リリカルなのは~優しき狂王~
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第五十四話~人形と聖王~
前書き
前回のコメントで大暴れと書いたのですが、何か大人しい感じになってしまったような(?)気がする作者です。
では本編どうぞ
ゆりかご内部
灯りとなるものが無いためか、人どころか巨人でも通れそうな高い天井の通路のそこかしこが暗くなっているゆりかご内。だが、少し前から瞬間的に明るくなることがしばしば起こっていた。
『接近警報!六時!』
「ッ!」
後方から赤い影が迫ってくるのを、蒼月が報告してくる。
ライは迫ってくる敵機に対して飛行高度を上げることで一旦逃げようとするが、再び蒼月からの警報が飛んでくる。
『頭上注意!接敵まで三秒!』
「パラディン!」
「カートリッジ ロード」
咄嗟に叫び、新たにエナジーウイングの加速力を高めるためにカートリッジを二発消費。瞬間的に翼の色が濃くなり、ナイトメアフレームのファクトスフィアでも捉えられない程に高速で移動する。
頭上から斬撃を放ってくるランスロット。だが、瞬間的な加速を利用したライの回避行動でその斬撃は空振りに終わる。
追撃が来ると考え、ライは初期加速を利用して一本道となっている通路を進んでいく。
(現在のカートリッジは手付かずのマガジンが3本、装填済みのマガジンには羽に2発ずつとヴァリスに再装填したものが6発)
逃走するライを追う2機とつかず離れずの距離を保ちながらライは考えをまとめて行く。
(敵の挙動は前回よりも機敏。中身が随分と賢くなってる)
ランスロットと紅蓮弐式は前回戦った時よりも随分と学習しているとライは感じていた。それがAIによるものか、戦闘プログラムの改善によるものかは知らないが、少なくとも単機突貫してきた時よりも今現在の2機連携をしている方が驚異と感じているのは事実であった。
しかし―――
「所詮は機械。人形か」
一見不利な状況の中でも、ライの表情と自信は小揺るぎもしない。
ライの進行方向の先にはL字型の曲がり道が近づいてくる。それを視認したライはランスロットと高度を合わせてから通路を曲がる。
「パラディン、デコイ」
『ラジャー』
それに続く様にランスロットも通路を曲がる。だが、そこにはライの姿はなくなっていた。代わりにランスロットの眼前に現れたのは、先程までライの背中で瞬いていたライトグリーンの羽、エナジーウイング。
パラディンの翼の基部から離れ、その輝きが弱々しくなってはいるがそれは推進力になるエネルギーの塊である。回避が間に合わずにそれと接触したランスロットは爆炎に飲まれる。
だが見た目通り、込められたエネルギーが少なかったのかランスロット自体には煤が付いた程度であった。しかしフロートユニットには影響があったのか、ゆっくりと機体高度が下がっていく。
「スザクなら避けているぞ」
ランスロットの目標は機体の背後に現れる。ここで機体にパイロットがいたのなら、ライが突然背後に現れた事に驚いていたであろう状況。
ライが何故急に背後から現れたのかというと、ライは道を曲がるとすぐにエナジーウイングをパージ。そしてその後、通路の左右の壁に両手のハーケンを打ち込み、空中ブランコの要領で円の軌道を描きランスロットの背後に移動したのである。
短い呟きと斬撃が放たれるのは同時であった。ライの放った斬撃はランスロットのコクピット部分を切り裂く。
ランスロットは本体が停止し、その巨体が落下していく。そして落下先には紅蓮弐式の姿があった。
紅蓮弐式は危機回避行動の為に機体を後方に滑らそうとする。だが、ライは紅蓮弐式が下がり切る前に落下するランスロットに向けて銃口を向け、引き金を引く。
放たれた魔力弾は、先ほど切られた電子部分が剥き出しになった箇所に真っ直ぐに進み、着弾する。
すると着弾と同時に先の爆発と比べ、数倍の爆炎が辺りを包む。
紅蓮弐式は回避行動中に予定外の攻撃を受けたためにバランスを崩す。
「カレンならそこで足踏みはしない」
再び呟くと同時にパラディンの翼の基部から、二発の空薬莢が飛ぶ。
「アクセルドライブ」
口ずさんだ始動キーに応えるように、色濃くエナジーウイングが再度展開され、緑の軌跡を残していく。
高速で移動し紅蓮弐式の背後に回ったライはヴァリスの引き金を引き、魔力弾を打ち込む。
だが、持ち前の旋回力を最大限発揮して紅蓮弐式は振り返り、輻射波動の防御を行う。
「それは失策だ」
自機の前面を防いでいる紅蓮弐式は気がついていなかった。背後、正確には自機のコクピットのほぼ真上に緑色の羽が残されている事を。
魔力弾を防ぎ切って振り向く前に、エナジーウイングは紅蓮弐式のコクピット部分に接触、爆発する。
その爆発で、目の前に倒れ込んできた機体に向け、ライはMVS形態の蒼月を横薙ぎに振り抜いた。
滑り落ちるようにコクピットはずり落ちていき、紅蓮弐式は活動を停止した。
それを確認したライは再び通路を進み始める。だが、その表情は勝利を掴んだ者の表情でも、任務を遂行する兵士の表情でもない。純粋に疑念を持った人間の表情であった。
『マスター、どうしました?』
「……使わされた」
『は?』
「僕がカートリッジを消耗するように戦闘を行わされた。ジェイルは僕とナイトメアの戦闘を望んではいないのに」
『では、今のは――』
「向こうも一枚岩ではないのかもしれない」
ゆりかご内・祭壇区画
ライがゆりかご内を移動している頃、なのはとフェイトの両名はスカリエッティの捕縛を目的とし、ゆりかご内に突入していた。2人の他にヴィータも突入し始めこそ一緒に行動していたが、途中で別れゆりかごのエンジン部の制圧に向かってもらっていた。
そして2人がたどり着いたのは、これまでのゆりかご内の装飾と少し異なるデザインの部屋。これまで2人が進んでいたゆりかご内を一言で表すのであれば神殿である。だが、その区画は神殿というよりも古代の遺跡といった方がしっくりくるような場所であった。
「フェイトちゃん」
「大丈夫…………大丈夫だから」
隣に立つ戦友であり親友へ言葉をかけるなのは。声をかけられたフェイトは返事が返ってくる分まだ冷静であると言えるが、幼い頃からの親友のなのはには彼女がいつものような落ち着きを保てていない事をなんとなくではあるが察していた。
2人の視線の先には4人の人物がいる。1人は今回の騒動の主犯、ジェイル・スカリエッティ。そして残りの3人は彼の護衛の様に立つ戦闘機人、トーレ、セッテ、ディエチ。
3人の戦闘機人はなのはとフェイトと対峙するように向き合い、警戒している。だが、ジェイルだけは未だに2人の存在に気付いていない様に、手元のコンソールを操作している。
「操作を中断して投降しなさい!」
「……」
「っ!」
フェイトは自分の声を無視され、頭の中が沸騰するような熱を帯びる。だが、隣にいる心配そうな表情を浮かべるなのはの顔を見るといくらか冷静さを取り戻したのか、一旦深呼吸をする。
そして再度投降の呼びかけをしようとし始める彼女に、被せるようにジェイルは言葉を紡ぎ始めた。
「世界の安寧を求めた王は死を選び、王の理解者は王の生を望む。しかし、その世界には既に王の帰るべき場所も居場所も無い。そして王が行き着いたのは別の世界であった」
明確に紡がれるその言葉になのはとフェイトの2人は呆然とした。
聞き覚えや心当たりがあるなんてレベルではない。その物語を聞いて2人が思い浮かべることができるのは銀色の青年ただ1人。
2人が呆然としていると、その部屋の左右の壁に投影型ディスプレイが展開される。そこには六課のメンバーと戦闘機人との戦闘の中継映像。そしてライがある部屋に入る瞬間を映していた。
ゆりかご・聖王の間
部屋に入るとライの視界には2人の人物が入ってくる。片方は以前、自分を挑発してきたメガネの戦闘機人、クアットロ。
そして彼女が寄り添うようにして立っている、その部屋の玉座のような椅子に座らされているのは、ライにとっての目的であり、目標。
「迎えに来たよ。ヴィヴィオ」
「……ヒッ…ク……パ…パァ」
怖くて、不安で、心細くて、寂しかった彼女は、しゃくり上げながらも、確かにライをパパと呼ぶ。一先ず、ヴィヴィオの安全が確かめられた事にライは内心で安堵しながら、ライは一歩を踏み出そうとする。
だが、それを遮るように、その部屋にも投影型のディスプレイが開かれる。映される映像はなのはやフェイトが見ているものと同じものである。
「はぁ~い、それではこれから父と娘の殺し合いを見てもらいたいとおもいまぁ~す」
王座の傍にいたクアットロがいきなり口を開いたかと思えば、とんでもないことを口にしてくる。
その言葉に嫌悪感を抱きながらも、ライは言い返すこともせずただ黙っていた。
「と言ってもぉ~、既にお兄様はそこそこ手持ちの魔力やカートリッジを消費していますから、苦戦は必死だと思いますけどぉ~」
「……」
「まぁ、それでも私たちの兄ではあるのですから、無様には――」
「聞いてもいないことをベラベラと。戦うことが怖いのなら今すぐここから出て行け。目障りだ」
我慢の限界で声を上げる――ということではなく、本当に眼中にないのか、ライはクアットロに全く視線を向けずに感情のこもらない声でそう告げた。
言われたクアットロも、先程まで浮かべていた貼り付けたような笑顔が霧散し、無表情でライを見つめていた。
「恐れている?私が?貴方を?一体そんな考えの根拠がどこに――」
「戦場で虚栄心を見せるものは早死する」
論破することもなく、確定事項として彼女が見栄を張っていると主張するライにクアットロは切れた。
「そうですか――なら貴方を殺すことでその言葉を否定する!」
クアットロがそう叫ぶと同時に、手元のコンソールを操作する。するとこれまで大人しく座っていたヴィヴィオに急激な変化が訪れた。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!」
かつての自分がCの世界と繋がった時の様に苦しみだしたと思えば、今度はヴィヴィオの体が急速に変化していく。それは成長と言うにはあまりにも不自然で、魔法というにはあまりにも不可思議であるように体が大きくなっていく。
そして成人女性ぐらいにまで大きくなると、その身にバリアジャケットらしきものを纏い、ライと対峙する。
流石にこの変化にはライも驚き、目を見開いている。その彼の反応に満足したのか、クアットロがいやらしい笑みを浮かべ、ヴィヴィオに囁いた。
「さぁ、聖王様?あちらにいるのが、聖王様のパパとママを奪った不届きものです。パパとママを奪い返すためにも、あいつを倒しちゃってくださぁ~い」
ヴィヴィオがそんな言葉に従うのか?と言う疑問がライの中に生まれたが、ヴィヴィオの表情を見てそんな疑問は吹き飛んだ。
ヴィヴィオの表情はライが元の世界で散々見てきた表情であった。恨み、辛み、妬み、悲しみ、憎しみ――およそ考えられるだけの負の感情を混ぜ込んだ瞳。それはかつてのエリア11での日本人のようであり、ゼロレクイエム終結間際の世界中の人間が持っていた表情でもある。
そんな彼女の表情を見て、先ほどの変化のプロセスの中に催眠も混じっていたのかとライは考えた。
「それでは、楽しい楽しい殺し合いを堪能してください?」
それだけ言い残し、クアットロは姿を消す。残されたのはライと聖王と呼ばれたヴィヴィオ。仮初ではあるが、父と娘の関係を築いていた2人。
「ヴィヴィオ、僕の事は解る?」
「貴方なんて――知らない!」
「ヴィヴィオ、僕は君にパパって呼ばれていたんだ」
「貴方なんか、ヴィヴィオのパパじゃない!ヴィヴィオのパパとママを返して!!」
「ヴィヴィオ……」
「気安く話しかけないでよ!偽物のくせに!関係ないくせに!!」
彼女の言葉がライを精神的に傷つけていく。映されているディスプレイから、ライの方に何かを呼びかけている声が聞こえてくる。それを聞いて、今自分がどれだけ酷い顔をしているのだろうか?と益体もない事を考えるライ。
「そうか」
一度俯き、ライは覚悟を決める。
「なら、『私』は狂王として、聖王に挑む」
静かに宣言したライの表情に、感情を伺うことは既にできない。そして、ライの言葉に驚きの表情を浮かべた六課メンバーはライに静止の言葉を投げかけるが、ライはその一切を無視。
『マスター、いいのですか?』
「蒼月、誓いを忘れたのか?」
『……いえ、私は貴方に付いていきます。その誓いは変わりません』
そして、ライはライトグリーンの翼を展開し、ヴィヴィオは虹のような七色の魔力光を発しながら、2人は交差する。
ここに異世界の王同士の戦いが始まった。
後書き
次回、聖王様対狂王様です。
一話で纏まるか疑問なので、二、三話に分ける可能性があります。
個人的に早く、次の長編に向けて頑張っています。皆さんも忙しい季節ですが、体調に気をつけてくださいm(_ _)m
ではまた次回。
ご意見・ご感想をお待ちしております。
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