《SWORD ART ONLINE》ファントムバレット〜《殺し屋ピエロ》
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女神と道化師の舞踏会
前書き
SAOのアニメ2期くるらしいですね(←遅い
シノン様ハァハァ......(銃声
〈4〉
激しい攻撃をくぐり抜けて廃墟に滑り込んだシノンは、仲間たちの驚きともつかない微妙な視線に出迎えられた。きっとわざわざ死地に首を突っ込む物好きへの疑念なのだろうが、こればっかりは彼らに説明しても理解できないだろう。ーーしてもらうつもりもない。
すぐ隣でアサルトライフルを構えるダインと目が合った。彼は感謝の意を示すでもなく、すぐに俯いて肩を震わせる。それはリーダしての責任感の表れか、ただ単純に恐怖からくるものか。彼の性格からして後者であることは何と無く察しがついた。
「畜生、あいつら用心棒を雇ってやがった。しかもよりよって《殺し屋ピエロ》ときてる」
「......殺し屋?」
「知らないのか? あの赤いサブマシン使いだ。頭のネジが吹き飛んだジャンキー野郎が、根性のないパーティーに雇われて護衛の真似事をしてるのさ」
そう、貴方よりはよほど尊敬できるスタイルだ。
口からでかかった皮肉をすんでのところで抑え、シノンは残った仲間に目を走らせる。アサルトライフル2、サブマシンガン1......そして自分の所持するスナイパーライフルが1。いくら偉そうなことを言っても、この距離で《へカートⅡ》を使用するには彼らの援護が不可欠だ。ほんの10秒、いや3秒でも隙ができれば......
アイツを倒せる。
「このまま待っても結果は見えてる。一か罰か打って出ましょう。あれだけ派手に立ち回ったんだから《ピエロ》はそろそろ残弾が怪しいはず。まだ仕掛けてこないのがいい証拠だわ。全員で攻撃すればさっきみたいな反撃は躊躇うかも......」
しかし、シノンが提案した必死の打開策は、ヒステリックな叫び声に遮られることとなった。
「無理だ! 奴だけじゃない、後ろにはまだ4人もプレイヤーが控えてるんだぞ!?」
発生源は言うまでもなくダインである。シノンはそちらに冷静な目を向けながらも内心ではホゾを噛んだ。やはりこの男はリーダに向いていない。いや、スコードロンを束ねる能力以前に、自分が認めるところの強者では絶対にあり得ないのだ。
「じゃあどうするの? まさか全員で白旗でも降るつもり?」
自然と棘のある言葉が出てくる。ぐっと答えに詰まって顔を背けた彼は、シノンの予想よりも斜め上の発言をした。
「悔しいが、もう諦めよう。このまま奴らに勝ち誇られるぐらいなら、いっそログアウトしてやった方がいい」
呆気に取られる、とはまさにこの事だ。
戦闘中、もしくはオープンマップでのログアウト。それは確かに可能だが、逃げる手段として乱用されがちなためちょっとした制限が設けられている。プレイヤーの意識がゲームからの離脱に成功しても、アバター.......つまり肉体は60秒間そのエリアに止まり続けるのだ。無論ダメージ判定も健在で、殺されれば経験値の喪失及び低確率で所持品のドロップを招く。
仮にそれがないにしても、まさかこんな子供の癇癪とも呼べる事を提案するとは......思わず彼の正気を疑いたくなった。
そんな自分の表情に明らかな失望の色を見てとったのだろう。それだけ見れば歴戦の兵士と言った顔を歪ませ、ダインは駄々をこねるように喚いた。
「なんだよ、ゲームでマジになんなよ! どっちでも一緒だろうが、どうせ突っ込んでも無駄死にするだけなんだからさ!」
その言葉のある一部が、シノンのもっとも敏感なところを刺激し、うなじの毛を逆立たさせた。
ーーゲームで本気になるな? 違う、私にとって《ガンゲイル・オンライン》はただのゲームじゃない。過去のトラウマを焼き払い、新しい自分に生まれ変わるための戦場なんだ。それをそんな簡単にーー
「なら死ね!」
反射的にシノンは叫んでいた。
「せめてゲームの中でくらい、銃口に向かって死んで見せろ!」
瞬間、彼女を中心に鮮烈な風が吹く。ふわりと空色のショートヘアがゆれ、周囲の人間は惚けたようにシノンを見つめた。それを梅雨と受け流し、ツカツカとダインに歩み寄ったシノンはその襟首を掴んで強引に立ち上がらせた。やれやれ、これでもうこのスコードロンとも縁起れかな。
しかし後悔の2文字は見当たらず、むしろ清々した気持ちでシノンは全員に言い放った。
「3秒でいい、ピエロの注意を引きつけて。その間に私がへカートで始末する!」
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空中に突き出た鉄骨の上に立ち、高みの見物を決め込んだメイソンは上機嫌に呟いた。
「ふふ、馬鹿と煙はたかぁ〜い所が好きってね」
他愛のない言葉にくつくつと笑う。次節、非難めいた味方の視線が浴びせられるが知ったことではない。まぁ、彼らにとってはやはり大迷惑なのだろう。なにせ、後一押しというところで最後のカード・・・ジョーカーが言うことを聞かないのだから。
このまま攻めれば敵の殲滅は容易。ある程度の距離まで接近できれば30秒で全員を片付けてやれる自信があった。だが、重要な点はそこじゃない。
「面白いってのが最優先事項だ。だろ?」
閉じた瞼の裏に少女の姿を思い描き、嘲笑混じりに話しかけた。
そう、お前は生かされているんだ。超長距離を得意とするスナイパーの最後が、あんな狭い廃墟の中では詰まらない。どんな風に足掻くのかは知らないが、その強さの一端を見せて貰うまでは自由にしてやる。
「追い詰めてみろよ。この俺をさぁ」
応答するように"風"が吹いたのを感じたメイソンは、ゆっくりと仮面の下で双眸を押し開いた。両手に握った《ウージプロ》が鼓動を刻み出し、その時が近いことを所有者に告げる。
同時に、目を向けていた廃墟から複数の影が弾丸のように飛び出す。破れかぶれの突撃、とは見ていなかった。でなければあんな統率された動きが出来るはずがない。流石に対人専門を自称するだけのことはある。
左右2つずつに別れ、味方を牽制しながらこちらを狙う敵の意図を感じ取ったメイソンは、ぱぱっと複数の《着弾予測線》が体に表示されたの機に鉄骨から飛び降りた。その足が大地に触れるが速いか、体を限界まで低くし地面を這うように疾駆する。
AGI特化型のメイソンは速さにおいて優れているが、防御力と筋力は他のプレイヤーに大きく劣っていた。アップデートに伴いこのスタイルが時代遅れと認識されるようになった原因もそこにある。
だから防御という概念を捨てた。
被弾率を極限まで抑え、持ち前のスピードで敵を翻弄する。稲妻のようにジグザクの軌道を描いて戦場を駆るのはそのためだ。
刹那。すれ違いに様に左右2人の敵を射角に収めたメイソンは、彼らを抱擁するようにバッと両腕を広げた。
2つの銃口が同時に唸り、それぞれの標的に火線が殺到する。狙い通り彼らはズタズタに引き裂かれ、ポリゴン片となり砕け散ったのだが、メイソンにそれを確認する余裕はなかった。
引き金を引く一瞬の隙。そこをついたとしか思えないタイミングで《着弾予測線》が眉間に凝縮されたのだ。
導かれるように視線がある一点へと吸い込まれる。長大な銃身に、規格外の銃口。それを伏射姿勢で構える狙撃手の姿。
ーーいつの間に!?
エリア一帯に轟いた咆哮は《ウージープロ》の比ではなった。ぶわんと空気が膨張したかと思うと、光の槍、としか形容しようがない莫大なエネルギーが一直線に向かってくる。
それは自分の顔面から数センチの場所を通り過ぎ、黄昏色の髪の先端を焼き焦がしていった。激しい衝撃波に体がよろめく。
外れた?
肋骨を叩く心臓の音を聞き、久しぶりに冷や汗を流したメイソンは狙撃手の少女と目を合わせる。スコープ越しに見たその瞳は未だ冷めぬ闘志を赤々と燃やしていた。
しかし、ボルトアクションのスナイパーライフルとサブマシンガンでは連射力が違いすぎる。この奇襲が失敗した時点で勝負は見えていた。
「残念。もうちょっとだったなぁ」
思ったほどの興奮はない。いつも通りの感覚に嘆息しつつメイソンは内心を口にした。そして引き金に添えられた指に力が掛かける。
ーー突然、銃弾がアバターに食い込む不快感が全身に駆けめぐった。視界の左上に表示されたHPバーが2割削られたのを確認し、メイソンは食いしばった歯の間からうなり声を漏らす。
どうやら残っていた敵が彼女を援護したらしい。今度こそ引き金を最後まで押し込むが、狙撃手は僅かな隙をついてこれを躱した。
「ちっ、雑魚の分際で!」
反射的に銃口で援護をした方のプレイヤーを追うが、それよりも味方の光線銃が青い光を吐き出す方が速かった。防御フィールドも意味をなさない至近から放たれたレーザーは、彼をあっさりと貫きHPを吹き飛ばす。
ーーかに思えた。
「うおおお!」
敵は雄叫びを上げつつ捨て身の突撃を決行した。その気迫に飲まれたのか、味方の射撃はアバターの急所を捉えることができない。結果、敵に懐まで食いつかれ、大型プラズマグレネードの使用を許す羽目になった。
視界を埋める真っ白の光。
先ほどメイソンが使った目くらまし用の花火とは違う。凄まじいプラズマの奔流が半径数十メートルを巻き込み、盛大に土砂をまき散らして消えた。
表示されたパーティーメンバーのHPも残らず消滅する。信じられないことに今の爆発で全員が死亡したらしい。これで報酬は全部パー、というよりも余りの間抜けさにメイソンは呆れた。
ーー固まってるからだ馬鹿が。
ごうっと押し寄せた粉塵が視界を覆う。
これで正真正銘スナイパーとの一騎打ち。なんにせよ、一応は自分の望んだ形になったわけだ。加えてアドバンテージも依然としてこちらにある。素早い動きと手数で勝るメイソンに対し、威力は絶大だが連射のきかないスナイパーでは明らかに相性が悪い。
その事を向こうも散々理解しているはず。
おそらく奴にとって視界の悪い今が唯一のチャンスだ。こちらが補足できないうちに死角へと回り込み、必殺の一撃を見舞ってくるに違いない。
どこだ? 同じ射線上に入らずに、クリアな視界から狙い撃てる絶好のポジション。
夕暮れの光に照らされ、旧文明の残滓を見せつける崩れかけのビルが目に入った。あそこなら戦場全てを見渡せる上に、完全にメイソンから死角になっている。
キラリと金属の輝きを5階付近で見つけたメイソンは、己の勘が間違ってなかった事を知った。「ビンゴ」と笑って2丁のサブマシンガンを向けるのと、狙撃手が姿を現すのはほぼ同時。遠目にもその顔が驚きに強張ったのが分かった。
「終わりだ!」
持ち主の興奮を感じ取ったのか《ウージープロ》はこれまでで一番派手な銃火を閃かせる。荒れ狂う弾丸の群れは少女に吸い込まれ、メイソンは唇を痙攣させながら砕け散るその姿を幻視した。
しかし次の瞬間、メイソンの笑みは跡形もなく霧散する。
ーー躱された。少女はあの高さから躊躇もなく飛び降り攻撃を避けたのだ。流石に全弾は回避できず片方の足が損傷していたが、こうなってしまえば微々たる問題でしかない。
その両手にホールドされた狙撃用ライフルが鎌首をもたげる。殺気でさえ生優しく感じる"圧力"がメイソンをその場に釘付けにした。
少女の頬に強者の笑みが浮かぶ。獰猛で、残虐で、冷酷な微笑。
「終わりよ」
そして底冷えのする声で囁いた。
ーー《冥界の女神》
柄にもなくそんな比喩が脳裏をよぎり、メイソンは恐怖と歓喜で身を震わせた。コイツは本物だ。只ひたすらに強めを求める目が、笑みが、熱が、自分の中でくすぶっていたそれと共鳴し、思惟の最深部で爆発に等しいエネルギーを生み出す。
負けない。負けたくない、お前だけにはーー!
脳内パルスが絶叫の間を縫って信号を伝達し、メイソンの左腕を恐ろしい速度で動かした。僅かな誤差もなくに重なった《着弾予測線》。それぞれの銃口が火を噴き、弾丸が空中で衝突するのを停止した時間の中で見る。
コンマ1秒よりさらに短い間、力は拮抗しているように思えたが、やがてメイソンが放った9mm弾がはじき返された。多少威力を減殺されながらも、依然として必殺の威力を込めた槍が道化師の顔に吸い込まれーー
笑みを刻んでいた仮面が粉々に砕けた。
後書き
ダインさんはやれば出来る子! お母さんはよく知っているのよ!
お気に入り登録ありがとうございます。非会員の方々にも結構読んでいただけたようで、今は結構嬉しい感じです(笑)
皆さんの期待を裏切らないように頑張ります。
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