《SWORD ART ONLINE》ファントムバレット〜《殺し屋ピエロ》
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ピエロ
前書き
すたぁばぁすと・すぅとぉりぃむぅぅぅ!!
<2>
狙撃手シノンが最初に感じたのは違和感だった。
《へカートⅡ》の狙撃を悠々と躱し、マントを剥ぎ取った標的の姿。真っ赤な装備に、あれは道化師の仮面?
「第一目標成功。第二目標失敗」
淡々と無線に報告の声を吹き込みながらも、視線はスコープのなかの人物から離さない。チリチリとうなじを焦がすようなこのプレッシャー。ーーなぜだ。奇妙な格好といい、無防備な構えといい、まるで素人にしか見えないのに。
『了解。アタック開始!......ゴーゴーゴー!』
仲間の声は半ば聞き流す。
シノンは先程《ピエロ》と目がった時の印象を思い出していた。ぬら、と光る怪しい眼光。まるで品定めするように自分を舐めまわして......
「.....どうかしてるわ」
這い上がる悪寒を押し殺し、シノンは苦笑する。冷静に考えれば、向こうからこちらが見えているはずがない。たまたま発射炎に気がついただけのことだろう。
怯えるな。そんなことでは弾も当たらないし、自分の欲している強さも手に入らない。
いつもの喝を入れてから、スコープの倍率を調節して戦場全体を視野に収める。《ミニミ》を始末すれば後は待機でいいと言われていた。あの《ピエロ》は健在だが、これ以上撃っても《予測線》が見える間は当たるまい。
お手並み拝見、ね。
彼方では、早くも光線と実弾が激しく飛び交っていた。
敵のパーティは意外にも素早く迎撃体制を整えている。前回の襲撃からある程度は対人戦闘のセオリーを学んだらしい。だが、スナイパーのシノンから見てもその動きはぎこちない。加えて光線銃のみで構成されたパーティでは、防護フィールドを持つギンロウ達の頭を抑えるのも難しいだろう。
案の定、早くも敵の1人がアサルトライフルの餌食になった。
さらに突出するアタッカー。このまま押し切れると踏んだのか、リーダーのダインを始めとする後衛まで前に出てきている。そして敵集団から最も近いコンクリート片に飛び込んでーー
「あっ」
カカシよろしく突っ立っていた《ピエロ》が、その時になってようやく動いた。ゆっくりと芝居がかった仕草でホルスターに手を伸ばす。仮面の隙間から流れるオレンジ色の髪が旗のように揺れた。
『なんだぁありゃ? さっきのマント野郎の中身か?』
『......なんにしても目障りだ。無駄口叩いてないでさっさとやれ』
『へいへい』
ギンロウの迂闊さに苛立ったのも一瞬、シノンは《ピエロ》が両手に握る2つのシルエットを見て凍りついた。
まさか、あの銃は.....
『じゃあな、せいぜい死んでから泣かないようにしろよ!』
下卑た笑い声を聞かないうちにシノンは無線に向かって叫んでいた。
「待って! あいつは......」
ーー危険だ。そう言おうと思った矢先、ザッと悲鳴のような音が無線に走る。道化師の銃口が電光石火で狙いを定め、吐き出された弾丸がギンロウを蜂の巣にしたのだ。
あっさりと砕け散るアバターを見てシノンは歯ぎしりする。ほんの一瞬、遮蔽物から顔を出した相手にこの反応速度。一体どんな反射神経を持ってすればそんな芸当が可能なのか。
『なっ!嘘だろ!?』
裏返ったダインの声を無視し必死でスコープの中に赤い姿を探す。同時に味方の反撃も始まるが、それは奴にとっていかにも遅い反応だった。敵を仕留めるはずだった弾丸は、虚しくコンクリートを削るだけにとどまる。
「消えた?」
違う、移動した。そのことに気がついたのは、するりと弾を躱した《ピエロ》が牽制のプラズマグレネードを味方に投げつけてからだった。ズン、と重い音が無線越しに鼓膜を震わす。
あのスピード、高レベルのAGI特化型以外にあり得ない。もうめっきり古くなったスタイルにベテランプレイヤーが翻弄されている。
かなりの手練れ。本物の強者。
そう理解した頭に電流が走る。躊躇はしなかった。シノンは身を焦がす衝動の命ずるまま、相棒の《へカートⅡ》を背負いその場から駆け出した。
仲間を助けるため?ーー違う! 逃げるため?ーー絶対に違う、闘うためだ! あいつと闘い、自分の全てをぶつけて倒す。その先にあるものがきっと本物の強さに違いない。
待っていて。あなたを倒し、朝田 詩乃を殺す糧にしてやる。
◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎
「なんだあの動き!? 1発も当たらねぇ!」
「よせ、あいつだけに気を取られるな。 敵は他にもいるんだぞ!」
アサルトライフルを乱射する緑色の髪のアタッカーを押さえつけ、ダインは低く怒鳴った。事実、彼の言ったことは正しい。すでにメンバーを2人失った彼らは後手に回る他なく、必然的に突出している《ピエロ》に火力が集中する。だが、その隙に光線銃から肉薄されれば防護フィールドとて無用の長物と化すのは明白だ。
2つの脅威に挟み撃ち、そして全滅.....容易に想像できる結末にダイン泣き出したくなった。
「くっそ! あのふざけた《ピエロ》のせいだ。あいつさえいなければ......」
こちらの射撃は全て躱し、ありったけの弾丸を叩き込んでまた消える。典型的なラン アンド ガン戦法だが、そのスピードが凄まじい。《着弾予測線》が見える前に瞬間移動と思える動きで身を翻すのだ。中身が人間かどうかすら疑いたくなってくる。
どっちにしろこのままじゃジリ貧。逃げるか?いや、それをあいつが見逃してくれるのか? だが逃げなきゃ全滅....
「な、なぁダイン。俺聞いた事あるんだけど、あいつもしかして《殺し屋ピエロ》なんじゃねぇか?」
思考の袋小路に入り込んでいたダインは、その声にビクッと肩を震わせた。半年以上《ガンゲイル・オンライン》をプレイしている人間なら誰でも知ってる不吉な名前を聞きとったからだ。
「あり得ない..... 引退したって噂だろう。あの仮面だってどっかの偽物が真似してるだけだ!」
自分に言い聞かせるようにダインは言った。狂ったように心臓が脈打つ。
《ガンゲイル・オンライン》で最強のプレイヤーは《ゼクシード》か《闇風》。この定説が全プレイヤーに浸透して久しいが、それはあくまでバレット・オブ・バレッツと呼ばれる大会の結果の話だ。
もっとシビアで予測のつかないオープンマップ。そこで間違いなく《最凶》だったプレイヤーがいた。
《殺し屋ピエロ》のメイソン。
物騒な通りなで恐れられていた彼は、はっきり言うなら戦闘狂だった。もっぱらPKを好み、そこら辺を歩いているプレイヤーに見境なく襲いかかる。無論はじめはそこまで注目されるプレイヤーではなかった。PKが珍しいことではなかったのもそうだが、被害にあったプレイヤーは誰も奴の姿をハッキリと捉えられなかったからだ。
赤いプレイヤーがPKをしている。酒場で噂されるのはそんな霞がかかったような話ばかり。そう、ちょうど最近流行りの《死銃》のような感じだ。
そこに転機があったとすれば、大規模スコードロンのメンバー15人が餌食にされた時だろう。その時メンバーははっきりと言ったのだ「ピエロの仮面を被った1人のプレイヤーに全滅させられた」と
同盟を組んでいたスコードロンは一斉に報復戦に乗り出した。中にはバレット・オブ・バレッツで好成績を収めたプレイヤーもいたらしいが、結果は思わしくない。返り討ちといケースも珍しくなかった。
パーティを組んでも勝てるか分からない、狂った道化師。
いつしかプレイヤーの間で彼は一種の伝説となり、ついに《殺し屋ピエロ》なる名前を頂戴することとなったのだ。
それが半年前の話。最近は誰もその姿を見ていないが、今になって自分達の目の前に現れるなどという冗談はない。ーーそのはずだ。
もはや願望である思考に終止符を打とうとした瞬間、体を赤い《着弾予測線》が撫でる。「伏せろ!」と叫んで隠れる余裕があったことにダインは自分で驚いた。
タララララッ!
金属の鳴き声に身をすくめるが早いか、真上のコンクリートが弾けバラバラとダイン達の頭に降り注ぐ。脊髄反射で銃口を向ける彼らを嘲笑うように《ピエロ》が戦場を舞った。遊ばれている、という認識が仮想の体に冷や汗を流させる。
ほんの刹那、彼と目が合った。仮面に張り付いた不気味な笑みがひたすらに恐ろしい。
ーー本物かもしれない。
ダインは不意に体が震え出すのを感じた。
後書き
明日センター試験だぜヒュー
私はバカなの? 死ぬの?
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