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自由の灯り

作者:光龍牙
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第二十七話

 
前書き
冬初めの投稿です 

 
ディアは今、自分に焦燥感と憤りを抱いているのを感じていた。
だが、それは先程サンドファングに石化されたのが原因ではない。
本来、石化したら体の芯まで石と化してしまい、意識を失なってしまうとヴェントから借りた本で読んだことがある。しかし、どういうわけかディアの体は表面は石化してしまい指先をピクリとも動かすことはできないが、意識はかろうじて残っていたのである。
そして、ディアの焦燥感や憤りの原因はディアの視界に移るたった一人で二体のサンドファングトと攻防を繰り広げている桜色の髪でサイドをポニーテールで結んでいる少女、カノンノが原因だった。
カノンノは額に汗を滲ませながら、すんでの所でサンドファングの尾の刺突を回避して反撃を試みていたが、一対二では分が悪いのは明らか、徐々にカノンノとサンドファングの間合いが狭まっていく。
そして、問題はもう一つカノンノの疲労も少しずつ増していき、息が荒くなっているのがわかる。

「・・・!!」

サンドファングが鉄の強固を誇る尾でカノンノの襲う、かろうじて回避に成功するものの腹部辺りにかすり服が容易く引き裂かれる。
次いでもう一体のサンドファングが薙ぎ払いをするように尾を振ってくる。
先程の尾を回避したばかりなので、避けることは叶わずカノンノの愛剣、オータムリリィでその攻撃を防ぐがその小柄な体のどこにそのようなパワーがあるのか、サンドファングは思い切り尾を振りまわすとあまりの力にカノンノはそれに耐えきれずそのまま吹き飛ばされ、オアシスの木に肩を強打する。

「ぁぁあ!!」

――――カノンノ!

ディアは意識の中でそう叫ぶがディアの声はカノンノに届くはずもない。
カノンノは苦痛に顔を歪めながらもサンドファングと距離をとり数秒の間、息を整えた。

―――このままじゃカノンノが・・・!約束したのに、僕が・・・カノンノを護るって!!

どんどん自身への憤りが大きくなるのを感じ無理やり体を動かそうと力を込めるが、石化しているので全く意味がない。
それでも!っと再び力を込めようとした時、

「くあぁ!!」

っと、カノンノの悲鳴がカダイフ砂漠に響き渡り、ディアの意識は再び彼女に戻される。
視線を彼女に移すと、左腕を右手で抑えたカノンノの姿が見て取れた。
愛剣であるオータムリリィを砂漠の砂の上に落とし、左腕部分の服は破けていても無事な所は真っ赤に染まっていて、こちらまで痛みが伝わってくるようだった。
すぐ近くには爪が真っ赤になっているサンドファングがいる。
カノンノは急いで距離をとるため走り出すが、そのたびに顔を歪める。
腕からは留まることなくなく鮮血が溢れ出ており、ポタポタと地面に赤い液体が滴り落ちる。





◆ ◆ ◆ ◆ ◆




すぐにでも自身の腕を治癒術で治療させたいがサンドファングのせいでまともに詠唱を唱えることすらままならない。
だが、このまま戦っても腕を負傷した今じゃ大剣を振り回すことすらできない。

(せめてディアを元に戻すことができたなら・・・)

一瞬、石化したディアに視線を移しすぐにサンドファングたちに向き直る。
今のままじゃリカバーも唱えることはできない。
パナシーアボトルもディアが持っていたため一緒に石化してしまっているのでどうすることもできない。
何とか打開策を見つけようと思考を巡らせるが、考える時間も与えないとばかりに二体のサンドファングはカノンノに接近してくる。

(これ以上傷を負ったら本当に何もできなくなる。距離をとりながら考えるかしかないみたい)

走りながらカノンノはサンドファングたちと距離をとるのと打開策を見つけるため思考を巡らせながら二つの行動を一気に行っていた。
足を止めればそのまま串刺しにされる。けど考えなかったら体力が尽きてしまう。
そんな考えは頭の隅っこに押しやり、いくつもの考えを出す。

―――ファイアボールだけなら無詠唱で唱えられる、時間をかけて戦う?

(駄目。ここは砂漠だから暑さに強いサンドファングに効果は薄いし私の精神力も持たない)

―――イリアとクレスが来るまで逃げたりして時間を稼ぐ?

(これも駄目。二人がいつ来るかわからない以上、体力は温存しとかないと)

―――どこかに隠れてまず傷を癒す?

(これもできない。相手がディアに何かしたら・・・)

―――このまま一度逃げる?

(論外。ディアを置いていくなんて絶対できない。それに約束もしたもん私がディアを護るって)

ディアとのブラウニー坑道での会話を思い出し、ぶんぶんと首を振る。

(あの時、大好きなディアが私を護るから自分を護ってって言ったときすごく嬉しかった。ディアは私を大切に思ってくれてる。私はディアに必要とされてるって)

もしディアが同じ立場ならカノンノと同じことを思うだろう。
そしてカノンノを絶対に見捨てないし、約束も破らないとそう信じている。

(だから・・・考えないと!)

そこで一つの考えがカノンノの頭の中に浮かんだ。

「これなら、大丈夫。ディア、すぐに元に戻すから待ってて」

そう呟くとカノンノは足を止め、一瞬だけ赤い魔方陣を出現させると三つの炎の球を放つ魔術、ファイアボールを放つ。
だが、何を思ったのかカノンノはサンドファングにではなくサンドファングの足元の砂にファイアボールを命中させる。
そしてもう一度ファイアボールを放ち砂にぶつけるとファイアボールの爆風でサンドファングの辺りに砂煙を発生させる。これがカノンノの狙いだったのだ。
その煙のお陰でカノンノは完全に相手の死角に入り、すぐさまディアの元に駆け寄り治癒術の魔方陣を出現させる。

「上手く出来たよディア。待ってて、もうすぐだから」

遂に魔術の詠唱を終え、カノンノがリカバーを唱えようとした瞬間。
突然、腹部に何か違和感を感じた。
触られたでもないし風を受けたわけでもない、この痛みはそう、何かに噛まれたような・・・

「・・・っえ?」

その考えに至ると、カノンノは視線を自分の脇腹に移した。
目の前には自身の鋭き歯でカノンノに噛みついているサンドファングの姿があった。
噛まれた個所からは止めどなく血が溢れ出てきており、後からとてつもない激痛がカノンノを襲う。

「な・・んで、まだ煙が残っ・・・てて・・・・あぁぁぁ!!!」

サンドファングが顎の力を強めてきてさらに痛みが増しカノンノの言葉は途中で中断させられる。
だがカノンノの悲鳴はいつまでたっても中断されることはなかった・・・




◆ ◆ ◆ ◆ ◆




地面に膝をつきながら目の前で苦しんでいるカノンノを見ていることしかできない自分が堪らなく悔しかった。
手を伸ばせば触れることができるのに・・・助けることができるのに今は体を動かすことができない。
あの時のように・・・ブラウニー坑道での力が出せたら・・・
その考えに至った瞬間、ディアはハッと目を見開く。

―――そうだあの時の力だ、あの時みたいに恐怖を全く恐れなかったら・・・

ディアは一度瞼を閉じ、ブラウニー坑道での出来事を思い出す。

―――勇気は夢を叶える魔法・・・エミルから教わった最高の言葉、僕は恐怖を恐れない絶対に恐れない!

しかし、あの時のような力が溢れる感覚は全く訪れようとしない。
自身の苛立ちを必死で抑えながらもう一度ブラウニー坑道での記憶を掘り起こす。
だが、いくら記憶を思い出そうともディアには恐怖を恐れない以外の感情しか思い当らなかった。

―――なんで!もし場所が限定されててブラウニー坑道でしかできないとしたら・・・!!

そうなったらカノンノは助けられない。
ギリっと奥歯を噛み締めながらカノンノに視線を移す。
カノンノはサンドファングの噛みつきから解放されたものの、脇腹辺りの服は完全に真っ赤に染まってしまい、そこを両手で抑えながら息を荒くして横たわっていた。
とても動けそうにない。

だが、いくらカノンノが苦しもうとも魔物に情けはない。
そのまま止めを刺そうと尾をギラリと煌めかせながらサンドファングたちは自身の尾を振り上げる。

―――カノンノぉぉぉぉぉおお!!!

ディアが叫ぶもそんな声が魔物に聞こえるはずもなく、そのまま尾を振り下ろす。
・・・そこで、ディアは一つの感情がディアの思考を埋め尽くすのに気付いた。

―――カノンノを護りたい。大切な人を・・・この命に代えてもカノンノを護りたい!!

その想いに応えるようにディアの体の中をとてつもない力が満たすのを感じた。
突如、強風がカノンノとサンドファングたちを襲い、カノンノを尾で突き刺そうとしていたサンドファングたちは吹き飛ばされ、このまま自分も吹き飛ばされるのだろうと思ったが、誰かが自分の肩と足を優しく抱えてをお姫様だっこされているのに気付く。
カノンノの目の前には左目は黒色で右目はディアと同じ色、髪の色は黒色の少年がいた。
だが、カノンノはその少年を知っていた。
髪の色などは違うが雰囲気やカノンノに見せる穏やかな表情がディアそっくりだったからだ。

「そっか、恐怖を恐れないだけじゃなくて大切な人を護りたい想いがこの力を引き出してくれるんだ」
「ディ・・・ア?」
「カノンノ・・・君は僕が護る。僕の全てを懸けて」

そこにはいつもカノンノに微笑む時のディアの微笑みがあった。


続く



























 
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