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もしもこんなチート能力を手に入れたら・・・多分後悔するんじゃね?

作者:海戦型
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12人目の天然道士

 
前書き
子供の頃よく死について考えてた。今も時々考えてる。 

 
走って走って、気が付いたら私は海岸までたどり着いていた。それでも頭を使いたくなくて暫く海岸を走り続け、隣町の港とを3往復したくらいで私の頭は漸く少しばかりの冷静さを取り戻した。それもあくまで少しであり、平静には程遠い。鼓膜を叩く心音だけが自分に正直だった。

「髪・・・身体も、潮風でべたべたになっちゃった」

それでもまだ、認めたくない事から逃げるように普段気に留めもしない自分の身なりを整える。それでもまだやることを探して自分のいる場所を確かめ、そこが見覚えのある近所の海岸であることを確認できた。ポケットの中にはちょっと古い型の携帯電話だけが入っていて、着信かメールを知らせるランプが光っていた。

「・・・・・・」

画面を見ないように顔を逸らしながら、そのまま電源を切って一息つく。
とうとうほかに考えることが無くなって、私は私が逃げ出した理由を考えざるを得なくなった。


自分のせいでツヴァイちゃんは一度消えた。それはどの時間でどの世界なのかも分からないが、とにかく消えた。私が消したわけではない・・・そう思いたいが、やはり止めを刺したのは私だったのだろう。

どんな気分だったろうか。生まれて、家族に育てられ、積み重ねてきた時間が唐突に消滅するというのは。例え気になる本が読みかけでも、たとえ学業の続きでも、例え家族や友人との約束があったとしても、死や消滅という概念は私達に一切の温情を与えてくれることは無い。眼を閉じて、そのままものを考えることも何かを見ることもなく、延々と、永遠と、自分という存在を虚無に溶かしていく。
何と残酷なのだろうか。それを彼女は一度味わったのだ。―――私のせいで。最早彼女の味わった絶望と恐怖は苗のちっぽけな想像力では計り知れない。

本当に余計な事をしたのかもしれない。私が何もしなければはやては紆余曲折しながらも自分の運命を切り開き、リインちゃんは自分の行為に納得して逝ったんだろう。そうしてツヴァイちゃんが生まれ、育ち、世界に生きたんだろう。彼女が周囲に与えた影響で誰かが救われたりしたかもしれない。そう思うと、自分のした事が途方もなく自己中心的であったと思わざるを得ない。

人殺しだ。相手が今この世に存在してるとか、してないとか。そんなことは関係ない。私が殺したと思うから、私の行為は弁明の使用もないくらいに悪だ。
証拠が挙がらなくたって倫理的には人殺しだろう。ひょっとしてリインという1を助けた影響で複数の命の生まれる可能性を断っていたのかもしれない。リインが助かったのが自分の我儘なら、その我儘の足元は光を失った命が転がって出来ているんだ、きっと。

―――いっそのこと、無かったことにしようか?

四宝剣ならば自分の都合のいい世界に作り替えられるかもしれない。自然とためらいなく手に四宝剣を握る。草の蔓が絡み合った様な歪な剣を振り上げ―――その瞬間その場に座り込んだ。まるで地面に足を引きずり降ろされるような感覚に、自分の腰が抜けていることを自覚した。

怖い。後ろに誰かが居て、「お前は人を殺した上に証拠隠滅までするつもりか?」と問いかけてきたような気がした。いるはずもない誰かが横で「それでまた存在を消したらどうする気だ」と非難の目で見ている。さざめく波が「お前は同じことを繰り返す愚か者だ」と嘲笑う。空の雲が「お前の罪を見ているぞ」と無表情に見下ろす。
世界のすべてが私を外へ外へ追いやっているような気分だった。

「私って、こんなに愚図で馬鹿だったのかな」

自分の都合で、ちょっとなら許されるなんて調子づいて、取り返しのつかない事をした。

そう言えば、昔も同じようなことがあったかもしれない。家で飼ってたフナの水槽を洗うときに、面倒だからとフナを映していた桶を置きっぱなしで休んで、気が付いたらフナは直射日光の熱と酸素不足で死んでいた。子供ゆえの思慮の浅さが招いた事態だった。
それの延長線上だ。フナが死んだ言い訳が思いつかずにその日一日家出した、あの時の子供と同じだ。どうすればいいか分からないから逃げだそうとした。

「死んじゃえばいいのに、こんな馬鹿」

自己嫌悪の感情というのは果てしない。一度負のループに囚われれば抜け出せないまま延々と思考が落ち続け、やがて考えるのも嫌になる。そうして思うのだ。自分なんか死ねばいいと。
ガキっぽい。でもいい。だって体はガキだし。どうせ一回死んでるし。世界は自分が死んだって、滞りなく廻るんだ。父さんだって母さんだってみんなだって、最初は悲しむかもしれないけどそのうち忘れる。忘れられて、惨めに消えて、そうしてずっとこんな思いをしながら死ねばいい。




「では、死ねばいいのではないか?」

ふとそんな声が聞こえた。頭上を見上げると、そこにはリインに似た誰かが空を浮いていた。
違うのは堕天使のように黒い羽と頬に奔った刺青の様な赤い線。身体のあちこちに巻きついた真赤なベルトはまるで自分自身を戒めるように巻かれていた。

「・・・誰?」
「闇の書、と呼ばれる者だ」
「何か用?」
「私は虚構。主がしたはずの絶望が生み出した存在。お前が分岐させた未来で無かったことにされた」

ビクリ、と肩が震える。お前もか?お前も私を責めに来たのか。そんな私の考えをよそに、闇の書は勝手にしゃべっていた。

「我が体は主のために。我が御心も主のために。私は、主の絶望の証だ」
「・・・それで?私を殺しに来たの?」
「お前が望むなら」
「望まなければ?」
「敵の所へ」
「敵って、誰?」

闇の書は私を殺しに来たわけではなかったようだ。死ねばいい、と言ったのも私がそう望んでいると解釈した結果投げかけた言葉だろう。では敵とは?闇の書の敵とは何だ?

「誰でもいい。主に関わった者ならば・・・」
「酷い通り魔だ。私は殺さないの?」
「お前には恩がある」
「・・・意味が分からない」

苗は闇の書と初めて出会った。恨まれる理由こそあれ、恩などあるはずもない無い。

「お前は運命を改変した。我が主の御心はこの世界では絶望に染まっていない」
「そうだね」
「だから、私はそれ以上主の絶望の嘆きを聞き続けることは無くなった。主の絶望は僕として無かったことにはしないが、お前の改変で主はそれ以上絶望を感じる必要はなくなった。お前は主を救ったのだ・・・これを恩と言わずしてなんという?」
「―――」

絶句した。彼女が言ってるのはとどのつまり安楽死である。これ以上終わらない苦しみを抱き続けるならいっそ死んでしまった方がその人のためだと、彼女は「主を楽にしてくれてありがとう」と言っているのだ。
分からない。私には分からない。分からない奴の言う事なんて、わからなくてもいいか。

「だから、恩には報いる。お前が死にたいと願うならば、黄泉路への案内を仕ろう」
「・・・私は、―――いいや。死んでも、困ることないし」

さっき自分でそう思った。それを曲げたくなくて、私はそう自分に言い聞かせるように呟いた。ふと、八神家や自分の家族、友人の顔が脳裏を横切った。でもそれだけだ。皆どうせ・・・私が死んだって困りはしないんだろうし。

「そうか。ならば、せめて苦しまぬよう脳髄を破壊しよう」

彼女の指が指し示す先に顕現した血染めのように赤い短剣を、私は無感動に見つめた。


その時の私は、子供特有の自分勝手さに支配されていたんだろう。

本気で自分が死んでも困る存在はいないと思い込んでいたのだ。

だからその馬鹿な勘違いのつけを、こんな皮肉な形で払わされることになった。





―――いるではないか。自分が餌をやって、毛づくろいして、可愛がっていた一匹のパートナーが。

「まーお!!」

「何!?しまっ・・・」
「えっ・・・だ、駄目!来ちゃダメ―――」

その時のぽんずは、明らかに私を庇うように飛び上がり、魔力で形成された短剣をその身に受けた。既に射出されていた剣は停止させることなど出来るはずもなく、吸い込まれるようにぽんずの身体を――――





気持ちが悪い。大地がぐねぐねと波打っているような心地の悪さに顔を顰め、体を起こす。少しの間失神していたようだ。額をおさえるとどろりとした鉄臭い液体が流れ落ちていた。遅れてこめかみの近くに生け花の剣山を押し当てられたような鋭い痛みがずぐりと頭を刺す。

どうやらあのダガーが頭部を掠ったようだ。あれだけ鋭利な刃物なら、掠っただけでも傷口は広くなるだろう。視界が赤くなって前が良く見えない。眼をこすってぼやける視界をなんとか回復させようとし、途中で自分がひどく息苦しい事に気付く。だが、そんなことはどうでもいい。

「っ・・・ぽんず・・・はっ・・・どこ?・・・ぽんずぅ・・・」

絶え絶えになった息から絞り出すように声帯を強引に動かす。
あのよくできた飼い猫は、自分が呼べば返事を返して足元に寄ってくるのだ。友達だってそんなぽんずを羨ましそうに見ていた。
家族なのだ。都会に引っ越して仕事して、自分の仕事が何の役に立ってるかも良く分からない生活の中で、ぽんずは心の支えだった。この世界に来たばかりの頃だって、ふとよぎる不安を紛らわすように撫でまわしたぽんずは嫌がりもせずずっと身を委ねてくれた。

家族なんだ。かけがえのない存在なんだ。私の生き甲斐とも言える、愛しい愛しい子なんだ。もふもふして、従順で、でも私を強く励ましてくれる、かけがえのない―――

探すように手を砂浜に這わせるうちに、手に生暖かい液体が多く染み込んだ砂を感じた。次第に戻る視力も頼りにそちらに体を這わせ、とうとう手に掴んだ。ぽんずを。ぽんずの―――



「ぽんず・・・あなた、どうして後ろ足が無いの?しっぽもない。お尻もない。残ってるの、体の半分だけじゃない。その身体からはみ出てるピンクのそれは、何。どうして血が止まってないの。どうして、どうして―――返事を返さないのかな?」


ぽんずからの返事は無い。普段ならしっぽをうねらせ返事を返すのに。


「・・・すまない」

「ねえ、ぽんず。謝るよ。私が死んで困るのはぽんんずだよ。もう変なこと言わないし、自分の命も大切にするよ。覚えてる?ノイローゼになって死のうかな、って呟いた私の膝に圧し掛かって来たの。あの時ぽんずに留められなかったら、自分で死んでたかもしれないよ」


ぽんずからの返事は無い。普段なら寝ていても起き上ってくれるのに。


「鳳苗。その猫はもう・・・」

「もうわがまま言わないよ。逃げないよ。皆にも謝るし、お父さんとお母さんに魔法の事も正直に話すよ。なのはチャンをからかったのだって謝るし、いつもよりもいい餌買ってあげる。首輪も古くなってたから新しくするし、今日の夜はいつもより念入りにブラッシングしてあげる」


ぽんずからの返事は―――無い。


「・・・何で?私が悪かったの?開き直って勝手に死のうとしたのがそんなにいけなかったの?いやだよ・・・返事してよ!ねえ、ぽんず!!したいこと全部してあげるよ!?一生自分の命を粗末にしない!やったことからも逃げないから!いつもみたいに鳴いて返事してよぉ・・・!!いやだぁ・・・いやだぁ・・・・・・!!」


ぽんずの虚ろな目は、ついぞ光を灯すことは無かった。返事も、何度呼びかけても帰ってこなかった。
自分の愛猫が、この世という認識の世界から永遠に別れを告げたことを理解した。もう二度と―――もう二度と―――

「・・・苗。お前はもう死にたくないか?」
「煩い!どっかいってよ!」

ヒステリックに闇の書へそう叫び、私は四宝剣を振り上げた。四宝剣は確率湾曲宝貝。主が望めば全能の力を振るい、あの犬を生き返らせたようにぽんずの生存確率を・・・・・・弄って?


『もう未来に『2代目リインフォース』は存在しません。仮に似た存在が生まれたとしても、それは決して私ではないのです・・・』


それは、ほんとうにぽんずか?私の愛猫で苦楽を共にしたぽんずなのか?
ぽんずは何故死んだ?私を庇ったからだ。ぽんずは賢いから、あそこに割って入れば自分がどうなるか分かっていただろう。そんな決死の覚悟を決めて飛び込んで、命を絶たれたぽんずを生き返らせる。なら私のために体を張って死んだぽんずは何所に行くんだろうか?

死者を起こしてはいけない。そう言ったのは私だ。死者は確かな意思を持って生き抜いた果ての存在だから、生きている人間に都合よくされていいはずがない。私には、ぽんずから「死」まで奪う権利は無いではないか。

もしも生き返らせて、五体満足の大山猫が返事を返したとして、その返事を返した猫は本当に自分の知っている自分を庇った猫なのか?それは、代わりを用意したようなものでは?私のためにその身を捧げたぽんずでは―――ない、としか感じない。

あの時、ぽんずは死んだ。

私には、この剣を振るう資格がない。全てを思いのままにするだけの傍若無人さ。これだけが、今決定的に欠けていた。


「・・・私は、もう行かせてもらう。勇敢なるお前の家族が無事天の国へたどり着けることを」
「待って」

闇の書の足が止まる。苗はその表情を失った血濡れの顔で、闇の書に一言だけ言った。

「これ以上、誰も殺さないと約束して」
「・・・約束は守る」

闇の書はそれ以上何も言わなかった。そのまま彼女は空に飛び去り、後には真っ二つになったぽんずの亡骸と、顔の血を洗い流す水を両目からとめどなくあふれさせる苗だけが残った。

「ぽんず・・・私、これでよかったのかな?」

分からない。分からないけど、もう苗にはそれ以上物事を考えることが出来なかった。 
 

 
後書き
自分は死ぬことが怖いです。自分が死ぬことを想像すると体が震えます。身近な人を失うことも怖いです。そのことを考えると自分の過ごす時間がどれほど尊いか何度でも思い知らされます。
物語では人が死ぬことも良くありますが、自分にはそれを書く勇気がありませんでした。ゲームでも人が死ぬ選択肢を選ぶ勇気が出ず、一度も使う機会に恵まれなかったキャラクターがいるくらいです。が、今回勇気を振り絞って、キャラクターを殺しました。自分で書いて、自分で泣きました。やらなきゃよかったと軽く自己嫌悪しかけました。
都合のいい力を持っていても、それを使えば解決でしょうか?自分は「なんか違うな」と思います。

つまり何が言いたいかというと・・・エアコンが壊れて部屋が馬鹿みたいに寒いです((;д; )))ブルブル
だからこの涙は寒いのが辛いだけであって、まだ泣いている、訳では・・・ない、です。 
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