少年少女の戦極時代
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第5話 咲、憂う
タブレットで保存した“ビートライダーズホットライン”を観直して、咲はフローリングの床に倒れた。全面鏡張りの教室のあちこちに、咲の寝姿が映る。
(ほんとにビートライダーズになっちゃったよ)
元はヘキサの思い出作りにと始めたものが、どこで踏み外してしまったのか。ごっこ遊びでよかったのに。戒斗の言ったようにガキのお遊戯でよかったのに。
(じゃあバロンに勝たなきゃよかった? わざと負ければよかった?)
そんなわけがない。あそこで負けていたら、ごっこ遊びさえ続けられなくなっていた。悲しく閉じてしまうヘキサの思い出をもっと悲しいものにしていた。
それだけは、室井咲は断じて許せない。
(ホンモノのビートライダーズになった今、この先続けていくには何がひつよう?)
咲はタブレットの映像を変えて再生した。インベスと戦う新しい方法、アーマードライダーが映し出された。
現在、アーマードライダーを擁しているのは、咲たちが先日戦ったチームバロン、そして落ち目かと思わせて復活したチーム鎧武。
チーム鎧武はともかく、チームバロンとは少なからず因縁ができてしまった。
戒斗はまた挑んでくるかもしれない。前はインベスの数に物を言わせて勝ったが、戒斗がアーマードライダーになったら確実に負けて、今度こそ咲たちの「ビートライダーズごっこ」は終わる。
(もっかい勝とうと思ったら、あたしたちにも……アーマードライダーが、いなくちゃ、いけない。その時、このベルトを着けることになるのは……)
体を起こす。寝転んだせいで髪型が崩れた。咲は髪ゴムを結び直しながら、アーマードライダーの映像をリピートしてもう一度観る。
「髪、はねてるよ」
「――ヘキサ」
「貸して。やってあげる」
いつのまにか横に来ていたヘキサが、優しく笑んで手を差し出す。咲は髪ゴムをヘキサに渡した。
ヘキサの手櫛が頭を何度も掠める。髪はヘキサに任せて、咲はタブレットの画面に目を戻した。
「――ごめんね」
「何が?」
「わたしがビートライダーズやりたいって言っちゃったから……こんなことになるって分かってたら、わたし、」
「ストップ」
咲はヘキサの手を掴んだ。ヘキサの手から零れた髪がうなじを掠めた。
「それ」をヘキサに言わせたくなくて、咲は悩んでいるのだ。ヘキサが先に諦めてしまっては、咲たちががんばる意味がなくなってしまう。
「咲……でも」
「せっかくホンモノにしょーかくできたのに、もったいないじゃん。ここでやめちゃうの。悪いのはあたしたちのセーイキにズカズカふみこんできたバロンのヤツらよ」
ヘキサはさらに悲しげな顔をした。咲も困った。どうすればヘキサが気にしないようにできるだろう。
「そーそー。ヘキサ、あんま気にしなくていいんじゃねーの?」
にょき、と。いつからいたのか、モン太が生え……もとい現れた。
「うわ!?」
「きゃっ」
「咲もおれたちも自分がタノシイからビートライダーズやってきたんだし。ヘキサのためだけだったら咲だってキレイにカイサンしてしゅーりょーしてたって。な、咲?」
「え、あ、うんっ、そうね」
本心はむしろ逆のことで悩んでいたのだが、モン太が説得してくれそうな雰囲気だったので咲は肯いておいた。
「あ。おーい、お前らー」
モン太が、ちょうど更衣室から出てきたチューやん、トモとナッツを呼ぶ。
「咲がチームやめたいって言ってんだけどお前らどーするー?」
「ちょ、モン太!?」
「え、ヤだし!」
「……じょーだんじゃない」
咲は面食らった。軒並みやめたい派がいない。
「ちょっとぉ、リーダー? ナカマの意見ムシってジューダイケツギするってどーゆーことぉ?」
真っ先にトモが咲の眉間をぐりぐりしに来た。地味に痛い。
「……じょーだんじゃない」
「チューやん、セリフが使い回しだぜ」
「……それ以外思いつかない」
――思い出作りのためのはずだった。ヘキサ一人のためのはずだった。
それがいつのまにか彼らの中でこんな危機にあっても誰もやめようと言い出さないくらい、大切なものとなっていた。
「――みんな、いいの? ほんとに」
「あんたと同じグループになってから、こっちはイチレンタクショーのつもりだっつの」
「あで」
ナッツに鼻をデコピンされて、咲は鼻を押さえた。横でヘキサが驚いている。
「……うん。そうだったね」
咲は立ち上がった。胸にはすでに闘志が戻っていた。
「ガキの本気はオトナにも負けないって、世の中に思い知らせてやろう!」
『おー!!』
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