少年は旅行をするようです
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
少年は加速するようです Round2
Side 愁磨
――【YOU WIN!!YOU CAN UP TO LEVEL 2】
「フ、フフフフフ………ようやく、ようやくレベルが上がるわ……!!」
「うーんうーん、頭痛いよぉ~……。水………。」
リアル時間で五時間、ようやくレベルが2へ上げられる状態になる。その間ぶっ続けで戦わされた俺は、
台所へ涼と潤いを求めに向かう。
2対2ばかりは当然出来なく、1対1もフルに使い、さっきの戦闘で得た25ポイントで合計215ポイント。
―――元々常人などが相手に出来る俺たちではないとはいえ、そこは脳の速度も重要な世界。
俺達のアバターのポテンシャルが初期故の低さと言う事もあり、なかなかスリリングな戦いが楽しめる。
1~3にも筋のいいのが多く、4~5辺りになると、常に攻撃を当てても相手が防御重視でなくとも、
削り切れないどころか4~5割残す事もしばしば。そのせいでノワールはヒートアップ、修羅の如く。
「シュウー!あなたもさっさとレベル上げちゃいなさーい!今日中にLv3まで上げるんだからね!」
「はいはい………。」
急かされ、レベルアップボーナスを見つつ居間に戻る。
攻撃力・速度・防御力などの基本値は勿論、状態異常攻撃減少値・耐斬属性値だの、耐液体攻撃値まで、
多岐にわたる値が示されている。尤も、これらはLvアップで増える物であってステ振りは出来ないのだが。
そして、それを横にスクロールすると、オウカのステータス画面になる。が、ボーナス値を入れる事は出来ない。
試しに俺のステータス画面で必殺に振ってみてオウカの画面を見ると、何故か経験値が入っている。
振った分から逆算すると1ポイントで23/100だ。
ステータスも同時に上昇してはいるが、絶対値が低いのでレベルで現すと0.2と言った感じだ。
「ん~、ならまずは必殺を6上げてレベルアップ!後は必殺ゲージ使用量減少……いや、"併用能力"習得に
3するか。で、残りは必殺ゲージ上昇率アップ……ん?」
「随分あの妖精……オウカちゃんに注ぎ込むのね?」
「んー、オウカにもレベルあるのが気になるんだよなぁ。と言うか、項目が増えた。」
俺、"ティアシェ・フェアリィ"側のステータス欄に、"召喚物"の項目があるのだ。
そこに前からあった"ブースト"、"シールド"、"テンタルカノン"、"併用習得"、"使用ゲージ減少"の他に、
新たに"アクセル習得"と"ナイト・フェアル・バスタード"の項目が追加されていた。
残念ながら"アクセル"の方は効果を見る事が出来ないので、残ったポイントで7割ほどまで習得させておく。
「ちょっとシュウ、ここだともう対戦受けてくれないわぁ~。さっきから10人くらいに断られるのよぉ~?」
「マジか。仕方ない、場所移すか………。」
試しに、マッチングリストから適当に選び、対戦、Yes・・・・・あ、拒否された。
そう言えばここって、どこに該当するんだろう?
「(……そうだ、杉並の辺り行っちまおうか。)それじゃ、行くぞ?」
「はーい。」
―――パシュゥ!
ノワールが手を握るのを確認し、杉並に該当する地区へ転移する。と、出た所は図書館島だった。
人の来ない所もあるし、長時間過ごすには丁度いい。
「それじゃ、『バースト・リンク』。………あら、Lv9が居るじゃない。じゃあこの人にしましょ。」
「つーても……。」
「………断られたわ。」
事情を知ってる俺は仕方ないと苦笑ったが、ノワールはそうはいかなかったようだ。
折角対戦出来ると思った所を、いきなり断られたのだ。当然か。
「この、この、このぉ~!」(ガガガガガガガガガガ!
「あ、ちょ、ノワール。落ち着けって!」
空中を連打するのを、羽交い絞めで何とか止める。が、当然納得いかないようだ。
「ムカついたわ、直接文句言ってやる。」
「へっ?」
「『転移』!!」
―――バシュウッ!
止めるひまも無く転移してしまうノワール。慌てて追いかけ、事情を説明する。
「……先に言えばいいのよ、そう言うのは。」
「暇が無かったもんでなぁ!!」
「と、言う訳で~。(パチンッ)―――どう?似合うかしら?」
指パッチン一つ、ノワールは一気に中学生まで若返り、梅里中の制服に身を包んでいた。
・・・いや、似合うけどさ。
「ほら、ちゃっちゃと着替える!」
「マジかぁ……。チェンジ、初期モード。」
小学生かと見紛う、最初の姿に戻る。『家』のタンスから制服を取り出し、着付け、戻る。
「さ、行こうか。」
「………………ナチュラルに女子の制服なのはツッコミ待ちなのかしら?」
「え?に、似合わない、かな………?」
「似合ってるわよ!全く………。」
特大の溜息をつき、堂々と校門をくぐるノワールに、走って並ぶ。
既に放課後である為、生徒の目はがっつりこちらを向いている。それもそうだろう。
先陣切ってるノワールは明らかに中学生然としておらず、ここにいらっしゃるであろう黒雪姫さんと
ベクトルは違えど絶世と十二分に呼べる美人。そしてその横にちょこんといる真っ白な髪の俺。
「で、どこに居るのかしら?その黒……なんとかって人は。」
「えーっと……って、しまった。気配分かんないや。
うーっと………。すいませーん、黒雪姫先輩ってどこに居るか知ってますかー?」
近くを歩いていた生徒に走り寄り、聞きだす。どうやら生徒会の人だったらしく、一発で分かった。
「帰ったって。」
「えぇえ~、そんなぁ。ほら、追いかけるわよ!何とか気配見つけなさい!」
「仕方ないなぁ………どっかにあった筈。」(ゴソゴソ)
『王の財宝』の中に入れてあった筈の気配探知機を探る。
対象の名前、本名を入れれば確実なのだが、生憎黒雪姫さんの名前は知らない。
今が物語のどの辺りなのか分かれば、ハルユキ君の名前でも良いのだが。
「あ、あったあった。えーっと、く、ろ、ゆ、き、ひー、め。居る。結構近いじゃん。」
「よし、早速追い掛けるわよ!!」
「ちょ、引っ張るなって!俺が先に行かないと分からないだろ!?」
ゲーム内では出来なかった、ピョーンとひとっ飛び。普通逆だろ、と言うツッコミは狗の餌。
そして見つけたのは・・・・仲良く帰るまるっこい生物と、綺麗な黒髪の子。
「ク、ククククク………もう逃げられない、もう逃がさない。もうどこにも逃げられないわよぉ!」
「怖いっす、ノワール様。あと悪役っぽいっす。」
「うるさいわよ。『バースト・リンク』!」
ほぼ同時に叫ぶと、ピピピ・・・とデスクトップを操作するノワール。
そして・・・・ダンッ!と机を叩く。(無論、そんな物無いが)
「「『バースト・アウト』!」」
「む、またか。」
「センパイ?どうかしましたか?」
「さっきから、Lv2の奴がやたら対戦を申し込んで来るのだよ。」
「あ、ああ、そう言えば、言ってましたね。一回くらい戦ってもいいんじゃ、ない、ですか……?」
「それもそうなのだがね。そう簡単に戦える相手だと思われても困るのだよ。」
「は、はぁ………。」
前を行く二人は、そんな会話をしている。それを聞いているノワールはプルプル震え――爆発した。
「そこの黒髪小娘!もっともらしい事言ってるけど、結局逃げてるだけじゃないの。卑怯者!」
「ほぉぅ………?」
ズビシィ!と指差し、大声でのたまったノワール。
ユラァ・・・とこちらを振り向き、満面の笑みを浮かべる黒雪姫さん。
隣のハルユキ君は・・・可哀相に、真っ青になって震えあがってる。
「そうか、君が"ラギア・レリクト"か……。
リアル割れも辞さないとは見上げた根性だが、随分な口を聞いてくれるな?」
「はんっ、小娘に小娘と言って何が悪いのかしら?
初心者相手に対戦拒否しまくってる王とは。呆れを通り越して憐れだわ。」
「あわ、あわ、あわわわわ……あぶ、あの、あじゃばばばば。」
「まぁまぁ、ゆったり見守りましょうよ。」
「えっ!?あ、え、あ、はぁ……。」
落雷かと思いそうな火花を散らす二人を迂回し、ハルユキ君の隣に立つ。
めっちゃ緊張していらっしゃるんだけど・・・あ、見た目女子でしたね、今。別にいいけど。
「フッ。私とて、我慢強い方では無くてね……!!」
「ウフフ、最初からそう言っておけばいいのよ……!!」
「「『バースト・リンク』!!」」
―――バシィッ!
「あぁあぁあぁぁあぁあぁぁ、どうしよう!?どうしよう!?」
「いいじゃないの。格ゲーですよ、ただの。」
「ま、まだLv2のあなたには分からないでしょうけど、このゲームは……。」
「しらなーい。そんなつまらない事聞きたくなーい。」
ハルユキ君がハグゥッ!と仰け反ったのを合図に、こちらも勝手に"加速"する。
二人並んでデュエルアバターとなり、ビルの上に俺達だけでなく無数の影も現れる。
――【FIGHT!!】
「ロータスがLv2と戦うって、マジかよ!?俺と戦ってほしいくらいだぜ!!」
「つーか、何考えてんだ?あのLv2。勝てるわけねーっつの。」
「お前ら、知らないのか?あの"ラギア・レリクト"とか言うの、つい数時間前までLv1の、
しかもニュービーだったんだぜ?」
「ハァ!?んな、マジか?」
恐らく、俺達をリストに入れたのであろうプレイヤーの言葉に、周囲のプレイヤーも口々に驚きを表す。
同じく、俺の隣にいる銀色の細見なアバターもギ・ギ・ギ・・・と言った風にこちらを見る。
「……あの、ホントですか?」
「んー?ホントだよ。ついでに言うと俺も。」
「あ、あはははは。そうですか。」
ガックゥとうなだれるハルユキ君。この子、二週間くらい死に物狂いで頑張ったらしいからね。
仕方ない。あっはっはっはっは。
ドガアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!
「ハッ、えらぶった割には動きがのろいぞ、ラギア!!所詮はニュービーだな!?」
「そのニュービー相手に何秒かける気なのかしら!?下品な武器ぶら下げて、偉そうに言わないで欲しいわね!」
ガギィン! ガギィン! キィキィン! キキキキキキキン!!
「ひ、ヒィィィィ………。」
「へぇ……本当に強いね、あの黒い子。」
さっき、ノワールはレベルアップボーナスの半分以上を武器の強化に回していた。
それにより武器の能力である"槍王の加護"が習得可能になり、当然習得。速度と攻撃力も上がっている。
そのお陰か、殺陣の余波で双方のHPが減って行く。
と言っても、ノワールは既にHPが1割5分も減っているにも拘らず、黒雪姫さんの方は4~5%も減っていない。
「せ、センパイとまともに切り結んでる……!!Lv2の人が………。」
「ジリ貧、か……。流石に勝てないか。」
「こ、の!≪ランス・プロビネンスト≫!」
俺の声が聞こえたかのように、ノワールが剣を振り抜き、無理矢理のパリィで距離を離させる。
そして、この対戦では初となる技名のコール。6本の槍がノワールの背後に浮き、相手に向き滞空する。
更に連続して技名を叫ぶ。
「≪バラッド・ランス・ライトネス≫!!」
「ぬっ……!?」
持っている剣を突き出すと、神速と言える速度で纏っている炎が伸び、槍の様に相手に襲い掛かる。
届かない攻撃と思い意表を突かれたのか、一瞬黒雪姫さんの動きが止まる。
が、両手をクロスさせいなすと、そのままノワールに――
「甘いわ!」
ドスッ!
「がっ!?」
黒いアバターの腕の付け根へ、槍が深々と突き刺さる。避けた方へ、滞空していた槍が放たれていたのだ。
最初に叫んだ≪ランス・プロビネンスト≫は、"自分の攻撃に接触した敵に対し、一撃につき一本ずつ槍を飛ばす"
と言ったものだ。攻撃を避けたのなら槍は飛んで行かないし、いなしただけなら槍を避けられただろう。
しかし突進した為に避けられず、更には低レベルの攻撃がクリーンヒットする形となった。
「普段なら当たらなかったろうなぁ、あれくらい。」
「え、ええ……って、その為に怒らせて!?」
「いや、文句言ったのは素。」
見ると、さっきまで殆ど減っていなかったHPが、一気に1割以上も減っている。
レベルが違うと言っても、上手い事当てれば削れる事は削れる。
「やるじゃないか……!≪デス・バイ・ピアーシング≫!!」
「見え見えよ!」
―――シャキンッ!
「しまっ「≪ライトニング・サークル≫!!」」
ババババババババババ!!
ノワールと同じ様に伸びてきた剣をあっさりかわすと、残っていた六本の槍が黒雪姫さんの周りに落ち、
同時に雷が落ちる。技自体がLv1となんら変わらない為ダメージは5%程度だが、問題は麻痺時間。
少なくとも、2~3秒は動けない。
「まだまだ、ここからよぉ!≪ランス・プロビネンスト≫!はぁぁぁああああっ!」
ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!!
そこに、剣での乱撃が叩き込まれる。更に剣がヒットする度に、滞空していた槍も次々と射出される。
HPがゴリゴリと減り、5割程度になり―――
「―――≪デス・バイ・エンブレイシング≫!!!」
ザンッ!
「くっ!?」
いきなり、技名が轟く。鋏の様に煌めいた剣をノワールは辛うじて避けはしたが、持っていた剣は断ち切られ、
半分以下の長さとなる。
「侮っていた、よ……。まさかLv2にここまで良い様にされるなんてね。」
「フン、油断大敵って昔から言うでしょう?」
「ああ、改めて肝に銘じておくよ。さて、たーっぷり必殺ゲージも溜めて貰った事だし……。」
キィィィィ―――!と両手の剣だけでなく、両足までが光り出す。そして、高らかに技名が轟く。
「≪デス・バイ・ダンシング≫!!!」
ギャギャギャギャギャギャギャィィィィィィィィィン!!
「こ、のぉおおおお!」
壮絶な、両手両足の剣による乱舞。それをノワールは全て受け切った・・・・様に、見えた。
立ち位置が代わり、二人が剣を振り抜いたまま止まる。
―――次の瞬間、ノワールのHPがギュゥン!と凄いスピードで減って行く。
「そ、んな………!」
「残念だが、これをただ受ける事は不可能なのだよ。」
ノワールはドッ、と膝をつき、そして――――
「生意気、ね……。」
パキャァン―――
HPが0になり、蒼黒のアバターが結晶が砕け、対戦は黒いアバターの勝利となった。
………
……
…
「全く……何よ、あの攻撃は。全部受けたと思ったら、全部剣も槍もすり抜けて来たわよ。」
「………あれは剣が三段に増え、約2秒間に24発の攻撃を叩きこむ技だ。
剣を受けられると一段ずつ減るが、その受けた剣なり盾なりをすり抜け、本体に攻撃を叩きこむのだ。」
「ふぅん、『エセリアルシフト』の上位版って感じかな。それ、レベル何の技?」
「アレはLv7の技だ。まぁ、君達には相当先の話だ。」
「フン、見てなさい。来月にはLv8くらいには……。」
対戦終了後、ハルユキ君の"好意"により、彼の家にお邪魔した。・・・ホントだぞ?好意なんだからな。
そこで、紅茶を飲みつつブレイン・バーストについて話した。
話を総合するに、今はどうやらビッ・・・チユリがバーストリンカーになった、少々後らしい。
「さて、私はそろそろ失礼するよ。明日から修学旅行だしね。」
「あ、そ、そうですね。えーと………。」
「あら、ごめんなさいね。それじゃ、私達も帰りましょうか。」
「んー、そだね。その前に、えいっ。」
ぷすっ
「へ………?」
黒雪姫さんが帰ろうとした所、ハルユキ君が送ろうと席を立つ。
そして、その隙だらけのニューロリンカーに直結してやる。無論、その理由は―――
「『バースト・リンク』♪」
―――バシィッ!
折角の飛行型と戦う為だ。
Side out
Side ハルユキ
センパイを送ろうと立ち、送ろうとした所で・・・謎の二人の方を見る。
と、お姉さん(?)の方が気を利かせてくれて、同じように立つ。
そして、何を血迷ったのか妹さん(?)の方は立つと、僕に直結してくれやがり、そして―――
――【FIGHT!!】
「なんで!?どうして!?」
「えーっ、折角なんだから対戦くらいしとかないと、ねっ!!」
ビュンッ!
「うわわっ!?」
頭を抱える僕を一切無視して、殴りかかって来る。それを何とか避け、仕方なく対戦の思考に切り替える。
避けた手をそのまま掴み、投げ飛ばす!
「おわわ、っと!!」
ゴッ!
「ガッ!?」
背負い投げの要領で投げ飛ばすと、手を離した瞬間ネコの様に空中でクルンと回り、そのまま蹴りを放って来る。
ど、どんな運動神経してるんだ!?
「あたぁーー!!」
「どわっ、でやぁ!!」
着地したしゃがんだ状態で放たれる足払いを軽くジャンプして避け、ライダーキックを撃つ。
「あ・ま・い・ぞーーーーー!!でりゃあ!!」
「うわぁぁああぁああぁあああああああ!!」
ドッガアアアアアアアアアアアアアアアアア!
当たる!と思った足を掴まれ、一回転。ジャイアントスイングの様に投げ飛ばされ、建物に激突する。
チカチカする頭を振り、何とか立ちあがる。
「(以外と力がある……!けど、純粋な近接格闘しかしてこない……?)」
「はぁああああああッッ!!」
「ッ!っだあああ!」
ビュンッ!
思ったよりも破壊ボーナスが入り、必殺ゲージが溜まる。
向こうから同じくライダーキックして来たのを高速でフィンを広げ、1m程急速上昇して避け、そのまま外へ
出て限界まで上がる。避けられた妹さんは当然建物の中へ突っ込んで行った。
「あったたた………。」
建物からガラガラ音を立てて出て来るほぼ白いアバターを確認し、急降下!
ゴォッ、と耳の横で風が唸り、すぐに地上へ到達する。
「せっりゃああああああああああああああああああああああああ!!!」
「あっ、くぅ!?」
ドッガアアアアアアアアアアアアアア!
急降下して来る僕の姿を見つけ、左手の円盤――恐らく盾――を翳して防御するも、
トラックに轢かれた様に吹っ飛んで行き、さっきよりも激しく建物に突っ込んで行く。
HPバーを見ると、こちらは2割減り、あっちは6割以上減っている。
が、必殺ゲージはこちらが2割程しか溜まっていないが、あちらは既に100%近く溜まっている。
ドガァ! バゴッ! ドッガァァア!!
「うわっ!?」
「―――――やってくれるなぁ。」
苛立ちからか、必殺ゲージの残りを溜める為か。建物の中を壊し、姿を現す"ティアシェ・フェアリィ"。
あ、あれがニュービーの出せる気迫!?
「いっとくけど、ここからが本番だからな!≪サモン・フェアリィ≫!!」
―――キュリィン ポフン!
「お、おお?」
ビキビキッ、と青筋を立て、どんな必殺を撃って来るかとビクビクしていると。可愛らしい音と共に出て来たのは
これまた可愛らしい妖精。それもデュエルアバターの様な姿ではなく、RPGに出て来るような。
『よくもやってくれたわね、銀ピカ!主に怪我させた罪、贖うと良いわ!』
「え゛、おお?」
「行くぞ、オウカ!」
『Ja. meister!』
二人とも両手を上げピコピコ怒っている所を見ると、何ともほんわかした気持ちになったけれど、数秒後、
その判断が間違っている事を思い知らされる事になる。
「≪テンタル・カノン≫!」
『はぁぁぁぁあああっ!』
ドォオオオン!
「うぉわっ!?」
妖精の方から時間差で飛んで来たビームを、何とか避ける。時間差、と言うよりチャージに時間がかかっている
みたいだったな。と下を見ると、避けられたのを怒ってまたピコピコ飛び跳ねていた。
「いや、怒られても困るんだけど………。」
「だったらさっさと降りてこーーい!!ヒョーロク玉!」
『そーよそーよ!この意気地無し!』
・・・・・今一つ納得出来かねるけれど、このまま滞空し続けてもいずれゲージが尽きてしまう。
なら、その前にHPを削り切ってしまわないといけない。
「ならっ……!はぁぁあああああああああああああああ!!!!」
「やぁぁっと来たね!下がってて、オウカ!」
『はーい!なんてね、≪テンタル………!!』
コールを聞いた瞬間、降下する翼を止めそうになるけど、アレは時間がかかるし・・・・
放たれる前に、妖精の方を撃ち抜ける!
「ぜりゃあ!!!」
『ひゃぁう!?』
拳を振り上げたところで、ビクッと頭を庇う小さなその姿に一瞬、攻撃どころか移動にすら意識が行かなくなる。
「ス・キ・だ・ら・け!!」
ドンッ!
「ふぎゃっ!」
空中に浮いた状態、つまりどうぞ好きにしてくださいな状態。
その格好のタイミングにこれでもかと捻った回し蹴りが入って、グルグルと回りながら吹っ飛んで行く。
『こ、こ、こ……!!≪テンタル・カノぉおおぉぉぉぉおおおおおン≫!!』
ドゴオオオオオオオオオオオ!!
「ウギャッ!!」
技名のコールを聞き、何とか低空で止まった所で今度こそビームが僕の胴体を貫く。
・・・けれど、思ったよりも痛くない。見てみると、HPも1割程度しか―――
「って、う、動けない!?」
「≪ブースト≫!!せっっりゃあああああああああああああああああああ!!!」
ドゴッ ガッ ドッ! ボゴッ ドガガガガ!!
「がっ、ぶっ、べっ!?」
「この、この、この、このぉ!!」
『てい、てい、てい、てぇい!!』
倒れて動けない僕を踏みつけ、殴る、殴る、殴る!
妖精の方はと言うと、瓦礫から持って来た鉄パイプ(?)で殴る、殴る、殴る。
思ったよりも攻撃力があって、HPはゴリゴリと減って行く。その分、ゲージはモリモリ溜まって行く。
「っっっっだああああああああああああああああああああああああああ!!!」
ドヒュンッ!
「あっ!また逃げた!!」
「そりゃ逃げるよ!!」
見ると、ビームを食らった時点でも7割少々あったHPが、既にレッドゾーン、2割少々しか残っていない。
にしても、必殺の方が攻撃力低いと言うタイプは中々珍しい。効果は異常な強さを持っていたけれど。
「ふーん……なら、Lv2になって新しく加わった必殺、喰らうが良い!≪ナイト・フェアル・バスタード≫!」
『よぉーーっし!』
魔法少女の変身よろしくビカビカーーッ!と光り、妖精に装備されていたアーマーが黒銀から白銀に代わり、
デュエルアバターについていた盾の一片が外れ妖精の手へ装備され、右手についていた長方形の中から、
20cm程のナイフ・・・妖精からしたら大剣が射出され、それを持つ。
『オウカ、騎士もーっど!』
「よーし、やったれー!!」
『主はそこで高みの……下だけど、高みの見物しててくださいね!』
ビュンッッ!!
「ぅおわっ!?」
フル装備になった妖精は急上昇して来て、剣を振り上げる。
空中で接近戦なんてされた覚えは無かったから、慌てて避けてしまったために、姿勢を崩す。
なんとか反撃するけど、目標が小さくて攻撃が当たり難い・・・・!!
「くっ……!!」
『もー、当たりなさいよ!ちょっと痛いだけだから!!』
「嘘だ、絶対嘘だ!!」
剣が重いのか、攻撃速度自体は速くない為何とか避けられるけれど、こっちの攻撃が当たらない程の
至近距離に張りつかれる為、反撃も中々出来ない。
「(こうなったら、急降下して本体を叩くしかない!!)」
ビュビュッ!
『あっ!?主!!』
全速でスウェーし、そこから急降下!
妖精は置き去りにされ、本当に高みの見物をしていたティアシェはゆっくりと立ち上がる。
「随分余裕だな!!」
ズガガガガガガガガガガガガガガガガ!!
「まぁね!!」
余裕なティアシェに空中コンボを始める。頭上からのラッシュ、後ろに回って踵落とし、回し蹴り、
そのままラッシュ!しかし、それをもあり得ない様な速度で受け、流し、反撃すらして来る。
「フフッ♪」(ガシッ!
「なっ、しま―――『とりゃあああああああああああああああああ!!』」
ズンッッ!!
両腕を掴まれ、そのまま投げられるかと思ったけれど、空から降って来た妖精に背中を刺される。
ナイフが深々と刺さり、HPが残り5%程度になり―――
「『せっやあああああああああああああああ!!』」
ドドガッ!!
「が……。」
蹴りと斬り上げで、残りのHPが吹き飛んだ。
………
……
…
「うう………。」
「わーい!勝ったー勝ったー!!」
「な、なんなんだ、この子は……?」
「楽しむ事はいい事よね、ええ。」
対戦が終わると、絶対零度の視線を投げかけて来るセンパイだったけれど、
飛び跳ねるティアシェさんを見て僕がガックリ膝をつくと、困惑した表情でラギアさんと話していた。
「それじゃかーえろ♪バイバイ、二人とも。」
「あ、ああ。それではな。」
「さ、さようなら……。つ、次は勝ちますからね!」
ケタケタ笑いながら去って行く妹さん、クスクス笑いながら去って行くお姉さん。
そして、それを見送るとセンパイを送り―――
ガッ!
「私とも、戦ろうか。無論、直結でな。」
肩を掴まれ、直結。
・・・その後、センパイが帰ったのは5分後、対戦回数にして・・・考えたくなくなるほど苛められた後だった。
Side out
ページ上へ戻る