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インフィニット・ストラトスの世界にうまれて

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変態と紳士の境界線 その二

三方を崖で囲まれた集合場所に俺たち専用機持ちと織斑先生が集まっていた。
現時点で、日本の代表候補生であるIS学園生徒会会長の妹は、専用機を完成させていないのでこの場には来ていない。
確か、水色の髪をした娘だから、目立って見つけやすいだろうと思ったが、意外と会わないもので、臨海学校でもまだ見ることができていない。
学園にいるときに見ればいいじゃないか? というかもしれないが、所属している四組にわざわざ見に行って、さっきみたいな変なフラグを立てるのはマズイだろう。
偶然どこかで会えるのを期待しているんだが……なかなか上手くはいかないものだな。

この後に起こったイベントは、篠ノ之束の登場と篠ノ之箒の専用機である『紅椿』のお披露目だ。
篠ノ之箒の専用機である『紅椿』。
全スペックが現行ISを上回るとされる篠ノ之束お手製の第四世代型IS。
現段階でもっとも最新鋭にして最高性能を誇る。
各国でやっと第三世代型の試験機が出来た段階で、一世代を飛び越えた第四世代型。
スゴいことなんだろうが、俺にはピンとこない。
ISが存在しない世界から来た俺にとっては、ISの存在自体がスゴいことだからな。
このISは、近接戦闘メインの万能型らしく、おまけに支援装備もついてくる。
流石は篠ノ之束のお手製だな。
至れり尽くせりだ。

フィッティングとパーソナライズを終えた篠ノ之箒は、試運転のためにふわりと浮かぶと、砂塵を残し空へと上昇していく。
もの凄い勢いで『紅椿』は小さくなっていく。
流石は第四世代型といったところだろうか。
性能の違いをまざまざと見せつけてくれた。
空中に静止した『紅椿』は武器である二本の刀、右の『雨月』と左の『空裂』を取り出す。
右手に握られた『雨月』を横薙に振るうと、赤い光の矢が飛んだかと思うと、飛んだ先にあった雲を切り裂いた。
左手で握られた『空裂』で一薙すると、赤い帯状のレーザーが『紅椿』めがけて飛んでいく篠ノ之束か打ち出した十六本のミサイルに襲いかかり全弾撃墜していた。
地上では、『紅椿』を見上げ満足そうにわらう篠ノ之束。
その姿を見る織斑先生の表情は曇っていたというより、何かを考えている、そんな表情だった。

「た、大変です!」

俺はその声が聞こえた方を見た。
こっちに向かって来るのは山田先生。
かなり慌てているようだ。
息を切らしてやってきた山田先生は、一度息を整えてから自分の持ってきた情報端末を織斑先生に手渡した。
情報端末に映る内容を確認した織斑先生は、厳しい表情になる。

「特務任務レベルA。現時刻より対策を始められたし……」

情報端末に表示されていると思われる文章を読んだ後、

「テスト稼働は中止だ。お前たちにやってもらいたいことがある」

俺たちを見てそう言った。
『福音』戦の始まりである。

旅館の一番奥、宴会用の大座敷・風花の間に設けれた特殊任務用の対策室に、俺たちは場所を移した。
部屋の照明は落とされ薄暗い。
その部屋の中で、空中投影モニタと何台かのパソコンが光を放っている。
畳の上にも四畳ほどはありそうな、俺たちのいる地域を中心とした戦術用マップが畳の上に浮かぶように投影されていた。
この部屋にいるのは、織斑先生と山田先生。
それに他三名の先生と専用機持ちのメンツだ。
一夏、俺、鈴、セシリア、篠ノ之、シャルロット、ボーデヴィヒの順で反時計回りで戦術用マップを囲むように座っていた。
織斑先生は俺たちの顔をひとしきり眺めると、話を聞く準備が整ったと判断したのか話し始める。

「二時間前、ハワイ沖で試験稼働にあったアメリカ・イスラエル共同開発の第三世代型IS、シルバリオ・ゴスペル、通称『福音』が制御下を離れて暴走。監視空域を離脱したと連絡があった。情報によると無人のISということだ」

え? 『福音』が無人機? ということは、アニメ準拠か。
そう言えば、原作では集合場所に一緒に居たはずの山田先生がいなかったな。
あれはてっきり、朝のことが原因で集合場所に居ないのかと思ったが、そうか……違ったんだな。

「その後、衛星の追跡の結果、『福音』はここから二キロ先の空域を通過することが解った。時間にして五十分後。学園上層部からの通達により、我々がこの事態に対処することになった。教員は学園の訓練機を使用して空域及び海域の封鎖を行う。よって本作戦の要は専用機持ちに担当してもらう。これから作戦会議を行うが、意見をがある者は挙手をしろ」

さっそく手を上げたのはセシリアで、『福音』の詳細なスペックデータを要求していた。
織斑先生は了承の意味を込めて頷くと、

「だが、決して口外するな。情報が漏洩した場合、諸君等には査問委員会による裁判と最低でも二年の監視がつけられる」

そう警告をした
空中モニタに『福音』のスペックデータが表示去れると、それぞれの意見を話し始めた。
セシリアは広域殲滅を目的とした特殊射撃型で自分と同じオールレンジ攻撃を行えると言っていたし、鈴は攻撃と機動の両方に特化した機体で厄介だとか、シャルロットはこの特殊武器が曲者って感じはするだとか、ボーデヴィッヒはデータ上では格闘性能が未知数だから偵察は行えないのかと織斑先生に聞いていたが、ボーデヴィッヒの言葉を否定した。

「それは無理だな。この機体は現在も超音速飛行を続けている。アプローチは一回が限界だろう」

見ていた空中投影モニタから目を離した山田先生は織斑先生を見ると、

「一回切りのチャンス――と言うことはやはり、一撃必殺の攻撃力を持った機体で当たるしかありませんね」

と真剣な顔で話す。
ここまでは知識通りの展開だ。
どうせ篠ノ之束の目的は一夏なんだから、距離だろうが、時間だろうが、関係ないだろうと考え、ここで俺は手を上げた。

「何だ、ベインズ」

「俺が先行して『福音』の足を止めます」

「今、山田先生が言ったはずだ。アプローチは一回が限界だと」

「今から五十分後に、しかも二キロ先って言うなら、これからすぐに出発すれば余裕で『福音』の頭を押さえられるでしょう。紅茶を楽しむ時間すらあるかもしれません。俺が『福音』に対して攻撃することで、多少なりともデータ上ではなく、リアルに攻撃特性が解るはずですし、俺の後から来た人間が、そのデータを元に攻撃を加えれば作戦の成功率は上がるはずです」

織斑先生は数秒考えた後、こう話し出す。

「お前の考えは解った。だが、足止めを一人でやるつもりか?」

「他の専用機持ちは追加装備の関係で準備に時間がかかるでしょう? 俺にはそんなものありませんから、今からだって行けます」

織斑先生は難しい顔をしながら少し悩むような素振りを見せてから、

「そこまで言うならやってみろ。ただし、足止めをするだけだ。それ以上のことは考えるな、いいな。後発については、なるべく早く出してやる」

「了解です」

俺はおもむろに立ち上がると、一夏たちに行ってくると挨拶をして部屋を出る。
部屋を出て、ふすまを閉めようとした時、山田先生はとても不安そうな顔で俺を見つめていたが、それに笑顔で答え、ゆっくりとふすまを閉めた。

俺の機体は、BT兵器二号機になる予定だった。
しかし、二号機が性能評価試験中に行方不明になったため、今の俺の機体は、セシリア機と二号機の予備部品をかき集めて急遽製造された間に合わせの機体で、便宜上ブルー・ティアーズ二号機になっているが、ともかく動けばいいといった感じの機体だった。
もともと戦闘での全力運転なんて想定されていない。
授業での演習程度なら問題ないだろうが、こんな状態で戦闘したら、いつ何があってもおかしくはない。
それでも先行を志願したのは、別に格好をつけるためでも、ヒーローに成りたい訳でもなく、篠ノ之束との約束を果たすためだ。
原作では船籍不明船の件がなければ一夏は『福音』を撃墜出来ていたかも知れないが、この世界ではどう転ぶか解らないからな。
船籍不明船の件が最初から解っているだけでもだいぶ違うだろう。

砂浜まで行くと、時刻は十一時。
俺はISを展開。
展開したISからは駆動音が聞こえる。 機体に不具合がないかをチェックした後、俺の身体は重力から解き放たれたようにゆっくりと空へと上った。

砂浜を離れてから数十分は経ったろうか。
とっくに予定の空域に着いて待機中である。

『ベインズ、聞こえるか?』

オープンチャネルから織斑先生の声が聞こえる。

「聞こえますよ、織斑先生。俺は予定空域で待機中です。『福音』の頭は押さえられると思いますよ」

『そうか、解った。もう一度言うが、お前の役目は足止めだ。それを忘れるなよ。すでに織斑と篠ノ之がそちらに向かっている』

「了解。ところで織斑先生。ハイパーセンサーに船籍不明船の反応があるんですが、そちらで確認できますか?」

『何? なぜもっと早く言わん』

「今頃になって反応があったんですよ」

『ベインズ、少し待て。こちらでも確認する』

俺の眼下には海が広がっている。
太陽の光を反射してキラキラ輝いて綺麗なんだか、俺はまったく泳げないんだよなあ。
海に落ちたらまずいことになりそうだ。
役に立つかは解らないが、鈴から浮き袋でも借りてくればよかったか? なんてことを考えていると織斑先生から通信が入る。

『こちらでも確認した。が、対応する時間がない。お前は、その船籍不明船のことを考慮した上で対応しろ』

「了解。船のことは一夏たちにも―― 」

『こちらから伝えておく』
と言ったあと通信は切れた。
時間を確認すれば、『福音』がそろそろお出ましになる頃合いだろう。

「暫時衛星リンク確立……情報照合完了。目標の現在位置確認」

俺は『福音』と高度を合わせるように機体を上昇させていく。 
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