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《SWORD ART ONLINE》ファントムバレット〜《殺し屋ピエロ》

作者:P笑郎
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とびきりのゲスト

 
前書き
オワタwww



......オワタ 

 
〈3〉



「あっは! さっきの威勢はどうしたよ!?」

追いすがる《着弾予測線》を自慢の脚力で振り切った道化師メイソンは、大きく跳躍するとともに両手に握った相棒の魂を解き放つ。立て続けに炎と銃弾を吐き出す黒い死神は、その名をUzi-Pro《ウージープロ》と言った。

イスラエルが中東戦争を契機に作り出したサブマシンガン。その最新モデルがこれである。ピストルサイズまでダウンジングに成功しながらも毎分1050発の連射性は悪くない。《ガンゲイル・オンライン》でもそれは最高レベルのステータスとして忠実に再現されていた。アンチ・マテリアル・ウエポンという称号を冠される所以だ。

それを2丁、自在に振りまわしつつ引き金を絞り、多数の敵を相手に踊って見せるのがメイソンのスタイルだった。飛び交う弾丸など彼にとっては合間に入る狂言に過ぎない。

故に、地面に這いつくばる腰抜けの気持ちは永久に理解できないと思った。

ーーまったく奴らのしらけ具合ときたら目も当てられない。危ない橋を渡ってみせるところに面白さがあるんじゃないか。死んだら死んだで所詮ゲーム。その時は達の悪いジョークで相手を笑わせてやればいい。そんなことも理解できないから、お前たちは弱いんだよーー!

牽制に敵が怯んだ直後、ダン!とコンクリートの壁を蹴りさらに上へと飛ぶ。敵の伏射姿勢は被弾面を小さくする代わりに上空への射角を犠牲にしていた。まさか彼らも10メートル上から強襲されるとは思ってもみまい。

僅か数秒間の敵の動揺と、反撃を受けない絶好機をメイソンは見逃さなかった。

「楽しもうぜ、ゲームなんだからさぁ!」

自由落下を始める体。容赦なく《ウージープロ》達が咆哮をあげ、マガジンの弾をすべてばらまいた。薬莢が飛び跳ね、銃身が焦げる匂いが鼻孔に絡みつく。目がくらむようなマズルフラッシュの向こう、鋼鉄の雨が敵のプレイヤーに突き刺さったのをメイソンは見た。

これであと3人。

にぃ、と笑いながら着地と同時に転がり衝撃を殺す。生身でやったら間違いなく骨折ものだが、ここらへんの鷹揚さは流石ゲームと言ったところか。

おっとり刀の反撃を振り向きもせずに躱し、メイソンは一旦後退した。そろそろ弾数が怪しい。節約しつつ、場合によっては護衛対照の援護も借りねばなるまい。こんなことなら”あれ”を持ってくるんだったと遅い後悔をする。

グリップ内に収納されるマガジンの弾数は50発。予備の4つ分を考慮しても300発。1人の兵士が携行するには十分すぎる数だが、実際はこれでもまだ足りない。1対7以上の戦闘をこなしているのだから当然だ。

苛立たしげに舌を鳴らしながら、マガジンを手早く交換する。《自動リロード》等の反則スキルは存在しないため、戦闘中に弾が切れればメイソンでも危ない。

一時的ではあるが、彼は壁に隠れるという自分の行為に身震いした。

「ったく、こっちまでしらけてきた。......頃合いを見てクライマックスといくか」

煙を吹く銃口を上に向けながら独りごちる。目の端では光線銃が青い光を吐き出し、味方が防護フィールドを無効化する距離まで前進したことを暗黙のうちに告げた。もしかすると、これは自分がいなくとも決着がつくかもしれない。

ふとさっきのスナイパーのことを思い出した。

結局やつは味方の加勢を諦め、撤退したらしい。正しい判断だと思う。ロングレンジに特化した能力構成のスナイパーが、ショートレンジに出て来ていいことなど1つもない。せいぜいアイテムドロップの危険性が上昇するだけだ。

理解はしている。だが、この収まりのつかない感情はなんだ? 失望ともまた違う、強いて言うなら裏切られたような寂しさ......

「くっははは、どうかしてるな」

顔の造作も性別も分からない、コンマ数秒殺気を向け合った相手にこれほど執着するなんて。ーーいや、理由は分かっている。自分はあの強い意志の持ち主に自らと同じ物を見い出していたのだ。

この世界で強くなりたい、強くありたい。

そしていつしか現実でもそれを手に入れられると、本気で錯覚している救いようのない心。きっと触れ合えたら、お互いの中の後悔を埋められるような存在に......

......馬鹿な、妄想も大概にしろ。

凄まじい嫌悪感に歯をギリギリと食いしばった。だからはお前はいつまでたってもそうなんだ。他力本願で自分から物事を解決しようとしない。母親の背中に隠れ続ける臆病者、腰抜けだ。

このままでは終われない。あの子に許してもらうまではーー

第六感的な何かに電流が走ったのはちょうどその時だった。

立ち上がり、敵がこもっている廃墟とは反対方向に目を向ける。すると瓦礫の合間を縫うようにして駆ける影を視覚に捉えた。ついでにスカイブルーの髪と華奢な体躯も垣間見たメイソンは、少し虚を突かれた思いで呟いた。

「女?」

《ガンゲイル・オンライン》に女性のプレイヤーが皆無という訳ではないが、レアアイテム級に珍しいことは確かだ。特にこんな戦場となれば尚更である。しかし、メイソンはその無駄のない体捌きに相当なベテランだという印象を受けた。

何者だ?

再び戦闘時のそれにシフトした頭を回転させる。敵か味方か、落ちたアイテム狙いのハイエナか、現状で判断する材料は乏しい。ならばステージから退場してもらったほうが確実だ。

目と鼻の先30メートル。そこまで接近されたところで味方も彼女に気がついたようだ。青い光線が3本、行く手を遮るように迸る。が、半ば予期していた通りその女はーーいや、その少女は攻撃を全弾回避して見せた。《着弾予測線》があっても決して簡単な事ではない。

ドクンと心臓が脈打つ。

メイソンは体勢を崩した少女に向けて引き金を絞った。普段なら絶対の確信を持って「当たる」と言えるタイミング。ちらりと冷たい熱のこもった瞳がこちらに据えられる。

面白い、よけてみせろ。

常人には理解し難い矛盾した願いは果たしてその通りに叶うこととなった。

細い体にぐっと力が入ったと思うと、しなやかな動きで跳躍。さらに空中で体を捻り、複数の火線を器用に掻い潜ったのだ。瞬間、少女の背中に狙撃用ライフルの存在を認めたメイソンは、二重の驚きを隠す事が出来なかった。

「まさか、あの時のスナイパーか?」

胸の奥に滲んだ感情を言い表すことはできない。ーーアイツは本当に俺と同類なのか? ただ味方の元へ駆ける彼女を見送りながら、《ウージープロ》の銃身をコツンと仮面にぶつける。

しばらくそのまま思いにふけっていたメイソンは、クスリと笑って思考を停止した。

「オーケィ、折角のゲストだ。歓迎するよ」

《殺し屋ピエロ》のやることは最初から決まっている。楽な役回りだ。俺と違ってメイソンは強く、迷う必要がない。

ーーお前もこの手で殺す!



 
 

 
後書き
今後更新が多少早くなります。


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