真・恋姫†無双 劉ヨウ伝
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第122話 十常侍誅殺 前編
前書き
久しぶりの更新やっとできました。
そろそろ董卓軍が洛陽に登場すると思います。
何進屋敷の門前——————
門前の掃除をするために出てきた屋敷の下男が奇妙なものに気づいた。それは白い布に包まれた何か。
「ひっ! ちち血っ!」
下男はその包みが気になり触れて固まる。包みの地面に面した部分が赤黒く汚れ濡れていた。彼は震える手で包みを開く。その瞬間、彼は言葉を失い真っ青な表情になった。
「あああ、ひぇえええええ」
下男は悲鳴を上げ腰を抜かした。その声を聞きつけて暫くすると屋敷の者達が門前に集まってきた。皆一様に包みの周りに集まる中、その中身を見るなり皆驚愕した。ある者は気絶し、ある者は腰を抜かし、ある者達は互いに抱き合い、ただただ包みの中身に驚愕していた。包みの中身は何進の生首、変わり果てた彼女の額には逆賊の二文字が刻まれていた。
麗羽(袁紹)屋敷——————
「麗羽(袁紹)様、桂花(荀彧)にございます」
就寝中の麗羽(袁紹)を呼ぶ声が扉越しに聞こえてくる。その声は緊迫した声だった。麗羽(袁紹)は自分を呼ぶ声に覚醒し眠そうな眼を擦りながら、寝床からゆっくりと起き上がる。
「このような早朝に何ですの」
「麗羽(袁紹)様、火急の要件にございます。入室してもよろしいでしょうか?」
「桂花(荀彧)さん? よろしくてよ」
桂花(荀彧)と名乗る女はそそくさと入室してきた。彼女の表情は緊迫と動揺が混在したような表情で余程の内容であることを直ぐに察することができた。麗羽の足下に駆け寄ると拱手をし両膝を着き他人に聞かれることを憚るように口を開いた。
「何進様が暗殺されました」
麗羽(袁紹)は桂花(荀彧)の報告に体を硬直させていた。
「どういうことですの!」
麗羽(袁紹)は一拍置き、桂花(荀彧)に掴み掛かり詰問した。
「麗羽(袁紹)様、落ち着いてください。 私も事態は把握しておりません。何進様の屋敷の家宰より急ぎ足を運んで欲しいと使者が参っております。取り急ぎ、お仕度をお願いいたします」
「わかりましたわ。直ぐ着替えますから、外に出ていなさい」
桂花(荀彧)が部屋の外に出るのを確認することなく、麗羽(袁紹)は着替えを始める。彼女は動揺していた。
『何進様が暗殺されるなんて・・・・・・』
『許せない!』
『許せない!』
『正宗様、あなたはこうなることを知っていましたの?』
麗羽(袁紹)は着替えをする手を一瞬休め何もない壁を哀しい表情で見つめる。
『いいえ。こうなることは未来を知らずとも考えられること。何進様の周囲に注意を払っておくべきでしたわ』
麗羽(袁紹)は頭を振った。
何進屋敷——————
麗羽(袁紹)、桂花(荀彧)、鈴々(張飛)、猪々子(文醜)、斗詩(文醜)は何進屋敷を訪問した。訪問するなり屋敷の一番奥の部屋に案内された。そこで変わり果てた何進と対面することになった。何進の生首は箱に安置され、麗羽(袁紹)は臆することなく箱に近づいた。箱の中身を見た麗羽は体勢を崩した。
「か、か何進様、おいたわしや」
麗羽(袁紹)は何進の変わり果てた姿を目の前にして震えている。彼女の独白は力無く最後は消え入りそうな声だった。彼女は何進と公私ともに交遊があったこともあり突然の彼女の悲惨な死はショックだったようだ。
「麗羽(袁紹)様!」
猫耳フードを被った若い女、桂花(荀彧)は麗羽(袁紹)の直ぐ後ろにかけよると膝を着き声を掛けた。しかし、麗羽(袁紹)には彼女の声が聞こえないように全く反応しない。麗羽は嗚咽を零し涙していた。
「麗羽(袁紹)様! 何進様の死にお嘆きとのことと存じますが、事態は急を要します。直ぐに劉将軍に早馬を出され、我らも準備が整い次第、冀州へ都落ちをいたしましょう」
麗羽(袁紹)が反応しない様子を見るや桂花(荀彧)は麗羽(袁紹)に再び声を掛けた。桂花(荀彧)の表情は緊張している様子だった。彼女にとっても何進の急死は衝撃だったが、それ以上に今後起こるであろう都の混乱を懸念していた。彼女は臣下として主の身を守るため急ぎ都落ちしたいと考えているようだった。
「桂花(荀彧)さん」
「は、はい!」
桂花(荀彧)は驚いた。先ほどまで呆然と突っ伏していた麗羽(袁紹)が幽鬼のように立ち上がり、桂花(荀彧)を見下ろす姿勢で口を開いた。
「何進様を亡き者にした者は何者ですの」
麗羽は家宰を厳しい表情で睨みつける。
「袁中軍校尉、申し訳ございません。犯人は未だ分かっておりません。ただ、日の出ぬ早朝に宮廷より何皇后の使いと名乗る者が参りまして、何進様は少数の供回りを連れ出かけられました」
「何皇后がどうして、そのような刻限に使者を使わしたのです?」
「麗羽様、何皇后が直接使者を出していようといまいと背後には張譲がいることは間違いありません。急ごしらえの偽物の使者であれば、何進様が騙されるはずがございません。ですが、宮廷の万事に通ず宦官ならば、いかようにも事を成すは易きと存じます」
桂花(荀彧)は麗羽と家宰の会話に割り込んできた。麗羽(袁紹)の厳しい表情は一段と険しいものに変わった。
「桂花さん、張譲が関わっていることは間違いないのですね?」
「はい。何進様に露見しない偽物の使者を用意することが可能な者は限られます。何皇后の身辺に控える者、もしくは近しい者です。であれば限られます。何皇后の侍女が何進様を害す利はありません。あるとすれば、侍女でなく宦官だと思われます。何進様、地方の諸候に招集をかけ宦官を粛正しようと行動されていました。身の危険を感じた張譲を初めてとした宦官達が何進様を亡き者としようと考えること自明の理です。その前例はあります」
「党個の禁ですわね」
麗羽の言葉に桂花(荀彧)は軽く頷く。麗羽は険しい表情を崩さず腕を組み考え込み出した。
「宦官である証拠はありませんわ」
「はい。ですが宮中の者が関わってることは確かです。何進様が死んで得するのは宦官のみです。このことが洛中に広まれば、何進派は浮き足立ち、そこを宦官派に突かれます。この状態を収集できる者は現在都におりません」
「そうですわね。私達は狼に狩られる羊と言ったところかしら。頭を潰されては虎も動けませんわね」
「麗羽様、我らは窮地に立っております。何進様の額には逆賊の文字を刻んでおります。これは我らへの警告を通り越し、宣戦布告です。張譲は我らを逆賊として誅殺する腹づもりなのでしょう。張譲の息のかかった諸候が都に雪崩込んでくる可能性が高いです。だからこそ我らは直ぐに都落ちをするべきです」
桂花(荀彧)は語気を強め麗羽を説得するが、麗羽は都落ちを決断しようとしなかった。
「袁家の私兵を集めれるだけ集めなさい」
麗羽(袁紹)は凍り付くような声で桂花(荀彧)に命令を出した。
「は? そのようなことをしている場合ではありません。今は都を去るべきです」
桂花(荀彧)は麗羽(袁紹)の態度に怯むことなく、彼女に反論する。
「おだまりなさい! 何進様のあのような姿を目にして、おめおめと都落ちなどできる訳がありません。張譲、いえ宦官どもを一人残らず皆殺しにしなければ気がすみませんわ!」
麗羽(袁紹)の瞳は憎悪の炎満ち、仇を睨みつけるように宮廷のある方角を睨んだ。
「お気持ちはわかります。ここ今に至っては一先ず都と距離を置くしかありません。我らでは禁軍を掌握する術がないのです。ここは辛抱ください」
桂花は麗羽(袁紹)の考えを改めさせようと必死に説得した。だが、麗羽(袁紹)は桂花(荀彧)の言葉に耳を貸すつもりがないようだった。
「桂花(荀彧)、麗羽(袁紹)お姉ちゃんの好きにさせて欲しいのだ」
「鈴々(張飛)、何を言っているの。事態は急を要するのよ。私達だけでなく、麗羽様も粛正の対象に入る可能性もあるのよ」
「そう決まった訳じゃないんだろ。姫が望むようにさせてやりたい」
「桂花さん(荀彧)、麗羽(袁紹)様のお気の済むままでにさせてあげてください。お願いします」
桂花(荀彧)は麗羽(袁紹)を擁護する鈴々(張飛)、猪々子(文醜)、斗詩(顔良)の表情を順に見ると深いため息をついた。
「本気なの? わかったわ」
桂花(荀彧)は腹を括ったのか溜息をつくも麗羽(袁紹)に向き直る。
「麗羽(袁紹)様、宦官を誅されるというなら、もうお止めいたしません。ですが、お約束いただきたいことがございます」
「何です」
「劉将軍に何進様暗殺の件をお知らせするために早馬をお出しください。宦官を誅した後は速やかに冀州へ落ちましょう」
「わかりました。桂花(荀彧)さん、後は任せますわ。それと、ごめんなさい。鈴々(張飛)、猪々子(文醜)さん、斗詩(顔良)さん、私についてきなさい!」
麗羽(袁紹)は心乱れているようだったが、哀しい表情で桂花に詫びをひとこと言い、桂花(荀彧)の言を聞き入れた。
「いえ。出過ぎたことを申しました」
「桂花(荀彧)さん、気にしなくてもよくてよ。私もまだまだですわね。都落ちの準備をお願いします」
麗羽(袁紹)は自嘲するように桂花(荀彧)に言った。は自嘲するように桂花に言った。
「いいえ、麗羽(袁紹)様のお気持ちはお察しします。後事は全て私にお任せください」
「桂花(荀彧)さん、腕に巻けるような赤い布を私達と兵数分用意してくださるかしら?」
「赤い布ですか? 何に使用されるのでしょうか?」
「敵か見方の区別をつけるために使用するのです」
「心得ました。直ぐに用意いたします」
二刻も経たない内に屋敷より五十名程の武装した兵を引き連れた麗羽(袁紹)達が宮廷に向け出立した。
宮廷門前——————
「何事です。ぐわっ!」
麗羽(袁紹)は宮廷の守衛をなで切りにする。残った守衛は鈴々(張飛)達や兵によって斬り殺された。
「皆さん、腕に赤い布をお巻きなさい! これを巻いていない者は敵と看做し容赦なく殺しなさい。一人として宮中の外に出してはなりません」
連れてきた兵達に向き直り凛々しい表情で言った。
「大義は我らに有り! 何大将軍を卑劣な手で暗殺せしめた奸賊共を一人残らず誅殺するのです! 皆の者! 目指すは張譲の首ぞ——————!」
麗羽(袁紹)が剣を天に向け叫ぶとともに兵達はけたたましい声を上げ、宮廷に雪崩込んで行った。
宮廷のそこかしこから悲鳴が聞こえてくる。麗羽(袁紹)達により殺される人々の声だろう。麗羽(袁紹)の兵達は宮廷内を動くモノというモノを斬り殺していった。宦官が女装して逃げるとも限らないため兵達は男女の区別なく斬り殺した。宮廷に詰める兵達は麗羽(袁紹)達の急襲に浮き足立ち、麗羽(袁紹)達に次々に討ち取られていく。
「張譲を探しなさい! 宦官を生かして宮廷の外に出してはなりません!」
麗羽(袁紹)は宮廷内で兵達に檄を飛ばし続けていた。
「袁中軍校尉! 気でも触れられたか!」
宮廷の衛兵が麗羽に斬り掛かってきた。麗羽は難なく衛兵の剣を受け止め返り討ちにし、衛兵の喉元に剣を突きつけた。
「あなたは張譲の居場所を知っていますの?」
衛兵が何も言わず沈黙した。麗羽は衛兵の腕に剣を突き刺すと痛みで絶叫した。
「袁中軍校尉、お助けください。私は何も知りません」
「そうですか」
麗羽は短く答えると衛兵の首に剣を突き立て絶命させた。彼女は衛兵から剣を引き抜くと血を払い宮廷の奥えと足を進めた。
「袁紹様! 趙忠、孫璋、畢嵐、栗嵩の四人を討ち取りましたぞ!」
血糊に汚れた麗羽の兵が伝令として報告にきた。
「ご苦労! 残りの十常侍も必ず殺しなさい。生かして逃がしては禍根を残します」
兵は麗羽の言葉を聞くと駆け足で去って行った。
宮廷内——————
張譲は自分の部屋にいたが、宮廷内に悲鳴が聞こえ始めると何事かと部屋の外から出てきた。すると一番最初に宮廷内を衛兵が統率なく走り回っている姿が目に入った。
「何ごとぞ!」
張譲は甲高い声で走り回る衛兵を止めた。衛兵は彼の声に驚き一瞬制止すると彼の方に駆け寄り背筋を伸ばし立った。
「賊が宮廷内に入り込み見境無く人を殺しております!」
「何じゃと! 賊とは何者だ!」
張譲は衛兵に掴みかかり怒声を浴びせた。
「はぁ、未だ何者かわかっておりません。賊は性別に関係なく殺戮を繰り返しております」
「何者だ。このような大それた真似をしてただではすまんぞ」
張譲は言葉と裏腹に狼狽えていた。彼の額には薄らと汗がかいていた。
「皇帝陛下と陳留王(劉協)はご無事か!? 段珪は何処におる?」
張譲は突然に狼狽えながら衛兵に言った。
「お姿は確認しておりませんが、敵は内裏へ侵入しておりませので御無事と思います」
「何を言っておる! 私の護衛をして陛下の元へ案内せよ! お前の他に衛兵は居らんのか! もっと人を集めい、儂に何かあらば只ではすまさんぞ!」
張譲は目を剥き出しにし衛兵に掴みかかり怒鳴りつけた。衛兵は張譲の剣幕に気圧され道案内をすることになった。
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