少年少女の戦極時代
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第4話 vs戒斗! 初めてのインベスゲーム
11月も終わりにさしかかる季節。リトルスターマインの少年少女は、いつものように並木の奥の野外劇場で踊っていた。
始めたばかりの頃は、ナッツが言ったようにそれこそ「エア観客」の「ごっこ遊び」だった。
しかし噂とはどう広まるか分からないもので。並木道を通学路にする児童たちが、帰り際、あるいは塾や習い事に行く前のちょっとした時間、観客として咲たちのダンスを観に来るようになったのだ。
少し前など、あのDJサガラのネットラジオで、「小さなビートライダーズ」と紹介されたくらいだ。
客がいるとなれば、小さいながらもパフォーマーである咲たちが手を抜く道理はない。
ダンススクールで習ったダンスを、もっと「楽しみながら」やれるように自主練習した。
ダダン! 最後の踏み込みから、決めのポーズ。
ちびっこしかいない、咲たちを観に来てくれたお客が、拍手をくれた。荒い息の下、達成感で咲は笑った。仲間たちと、汗だくのまま笑い合った。
「アンコール! アンコール!」
ちびっこたちがピンクのハンカチやバンダナ、上着などを振る。
咲は一緒に踊っていたヘキサたちをふり返り、コンディションを確かめる。
(だいじょうぶそうね。時間的にもあと一曲くらいならやれるし)
咲は肯いた。端のポジションのヘキサが、舞台袖に避けておいたラジカセのリモコンを持ってくる。咲はリモコンを受け取り、客席近くに置いたラジカセを操作しようとした。
カチ。不意にラジカセが停められた。
ラジカセを切って野外劇場にズカズカと上がり込んできたのは、赤と黒のゴシックコスチュームに身を包んだ男たち。チームバロンだった。
「このチームのトップは誰だ」
仲間たちが咲の後ろに集まる。咲は、相手側のリーダー、確か駆紋戒斗とかいう男の前に出た。
「あたしがリーダーだけど。何の用ですか?」
「――ステージカードもない、ステージともいえない野外で、ダンスの腕もお粗末。まるっきりガキのお遊戯だな」
出会い頭にけなさければ、咲もむかっ腹が立つ。
「そうよ。ガキのオユウギ。悪い? だからわきまえて、ここ以外じゃおどってないでしょ。もんく言われるすじあいないわよ」
「いいや、お前たちは弁えるべき一番のことを弁えていない」
「は?」
「弱者のくせに『ビートライダーズ』を名乗った。それは許されざるべき所業だ」
戒斗が何か小さな物を投げつけた。咲はとっさにキャッチし、見た。
ネットラジオでしか見たことがない、ロックシードという錠前だった。
「――インベスゲーム?」
怪物を操ってチームの上下を競うゲーム。液晶の向こう側の、無関係な娯楽。まさか自分がそんなモノを手にすると思わなかった咲は密かに震え始めていた。
(だって、あたしたちがビートライダーズなのは、ただのごっこ遊びで、ヘキサの思い出作りのためで。だから町の隠れ家でひっそりやってたのに。どうして? 何でこの人はそれを壊しに来たの?)
「ガキでもビートライダーズを名乗る以上、ロックシードの一つくらい持ってるだろう」
「……持ってるわけない」
「ガキのフトコロの寒さなめんな!」
チューやんとモン太の返しに戒斗は意外とでも思ったのか。はたまた呆れたのか。
しかし戒斗は容赦なく錠前を開錠する。すると、光でフィールドが形成され、宙に縦に開いたチャックから小さな怪物、インベスが召喚された。
いよいよ咲が進退窮まった、そんな時だった。
「咲、使って!」
舞台袖から出てきたヘキサが、これまた小さな物を二つ投げた。
キャッチして見ると、それはたった今戒斗が投げた物と同じロックシードの錠前だった。
「これ、何で……え、これ、Aクラス!?」
「なにっ?」
何故ヘキサがこれを持っていたのか。普通の小学生の小遣いで買える品ではないのに。
疑問に思ったが、咲はすぐ意識を切り替えた。ヘキサに聞くのは後でもできる。今は咲の、ヘキサの思い出を穢そうとする戒斗と戦うのが先だ。
「チューやん! これオネガイ」
咲はチューやんに錠前を一つ投げ渡した。チューやんは格ゲーが仲間内で一番上手いからだ。
「いいだろう。ハンデとして2対1でやってやる。来い」
咲は錠前二つ、チューやんが錠前一つ。彼女らは同時に錠を外した。咲側のフィールドに3体のインベスが召喚される。戒斗が咲を睨みつけた。咲も負けじと睨み返した。
「みんな観てて。これがあたしたちのステージよ!」
………
……
…
それはいつもと何ら変わりない日常。
『ハロー、沢芽シティ! 今日のトップニュースは先日紹介した小さなビートライダーズ、チーム「リトルスターマイン」だ!』
それは投じられたことに誰も気づかない小さな一石。
『バロンにゲームを挑まれたリトルスターマイン。子供ばかりのチームに大人げないぜバロン! とは言わないのがお約束だ。何たってスゴイのはこのチームのリーダー。何と弱冠11歳の小学生女子! インベスを巧みに操り、あのバロンを退けたSuper Girlだぜ!』
それは「いつもの日常」に音もなく波紋を広げた、微かな変化。
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