避に成功する。
「なっ……!?」
急な現象に戸惑うも、ふと目に飛び込んだ中空電子画面(マルチモニター)に、あるものが表示されていた。

≪機動補助スラスター-【闇行】≫
≪機敏な動きをあなたに授けます。≫

そこにはそんな文字列と、背中に追加されていた四つの謎のハンドボール大の球体パーツが映し出されていた。
(機敏……。さっきの凰みたいに……?)
そんな疑問もつかの間、再び弾幕が箒に牙をむく。
「えぇいっ、ものは試しだ!!」
意を決し、箒を頭の中で自分の動きたい方向を強く念じてみる。
すると打鉄改S型は、「闇行」を駆使して鈴のように鋭い軌道で弾丸を次々に避けていく。
(すごい……。これだけ動ければ、本当に篠乃之流剣術がISで使える……!)
箒は【闇行】の性能に、高揚感を覚えずには居られなかった。
『箒さん、そこを離れてくださいませ!!』
しかし、それもセシリアの警告を聞き、すぐに平静に戻る。
慌てて箒が退避するのを見計らい、セシリアはしっかりと狙いを定め、溜めこまれた星の光の戒めを解くべく、引鉄を引いた。
すると、なんとも形容しがたい甲高い音とともに、普段の何倍もの太さの青白い閃光が、その銃口から発射された。その光は一瞬で空を裂き、無人機の頭上を誤らずにとらえ、突き進んでいく。
シールドと閃光のぶつかる場所で、激しいせめぎ合いが起こる。
無人機もこれに反応し、回転しつつも、全力で局所バリアーシールドを頭上に集約させ、回転でいなしながら必死に耐え抜く。
やがてその閃光も収束し、無人機が耐え抜いた、そのとき――
「消し炭になりなさいっ!!」

――ずがぁぁああん!!

大気を叩き割らんばかりの爆音が、アリーナ中に響く。
甲龍の【龍砲】が解き放った圧縮モードでの一撃は、薄くなったバリアーシールドの内側まで達し、物理装甲に亀裂を生じさせた。さしもの無人機も、これほどの衝撃には耐えきれず、スラスターを停止させて回転運動をやめざるを得なくなった。
だが無人機は、まだ活動を停止させない。
全身から煙と電流を発しながらも、まだ踏みとどまって立ち、その眼から力は潰えてはいない。

その姿に、三つの影は同時に弾き出される。

「はぁぁぁあっ!!」
「でぇぁぁあっ!!」
「やぁぁぁあっ!!」

正面、側面、上空。三機五閃の刃が、互いの意図を確認せず、同時に鋼鉄の巨体に、己の意地と必殺の意思を刻み込む。
五つの剣閃は、崩壊寸前の“魔の盾”を破り、その装甲に深く斬り込んでみせた。
そのうち、鈴の一撃は壊れかけの左腕を、肘から斬り落としてみせる。

もう無人機に、立つだけの余力も、スラスターで姿勢を支える力も残って無かった。
巨体は、何かを掴もうとするように右手を前に出し、轟音とともに力無く前のめりに倒れ伏した。

この瞬間、無人機は三人の少女の全力の前に破れ、第二アリーナへの脅威が一つ、取り除かれたのだった。
 
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