少年少女の戦極時代
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第3話 結成! リトルスターマイン
トモに着替えさせられたヘキサは、教室に戻るや咲に座るよう言われた。
車座になった仲良しグループ5人の中にヘキサもとりあえず座った。
「えー、コホン。おれたち、桂ダンススクール第11期生6人は、今日からビートライダーズのチームをけっせーしたいと思います」
「……リーダーのあいさつ……です」
モン太とチューやんのパスを受けて、すっくと立ち上がったのは咲。
咲はポケットから4つ折りの紙を出して、開いて読み始めた。
「ヘキサへ。あなたがダンスをやめるって聞いて、あたしもみんなもすごくショックでした。でも、一番悲しいのはきっとヘキサだよね? だから、みんなで考えました。あたしたちがヘキサにしてあげられることは何だろう。どうすればヘキサが最後まで楽しくダンスをできるだろう。いっぱい考えました。それで思いついたのが、ビートライダーズをやるってことでした」
咲の声が震えた。ヘキサは見た。咲の目からぽとりと涙が落ちたのを。
「ヘキサ、前に一度だけ言ったよね? ビートライダーズのどこかのチームが踊ってるのを見て、『やってみたい』って。いつもひかえめなあなたが、初めて何かをやりたいって言ったのが、印象的でした。これが正しいことかは分からないけど、よろこんでもらえるか分からないけど、ヘキサがよければ、あたしはみんなでビートライダーズをやりたいです。桂ダンススクール第11期生、室井咲」
咲が紙を畳んで目を袖で乱暴に拭った。ナッツが咲にタオルを差し出すと、それでまた顔を乱暴に拭いた。
仲間の目がヘキサ一人に向けられる。
ヘキサは未発育の胸を押さえた。冬なのに熱く、ビートを刻んでいる。
(ずっとこそこそしてたの、このためだったの? わたしが、咲と、みんなと、ビートライダーズをやれる? みんながいっしょにやってくれる?)
――ずっと憧れだった。兄が仲間とおそろいの色を着て、ステージで踊っているのを観た日から。家では決して見せない笑顔で踊る兄を見てから。
「いい、の? だって、ビートライダーズって、怪物使ってステージうばい合ったりするんだよ?」
「その辺は抜かりなしよ。チューやん」
「……ん」
チューやんが広げたのはこの土地の地図。縮尺は限界まで広げてある。
「……ここが学校。ここがダンススクール。で、ここ。並木道の通学路。……ここをこうぬけると、野外劇場がある」
「スピーカーもスポットライトもないし、今の時期、イチョウでキタナイけどそこがイイ。こんなオンボロステージ、オトナのビートライダーズもほしがんねえだろ」
「ぶっちゃけ『ビートライダーズごっこ』なんだけどね。あたしらじゃロックシードなんて買えないし。エア観客のエアステージ。だからバトルは心配しなくていいよ」
「いつのまに……」
見通しが甘い部分も目に付く。だがヘキサの心臓のビートは強くなるばかりで鳴り止まない。
「――やりたい」
ヘキサは顔を上げて、最高の友達5人を見渡して。
「どんなステージでも、どんな条件でもいい。わたし、みんなでビートライダーズ、やりたいっ」
一拍の間。そして、咲たちはぱああっと顔を輝かせ、文字通り跳び上がって快哉を上げた。ナッツやトモなどヘキサに抱きついた。
「よかった。これでヘキサがイヤって言ったらどうしようかって」
「咲……ほんとに、わたしなんかのために……いいの?」
「ヘキサのためだから、できるんだよ。あたしも、みんなもね」
前に上の兄に言われたことがある。ダンススクールの生徒――咲たちはしょせん世界が違う人間だと。
でも、ヘキサはそうは思わない。同じ世界にいるから、こうしてヘキサのために悩んで、考えて、実行してくれたのだ。今回は特にしみじみと思った。いつか兄にもこの胸の想いを伝えたい。
思っていると、トレーナーの刺繍が目に入った。六角形の中に流れ星。「リトルスターマイン」はチーム名だと最初に言った。
「あ、それね、あたしがぬったんだよ」
「小さな連続花火?」
「そう。あたしたちにぴったりでしょ?」
ヘキサは咲と指を絡め手を繋ぎ合った。
「ありがとう――咲」
「あたしこそ。受け取ってくれてありがと、ヘキサ」
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