| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

同士との邂逅

作者:日月
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

二十二 道化を捨てた男

ハヤテの身体を慎重に地面へうつ伏せに寝かせる。
破璃が背中に突き刺さっている手裏剣を口で抜いているのを眼の端で確認した横島は、こちらをにやにやと眺める音忍達へキッと鋭い視線を投げた。

「なんだぁ?」
明らかに侮っている彼らの手前、痺れる両足を叱咤して横島は立ち上がる。

もう道化など必要ない。
仮面をかなぐり捨てて、横島は沸々と湧き上がる闘志を直情の赴くままに燃やした。


嘲るようにして笑う音忍達は彼の眼を見た途端、皆その笑顔を凍らせる。ゾクリとしたモノが背筋を這い、身体が強張った。

瞳の奥に深く濃い翳りが窺い見え、同時に得体の知れない恐怖がじわりと音忍達の精神を蝕んでいく。
目前の青年はただ静かに見据えているだけだというのに、彼らは思わず後ずさった。
(な…たかが一般人に恐怖だと…っ)

横島から感じた恐怖を打ち払うように手裏剣を構える音忍達。一方の横島は、ただじっと射抜くような視線を投げ続けている。

仁王立ちのまま静かに音忍を見据える彼の瞳は、憤怒の色で染まっていた。






緊迫した空気が流れ、両者は互いに硬直した姿勢を保ち続ける。緊張感が張り詰め、まるで互いの心臓の音が聞こえるかと思うほどその場は静まり返っていた。

その膠着状態を、バサバサバサッとどこかで羽ばたいたらしい鳥の羽音が破る。

刹那、手裏剣を横島目掛けて投げつける音忍達。ハヤテと同じくハリネズミになる青年の姿を予測して彼らは口角を上げた。





(……―――ああ。煩悩じゃなくて守りたいって気持ちに反応してるのか)

逆上しながらも頭の片隅で冷静な自分が呟く。ハヤテを守りたいという気持ち、そして暗部総隊長であるナルトを馬鹿にされたという思いが、横島の怒りを掻き立てた。

守りたいという願いと相俟って湧き上がってくる霊能力を身体の奥で感じる。同時になぜか額の奥が疼いたがそれには気づかず横島は手裏剣を構えるように腕を交差した。

拳の中で霊能力が集束されていくのを感じる。交差した手のそれぞれに、創り出したサイキックソーサーが現れた。それらを、忍者を真似て思い切り投げつける。
「ハッ、たった二枚で何が出来る!?」

複数の忍びから投げられた数多の手裏剣と二枚のサイキックソーサー。サイキックソーサーを単なる盾だと思っている音忍達は横島を嘲笑する。
だが彼らは次の瞬間、信じられないとばかりに目を見張った。


空中で手裏剣のように回転していたサイキックソーサーは回転するたびにその数を増やしていく。二枚だったものが四枚、四枚だったものが八枚……。その数はあっという間に音忍達が投げた手裏剣と同数にまで増え、空中で激突する。

数多のカキンッと搗ち合う刃音がその場で鳴り響いた。互いに空で衝突するごとに増えるその音は、地に伏せていたハヤテの耳にも届いた。


背中を手裏剣で串刺しにされ毒で朦朧としながらもハヤテは無理やり頭を起こす。そして翳む視界に飛び込んできた光景に動揺した。
空中で激突する手裏剣と青白い光を放つ盾。その盾がまるで分身するかのように増えていくその様に、超高等忍術である技の名がハヤテの脳裏にはたと浮かんだ。

(手裏剣影分身の術…………?)
ハヤテを守るように佇んでいる横島の背中が、誰かと重なる。
【手裏剣影分身の術】そのものを開発した三代目火影の姿が横島の背中を透かして見えた。

「三……代目…」


ぼんやりと翳んだ眼に火影の姿を見たハヤテは、思わずその背中に向かって呼び掛ける。
しかしその直後、自身の背中に突き刺さった手裏剣の痛みと身体中を駆け巡る毒により、彼の意識は遠退いていった。








カキンッ、と互いに刃音を打ち鳴らし地面に突き刺さる手裏剣とサイキックソーサー。

トトトッと地を串刺しにするそれら刃物を目の端で確認しながら横島はゆっくり後ずさった。手裏剣の多さに気圧されたかとほくそ笑む音忍は次第に一際大きい木まで彼を追い遣る。背中ごしに感じた幹の感触に横島は思わず後ろを振り返った。

その機を逃さず、間合いを詰めた一人が刀を薙ぎ払う。それを紙一重で避けたところを今度は別の音忍がクナイを放った。
サイキックソーサーでそれらを弾くともう一人が背後から首目掛けて手刀を打とうとする。それを避けるため咄嗟にしゃがんだ横島の頭部に向かって、音忍の一人が足を振り落とした。

その足を地面に転がることで回避する。そこへ続けざまにトトトッと手裏剣が横島の転がった後の地面に突き刺さった。急ぎ立ち上がろうとする横島の頭上を刀の刃がひゅんっと通り過ぎる。横薙ぎした刀は横島の髪を数本攫っていく。立ち上がっていたら首がとれていたことに背筋が凍るが、それ以上に横島の心は冷え冷えと冷めきっていた。

とにかく立ち上がろうと、横島は足下にサイキックソーサ―を出現させる。本来盾の役目をするそれを更に薄くし、サイキックソーサーの上に乗った彼は、スケートボードのように地面上を滑る。
忍者達から距離をとったところで立ち上がると、跳躍した音忍から飛ばされる上空からの手裏剣が行く手を阻んだ。突然足下に突き刺さった手裏剣に対し若干後込む横島。その隙をついて、音忍が彼の懐に入り、力を込めた膝蹴りを放つ。鳩尾を蹴られ、横島の喉がぐっと鳴る。その拍子に彼の足下のサイキックソーサーは掻き消えた。

蹴られた腹を押さえ悶える横島。その隙を狙って、もう一人の忍者が刀を振り上げた。それをなんとか[栄光の手]――霊波刀で受け止める。ギリギリと刃物同士で互いに押し合う。


刀に全体重を乗せてくる音忍に、徐々に押し負ける霊波刀。それを察した横島はわざと霊波刀を打ち消し、さっと身を引いた。自在に消える霊波刀に驚愕したのか忍者達の動きが一瞬止まる。

急に霊波刀がなくなったことで競り合っていた相手は前のめりになった。ザクリと地面に突き刺さった刃が鈍い光を放つ。
身を引いたことで刀は回避できたが、先ほど投げられた手裏剣に足が引っ掛かった。

ぐらりと転倒しかかる身体。しかしそのお蔭で、顔目掛けて放たれた回し蹴りをすんでのところで避ける。両足を踏ん張ることで持ち直した横島の視界に、地面から刀を抜こうとしている忍者の姿が映った。
すぐさま霊破刀を出現させ地面に突き刺さったままの刀に向かって薙ぐ。ガキンと真っ二つに折れた刃がクルクルと回転しながら空を舞った。

「チッ」
刀を使っていた忍者が舌打ちする横で、別の忍者が鎖鎌を手にする。投げつけられた分銅が霊波刀に絡まった。そのまま引き寄せ鎌を振り上げる直前に、横島は霊波刀を消し、逆に相手の脇腹目掛けて蹴りつける。しかしその蹴りは予想されていたようで相手はすぐに跳ね退いた。

上げたままの足に向かってクナイが数本放たれる。焦りながらも、器用にも横島は足の側面にサイキックソーサーを創り上げた。キキンッと弾いたクナイが地面に撃墜する前に霊破刀を出現させる。そして野球バットの如くそれらを打ち返した。

忍者達は跳ね返されたクナイを手に持つクナイで弾く。その隙に横島は頭上に向かって[栄光の手]を伸ばした。木の高所にある枝を掴み一気に上昇しようとする。しかしそれを見越していたらしい音忍が自身の持っているクナイを横島に向かって投げつける。

だがその動向を更に見通していた横島は、背後の木の幹に足をつけた。既に高所の木の枝を掴んでいる[栄光の手]のお蔭でなんとかバランスをとると、幹に突き刺さるクナイの反動を利用し、彼は跳躍した。
見事にクナイの軌跡を掻い潜り跳んだ横島は、重力に従い地へ落ちる前に[栄光の手]を剣に象らせる。
そして……―――。


「伸びろ――――――――――――――――――――っ!!」


霊力を注ぎ入れ一気に伸ばしたそれを、横島同様跳躍する音忍達の頭に向かって振り落とした。







「「「「ぐッ!!??」」」」

剣は刀と違い斬るではなく刺すことで本来の力を発揮する。振り落とすだけでは単に殴っただけだが、横島の目論み通りガンッと鈍い音と共に忍者達は地に叩きつけられた。

「チッ」
しかしその不意打ちで昏睡したのはたったの二人。残りの六人は【変わり身の術】を使って頭上からの攻撃を回避したらしい。地面に転がる木片を目の端で捉えながら、横島は上手く受け身をとって地面に降りる。


目の前で人が木片と入れ替わっても横島はさほど驚かなかった。驚愕する前に博識な三代目火影の記憶が脳裏に浮かんだからである。

木ノ葉に存在する全ての術を使いこなす事が出来たといわれ、プロフェッサーと謳われた火影の記憶。
彼の記憶から術や体の捌き方を得た横島は、それを参考に身体を動かす。
おかげで念願であった木から木へ飛び移るほどの跳躍が可能となり、手裏剣をサイキックソーサーに置き換えて投げつける事が出来たのだ。柔軟な思考であるが故の思い付きである。

それでいて横島は火影の記憶に引き摺られずしっかり自我を保っていた。あくまでも火影の記憶は手掛かりでありこの忍び達を退けるための足掛かりに過ぎない。そして知らずに彼は霊能力ではなくチャクラを使っていた。
木の幹に足をつけるなど、足の裏にチャクラを纏わせなければならない。練り上げたチャクラを必要な分だけ必要な箇所に集める事は熟練の忍びでも困難である。それを横島はあっさり行った。

元々彼は集束に秀でている。サイキックソーサーがいい例だ。故に足の裏という部位にもチャクラを集める事は彼にとっては容易かった。
尤も、今まで使っていた霊能力をチャクラに変換させるなど理論上不可能に近い。出来たとしてもそれは長い年月を要する。
しかしながらチャクラを開いた身ならばその話は可能となる。現に横島は自身の世界で一度だけチャクラを開いていた。


それは横島の人生上、一転機となった試験。そして霊能力者としての力に目覚めさせてくれた切っ掛け。
GS試験で横島の初めての師――[心眼]が開いた瞬間である。

眉間の少し上にあるチャクラは洞察力、理解力、直観力等を司る。そして同時に霊視を可能とするチャクラでもあるのだ。
GS試験の最中に[心眼]が消えてしまった際も横島は自分に自信を持てなかった。精神的に追い詰められていたために[心眼]が身の内にある事など気づきもしなかった。ある意味別人格のような存在だった[心眼]は、現に横島の心の眼である。

[心眼]とは物事の真相や要点を見分ける鋭い心の働きの事。そして額はチャクラを溜めやすい箇所のひとつ。
加えてそのチャクラを活性させるには祈りが有効であり、今現在横島は守りたいと祈りながら闘っている。こういった偶然の蓄積が車輪であるチャクラを回し、無意識に霊能力をチャクラに変換させているのだ。



横島の攻撃を避けた六人の音忍が地に伏した二人の仲間を見遣る。ようやく警戒の色を見せ始めた彼らは、横島から一定の距離をとった。一人の音忍が手早く印を結ぶ。
「【水遁・鉄砲玉】!!」

玉状の水がまるで弾丸のようにその忍者の口から吐き出された。当たればただでは済まないだろうその圧縮された水の球は、地に膝をつけている横島の顔面目掛け一直線に飛んでくる。

「サイキックソーサー!!」
膝立ちのまま横島は地面をダンッと叩いた。途端地面を叩いた手から六角形の盾が現れる。だが拳ほどの大きさの盾は横島の身の安全を保障するには小さすぎた。しかしながらその小さな盾に向かって横島は声を張り上げる。


「広がれ……ッ!」

刹那、拳ほどだった盾は等身大にまで拡大した。まるで騎士を護る盾のように横島の身を隠したそれは、直撃する水の球を防ぐ。これもまた、三代目火影の記憶上にある【土遁・土流壁】といった術の障壁を参考にしたものであった。

巨大なサイキックソーサーを突き崩せず、鉄砲玉は破裂した。


「防いだだと!?」
「油断するな。一気にかかるぞ」
破裂した際にその場に飛び散る水飛沫を浴びながら、音忍の一人が更に印を結ぶ。

「【霧隠れの術】……」

うっすらとその場に濃霧が立ち込め始めた。視界が悪い中で仕留めようというのだろう。
しかしながらある意味[心眼]が開眼している横島は今や感覚が研ぎ澄まされていた。

手を前に翳し額に力を込める。すると先ほど忍者達の手裏剣と激突し地面に突き刺さったサイキックソーサーがクルクル回転し始めた。
そしてまるで意思を持ったかのように音忍達目掛けて飛んでいったのである。

「チッ!甘いわ」
けれど音忍というだけあって彼らは音に敏感であった。濃霧を切り裂くように向かってくるサイキックソーサーを尽く叩き落とす。
視界が悪い中、音忍は確実にサイキックソーサーを回避しては払いのけていた。とその時、音忍の一人目掛けてサイキックソーサーが真正面に飛んで来る。それを危うげ無く回避しにやりと笑う音忍。

しかしそんな笑みを浮かべる彼の顔に影が落ちる。はっと見上げた音忍の瞳に横島の姿が映った。

「なっ!?」

サイキックソーサーをまるでサーフィンボードのように乗りこなす横島が、右手に創った霊波刀を振るった。
斬ったり刺すのではなく、音忍の頭をただ殴りつける。思い切り殴打され地面に叩きつけられたその音忍は意識を失う。どさっと倒れた音が、他の音忍達の耳に入った。


しかしながら音は聞こえども彼らの視界は濃霧で覆い尽くされている。先手をとったつもりが逆に仇となったか、と【霧隠れの術】を発動させた仲間に対して音忍の一人は悪態を吐いた。

聴覚を鋭く研ぎ澄まし、彼はクナイに手をかける。深い霧に紛れて微かな音が聞こえたのだ。
音がするほうを窺っていた音忍は、案の定霧を切り裂くように飛んできたサイキックソーサーを敏捷な動きで避ける。だが避けたサイキックソーサーの上にはまたもや横島が立っていた。
「なに!?」

器用にも飛ぶ盾の上に足をつけていた彼はサイキックソーサーから跳び降りる刹那、霊波刀を振り落とす。それをクナイで受け止めた音忍は全体重をクナイに乗せた。
クナイと剣の押し合いは剣のほうが有利かと思えども、戦場を駆け巡った音忍のほうが力は上だった。

「く…」
苦悶の表情を浮かべた横島に音忍が一瞬気を緩める。だが次の瞬間、横島はおもむろにその場にしゃがみ込んだ。刃物同士の押し合いを力の限りしていた音忍は相手が蹲ったため前屈みになる。
そんな彼の額を、後ろから横島の頭上を突っ切ってきたサイキックソーサーが掠っていった。
「がッ!?」

六角形の鋭い切っ先が音忍の額の皮一枚を切っていく。たらりと額の切り傷から流れる血が音忍の眼の中に入った。その隙を狙って横島は再び霊波刀でその音忍の頭を殴る。
視覚を一時失っていた彼は呻き声を上げ地面に倒れ伏す。本当に気絶したかどうかを確認しようとその音忍に横島は近づいた。
だが他の音忍が、横島の背後に忍び寄り刀を振り上げる。


「サイキック猫だまし!!」
「うっ!?」

後ろの気配に気がついた横島は、自分目掛けて刀を振り下ろす音忍の眼前に向かって両手を打ち鳴らす。濃霧の中を一瞬閃光が駆け抜けた。
両手に霊波を放出しながら相手の鼻先で手を叩き、目を眩ませるという、[栄光の手]の応用技である。

目眩がし、足下が覚束ないその忍者を先ほどの音忍同様気絶させようとした横島だが、何時の間にか接近していた他の音忍の投げてきた手裏剣に阻まれる。

急ぎそちらのほうに霊波刀を身構え、それら手裏剣を弾き返す横島。どうやら見えない角度から手裏剣を投げてきたようで相手の姿は全く見えない。そろそろ視覚の働きを封じるこの霧を鬱陶しく感じて、横島は地面のあちこちに散乱して突き刺さっているであろうサイキックソーサーに集中した。

「……弾けてまざれっ!」

花火を打ち上げるように握っていた手をぱっと開く。途端、そこら中で爆発音がした。あちこちで軽くではあるが爆発するのは、最初に音忍達が投げてきた手裏剣と激突したモノである。

盾ではあるが投擲する事で攻撃出来るサイキックソーサー。触れれば軽い破裂音と共に爆発する。
ならばその場で爆発させる事も遠隔操作出来るのではないか、と横島は考えたのだ。


「爆薬か…何時の間に仕込んだんだ!?」
だがサイキックソーサーが爆発しているとは思いもよらぬ音忍は横島が地中に地雷でも埋め込んだのかと勘違いする。下手に動かぬほうが良いと判断し直立不動の体勢をとる彼らをよそに、横島は[栄光の手]を伸ばし高所の木の枝を掴んで上昇した。木の太い枝に乗って眼下の状況を把握する。
爆発により撒き上がった白煙が逆に霧を吹き飛ばしていた。

朦々と立ち込めた白煙が、霧とは違い、中にいる人の影を映し出す。
その影がいる位置に向かって、横島はサイキックソーサーを投げつけた。
いきなり上から来るとは思わなかったのだろう。当たったらしい二人が倒れていくのが見えた。だが他の忍者は紙一重でかわしたようだ。

「…ッ、貴様っ!!」
上にいるとすぐさま知った音忍が跳躍する。だがそれを見越して横島は跳躍して来た音忍目掛けて霊波刀を振り落とす。
「くそっ!」
かなり焦った風情の音忍が空中で霊波刀をクナイで受け止めた。落下速度と全体重を統合した横島の力に押され、音忍は酷く苦々しげな表情をする。

だが地面に足がついたと感じた途端、彼はそのまま仰向けに倒れ、横島を巴投げした。投げ飛ばされた横島はそのまま受け身もとれず、木の幹にぶつかりそうになる。背中にくる衝撃に耐えようと身構える横島。だが幹への衝突は、突然割り込んできた破璃によって免れる。


ハヤテが助けに来てくれた時と同じく破璃が襟首を掴んで助けたのだ。咳き込みながらも礼を言う横島を慎重に地面に降ろす破璃。
ほっとする横島目掛けて、巴投げをした音忍が再び攻撃しようと印を結び掛けた。それを察した破璃が、その音忍に体当たりする。

破璃の鋭い牙に怖れをなしたか、彼はあたふたと逃げようとした。だが破璃は服を咥え、軽々と音忍一人を持ち上げるとそのまま投げ飛ばす。投げ飛ばされた音忍は、横島が激突するはずだった木の幹にぶつかり、気絶した。


地に伏す仲間七人の姿を見渡し、旗色が悪いと感じたらしい最後の音忍が跳び上がった。
それを逃がすまいと音忍の足を[栄光の手]で掴んだ横島は、そのままその音忍を地面へ引き摺り落とす。

地面に激突した音忍が痛みで顔を押さえている隙に、彼の上に馬乗りになった横島はその音忍の喉元に霊波刀の切っ先を突き付けた。









「………………」

無言で霊波刀を突き付ける横島に対し、音忍は自嘲の笑みを漏らす。

「……間抜け面と言った事は詫びよう。お前は大した男だ…―――――――――――殺せ」

生を諦めた昏く虚ろな瞳でそう告げた彼の顔を、横島は静かに見下ろした。視線をその音忍に向けながらも、注意を周囲に向ける。

そこら中で蹲っている音忍達の皆が呻き声を上げているため死者は一人もいないようだ。それを認めた横島は心底安堵した。
(誰も、死んでいないな…)

逆上しても横島は相手を気絶させるだけに止めていた。ナルトがいれば甘いと言われるだろう。それでも横島は命の大切さを知っているからこそ、たとえ敵であってもその命を取る事は良しとしなかった。


音忍の上に跨って、霊波刀の切っ先を突き付ける横島。
だが彼からは殺気など微塵も感じない。また、最初に感じた得体の知れない恐怖も今はない。
それらから自身を殺す気が無いのだと察した音忍が口を開いた。
「なんだ?殺さないのか?」
挑発するようなその物言いに横島は眉を顰める。

彼の脳内で、「忍びは殺るか殺られるかの世界に生きています。甘さは必要ないんですよ」とハヤテの言葉が思い出される。同時に忍びである火影の記憶が、油断するなと囁いてきた。

だが横島は音忍の言葉に頭を振った。
「べつに、アンタ達を殺したいとは思っていない。クナイについてた毒の解毒剤置いてさっさと行ってくれよ」

ハヤテの身体を蝕む毒を考慮して横島は言う。元々彼は音忍達を殺す気など更々なかった。ただハヤテを守りたい、ナルトを馬鹿にされて腹が立った…それが横島の闘う理由だった。

横島の言葉を聞いて、音忍は懐を探る仕種をする。解毒剤を受け取るため横島は手を伸ばした。解毒剤に気を取られていた横島は、音忍の口元が弧を描いたのに気づかなかった。


ぎゃんッ!

破璃の鳴声で思わず気が逸れる。クナイで前脚を斬りつけられた破璃の姿が視界に入った。
どうやら先ほど本当に気絶したか確かめなかった音忍が破璃にクナイを投げたようだ。そのどす黒い傷跡から、自身やハヤテと同じく毒つきクナイで斬られた、と察した横島は、破璃を更に傷つけようとする音忍目掛けてサイキックソーサーをぶん投げる。横島のほうへ注意を向けていなかったらしいその音忍はあっさり気絶した。

ほっと安堵する。しかしそれが命取りだった。


「………ッ!?」
音忍が解毒剤を取り出すふりをしてクナイを出す。そしてそれを横島の顔面目掛けて鋭く振るった。
あわやというところで横島はそのクナイをかわす。だが、チッという音と共に頬に鋭い痛みが走った。

頬に出来た切り傷から一筋の血がゆっくり流れ、若干口内へ侵入する。僅かな塩辛さと鉄臭さが舌の上でぬるりとした。熱くも冷たくも無く、ただ温い。


「甘えんだよ!その甘さが命取りだッ!!」

勝ち誇ったように音忍は叫び、再びクナイを振り上げた。跨っていたはずが逆に跨れ、状況は寸前とは一転した。
切っ先に横島の血を滴らせたクナイがギラッと鈍い光を放つ。


形勢が逆転し、横島の上で馬乗りになった音忍が高らかに嘲笑った。横島と違いその瞳には確かに殺気が宿っている。
振り下ろされるクナイの切っ先。それがやけに緩慢な動きに見え、横島は内心自嘲した。




(――――ナルトの言う通り、俺は忍びには向いてねえや……)

破璃が一際大きく鳴いた。その鳴声がなぜか嬉々としていたため、今正にクナイで喉元を掻っ切られそうになりながらも横島は疑問を抱いた。
























「眼、閉じてろ」

刹那、横島の視界の端を金色が掠めていった。
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧