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デュエルペット☆ピース!

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デュエルペット☆ピース! 第1話「転校生ふたり」(後編)

 
前書き
Pixivにも同じ名義、タイトルで連載しています。試験投稿中。 

 
 とうとう見かねて、獅子が浮遊の術を解いて着地し、動かなくなった少女を庇うように白き竜の前に立ちはだかった。竜と獅子、文字にすれば猛獣同士の激突だが、現実の両者のあまりの大きさの違いに、滑稽な印象すら受ける。

ナイト
『や、やめろっ! もうこれ以上はデュエルを続けられない!』
ツキ
『なによォ、このケモノ……誰に許可取って人間様の言葉喋ってるワケ!?』
ナイト
『そんなことはどうでもいい! とにかくデュエルを中止しろ!』
ツキ
『バカなこと言うんじゃないわよ似非ライオン! サレンダーするなら、まずあのコが申し込んで、私が承諾しないとダメでしょーがァ! 契約法の基本でしょォ!』
ナイト
『見ればわかるだろ! もう意思表示もできる状態じゃない!』
ツキ
『動けないのね? だぁったらぁ! ここで私がターンエンドして、次のターンそのコが動かずに3分経ったら、自動で私のターンじゃないの! やっりーっ! あと3分で学校いけるよぉ! ばんざーいっ! お母さん私やったよー!』
ナイト
『そ、それはっ!』

ナイト
(確かに、ターンプレイヤーが何もせずに3分が経過すると、ルール上、ターン進行の権利放棄とみなされて、自動的に相手のターンに移るが……壁モンスターのいない今のまま相手のターンに回れば、フルムーンアイズのダイレクトアタックを受けてしまう……3000のライフダメージをもう1度受けたら間違いなく……彼女の命はない!)

ツキ
『さぁて、あっと3分! これでターンエンドよぉ!』

・アズサ(手札5 LP:300)
・ツキノ(手札3 LP:4000)
《DP.06 満月瞳の白竜》ATK:3000・☆10・ORU×1


<ターン5 アズサ>

 少女のディスクが点滅し、ターン開始を告げる。だが、少女はそれを認識できる状態ではなかった。
 獅子が駆け寄り、ぼろ雑巾のように転がった少女の耳元で、声を張り上げる。

ナイト
『しっかりしろ! このままでは……君は本当に……! とにかく守備モンスターでいいから召喚して攻撃を凌ぐんだ!』
ツキ
『ひゃははッ! 何言ってんの!? 守備モンスターはフルムーンアイズの効果で攻撃表示に変わるのよォ? 壁モンスターなんか召喚したって、前のターンとおんなじ! ダメージは避けられないわァ!』
ナイト
『やかましいっ! 頼む、目を覚ましてくれ……そうか……私はまだ君の名前も聞いていない……私も名乗っていない! 一緒に戦ってくれたのに……お互い名前もわからないまま敗れるなんて……! ダメだ!』

 獅子の必死の呼びかけにも、少女は反応を見せない。彼女の意識は、冷酷な現実を離れ、記憶の彼方に旅立っていた。


                     *     *     *


「ねぇ、お母さん……お父さんは寝ちゃったのですか?」
―――そうね、起こしちゃいけないから……静かにしていましょう。
「よかった……お父さん今日は機嫌がいいんですね。今日はわたしもお母さんも、ぶたれずにすみそうです」
―――そう、ね……うふふ、お母さんもちょっと安心だわ。
「えへへっ。ねぇお母さん、一つおねがいしてもいいですか?」
―――アズがお願いなんて、珍しいわね。どんなお願い? 
「えっと……だっこしてもらっても……いいですか?」
―――アズはもうすぐ小学生でしょう……もう大きいのに甘えてはダメよ。
「けど……お母さんもお父さんもまっかなのに、わたしだけふつうのままだから……」
―――駄目よ。こちらに来ては駄目。汚れてしまうから。
「だって……わたしもお母さんと一緒がいいです!」
―――いい加減にしなさい!
「ひぅっ……うぇ……」
―――泣いてはダメよ。これからアズは強くならなくちゃいけないの。一人で生きていくために。
「ひと……り?」
―――ねぇアズ、お母さんと一つ、約束してくれる? そしたら……だっこしてもいいわ。
「は、はいっ! なんでもいうことききます! なんですか?」

(そうか―――あの時、お母さんは血だらけの手でわたしを抱き寄せて―――)

―――生きなさい。どんなにつらくても、どんなにくるしくても……生き続けなさい。

(あの日―――二人が亡くなった日、お父さんの返り血と、お母さん自身の血、両親の血にまみれて、それでもわたしは―――だっこしてもらえて、うれしかった)

―――生きなさい。どんなにつらくても、どんなにくるしくても―――

(あの時冷たくなっていくお母さんの腕の中で―――わたしは確かに、いのちを受け取った―――だから、わたしは―――!)

―――生きなさい、アズ!


                     *     *     *


 少女の生体電流がその電圧を増し、超常の力となって放出され、彼女の周囲に稲妻のエネルギーとして実体化する。一筋、二筋、次第に放出される稲妻が数を増し、とうとう少女の右の拳が握りしめられた。網膜の捉えた光が脳で像を結び、青空が映しだされる。自分が仰向けに倒れていることがはっきりと認識できた。

アズ
「はァっ……ごほぉっ」

 身体中の痛みと血しぶきの混じる咳き、それでも、彼女は生きていることを実感した。まだ、血が出るのだ。それは心臓が動いている証。全身の筋肉を伸縮させ、よろめきながらも立ち上がる。地獄の苦痛の中で、左手に握られた手札は、何度もこぼれ落ちそうになりながら、結局一度も彼女の手を離れてはいなかった。それが、母との約束を守ったしるしのように思えて、安堵すらこみ上げる。

ナイト
『…………!』

 立ち上がった少女を見上げる獅子は、喜びも、感嘆の言葉すらも発することができなかった。朝日に照り輝く傷だらけの少女の顔は、彼の世界の女神のそれと重なり、獅子が一瞬目を疑ったほど。それほどに、神々しかった。

ツキ
『ぎぃぃ……まだ生きていたのぉ……しぶといィぃ!』
アズ
「あなたは……わたしに言いましたね……死ね、と」
ツキ
『ああ! 今でもそう思ってるよ! このクサレ穴! あんたがいなきゃ私は今頃友達百人皆殺しィぃィぃッ!』
アズ
「わたしは……何があっても約束を守る……だから死なないし……登校するのもわたしです!」

 少女の瞳に戦意の光がともる。それは炎に焼かれ、傷つき倒れる以前よりも、はるかに強く、凄絶な光であった。
 その瞬間、少女の脳裏に、このデュエルを勝利に導くカード達が、次々と流れるように浮かびあがる。次に彼女がドローするカード、召喚すべきモンスター、重ね合わせるべき力、紡ぐ言葉、斬り捨てる敵、それらの全てを、直感的に捉え、理解する。あとはそれを、現実のものとして引き寄せ、掴み取ればいい。それが、小鳥遊アズサのデュエルなのだから。
 デッキの一番上のカードに右手を掛ける。ふわり、と決闘の流れが変わりつつあることを示すかのごとく、二人のデュエリストの間を涼風が駆け抜けた。それが、合図。
 しゃなりっ―――摩擦音とともに、少女は新たな未来を引き当てる!

アズ
「わたしのターン!」

 引き当てたカードは、生命の紋章、アンクが描かれた緑色の札。少女の肩の位置まで再び浮遊した獅子は、そのカードを目にして驚嘆した。

ナイト
『こ、これは……こんな強力なコモン・マジックを初めてのデュエルで……?』
アズ
「獅子さん。これからわたし、自分が思った通りに戦ってみます。だから、わたしのこと、見ててくれますか?」
ナイト
『ああ……もちろんだよ。もとよりデュエリストは君だ。私はただのペットに過ぎない。だから、私が見ているから、がんばれ!』
アズ
「はいっ! わたしは、《召喚僧 サモンプリ―スト》を召喚! このカードは召喚成功時、守備表示となる!」

 黒の魔法胃に身を包んだ僧侶が、フィールドに現れ、足を組んで座り込む。

《召喚僧 サモンプリースト》DEF:1600・☆4

ツキ
『なによソイツゥ! その程度、フルムーンアイズの効果で攻撃表示にして破壊してやるわァ! やっぱり勝つのは私よォ!』
アズ
「続いて、手札より、魔法カード《死者蘇生》を発動!」
ツキ
『なッ! 魔法カードぉ!?』

 アズが手札から、たった今引き当てた緑のカードを示し、ディスクにセットする。対応してアンクの紋章が空中に現れ、光を発した。

ナイト
『魔法カード……モンスターと違い使い捨てとなるが、即効性が高く、多様な効果を発揮するデュエルの主軸の一つ……!』
アズ
「《死者蘇生》は墓地のモンスター1体をフィールドに特殊召喚できる! わたしは《サンライト・ユニコーン》を特殊召喚!」

 竜の攻撃で切断され、フィールドに転がっていた聖獣の角が、魔法のアンクの光に呼応して、燃えるような青のオーラをまとい、守備体勢のユニコーンへと姿を変える。

《サンライト・ユニコーン》DEF:1000・☆4

ツキ
『ぐぬぅっ! いくら壁を増やしてもォ……!』
アズ
「このモンスターたちは壁じゃありません! 勝利のための……わたしの一手です!」

 主の言葉に反応するかのように、僧侶と聖獣、並び立つ二体のモンスターが光を帯び、その輪郭を喪失して、黒と白の二つの光球へと姿を変えた。少女は左手の手札を懐に仕舞い込むと、両手を広げ、掲げる。光と闇の光球が、少女の両手に一つずつ、飛来し、宿る。
 少女は眼を閉じ、深呼吸を一つ。少しずつ両手と、それに宿る光球を近づけ、祈るように体の正面で両手をクロスさせる。光と闇の光球が少女の両の手の中で重なり合い、渦を巻き始める。

ツキ
『こ……これは、まさかァ!』
ナイト
『いや……間違いない!』

 少女の眼が、すぅ、と見開かれる。続いて、たおやかで、高らかな宣言。

アズ
「わたしは……《サンライト・ユニコーン》と《召喚僧 サモンプリースト》でオーバーレイ!」
ツキ
『うそォ!? デュエルピースを召喚する気か?』

ナイト
(いや。彼女はデュエルピースを持っていないはず……ならば考えられる可能性は……ただ一つ!)

 重なり合った光球が少女の手を離れ、天に昇って空中に光の渦を作り出す。

アズ
「2体のレベル4モンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築! エクシーズ召喚!」

ツキ
『エクシーズゥ!?』
ナイト
『やはり! 同レベルモンスターを重ね合わせることによって新たなモンスターを生み出す召喚技法……デュエルピースの力を応用して生み出されたものだが……まさかこの子がそんな特殊な力を持っていたとは……!』

 空中の光の渦の中央から、二つの光球をまとう一振りの大剣が落下し、アズの正面の地面に突き刺さる。ほのかに聖光を煌めかす剣を、アズは両手で握りしめる。

ナイト
(あらかじめ召喚されるモンスターが手札で確定しているデュエルピースとは違い、エクシーズ召喚によって生み出されるモンスター・エクシーズは、デュエリストが自身の能力に応じて無から創造する、まさに固有の特殊能力……一体彼女はどんなモンスターを召喚したんだ……!?)

アズ
「おいでなさい! わたしの剣たる少女よ! 《デュエルナイト・セイバー》!!」

 少女が大剣を振りかぶり、一回転して思い切り空中に投げ上げる。空中で高速回転する剣を、何者かがキャッチした。彼女の呼び出した、新たなモンスター・エクシーズが、主から受け取った魔剣とともに、着地する。
 それは、女性の姿をしている。腰まで届く長い銀紫の髪を風になびかせる様が、天使の翼のよう。端正な顔立ちの下半分は首に巻かれた赤いマフラーで隠され、マフラーの対端は左肩から下がり、これも風になびいている。上半身は主同様に白のブラウス、下は赤のロングスカート。足回りは黒のブーツ。それだけではおよそ戦闘用には見えないいでたちを、肌を隠す鎖模様が強引に引き締める。鎖帷子に包まれた全身を、さらに洋衣で包んだものと見え、締め付ける格子の奥にかすかな肌色が見え隠れする。右手には主から受け取った、一対の光球をまとわす大剣、左腕には主のディスクを模した白銀の篭手。瞳に宿るは魔と意思の赤色。
 魔剣士。そう呼ぶのがふさわしかろう、その姿。ところどころに主の装いの跡を残しながら、より異様に、華麗に、鮮烈に。魔剣士が、主と目線を交わす。確かな意思の疎通があったのち、魔剣士は向き直って斬るべき敵、白竜を見据えた。赤の眼光と乳白の眼光が衝突するが、白竜がたじろぎ、後ずさった。自身の畏怖を押し隠そうと、竜が咆哮して威嚇する。魔剣士は微動だにしない。モンスター同士の視殺戦の結果として、今この瞬間、デュエルの支配者が交替したことが示される。

アズ
「やっと会えました……わたしの剣」

《デュエルナイト・セイバー》ATK:2500・★4・ORU×2

ナイト
『これが……モンスター・エクシーズ……!』
ツキ
『こ、これがぁ……! けど! そのモンスターの攻撃力は2500! 攻撃力3000のフルムーンアイズには勝てない! せっかくのエクシーズ召喚も無駄に終わったわァ!』
アズ
「いいえ……わたしの剣の本当の力……見せてあげます! 手札より、魔法カード《決闘夜の序曲》(デュエルナイト・プレリュード)を発動!」

少女が再び手札の緑のカードを華麗な手さばきでディスクにセットする。

ツキ
『二枚目の魔法カード……今度は何をォ!』
アズ
「このカードはモンスター・エクシーズをサポートする魔法。フィールド上のORUを持つモンスター1体の攻撃力を、このターンの間1000ポイントアップします! 効果対象はデュエルナイト・セイバー!」

 魔剣士が大剣を天に向けて掲げる。天から緑の光が差して剣に収束し、あふれんばかりのエネルギーが稲妻となって剣と魔剣士を包み込む。

《デュエルナイト・セイバー》ATK:2500→3500・★4・ORU×2

ナイト
『攻撃力3500! これでデュエルピースを倒せるぞ!』
ツキ
『しぃィッ! 魔法でモンスターの攻撃力を上げるなんてェぇっ!』
アズ
「バトル! デュエルナイト・セイバーでフルムーンアイズを攻撃!」

《デュエルナイト・セイバー》ATK:3500→《DP.06 満月瞳の白竜》ATK:3000

 魔剣士が剣を手に、白き竜へ向けて駆けだす。竜が白の火炎を吹き出して応戦するが、縦横無尽に駆け巡る魔剣士のあまりの俊足に、炎が追い付けない。白炎を風に巻きながら、竜の周囲を回り込むようにして距離を詰めていく魔剣士。
 不意に、魔剣士が不敵に微笑み、白竜の正面に躍り出た。好機と見た白竜はありったけの力を火炎に込めて放射する。押し寄せる炎。しかしそれが魔剣士に届く寸前、魔剣士の姿が竜の視界から消失する。驚きに竜の炎の軌道が乱れるのと、上空に跳んだ魔剣士が、朝日をシルエットに身体を捻り、剣を振りかぶったのが同時であった。頭上から攻撃態勢のまま垂直に落下してくる魔剣士に、未だ地上へ向けて炎を吹き続ける愚鈍な竜が対応できる訳がない。
 垂直の刺突ではない。竜と交差する一瞬、魔剣士は空中で華麗に回転する。その一閃の正体を、主たる少女はこう呼んだ。

アズ
「……セイバー・フラッシュ!」

―――ざんっ―――たぁんっ!

 斬撃に続いて魔剣士が着地する音は、大剣の重量を感じさせない軽やかさ。未だ白炎を放出し続ける白竜の首が、がくりと揺れる。一瞬の間。続けて、胴体から斬り離された白竜の首が、アスファルトに落ちる大きな音が響く。なおもその吐き続ける白炎がとうとう行き場を失って、地面に転がる首自体を焼き尽くす。
 魔剣士が剣に滴る竜の血を払った瞬間、断末魔の咆哮とともに、わかたれた竜の首と胴体が、同時に木っ端微塵に爆発した。爆発の余波が女学生を襲い、その灰色のバリアを削り取る!

・ツキノ LP:4000→3500(-500)

ツキ
『みぎゃぁっ!』

 終始狂気に染まっていた顔が、初めて苦痛にゆがむ。


ナイト
『よし! わずかだが奴にダメージを与えたぞ!』
ツキ
『け、けどォ! まだたかが……500ポイント程度! 残りライフ300のアンタが不利なのは変わらない!』
アズ
「……この瞬間! デュエルナイト・セイバーの効果と、墓地の魔法カード《決闘夜の序曲》の効果が同時に発動!」
ナイト
『同じタイミングでカードが連続発動した場合、チェーンが発生する!』

チェーン1:《デュエルナイト・セイバー》
→チェーン2:《決闘夜の序曲》

ツキ
『バカなァ! 魔法カードは使い切りのはず……! 使用して墓地に送られた後で別の効果を使える魔法だなんてェ……!』
ナイト
『チェーンが発生した時は、後に発動したカードから順に処理していくんだ。まずは《決闘夜の序曲》の効果を使えるぞ!』
アズ
「はい! 《決闘夜の序曲》でパワーアップしたモンスターが、発動ターンのバトルで相手モンスターに勝利した時、デッキから「決闘夜」と名のつく魔法・罠カード1枚をデッキから手札に加えます!」
ナイト
『デッキサーチ効果!? だが、君のデッキの全容はまだわかっていない! 君のデッキ、つまり君の潜在能力の中に、この状況をひっくりかえせる力が眠っているとは限らないんだぞ!』
アズ
「その通りです。でも……きっとあると信じます! わたしの中に、このデュエルに勝つ力が!」

 少女のディスクにセットされたデッキのカードが、次々と空中へ放出され、少女の周囲を浮遊し始める。機会は一度。手札に加えることができるのはたった一枚。だというのに、少女はあろうことか自ら目を閉じ、浮遊するカードの気配だけを頼りに、自分の能力の奥底を探る。
 脳裏に煌めく一筋の光。たった一枚だけ、眼前の敵を叩き伏せる止めの一撃を、彼女の剣に与えるカードを―――つかみ取る!

アズ
「これで《決闘夜の序曲》の効果は終了! 続いて、チェーン1、《デュエルナイト・セイバー》の効果を使用します! デュエルナイト・セイバーは、倒した相手モンスターを、自分のORUとして吸収する!」
ツキ
『なにぃっ! まさかアタシのフルムーンアイズを吸収する気なのォ!』

 女学生のディスクが光を発し、墓地に埋葬されていた白き竜のカードが飛び出して、一直線に少女の右手に収まった。少女は、ディスクに設置された黒のカード、モンスター・エクシーズの下にそのカードを重ねる。
 フィールド上では、粉微塵になった竜の残した白炎が、魔剣士の掲げる大剣に吸収されていく。とうとう炎の全てが吸い尽くされたとき、大剣のまとう光球、ORUが2つから3つに増えていた。

《デュエルナイト・セイバー》ATK: 3500・★4・ORU×2→3

 少女が、一呼吸置き、手札のカードを抜き取る。先ほど手札に加えたばかりの、決着をもたらす一枚であった。切り札を天にかかげ、少女は勝利を歌い上げる。

アズ
「これで……このデュエルは終わりです! 手札に加えた最後の魔法カード、《決闘夜の終曲》(デュエルナイト・フィナーレ)を発動!」
ツキ
『ま、魔法三枚目ェ!?』
アズ
「このカードは、自分フィールドのORUと化したデュエルピース1枚を墓地に送って、わたしのモンスター・エクシーズの攻撃力分のダメージを相手に与える魔法です!」

 魔剣士の剣に取り込まれた、元は白竜であった光球が飛び出し、炸裂する。放出されたエネルギーは、稲妻となって大剣に宿り発光する!

《デュエルナイト・セイバー》ATK: 3500・★4・ORU×3→2

ナイト
(倒したデュエルピースを吸収する効果に、吸収したデュエルピースを利用してダメージを与える効果のコンボ攻撃とは……この子は、デュエルピースを狩る者として凄まじい力を隠しているのかもしれない……!)

アズ
「デュエルナイト・セイバーの攻撃力は現在3500……よって、3500のダメージを受けてもらいますっ!」
ツキ
『そんにゃぁ……ばかなァァァッ!!』

 魔剣士が、女学生へ向けて水平に剣を構える。剣の先端に稲妻のエネルギーが球体として収束し、はち切れんばかりに肥大化する!

アズ
「撃て! デュエルナイト―――フィナーレっ!」

 主の命とともに魔剣士が力を解き放つ! 発射された雷球が、女学生に着弾し、その狂気と、願いと、生命をがりがりと削りとり、粉砕する!

ツキ
『うぐぅぎゃァァァっ―――! ともらち、デキナ―――いイィィィ―――!!』

―――ごおぉぉぉん!!

 限界を超えた女学生の身体が、爆発した。

・ツキノ LP:3500→0(-3500)


                    【決闘終了 勝者:小鳥遊アズサ】


 跡形もなくなった女学生の代わりに、一枚のカードがはらはらと舞い、女学生の立っていた場所に落ちた。デュエルピース6、朝の町に凄惨な光景を作り上げた、悪夢の白竜である。

『今だ! デュエルピース6よ! 我が女神のもとへ戻ってもらうぞ!』

 白獅子がカードに駆け寄り、手をかざす。カードが光の粒子となって、獅子の宝石の瞳に吸収され、消失した。

「あ……これで、終わったんですか?」
『ああ! 君のおかげでデュエルピースの暴走を止めることができた。礼を言おう!』
「よかった……たす、かったぁ……」

 安堵した途端、少女の全身から力が抜け、アスファルトの上に倒れ込む。同時にぼろぼろになっていたデュエルフォームが消失し、少女は元の真新しい制服に身を包む姿へ戻っていた。

『おい! 大丈夫か!』

 白獅子が慌てて駆けより、少女の顔を覗き込む。気を失ってはいるが、きちんと息をしていることを確認して、獅子は胸をなでおろした。

(目立った外傷は消えている……まあ当然か。デュエルに勝利したことで、デュエル中に受けた彼女のダメージは全て相手に降りかかることになった。二人分合計で7700ポイントものダメージを受ければ跡形もなく消え去るのも道理だが―――この子が無事で本当に良かった)

 安堵する白獅子の耳に、遠くからけたたましいサイレンの音が聞こえてくる。獅子は人間世界の知識は一通り身に着けていたので、その音の正体がこの国の捜査機関の専用車によって発せられていることに思い当った。
 白獅子はもう一度少女の安らかな顔に目をやり、誰にとなく微笑みを見せると、その場を去った。


                     *     *     *


 コート姿の捜査官に揺り起こされた時、少女は元の姿に戻っており、あの女学生も、手乗りサイズの獅子も、跡形もなく消えていた。すべてが夢だったのかと疑ったが、周囲をあわただしく駆け巡る警察官たちと、行き来を繰り返す何台もの救急車が、空襲を連想させるあの凄惨な光景が、まぎれもない現実であったことを嫌でも彼女に確信させる。
 捜査官の話によれば、事件現場付近にいた人間の内、彼女が唯一の生存であるらしかった。警察署で、捜査官たちは彼女に有力な情報をせがんだが、何をどう話せばいいのか見当がつかず、最初は泣きはらすことしかできなかった。もちろん涙の理由は、第一に自身が生きながらえたことへの安堵であったが、傍目には、死体のいくつも転がる地獄絵図を目にしたショックからの涙と映る。もちろん、ショックを受けていること自体は本当なのだが。捜査官たちは、まずは彼女を休ませることを優先した。
 毛布を掛けられ、リラックス効果があるのだというハーブティーを手渡される。女性警官のいたわりに頭を下げながら、少女は考えを巡らせた。あの女学生が白竜を使役して襲い掛かってきたこと、人語を話すミニサイズの獅子に助けられ、デュエルで苦闘の末に竜を葬ったこと。昨日までの自分がこの話を聞けば、正気の沙汰ではないと思うだろう。これを正直に話したところで信じてもらえるわけもなく、それどころか無から犯罪者を作り出す錬金術師のごときこの国の警察相手では、あらぬ疑いをかけられる可能性もある。幸い、外見上今の自分は事件に巻き込まれた被害者の立場にいる。余計なことは言わず、その立場を維持するが正解。
 その後、改めて向けられた捜査官たちの質問に、「死体を見つけ、恐ろしくなって必死になって逃げている途中、転んで気を失った」と答えた。有力な手がかりを期待していただけに、わずかに落胆の色を浮かべる刑事もいたが、反面、そんなところだろう、と予想していた向きが強かったようで、儚げな少女の言葉を疑う者はいなかった。それから各種調書の作成に付き合わされるうちにとっぷりと日も暮れ、パトカーで自室まで送ってもらうと、もう10時を回っていた。

「はぁ……結局、転校初日から登校できませんでしたね……」

 誰もいない部屋で、彼女は独りごちた。すべては朝の一時のことだったはずであるが、途方もない経験をしたとしか思えない。どこかでまだ夢と疑う気持ちと、夢であればと願う気持ちが残っていたが、同時に、あの獅子にもう一度会いたいと思う心もある。

「そういえば……獅子さんの名前、きいてませんでした。わたしも名乗ってない……」

『グラナイトだ』

 不意に、背後から凛々しく澄んだ青年の声。振り向くと、部屋の真ん中に、彼女のすね程度の背丈しかない、小さな白獅子が立っている。その瞳は、黒の宝石。蛍光灯の光を照り返して、美しく輝いている。

『私は、デュエルワールドからの使者、デュエルペットのグラナイト。勇敢なお嬢さん、もし私に慈悲をくれるなら、どうか君の名をお教え願えないかい?』

 三頭身の白獅子が、人間の紳士がそうするがごとく、胸に手を当て、頭を垂れる。その姿がなんとも愛らしく、少女はまぶしいほどの笑顔を浮かべた。今朝この部屋を出る際に、両親の写真へ向けて以来、実に14時間半ぶりの笑顔。獅子が自分を元気づけるために来てくれたことが、涙が出るほどうれしかった。こんな気持ちを抱いたのは、両親が亡くなって以降、初めてかもしれない。
 少女は恭しく一礼すると、獅子に慈悲を与える。

「わたし、小鳥遊アズサです。親しい方は「アズ」と呼びますから、あなたもそう呼んでくださいますか?」
『了解した、アズ』
「ありがとうっ、ナイト!」

 いいように自分の名を縮められ、ナイトが大げさに驚く仕草をする。その姿、目一杯、愛でたい。アズは少女の本能を抑えきれなくなり、ナイトに飛びつき、抱き上げた。どのみち今日は、一人で眠る気にはなれないところだ。ふかふかの毛並みが擦り切れるまで頬ずりして、そのあと夜通しで、そこらじゅうにキスの雨を降らそう。この子ライオン相手ならば、ファーストキスのカウントには入るまい。

 この日を境に、アズの運命が大きく動き出す。多くの意思と二つの世界が絡み合うこの物語において、デュエリスト達の心に眠れるカードだけが、真実を知っていた―――


                        <第1話・了>


■ あとがき―――あとのわるあがき
 前から一度やってみたかった、カードゲームリプレイを核にした作品。構想が生まれたのは実は3年ほど前だったのだが、紆余曲折あってようやく形に。1話の字数、書き始める前は10000程度だろうと予想していたら、なんだかんだで30000近くなり、前後編に分割する形式になってしまった。

 デュエルにこぎつけるまでが意外と長く、「ちょっとしたお話を書いて、疲れてきたらゲーム描写に移れて、書いてるほうも適度に楽しい」という予想がいきなり崩れてしまった。1話ということもあって、ゲームの内容そのものはとんでもなくシンプルなものに落ち着いた。なにしろ、遊戯王の三本柱のうち、モンスターと魔法しか登場していない。あれ罠カードは?

<キャラクター的なお話>
 主人公アズちゃんだが、今回は「少女」表記が多い。対戦相手が「女学生」表記だが、よく考えたら両方女学生なので、ややこしいことこの上ない。反省。
 フルネームは「小鳥遊アズサ」。主人公なので「遊」の字が入り、ヒロインなのでファーストネームは「ア」で始まる。いかにも遊戯王的なネーミング。
 そんなことよりまず、アズちゃんごめんなさい。当初はあんなに無茶苦茶にやられる予定ではなかったのだが、いじめてオーラを感知した筆がつい調子に乗ってしまって。
 ちなみに対戦相手、一回だけ名前が出てきている「宇崎ツキノ」ちゃんは、「月野うさぎ」から。変身ヒロインものの大御所さんをいきなりぬっ殺したこのシリーズ、前途に立ち込めているのは暗雲なのか、それとも変態タキシードなのか。

<ジュエルペット的なお話>
 今回の登場ペットはホワイトライオンの「グラナイト」。ビジュアルが知りたい方はサンリオかセガトイズのジュエペ公式サイトへGO。ジュエルペットは瞳が宝石でできているが、彼は御影石の瞳である。本家ジュエルペットでは登場してまだ1年程度の新顔さんだが、デュエルペットの彼も、デュエルペットたちの中ではルーキーという位置づけ。本家ではアニメ3期「サンシャイン」ラストでどんでん返し的に登場したのち、サブキャラ&主役ペットのルビーのボーイフレンドという位置づけにある彼、本作では主人公のパートナーとして大抜擢。安心感、勇気、実行力を与えてくれるという本家の設定そのままに、アズちゃんに弱さや寂しさを乗り越える力を与えてくれる……のか?

<遊戯王的なお話>
 デュエルピースを収集……。どうみてもナンバーズです。本当にありがとうございました。
 アニメZEXALの設定が公開されてから、「カードキャプターゆうま」とかさんざん言われていたが、ノリは同じ。ただ、本家ナンバーズよりもデュエルピースのほうがはるかに数は少ない。おまけにエクシーズじゃないし。
 このシリーズ最大のオリジナルカード要素は、エクシーズモンスターでないのにオーバーレイ・ユニットを持てる「デュエルピース」の存在。何らかの方法で素材を確保して、意味不明の効果を連発し、アズの前に立ちはだかる予定。

<オリジナルカード>
 本編中に登場したオリジナルカードを、コメントと共に披露。一応本文中ではだれかが解説するまで登場カードの効果は不明ということになっているが、本文中で以下のように一括した形で示すほうがいいかどうかは考え中。
 なお、本文中の表記に合わせ、「エクシーズ素材を取り除いて」→「ORUを使用して」というテキストにしてあるので、純粋にOCGと共通する用語法を使用しているわけではない。


■《DP.06 満月瞳の白竜》(デュエルピース・シックス フルムーンアイズ・ホワイト・ドラゴン)
デュエルピース・効果モンスター ☆10/光属性/ドラゴン族 ATK:2500・DEF:2000
[ル]このカードは、ORUを持つことができる。自分フィールド上に表側表示で存在するトークン以外のモンスター2体以上を下に重ねてORUとし、手札からこのカードを特殊召喚できる。
[永]ORUを持つこのカードの攻撃力は500ポイントアップする。
[即]1ターンに1度、ORUを1つ使用し、フィールド上に存在するモンスター1体を選択して発動する。選択したモンスターを表側攻撃表示にする。この効果は相手ターンにも発動できる。

コメント:デュエルピース第1号。デュエルピースというカードの種類(デュアルやチューナー、ユニオンと同列)に属し、ORUを持てるという形式にしている。効果は表守備相手にも打てる太陽の書。まあ、めちゃくちゃな効果ばっかり(予定)のデュエルピースの中では、おとなしい方。

■《デュエルナイト・セイバー》
エクシーズ・効果モンスター ★4/闇属性/魔法使い族 ATK:2500・DEF:2000
レベル4モンスター×2
[永]このカードが破壊される場合、代わりにORUを1つ取り除く事ができる。
[誘]このカードが戦闘で相手モンスターを破壊し墓地に送った時発動できる。破壊したモンスターをこのカードの下に重ねてORUとする。

コメント:本作の主人公カード。モデルはどこかの腹ペコ王?。やっていることはホープ剣スラッシュと同じ武闘派だが、ブラマジと同じ闇属性・魔法使い族である。戦闘破壊したモンスターの吸収はまだしも、ORUを消費する万能破壊耐性は、ホープ涙目。ほかのモンスター守れないし、一応ホープの完全上位互換ではないが。と思っていたらエクシーズ環境の加速から、今では「まあこれくらいいいかな」なスペックに。

■《決闘夜の序曲》(デュエルナイト・プレリュード)
通常魔法
 自分フィールド上に表側表示で存在するORUを持つことのできるモンスター1体を選択して発動する。選択したモンスターの攻撃力は、このターンの間1000ポイントアップする。また、選択したモンスターがこのターン、戦闘で相手モンスターを破壊し墓地に送った時、墓地のこのカードをゲームから除外して発動する。自分のデッキから「決闘夜」と名のつく魔法・罠カード1枚を手札に加える。「決闘夜の序曲」は1ターンに1枚のみ発動できる。

■《決闘夜の終曲》(デュエルナイト・フィナーレ)
通常魔法
 自分フィールド上に存在する元々のカードの種類がデュエルピースモンスターであるORUを1つ取り除いて発動する。自分フィールド上に表側表示で存在するモンスター・エクシーズ1体の攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。

コメント:2枚の魔法は一気に。都合上一気に4000削るためにでっち上げた魔法。「序曲」はこれから先、どのくらい「決闘夜」を登場させるか未定なので実力は未知数だが、1000パンプは展開上使いやすそう。「終曲」は完全なデュエルピースメタ。セイバーとコンボでフィニッシュするためのカードである。なお、《デュエルナイト・セイバー》のデュエルナイトも、「決闘騎士」ではなく「決闘夜」の意味。

 とまれ、またどこかで 
 

 
後書き
 Pixivで連載していますが、最近このサイトの存在を知ったので、試験的に投稿します。とりあえず、個人的に気に入っている4話までを試験投稿。もし感想等下さる方がいたら、こちらでも続けようかな・・・と思います。
 
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