Missアニーの証言
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第四章
第四章
「何で俺とアニーがなんだよ」
「酔ってたんだろ?あの時」
「ああ」
そのことは認める。
「もう何も覚えちゃないまでにな」
「気付いたら俺のベッドの上だった」
とりあえずパーティーで安いシャンパンなりビールなりを出鱈目に飲んで鶏やケーキもかなり腹に入れたのは覚えている。そっからは全然だった。
「車は運転したか?」
「したんじゃねえのか?」
「御前あの時青のクーペだったんじゃねえのか?」
「俺は飲酒運転はしねえんだがな」
それが俺のポリシーだ。その時だって車は家に置いていった。青のクーペは家の車だ。けれどそれを使ったような気もするのは確かだ。
「それはよ」
「まあそれも一ヶ月後だ」
「その時にわかるな」
「御前が親父だってな」
「馬鹿言え」
これは本音からの言葉だった。
「俺なわけねえだろうが」
「けれどアニーはそう言ってるぜ」
「違うさ。あいつの勘違いだよ」
こういうことにしたかった。
「それはよ」
「じゃあ親父は誰なんだよ」
「御前じゃなかったらよ」
「さあな」
正直そんなのわかるか、と言いたかった。けれどそこまでは言わなかった。
「どっかの誰かだよ」
「どっかのかよ」
「ジミーじゃねえのか?」
本当に適当に言ってやった。カレッジのバスケ部にいる奴だが結構な間抜けだ。それで間抜けのジミーっていうのがそいつの仇名になっている。
「あいつじゃねえのか?」
「あいつ彼女いるぜ」
「おい、マジかよ」
今度はその言葉に驚いた。
「あいつに彼女がかよ」
「ああ。テニス部のロザリーな」
「あいつと付き合ってるぜ」
「嘘だろ、あいつとロザリーが」
ロザリーは結構な美人だ。ブロンドの長い髪と笑顔がいい。しかも脚にスタイルも抜群だ。カレッジでもかなりの美人で有名だ。
「何でそうなったんだよ」
「幼馴染みだかららしいな」
「あの二人」
「そうだったのかよ」
聞いてびっくりだった。というか酔いがかなり醒めた感じになった。それでも飲むことは飲むが。だがそれが随分と醒めた感じになったのは確かだった。
「あの二人がか」
「ジミーはあれで誠実だしな」
「だからだっていうぜ」
「誠実かよ」
「だからな。御前も」
「いざって時にはな」
「誠実にしろってことか」
こいつ等の言いたいことはもうはっきりわかっていた。
「そう言いたいんだよな、御前等」
「その通り」
「わかってるじゃねえか」
「だったらな。いいよな」
「もしそうだったらな」
有り得るかという言葉を思いきり含ませて言ってやった。
「その場合はな」
「よし、言ったな」
「それじゃあな」
「ったくよお。何なんだよ」
俺はたまりかねた声でまた酒を一気にあおった。それでまた注文する。今度はカシスソーダだった。
「変なことになったぜ」
「まあそう言うなよ」
「これも人生」
急に適当なことを言ってきやがったと思ったがその言葉は酒と一緒に飲み込んだ。
「一杯やって」
「酒かよ」
「話聞いたらあれじゃないか」
「酒がはじまりだろ?」
俺がそのハロウィンの日べろべろだったことを言ってきた。
「だったらな。今だってな」
「これで気を晴らせよ」
「酒には酒か」
言いたいことはわかった。中国か何処かのアジアの国での諺で毒を以って毒を制すっていうのを思い出した。これでも本は好きなつもりだ。
「それだよな」
「まあそういうことだな」
そしてそれは隠されることはなかった。
「じゃあ。やれよ」
「これどうだ?」
「スクリュードライバーかよ」
オレンジにウォッカだ。確かにこれは効く。何しろウォッカだからだ。この連中の気遣いなんだと今は珍しく好意的に解釈した、
「それ飲んで気を晴らせよ」
「何杯でもな」
「けれど金は俺もちなんだろ?」
ここでいつもの俺に戻ってやった。
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