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インフィニット・ストラトスの世界にうまれて

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変態と紳士の境界線 その一

目を覚ますと、今の時刻は解らなかったが、室内の中はだいぶ明るかった。
見覚えのない天井を眺めながら、ここはどこなのかと考える。
だが、すぐに思い出した。
そうだ、IS学園一年生全員で臨海学校に来ているんだったな。
そんでもって、宿泊しているのは花月荘という旅館で、今俺のいる場所は、山田先生にあてがわれた教員用の部屋。
山田先生は特に言わなかったが、俺は女子生徒対策として、この部屋に寝泊まりしているんだろう。
一日目は、旅館に着くと自由時間だったため、荷物を部屋に置いた俺は、日が高いうちは海で皆とビーチバレーやらをして遊び、夜は大宴会場で食事をした後、篠ノ之束に襲撃されたりとなかなか忙しい一日だった。
部屋に戻った俺は、風呂から出ると髪を乾かし、多少の疲れもあってすぐに布団に入ったはずだ。

見れば、俺の身体の上には夏だというのに季節はずれと感じるような、空気をたっぷりと含んだふかふかの布団が乗っかっている。
昨日、寝る時、掛け布団なんて使った記憶なんてない。
吸湿性の高そうなタオル地の物を掛けて寝ただけだ。
山田先生が親切心から俺に布団を掛けてでもくれたんだろうか。
視線を動かすと、なぜか服を着たままへたり込むように寝ている山田先生は、俺の布団を枕に寝息を立てている。
何で山田先生はこんなところで寝ているんだ? 夏だからって油断すると風邪を引くのに。
そう思いながら室内を見渡したが山田先生の布団が見当たらない。
なにかがおかしくないか? 昨日は確か二組の布団が敷いてあったはずだと思っていると、今まで気づかなかったが、視界の中に妙な物が映っているのに気づく。
妙な物。
それは俺の右側、布団の中から飛び出している。
飛び出しているのは一本の透明なチューブのように見え、空中へと続いていた。
それがなんなのか気になり、その透明なチューブがどこに続いているのか視線でたどる。
すると銀色の器具に吊されたなにかがそこにある。
俺の目には、それは医療用の点滴に見えた。
何かの液体が一定のリズムを刻み、ぽとり、ぽとりと滴るように落ちている。
俺は上半身を起こそうとしたが、全身に痛みが走り、その苦痛に顔は歪む。
無理に身体を起こすのは諦め手で布団をめくると、その透明なチューブは俺の右腕に繋がっていた。
怪我をしているのか、身体にはガーゼがテープで止めてある箇所や包帯が包帯が巻かれている箇所がいくつか見て取れる。
自分で言うのもなんだが、実に痛々しい姿だ。
何でこんなことになっているんだという疑問が頭に浮かぶ。
俺は頭の中にある臨海学校に来てからの記憶をたぐり寄せる。
しばらく時間がかかったが、ようやく思い出した。

「ああ、そう言えば『福音』戦で撃墜されたんだっけ」

そんな言葉が俺の口から漏れた。
あの『福音』戦から、一体どれくらいの時間が経っているんだろうな。
俺は臨海学校二日目に起こった出来事を思い返した。

臨海学校二日目の朝。
夢幻の世界からようやく戻ってきた俺は、顔がなにかとても柔らかい物に圧し包まれているのを感じていた。
山田先生がそばで寝ているからだろう、女性特有の甘い香りが鼻腔をくすぐり、まだ半ボケ状態の俺の脳ミソを刺激する。
起きたばかりでうすらぼんやりとしている俺の頭は、顔の前になにがあるのか理解できず、俺はそれが何なのかを確かめるべく手を伸ばした。
ぽよん。
こんな音が似合いそうな感触だ。
俺の手のひらでは今まで感じたことのない感触に、もう一度確かめるように触れてみる。
うん、何ともいえない柔らかさだな。
なぜかは知らないが、触れていると幸せを感じる俺だったが、このままいつまでも触れている訳にもいかず、とりあえず顔をそのなにかから離し、目の前にあるものを確認した。
そこにあったもの。
それは、山田先生の超ド級のお胸さまだった。
『超ド級』とは戦艦ドレッドノートを超えるという意味ではなく、とあるイギリス女性のドロシーから取ったもので、その女性もまたお胸さまが大きかった。
山田先生はそれをも超えているということである。
俺は寝ていた布団の上で慌てて上半身を起こす。
山田先生が昨日離したはずの二組の布団はなぜか見事にくっついていた。
謀ったな! 山田先生。
今の状況から判断すると、俺は自分の布団には寝ておらず、どうやら今回は俺が山田先生の布団に寝返りを打って侵入したらしい。
その上、知らず知らずのうちに山田先生の超ド級のお胸さまに、顔を突っ込んで寝ていたようだ。
やけにいい夢が見られた訳だ。
これから一万字ほど、山田先生のお胸さまの感触を事実と妄想を交えつつ、赤裸々に語りたいところではあるが、そんなことをやっている場合ではないだろう。
見れば、山田先生の顔は朱に染まり、目を伏せていた。

「あのぅ、ベインズくん。ちょっと大胆過ぎます。寝ている女性の、その……身体を触れるというのはどうなんでしょう。せめて、相手が起きているときに訊いてからの方がいいですよ」

訊けばいいのかとツッコむ余裕など俺にはなかった。
頭をうなだれ、両手を床につけ、絶望に打ち拉がれていた。
これではまるで、欲望に負けた俺が、山田先生が寝ている隙を狙い悪戯をしたみたいに思われるじゃないか。
だが今回は、どんな理由があるにせよ俺が悪いだろう。

「すみませんでした、山田先生」
慌てて正座をすると頭を下げる。
そして一応イイワケをしてみた。

「今回のことは、事故です。不可抗力ってやつです。起きると目の前に何かがあった訳です。それでですね――」

憂いを帯びた目で俺を見つめる山田先生は、言葉を途中で制すると、

「ベインズくん、いいんですよ。その、年頃の男の子が女性の身体に興味を持つのは当たり前ですから……今度触りたくなったら、い――」

突然、部屋のドアが乱暴に開かれる。
見ればそこには仁王立ちした織斑先生がいた。

「一体何を騒いでいるんですか、山田君!」

「ひっ」

ドアが乱暴に開かれた音と織斑先生の声に、山田先生は驚きのあまり身体をビクリとさせ、短く悲鳴を上げる。
そして、ギギギと油の切れたような動きで頭を回し織斑先生を見た。
織斑先生は俺の布団と山田先生の布団が、仲良くくっついているというあってはならない事実が目の前にあることを理解したのだろう。

「昨日、あれ程忠告をしたのに、これはどういうことですか」

「お、織斑先生。これはですね、ベインズくんに……ちょっとした悪戯を――」

「山田君、話がある」

織斑先生は大股でドドドと畳を踏み鳴らし部屋に侵入して来ると、山田先生に近づいたかと思うと首根っ子をむんずと引っ掴む。
布団の中の山田先生はまだ浴衣姿だったが、織斑先生に襟首を捕まれ無理矢理布団から引っ張り出されると、ずるずると引きずられて部屋の外に連れていかれた。
引きずられていく山田先生は、浴衣が着崩れ、あられもない姿になっていたが、そんなことはお構いなしだ。
俺は織斑先生の中に鬼を見た気がした。
廊下からはこんな声が聞こえてくる。

「お、織斑先生、ごめんなさ~い」

「おわっ、千冬姉。なんで山田先生がそんなことになってんだ?」

「何度言えば解る。織斑先生と呼べと言ってるだろう。馬鹿者!」

「すいません、織斑先生」

「織斑。お前はしばらくの間、ベインズのところにでも居ろ。私が呼びに行くまで部屋には戻ってくるなよ? いいな。解ったら返事をしろ」

「わかりました」

俺の部屋にやって来た一夏が、なんでこんなことになっているのかを、ねほりはほり尋ねてきたのは言うまでもない。
それから、山田先生がこれから行くであろう織斑先生の部屋で、どんな試練が待ち受けているかは知らないが、無事に生還できるとこを祈るとしよう。

今日は午前中から夜はまで丸一日、ISの各種装備の試験データ取りだ。
専用機持ちは大量の装備が待っている。
だか問題はそこではない。
では、なにが問題なのかというと、昼近くに起こるであろう『福音』戦だろう。

専用機持ちたちは一団を作り、旅館から集合場所へと向かっている。
その途中、俺は篠ノ之に声をかけられた。

「ベインズ、話がある」

篠ノ之箒。
一夏のファースト幼なじみ。
長い黒髪をポニーテールにしている。
この髪型にしているのは一夏が褒めたからなんだよな。
一夏とは小学生の時、同じ剣道道場に通っていたが、姉である篠ノ之束がISを開発した関係で、小学四年生の時に重要人物保護プログラムで離れ離れになった。
篠ノ之束が失踪してからは、過度な監視やら取調べと色々あったらしく、そのストレスからちょっとやんちゃな性格になってしまったらしい。
姉妹仲もあまり良くないのかもしれない。
剣道の腕はなかなかの物で、中学三年生のときに剣道の全国大会で優勝している。

「なにか御用ですか? 篠ノ之さん」

「どうしてお前は、私と話すときだけそんなによそよそしいんだ? セシリアやシャルロット、それに他の人間とは普通に話しているだろう。一夏から聞いたが、お前は私のことが苦手だそうだな」

そうなんだよなあ。
篠ノ之の口調のせいもあるんだろうが、どうも前世の記憶から、常に木刀やら竹刀を振り回している暴力女子のイメージがあって近寄り難く、苦手としていた。
マンガやアニメなら個性の一つなんだろうが、リアルとなると話は別だろう。
一夏にそのまま話した訳ではないが、篠ノ之は苦手だくらいは言ったかもしれない。
それを何かの機会に篠ノ之本人に話したんだろう。

「そんなことないですよ、篠ノ之さん」

「そんなに私のことが嫌いか? 嫌いなのか」

篠ノ之は俺の両目をしっかりと見つめ、詰め寄ってくる。
口は開いたがいいが言葉が出ない。
開いた口を一旦閉じた俺は、どう答えたらいいものかと悩み始める。
そして思いついた言葉がこれだった。

「す」

「す? って何だ?」

「好きです」

人間関係を円滑に進めるためには白だと思っていても、黒だと言わねばならない時があるだろうと思ってこう言ったんだが……世界の悪意が見えるようだよ、父さん、母さん。

「へえ、アーサーって箒みたいのが好みなわけ? てっきり年上の女性にしか興味ないのかと思ってたのに」

と鈴。

「うん。噂じゃ、みんなそう言ってるよね」

とシャルロット。

「何だ。苦手なんじゃなくて、好きだから声掛けられなかったのか」

と一夏。

「あら、アーサーさん。意外とウブなんですわね。まるで小さなお子さんみたいですわ。ふふふ」

とセシリア。

「軟弱者め」

とボーデヴィヒ。

「私の事が、す、すきなのか。そうか、そうなのか。それで話しかけ辛かったのか。それならば、仕方がないな。許してやるとしよう」

と篠ノ之。
篠ノ之の機嫌は直ったようだが、あれ? 何だろうな、この状況は。
話が変な方向に進んでいる気がするぞ。
これじゃあまるで、俺が一夏を好きな相手に対して横恋慕しているみたいじゃあないか? そう言えば、ギャルゲーとかで主人公の友人が横恋慕する設定なんてありそうだもんな。
ああ、なるほどなって、おい! 人を勝手にそんなキャラ設定にするんじゃない。
ところで、そこの一夏と女子五人。
なんで人の話を脳内にある恋愛回路にぶち込んで、その上フィルターまでかけるんだ? 例えは悪いが、牛肉を好きだからってウシと付き合いたいとは言わないだろうが。
恋愛が絡まない好きってのもあるだろう? 何でもかんでも恋愛と関連付けるのはやめてくれ。

「よかったな、アーサー。これからは箒とも普通に話せるじゃないか」

「あ、ああ」

一夏は篠ノ之が本命だと思っていたんだが違うのか? 女子の気持ちだけじゃなく、自分の気持ちにまで解らないなんてな。
ほんと恋愛事情に関しては鈍感なんだろうな。


「ところで、アーサー。お前のことで気になってることがあるんだけどさ」

こう話を切り出してきたのは一夏だ。

「何だ? 気になることって」

「アーサーってほんとにイギリス人なのか? セシリアみたいに金髪だし眼も蒼いし見た目は確かに欧米人なんだけど……何か違和感があるっていうかさ――」

意外と鋭いな、一夏。
この鋭さが自分の恋愛事情に生かされないのはなんでだろうな。

「普段良く日本食を食べてるのを見るし、牛丼食いてーとか言ってるから、最初は日本食が好きなだけかと思ったんだけど、昨日の大広間で飯食ってるのを見てると、箸の使い方が上手過ぎる気がするんだよな。セシリアなんか関心してたぞ。シャルロットなんて、あれはどう見ても中身は日本人だよねって言ってたしな」

恐るべし、シャルロット。
本気で言っているとは思えないが、それでも正鵠を射ている。

「そりゃあ、イギリスにだって日本食のレストランくらいあるんだろうけどさ、アーサー見てると食べ慣れてるっていうより、身体に染み付いてるって感じなんだよな。アーサーって鈴みたい日本に住んでたことでもあるのか?」

「ん? ないぞ。生まれてこの方、旅行を含めても日本に来たことはないぞ」

と言った後、文末にこの世界ではなと心の中で付け足していた。

「だよなあ」

こんな会話を一夏としつつ、俺は集合場所に到着した。 
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