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リリカルなのは~優しき狂王~

作者:レスト
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第五十三話~紡がれる新しき音色~

 
前書き
更新遅れて申し訳ございませんm(_ _)m

しかし、少なくともこの作品を完結する前に失踪することはないのでご安心を!

では本編どうぞ 

 


ミッドチルダ市街地


 聖王のゆりかごが軌道を上げるに連れ、戦域がミッドチルダの市街地にまで広がってから少しの時間が経つ。そして、そんな中でライは管理局本局での用事を済ませ、ある人物たちと合流しようとしていた。

「遅くなりました」

 そう言いながら、ライは使われていないビルの屋上に姿を見せる。そこにいたのは、デバイスを持ったゼストと使い魔であるガリューを連れたルーテシア、そしてアギトであった。
 ライはゼストとアギトを自身の協力者にしてから、ルーテシアとメガーヌの2人を連れ出した事を説明した。その事に当初ひどく驚いていたゼストであったが、かつての部下であるメガーヌとその娘のルーテシアがこれ以上、今回の一件に関わらなくてもいいと考えることができたのか、安堵の表情を浮かべていた。

「何かあった―――彼女は?」

 ライが自分から遅くなったと言った事に疑問を感じたゼストは、振り返りながら訪ねようとするが、ライの肩に気絶した女性が担がれているのを見てから質問の内容が変わる。

「本局に行った時に鉢合わせした人です。いきなり斬りかかってきたので無力化したのですが、その…………ただの局員にしては違和感があったので」

 一瞬、どう言えばいいのか悩むように口籠るライを珍しく感じながら、ゼストはその局員の女性を改めて観察する。
 彼女は服装こそ局員のもので、どこから見ても文官と言った雰囲気であるのだが、右手にあるものがそれらの印象の全てを覆していた。

「――鉤爪?」

「局員が使うにしては特殊すぎる気がしますし、彼女の動きは他の局員と比べてどこか違っていたので」

 感覚的な物言いであるが、それは実際に戦った本人にしか分からないと理解できたゼストはこれ以上追求するのをやめる。
 ライはデバイスに格納していたワイヤーを取り出す。そして、肩に担いだ女性を手早く拘束し、ガリューにその女性を預けた。

「――――さて、舞台は整った。行きましょう」

「ああ」

 ゼストは短い返事、アギトは力強く頷くことでライの言葉に答える。その2人の反応に満足しながら、ライはルーテシアの前に進み、彼女の視点に合わせるようにしゃがみ込む。

「ルー、君は僕たちを送った後、僕が渡したデータを彼女たちに届けてくれ」

「……うん、気をつけてね」

 ルーテシアの言葉に笑顔と頭を撫でることで返事とし、ライはゼストと並ぶ。そして2人の足元とルーテシアの足元に紫の魔法陣が形成される。
 そして一際強く魔法陣が発光すると、2人の姿は消える。それを確認したルーテシアは、今も戦闘音が聞こえる方角、自分が2人を送った方角に目を向けた。
 ルーテシアの手には、デバイスの姿はない。しかし元々召喚士の素質が並外れている彼女にとって、目に見える範囲への対象物の転移は簡単なことであった。
 彼女がデバイスを外しているのは、ライがルーテシアの使っていたデバイスがスカリエッティの与えた物であると知り、何が起こるか分からなかった為、念の為に外しておいたためである。
 ルーテシアは遠くではあるが、一応は視認できる聖王のゆりかごを見ていた。

「ルールー、行こうぜ」

 動く気配のない彼女にアギトは声をかける。その、自分の面倒を見ようとしているアギトを見ていると、何故か心が温かく感じると思った彼女であったが、今はライからの頼み事をしようと足を動かした。



戦闘空域


 ゆりかごの上昇に伴い、管理局側は焦りを覚え始めていた。ゆりかご近辺、というよりも空に展開された敵勢力はガジェットを中心としており、ナイトメアフレームの姿は未だに確認されてはいない。
 それが、敵の配備不足なのか戦力温存なのかは分からなかったが、今この状況に置いては重要な要素の1つになっている。
 管理局側の意向としては、すぐにでも航空戦力をゆりかごの方に向けたいが、敵の戦力としてガジェットよりも厄介なナイトメアフレームがいる為、どうしても地上に戦力を割かざるを得ないのだ。
 ゆりかごをどうにかしなければならないが、敵の進行も止めなければならない。今はまだ、空と陸の戦域自体がそこまで離れていないためにお互いをカバーし合えるが、時間が経つに連れゆりかごが上昇することでそれも難しくなっていく。
 今現在、航空戦力を地上に大幅に回していることで、なんとか均衡を保ててはいるがそれでは駄目なのだ。均衡を崩す為の決め手を管理局は持ち得てはいなかった。
 それは魔力リミッターを外し、実力を十全に発揮できるようになった機動六課隊長陣も同じであった。

「スターズ1、ライトニング1現状報告!」

 航空戦力の指示を出しながら、遊撃部隊として投入したなのはとフェイトにはやては通信を送る。しかし焦りが現れるように声が大きくなってしまったことに彼女は内心で舌打ちした。

『こちらスターズ1!地上に向かうガジェットを足止めしています!』

『ライトニング1も同じく!』

「引きつけることも出来ひんの?」

 先ほどよりも幾分か落ち着いた声を出しつつも、その声には若干の疲労がにじみ出ていた。それを察したのか、彼女の問いに気不味げに2人は応答を返した。

『さっきから何回もやってるんだけど、下手に動くと私たちを無視して地上に向かおうとするから引き付けることはできないと思う。一緒にいるスターズ2、ヴィータちゃんも同じみたい』

『こっちも同じ。それにさっきは一度広く展開されて危うく戦線を下げることになりそうになった。シグナムがいなかったら危なかったよ』

「…………」

 予想以上の硬直状態に投げ出したくなる気持ちを押さえ込んで、はやては思考を巡らせた。

(ガジェットのこれまでにないほどの統率力は指揮官がおるから。やけどその指揮官の特定は困難)

 思考と同時にはやては投影型ディスプレイを浮かび上がらせ、戦域の確認をおこなう。

(地上は徐々に戦線を下げられとる。スターズFとライトニングF、それにギンガは戦闘機人の部隊と交戦中、か。後手後手やな)

 情報がもたらす要素がマイナスにしかならず、現状を維持することしかできない自分に苛立ちを覚え始めた頃、はやての元に1本の通信が繋げられた。

『ロングアーチより各位へ!そちらに転移反応が!』

「増援か?!」

『識別確認、これって……管理局の部隊のものです!』

 その報告と同時にはやての前に戦域マップと、転移反応の位置が光点として映し出される。

「って!どこの馬鹿や!こんな場所に転移してくんのは!!」

 転移反応があった位置は、ゆりかごの付近の直下。ナイトメアフレームとガジェットが最も多く存在する場所であった。その場所は、ゆりかごからの爆撃もあると予測されていたため、危険区域として警戒していたのだ。そのほぼど真ん中に転移してくる部隊にはやては声を荒げて罵倒に近い言葉を吐く。

「どこの部隊や!!」

 確認を求めるはやての声に返ってきた答えははやてだけでなく、同じ通信を聞いていたなのはとフェイト、シグナムとヴィータを驚かせた。

『これは管理局の部隊識別と――ゲスト1?!ライさんのものです!!』

『『『「?!」』』』



ゆりかご直下


 転移が終了し、敵陣のど真ん中に放り込まれた――否、自ら飛び込んだ戦場でライはその翼を瞬かせた。

「雑魚は無視します。僕らは真っ直ぐゆりかごへ」

「承知している」

 簡潔なやり取りを終わらし、2人は動き始める。
 周りにいるガジェットとナイトメアフレームが、いきなり現れて上空に飛びさろうとする2人に銃口を向ける。

「ッ!」

「無視してください」

 一瞬、身構えようとしたゼストであったが、ライの言葉に従う。
 ガジェットとナイトメアフレームが真っ直ぐ飛ぶゼストとライに砲火を浴びせようとするが、それは叶わなかった。突如、ライたちが現れた場所を中心に、大きな爆発が起こったのだ。その爆発で、ガジェットは損傷、爆散する。ナイトメアフレームの方も、爆発による二次被害、飛んで来た破片などが装備していたアサルトライフルやミサイルコンテナに直撃し、誘爆していく。
 その爆発は、ライが転移してきたと同時に設置した時限式の爆弾が起こしたものである。
 対魔導師用に造られたナイトメアフレームとガジェットのセンサーは魔力には敏感であっても、質量兵器を感知する類の機器は杜撰であるという予想がライの中にはあった。
 その為、ライは今回爆弾を携行し使用した。結果的に、ライの予想は的を射ていたのか、予想通りの戦果を上げることが出来る。
 もっとも予想が外れて退避されていたとしても、その間に敵の射程圏外まで移動することはできると踏んでいた為、そのこと自体をライは重要視していなかったが。
 真っ直ぐ、ゆりかごに向かう2人。それを確認していた局員は、ゆりかごからの迎撃で2人がすぐに後退させられる姿を脳裏に浮かべた。
 しかし、その光景はいつまで経っても訪れることはない。
 2人は迎撃に向かってくるガジェットを切り裂き、ゆりかごからの迎撃も危なげなく躱していく。
 その姿を映像で見ていたはやてはあることに気付く。

「ゆりかごからの攻撃が少ない?」

 声にだしたのは確信を持っていたからこそ。
 管理局側が想定していたよりもゆりかごから伸びる火線は少なく、ガジェットの迎撃行動と合わせてもゆりかごに取り付くことは容易に見える。
 本来のゆりかごの武装が何の制限もなく使えたのなら、管理局側の予想通りライとゼストの2人が飛んでいる場所には、飛ぶ者の視界を埋め尽くす程の砲火が降っている。
 しかしそれはあくまで制限がない状態での話である。
 現在のゆりかごは、その本来の性能を引き出すための大規模な魔力を必要とするために衛星軌道上に上がろうとしている。ならば、今はどうなのか?
 ロストロギアであるレリックを動力として使っていると言っても、ゆりかご自体も大規模なロストロギアである。ならば、ゆりかごを動かすだけの魔力を補うことはできても、武装を使用するだけの魔力は確保できていなかった。
 ライはそれを敵の部隊配置と、先のジェイルの放送から予測していた為、今回の進撃方法をとっていた。

『ゆりかごよりガジェット群が接近。二十秒後に接触と予想』

「足止めをお願いします。僕は入口を作ります」

「了解した」

 蒼月からの報告と視界に映る敵にも、表情を変えることなくライは指示を飛ばす。
 短いやりとりの後、ゼストが加速しライより先にガジェットと交戦を始める。その戦闘を回避するように飛び続け、ライはゆりかごの底に到着する。
 到着と同時にライは左手のスラッシュハーケンを打ち込み、ゆりかごの底に立つ。上下が逆さまの状態でエナジーウイングを一度格納すると、空いている右手にMVSを起動させた蒼月を展開する。

「……」

 確かめるような仕草でライはゆりかごの底に刀身を食い込ませる。あまり抵抗を感じることなく刀身が埋まりきったところで一度蒼月を引き抜き、今度はパラディンをヴァリスの形態で展開する。
 銃口を自分から少し離れた位置に向けると、パラディンから機械音声が発せられる。

『コンプレッション』

 その言葉が発せられた瞬間パラディンから薬莢が飛び、ライは引き金を引いた。
 そして放たれた魔力弾が着弾する前に再び排莢が行われたパラディンの引き金をライは同じように引いていく。
 それを繰り返すこと6回。都合マガジン1つを使い切って行われた射撃は、ゆりかごの底に人が1人通れるだけの入口を穿った。

『カートリッジ ロード』

「ゼストさん!」

 エナジーウイングを再展開、スラッシュハーケンを引き抜いたライはゼストを呼び、ゆりかごの中に突入していく。
 現れてから約10分でゆりかごに突入する2人。それを見ていた局員は唖然とした。今まで戦線を維持するしかできなかった戦況を、たった2人の魔導師がその流れを変えたのだから。

『八神部隊長!報告です!』

「今度は何や?!」

『アースラの方に保護を求めてきた魔導師が』

「?それが――」

『その魔導師ですが、報告のあった召喚士の少女でして。しかもライさんからデータを預かって来ていると』

「なんやて?!」

 ライが現れてから数度目の驚き。そんなはやての前にロングアーチからライの送ってきたデータが現れる。

「――、ってなんやこれ?!」

 ライから送られてきたデータには幾つかの指示と情報が内包されていた。

「『隊長2人とヴィータをゆりかご内部に突入させろ』、『ジェイル・スカリエッティは確実にゆりかご内にいる』、『保護を求めてきた中の1人、融合機・烈火の剣聖アギトは烈火の将・シグナムと相性が良い筈である。合流してからナイトメアフレームの対処に当たられたし』……なんでこんな情報をライ君が?」

 更に口には出さなかったが、データの中には今戦闘を行っている部隊の約6割の部隊の命令権とナイトメアフレームに対する有効戦術と戦略のデータまで添付されていた。
 このデータが送られてきたということは、ライは六課に今回の戦闘の大半を任せたといっても過言ではない。
 しかも先程から陸の方で“何故か”敵部隊の損耗率が上がってきており、なのは達が抜けて空からガジェットの増援が増えても対処できる算段がはやての中に生まれてしまっていた。

「厄介なもん押し付けて!これが終わったら説教や!!」

 大声で愚痴を吐きながら、はやては自分の職務を全うしようと動き出す。だが、彼女の表情に先程までの疲労感はなく、代わりに抑えようとしているがどうしても漏れてしまう笑顔があった。



ゆりかご・内部


 突入を果たしたライとゼスト。2人は今、一本道の通路を進んでいた。時折ガジェットとナイトメアフレームに接敵したが、ガジェットをゼストが、ナイトメアフレームをライが墜としていき、危なげなく進んでいく。
 それなり進んだところで、2人はT字路に突き当たる。

「……ここからは別れます。後は予定通りに」

「ああ」

 逡巡は一瞬。即座に判断を下したライはゼストに声をかける。そしてお互いにこれが最後の会話になると確信にも似た予感を覚えるが、2人は振り向くこともなく自分が進むべき道を進んでいく。

『センサーに感、ナイトメアフレームが2機接近。このままなら、接触は二十秒後』

 蒼月からの報告を受け、ライはエナジーウイングを展開せずに右手にMVS形態の蒼月を、左手にはヴァリス形態のパラディンを展開する。
 そして立ち止まり見えてきた敵機を確認すると、ライは珍しく表情を苛立ちに変えた。

「ああ、解ってるさ。これは単なる僕の我が儘で、気分の問題だってことは――」

『マスター?』

 ライの視界に映るのは、エアキャバルリーを装備し飛んでくるランスロットとランドスピナーで駆けてくる紅蓮弐式。2機はライを確認したのか、真っ直ぐに突っ込んでくる。

「でもさ――」

 ランスロットは装備していた剣を、紅蓮弐式はその右腕を振りかぶる。

「これ以上――」

 2機の攻撃がライに届くまで後数秒。

「僕の友達を穢すなよ」

 2機の攻撃が破壊を生み出し、ライの立っていた場所に煙が巻き起こる。
 これを誰かが客観的に見ていたのなら、その人は確実に『ライが死んだ』と認識する、そんな光景。
 だが、そんなものを現実は簡単に裏切る。
 煙が晴れ、そこにいたのはライトグリーンの翼を広げ、どこか神々しさすら感じる1人の王。

「舞台は用意した。ここから“私”は自分が望む明日の為に剣を取る。阻むのならば向かってこい」

 そして始まる。かつて彼が起こした『レクイエム/鎮魂歌』ではなく、新しき世界を生み出す『プレリュード/前奏曲』が。






 
 

 
後書き

と言う訳で、次回からゆりかご内でライが大暴れします。

今回遅れた原因としては加筆修正をしまくった結果、文字数が二万字近くなってしまい、流石に内容がかさばり過ぎてると感じて減らすに減らしてこんな感じになりました。

ご意見ご感想などお待ちしております
 
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