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真・恋姫†無双 劉ヨウ伝

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第123話 十常侍誅殺 後編

 
前書き
今年もあと少し
ゼロ魔の二次も随分更新していないので更新しないとですね 

 
 宮廷——————

 「おい、董仲穎の軍は未だ来ぬのか?」
 「まだ来ておりません」

 近衛兵が宮廷の外の様子を窺いに去っていった。

 『何進を殺すと同時に董仲穎が洛陽に入城する手筈であったが未だ来ておらぬ。何進を失い何進派は浮き足立ち動かないと高をくくっていたら、賊が侵入してくるとは全くついていない。賊は何者か分からないが何進派であるまいな。くそ、涼州の田舎者など使い物にならんな!』

 張譲は歯ぎしりをしながら拳を握りしめ、顔を赤くして激怒していた。張譲は董卓と密約を交わしていた。董卓との密約は朝廷での出世を約束する変わりに何進亡き後の何進派の武力による粛正を一手に引き受けるというものだ。張譲は董卓を高く買っていた訳でない。黄巾の乱での戦果の芳しく無い董卓であるなら自分達でも御し安いと考え、自分達の身を守る番犬の役割を董卓に求めていた。そして、董卓を利用して朝廷内での宦官達による権力掌握を進めようと考えていたのだ。仮に董卓が使えずとも、士大夫層で占める何進派の粛正程度なら董卓でも出来ると考えていた。

 『董卓が駐屯している河内郡まで向うしかない。おのれ、この儂自ら足を運ばせるとは。何進派の粛正が終わったら涼州など及びもつかん辺境に送ってくれるわ』

 張譲は董卓への処分方法を考えながら董卓への怒りの溜飲を下げていた。



 「張譲様、賊の名がわかりました」

 近衛兵が息をあげながらかけてきた。

 「誰だ! さっさと言え!」
 「袁中軍校尉にございます」
 「なんだと。賊は袁本初か・・・・・・」

 張譲の表情が一気に血の気を失い狼狽するのが側にいる近衛兵にもわかった。張譲は暫し独り言を繰り返してたが、突如目玉が飛び出るほど目を見開いて駆け出した。その後を近衛兵も追う。

 「陛下の元にいかねば! こんな場所で死んでたまるか——————!」

 張譲は道すがら足を踏み外しこけたが、歩みを止めることなく、ひたすら目的地に向けて駆け続けた。その走る様は正気を失っているかのように髪を振り乱し、服装が乱れることなどお構いなしだった。後ろから追いかける近衛兵も張譲の変わり用に驚きながらも付いてきていた。

 「ぜえぜえ。ぜぇええ」

 張譲は息を荒げ肩で息をしながら宮廷の中でも一番豪奢な部屋の前で立ち止まった。

 「へへ陛下、ちょ張譲にございます。火急のよ要件がありまかり越してございます」

 張譲は息苦しいに耐え言葉を捻り出した。

 「はいれ」
 「失礼いたします」

 「宮廷内が騒がしいようだが何事だ?」
 「な? 陳留王、このような時間に陛下の部屋に何用で」

 張譲が部屋の中に入ると彼の想像していなかった人物の存在を目にした。

 「それはこちらの台詞だ。 私は宮廷内で人の悲鳴を聞いたので、陛下の元に参ったのだ」
 「張譲、この騒ぎなんなのだ?」
 「賊が宮廷を襲撃しております。つきましては直ぐに宮廷を離れたいと考えております」
 「都には禁軍がいるはず。それを直ぐに招集せい」
 「宮廷の奥まで賊が侵入しており、禁軍の到着を待っていられる事態ではありません」
 「しかし、皇帝が宮廷を離れるなど前代未聞。禁軍の到着を待つべきでないか?」

 劉弁は張譲の言葉に納得せず、決断を渋っていた。

 「近衛兵! 直ぐに集めれるだけの兵を集めよ。それと馬車は裏門に止め待機しておれ。陛下を連れ私も直ぐ行く」

 張譲は劉弁の態度を待たずして、側にいる近衛兵に命令を出した。近衛兵は張譲の命令を受けると下がっていた。

 「張譲、貴様! 陛下を無視して命令を出すとは何事じゃ。分を弁えよ」
 「賊に襲撃を受けているのです。陛下と陳留王は私と一緒に同道願います」

 劉協が凄い剣幕で張譲を睨みつけるが、張譲は何も気にせず陛下と陳留王に話をする。彼の表情は有無は言わさないという表情だった。

 「陳留王は陛下が賊の凶刃に倒れることをお望みか?」
 「そのようなことなどあるか!」
 「では、納得いただけますな」
 「陛下、ご面倒をおかいたしますがご容赦のほどを」
 「仕方ない。張譲任せる。協、お前の気持ちはよくわかっている。これ以上、張譲を困らせるな。こやつはこやつなりに朕のことを思って行動をしているのだ」

 張譲達が会話している間に近衛兵が十人来て、逃亡の準備が整ったことを伝えきた。張譲達は近衛兵の先導に従い都を立った。



 馬車の中の空気は険悪だった。劉協が終始張譲を睨みつけていたからだ。劉弁は、そんな妹を「困った妹だ」とという表情で見ていた。睨まれている張譲は全然気にしていない様子だった。険悪な空気の漂う中で口火を開いたのは劉協だった。

 「張譲、何処にいくのじゃ」
 「陳留王、向う先は私の知己の者の元です」

 陳留王と呼ばれた少女、劉協は張譲の顔を不信の表情で睨みつけた。張譲は、その感情を読み取ったのか話を続ける。

 「陳留王、ご安心ください。宮廷を去るは一時なもの。向う先には董仲穎がおりますれば、合流次第に都へ返し賊を討伐いたします」
 「信用できる者なのか?」

 劉弁が口を開く。彼は聞き慣れない者の名を聞き張譲に質問した。

 「董仲穎は黄巾の乱のおり持節・東中郎将を務めたものにございます。現在、河内郡に兵を駐屯していると聞いております。七日もあれば到着いたします」
 「七日だと? そのように時間がかかっては董仲穎の元にたどり着く前に賊の手に落ちるのでないか? そもそも本当に宮廷を襲撃した者達は賊なのか?」

 劉協は張譲を睨みつけた。彼女の言葉に張譲は一瞬眉を潜めたが直ぐに表情を戻し劉弁に説明を始めた。

 「陳留王、皇帝陛下の膝元である宮廷を襲撃する者を賊と評せずして何と評すのでございますか? 陛下、痴れ者の跋扈する宮廷より御身をお護りするため遠ざけるは臣の務めにございます。この張譲の言葉をお疑いであれば死を賜りたく存じます」
 「協、ここは張譲の言葉を信じよう。董仲穎の元に辿り着き次第、都に戻ればいい。母上のことは心配ではあるが致し方ない」

 劉弁はそういうと劉協の左肩にやさしく手をあて彼女を諭すように言った。劉協は劉弁の言葉に、それ以上何も言わなかった。だが、劉協は劉弁の言葉に納得できないようで、それ後も張譲へ疑心の目を向けていた。



 馬車はひたすら道無き道を走っていたが、いきなり止まった。

 「どうしたのだ。さっさと馬車を走らせろ」

 張譲は不機嫌そうに外にいる近衛兵に向けて命令する。

 「大軍に囲まれております」

 近衛兵が震える声で張譲に応えた。その声に異常を感じた張譲は緊張した表情になる。

 「どういうことだ?」
 「数の特定は難しいですが、確認できるだけで五千の騎兵が我らの周囲を囲んでいます」
 「五千!?」

 張譲は兵の数に卒倒しそうになった。しかし、張譲は恐る恐るに馬車の外を見るために格子の隙間から外を覗いた。劉弁も表情を強張らせながらも劉協を自分の側に呼び優しく守るように抱きしめた。

 「なな何じゃ・・・・・・、まさか袁本初の軍なのか・・・・・・。嫌、ありえん。彼奴の兵にしては数が多すぎる。劉正礼の兵なのか。嫌もっとありえん。今、奴は辺境の冀州におる。誰じゃ誰なのじゃ」

 張譲は狼狽しながら独り言をつぶやきはじめた。それに反応したのは劉協だった。

 「袁本初? 劉正礼? 賊とは袁本初なのか? 張譲、やはり陛下と私をたばかったな! 張譲、宮廷を襲撃した者の目的は貴様の首であろう」

 劉協は張譲を厳しい表情で睨みつけ責め立てた。

 「うるさい! 黙れ! この小娘が」

 張譲が追い込まれた獣ように凄い形相で劉弁と劉協を睨みつけた。その形相に二人は本能的に恐怖を感じ押し黙った。

 「こうしても埒が空かん。あの兵達を率いる者を確認せねば。少なくても統率の取れていることを見ると野党の類ではあるまい」

 張譲はブツブツと独り言をした後、馬車の中から外に向けて大声で叫んだ。

 「お前達は何者だ!」

 張譲は自分の素性を明かさずに相手の素性を知ろうとした。もし、袁本初や劉正礼の兵であれば自分は間違いなく殺されると思ったのだろう。彼はじっと相手の様子を窺う。彼の額に玉のような汗が滲み出て、瞬きを一切せず瞳を見開いていた。



 時待たずして馬に騎乗し三人が張譲の近くに進みでてくると、数百メートル程の距離で制止した。三人の出で立ちは中央に背丈の低い帽子を被った女の子、左にアホゲが特徴的で奉天牙戟を持った女の子、右にポニテールで胸をサラシで巻き手に槍を持っている一風変わった女の子がいた。

 「我らは元中郎将、董仲穎が家臣。賈文和」
 「同じく(れん)
 「同じく張文遠」

 「恋・・・・・・。まあいいわ」

 賈詡は恋に何か言いたい様子だったが何も言わなかった。

 「董仲穎!」

 張譲は「董仲穎」の言葉に反応し馬車の外に出てきた。

 「董仲穎の兵だったか。大義大義。宮廷が賊に襲われたのだ。お前達は直ぐに都の賊を討伐にしてくるのだ」
 『約束を破っておきながら馬上から返答とは何と偉そうな奴等だ。こいつらの顔は忘れぬぞ。董仲穎に無礼なこの三人を処刑させねばな』

 張譲は董仲穎の兵と分かった途端、傲慢な態度で賈詡に命令を出し、腹の中では三人の態度に怒りを滲ませていた。その態度に対して賈詡を冷酷な言葉を投げかけた。

 「張譲、陛下を拐かした大罪人を私が見逃すと思っているわけ? 霞、さっさと首を刎ねなさい」
 「貴様、儂を裏切るつもりか!? 朝廷に口利きしてやったことを忘れたのか。お前達のよう涼州人が誰のおかげで東中郎将になれたと思うのだ」

 張譲は賈詡の言葉に動揺した。狼狽しながらも必死に賈詡の考えを改めさせようと喚いた。賈詡は張譲の喚き声に苛立ちを覚えたのか額に青筋を浮かべた。

 「うっさいわね! 主・董仲穎はあんたを利用しただけ。あんたに利用価値が無くなったから消すだけ。ただ、それだけのことよ」

 賈詡は淡々と話した。

 「待て。官位が欲しいなら思いのままだぞ。望むを言ってみよ。金か? 欲しいだけくれてやる」

 張譲の言葉などお構いなしに賈詡は張遼に目で命令した。張遼は馬から槍を持ったまま飛び降り颯爽と着地する。

 「悪いな〜、おっちゃん、今までごっつい悪いことしてきたんやろ。ここらでちゃっちゃと死んどこうか」

 張遼は張譲に人の善さそうな笑みを浮かべ謝ると、表情を一遍させ殺意の篭った目で一睨みした。

 「待て待て、待て、許してくれ」

 張譲は張遼の一睨みで尻餅を着き体を強張らせながらも必死に逃げようとするが直ぐに張遼に背後を取られた。張遼は躊躇することなく張譲の首を刎ねた。

 「無様だわね。一時は権力を欲しいままにした人間の最後しては呆気ないわ」
 「賈クッチ、キッツイわ——————。そう思わんか、恋」
 「お腹減った」

 三人の会話は全然噛み合っていなかった。


 張譲が董卓軍に誅殺される数刻前に遡る。麗羽(袁紹)は宮廷で張譲を捜していたが、彼が劉弁と劉協を連れて逃げ出したことを知り、急ぎ鈴々(張飛)、猪々子(文醜)、斗詩(顔良)と選抜した騎兵五十を連れ張譲を追って都の外を河内郡の方向に向けて駆けていた。途中、馬車の走行後の痕跡を見つけた。その痕跡から、それほど時間が経っていないことを知った麗羽(袁紹)達は張譲に追いつくべく急いで馬を走らせた。麗羽(袁紹)が張譲の追跡に固執する理由は何進の仇以上に、生かしたまま逃がすことが自分達にとって危険と思ったからだ。最悪なことは皇帝・劉弁と、その妹・劉協を伴っている点。彼女は麗羽(袁紹)、ひいては彼女の夫・正宗(劉ヨウ)に逆賊の勅を出されることを一番に恐れ、自分の行いのせいで夫に類が及ぶことは絶対に避けなければと思っていた。馬を走らせて六刻が過ぎた頃、遠目に土煙を確認した。麗羽(袁紹)は馬を止め土煙の立つ方角をじっと見る。土煙の方角には人影は未だ確認できない。だが、その土煙は軍勢が集団でこちらに向っていることはわかった。土煙のみであるということは軍勢の数はかなりの数と見ていい。

 「嫌な予感がする。潮時のようですわね。皆さん、撤退します!」

 麗羽(袁紹)は舌打ちし、周囲の人間に命令を下す。

 「麗羽お姉ちゃん、悪者を懲らしめなくていいのか?」
 「鈴々さん、まずは桂花さんと合流します。話は都についてから説明します。急いで逃げますわよ」

 麗羽(袁紹)はそう言うと都に向けて馬を走らせた。

 「えっ、ちょっと姫待って」
 「麗羽様、待ってください。ええと、兵の皆さん、とりあえず急いで逃げましょう」
 「麗羽お姉ちゃん、待ってなのだ〜」

 先行する麗羽(袁紹)を皆急いで付いていく。麗羽(袁紹)が張譲に追いつくために歩兵でなく兵種を騎兵に絞り、更に精兵のみに絞ったことが功を奏し撤退は速やかに行なうことができた。



 洛陽某所——————

 麗羽(袁紹)は都に付くと桂花(荀彧)と合流するために自分の屋敷に向った。

 「麗羽お姉ちゃん、そろそろ説明して欲しいのだ!?」

 その道中に一番最初に口を開いたのは鈴々(張飛)だった。

 「鈴々さん、あの時の土煙から推察して大軍勢であることはわかりますわね?」

 麗羽(袁紹)は鈴々(張飛)を見た。鈴々(張飛)は頷く。

 「大軍が都の直ぐ近くにいて私達が把握できなかったこと事態おかしいですわ。軍勢の規模の詳細はわかりませんが、あの土煙からして相当な規模と見ていいです。途中、羽林軍の駐屯地があるのに素通りなんてできるわけがない。何者かが手引きしたと見ていいですわ。その場合、誰があの軍を洛陽に呼んだか。何進様は諸候に上洛を催促していましたが、まだ上洛する旨を出してきた諸候はいません。あれは何進様の招聘によって上洛する諸候ではないはず」
 「姫、張譲じゃないの!」

 猪々子(文醜)が元気な声で答えた。

 「ええ、張譲達宦官によるものでしょう。多分、張譲達は諸候の誰かと密約を交わし、何進様の暗殺を決行した。諸候は密約通り上洛したのでしょう。でも、腑に落ちないことがありますわ」
 「麗羽様、何がです?」

 斗詩(顔良)は麗羽(袁紹)に質問した。

 「もし、何進様の暗殺は綿密な計画を立てていたと思うのです。にも関わらず密約を交わした諸候は都の外で待機していた」
 「宦官達が血の気の多い何進派を一掃しようと思ったんじゃ」
 「おかしく思いません? 私達は張譲以外宦官達は皆殺しになりましたのよ。保身のために何進様を殺そうとした宦官達が自らを犠牲にして血の気の多い何進派を粛正する理由がありませんし、何進派の報復を警戒するなら、密約した諸候を直ぐに都に招き入れるべきですわ」

 「う〜ん、諸候が裏切ったのだ!」

 鈴々(張飛)は満面の笑みで答えた。

 「そう考えるのが自然ですわ。その諸候は鼻から張譲と手を組むつもりはなかったのでしょう。狙いは陛下の確保し朝廷での権力掌握と睨んでよいと思いますわ。ここにいたっては陛下を奪取する機会はありません。私達は速やかに冀州に下ります」

 麗羽(袁紹)は急に厳しい表情で話だした。



 麗羽(袁紹)の屋敷——————

 「麗羽様、お帰りなさいませ。替えのお召し物をご用意しております」
 「いえ、直ぐに出立いたしますわ。宮廷に向った兵達は全て帰還していますわね?」
 「はい、兵達は既に帰還しております。それより、何かございましたか?」
 
 桂花(荀彧)は麗羽(袁紹)の厳しい表情から何か問題が起こった感じたようだ。

 「張譲の手駒が、張譲を殺し都に向っています。手駒の率いる兵は大軍と見ていいですわ。直ぐにここを立ち去らなければ不味いことになります」

 桂花(荀彧)は麗羽(袁紹)の言葉に表情を変えた。

 「麗羽様、ご賢明な判断でした。わかりました既に準備は整っておりますので直ぐにでも屋敷を立ちましょう」
 「桂花(荀彧)さん、この屋敷には火を放ちなさい。家人の者には屋敷ある金目の物を全て分け与えて当分の生活に困らないように配慮してください。行き場所の無い者はしばし時をおいて冀州清河国を尋ねるよう指示なさい。正宗様が善きように取りはからってくださるはずですわ」
 「全て整っております。麗羽様であれば、そのようにご命じなると思っておりました」

 桂花(荀彧)は馬上の麗羽(袁紹)に拱手をし答えた。その言葉に麗羽(袁紹)を優しい笑みを浮かべ、瞳を閉じ黙考した後口を開いた。

 「わが子房なり」

 桂花(荀彧)は麗羽(袁紹)の言葉に一瞬驚いた表情をした。

 「もったいない、お言葉にございます」

 彼女は感動しているのか制止していたが主である麗羽(袁紹)に拱手して返事をした。

 「桂花さん、直ぐに出発しますわ」 
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