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少年は旅行をするようです

作者:Hate・R
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少年は加速するようです Round1

Side 愁磨

「ノワール、ノワール、ノワ~~ル!」

「なぁに、シュウ。やけにご機嫌ね?」


フッフッフ、と笑い、後ろ手に隠していた物を出す。


「ジャジャーン!!」

「………何?それ。」


自信満々に出したものの、ノワールの反応は芳しくなかった。それもそうだ。分かる訳が無い。


「格ゲーやろうぜ、格ゲー!」

「格闘ゲーム?これがゲーム機なのかしら?」


ヒョイ、と黒い方を受け取りしげしげと見る。だんだんと怪訝な顔になり、こっちを見上げる。


「……これ、何?」

「ニューロリンカーって言ってな、首の後ろにつけるんだ。まぁ……要するに凄く小さいパソコンだ。」

「ふぅん……。」


ノワールの首につけさせ、操作の説明をする。そして、インストールしている"それ"の説明も。


「んじゃ、行くぞ。」

「な、なんだか緊張するわね。」


息を吸い込み・・・同時に、コマンドを叫ぶ。


「「『バースト・リンク!』」」
バシィッ――!!


瞬間、俺達の意識は体から切り離され、生身の後ろに俺が設定したアバター(本体と変わらないのだが)

が現れる。


「へぇ~……本当に加速してるのね。ちょっとビックリ。」

「でまぁ、ちょ~っとズルしたから、このまま戦えるんだけど。」


本来、"これ"・・・『ブレイン・バースト』を使うには色々な制約があり、戦う為の姿・デュエルアバターも、

インストールされてから一日立たないと形成されないのだが・・・

それを初対戦時に白昼夢で見せ、作り出してしまうように設定した。


「ま、良いわ。えーっと、これかしら?」

「あ、ちょ、ま―――」


―――【HERE COMES A NEW CHALLENGER!!】


目の前に炎の文字が現れ、それの後ろから・・・何かが飛びだして来る。

そして、俺の四肢を吹き飛ばす。死ぬほど痛いが・・・・何故か、俺は声を上げる事が出来ない。

前を見ると、そこにはノワールが居た。それが消え、四肢が再生され、その後、エヴァが現れる。

そして、また四肢が吹き飛ばされ、再生し、アリカが現れる。

そしてまた、四肢が吹き飛ばされる。何度も何度も、再生と痛みを繰り返し・・・そして。

直感で思う。これが最後だと。なぜなら、そこに立っていたのは―――


「アリア………。」

「パパ。」「痴れ者が。」

―――パチン


二人のアリア・・・いや、アリアとシュリアが指を鳴らすと、

再び俺の四肢が吹き飛び・・・・・・そして、俺はそのまま地獄へ落ちて―――


―――【FIGHT!!】


グンッ――!と意識が戻され、地面に足が付く。

自然、目線が下に行き、足が目に入る。そこに見なれた足は無く、あったのは若干紫がかった、

軽装甲に覆われた細い足。

手を見てみると、右には20cm程の長方形の板が付いており、左には直径30cm程の円盤が付いている。

そして何よりも。


「小さい、わね……?」

「ああ、小さいな。って、いつの間に。」


隣を見ると、そこには黒に近い蒼の、俺と比べると随分長身のアバター。

簡素な鎧に身を包み、女武将と言った佇まい。

何より目を引くのが、背中にある、翼を模した十二本の槍。加え手に持っているのは、蒼い炎を纏った剣。


「どうする?一回、()る?」

「うんにゃ、初回は確認に勤しみましょうや。"ラギア・レリクト"さん。」

「了解よ、"ティアシェ・フェアリィ"さん。」


双方のアバター名を言いつつ、5m程離れる。

えーっと、技は・・・えいやっ!と拳を繰り出す"パンチ"。そいやっ!と放つ"キック"。

それと、右手の長方形から・・・おお、剣が出るのか。20cmだが。

左手は―――円盤がガシャッと四方に開いて、盾になる。

必殺は・・・"召喚(サモン・フェアリィ)"。可愛らしい妖精を召喚。・・・・・・・以上。


「(………パイルバンカー程度にしか使えない剣、ちっさい盾。

恐らくポテンシャルの殆どを、妖精に使ってるんだろうな。)」


考えつつそこら辺を攻撃しまくっていたので、必殺ゲージは既に70%程溜まっている。

早速だが、使ってみるか。


「≪サモン・フェアリィ≫!!」







あれ?出てこない?ま、まさか必殺ゲージが足りない?

いやいや、70%溜まってるんだぞ?まさかこの妖精さん、格ゲーの超聖杯・5スペルカード・300スキル

ヒートブラスト―――全ゲージ消費技レベルの技っちゅー事か?

まさか条件満たさないと出て来ないとか言わないよな?


「(とにかく、100%溜めようか。)」
ドガガガガガガガガ!


と、俺がチマチマやってる間にも、ノワールは炎剣をぶっぱなし、槍を投げたり、空中に待機させてコンボ、

更には槍にズドーーン!と雷を落としたり。

・・・いいなぁ・・・楽しそう・・・・・。


「(い、いやいや。まだ可能性を捨てちゃいかん。)よし、今度こそ。≪サモン・フェアリィ≫!」


―――キュリィン ポフン


「おぉおお、出た!!」


目の前に、15~7cm程かと思われる小さな人型が現れる。

花びらを模したと思われる服、雪の様な白い肌、大小二対の羽。

ロボットの様なデュエルアバターと違い、物語に出て来るような妖精だった。


『あなたが、主?よろしくね。』

「しゃ、喋るとは!!コホン。よろしく、えっと……?」

『名前は無い。主が付けると良い。』


言うと、名前を入れるボードが現れる。

・・・・これやっておかなかったら、知らん人との対戦中にまったりする事になったのか。危なかった。


「……じゃあ、折角だし。」
Pi Pi Pi Pi
『O、U、C、A。オウカ。……綺麗な名前ね、気に行ったわ。』

「ありがと。それじゃ、オウカ。お前って何が出来るの?」

『リストに追加されてる筈。見れば分かる。』


言われるままに見ると・・・なるほど、技が3つほど増えてる。

速度と攻撃力を上げる"ブースト"、防御力を上げる"シールド"、ビームを撃つ"テンタル・カノン"。


「(言葉も通うし、指示通りに動く……これはいいな。

100%溜めないと召喚できないけど、実際に使うのは30%ちょっと。

徐々に減ってもいないし……無制限フィールドでも十二分に役に立つ。)」

『主、何か命令を。』

「あ、ああ、そうだな。ノワ……ラギアー。」

「はいはい、なにかしら~?」

「ちょっと必殺喰らってみて欲しいんだけど。」

「あー、そうね。どの程度ダメージになるか分からないものね。」


ノワールの攻撃も受ける羽目になりそうだが・・・仕方ないか。自分の武器は正確に把握しないとな。


「では。≪テンタル・カノン≫!!」

『はぁぁぁぁぁぁ!!』
キィィィィィィィィ――――!


オウカの手のひらが合わさり花びらとなり、中から大砲の筒が出て来る。

そして3秒程のチャージの後・・・


『やあ!!』
ドォォォン!!
「キャッ!」


身の丈に似合わぬ太い光線――と言っても直径1m程だが――が、ノワールを襲う。


「………そんなに痛くない、わね………?」

「みたいだな。」


HPバーを見ても分かる通り、直撃したにもかかわらず10%弱しか減っていない。

そして必殺ゲージの方は・・・・召喚と同じく、30%程減っている。


「割に合わない、な?」

『うぅ……。』

「そうね。………?…………!あらあら、これは。」


"ブースト"か"シールド"を試そうかと思った所、ノワールの変化に気付く。

動いていない。全く、動いていない。既に、5秒以上。


「………この必殺、当てれれば凄く強いな。」

『ど、どう?凄いでしょう!』

「…………≪バラッド・ランス・ライトネス≫!ふ~む、こっちは必殺も使えないのね。

っとと、やっと動けるわ。」

「効果時間7~8秒ってところか。凄いなこれ!っと、オウカ。俺にも撃ってくれ。」

『はい?』


スッ、とこちらに腕を向けるのを確認し、再び技名をコール。ビームが着弾し・・・・・・。


「うむ、動けん!!」

「シュウも対象になるのね、この技。」

「と言う事は捨て身で押さえつける方向は却下か……。流石にそこまで甘くは無いか。」


と、そこで気付いたのだが、俺とノワールの減ったHPに2倍ほども差がある事に気が付く。

青系よりも防御力が高い・・・と言う事は、メタルカラーになるのか?

それとも光線系の攻撃にだけ強いとか?


「ノワール、ちょっと防御力検証したいんだけど。っと、もう動ける。

俺の方は効果時間3~4秒って所なのか。」

「了解。それじゃあ……≪ライトニング・サークル≫!!」
ババババババババババババババ!!!


ノワールが俺に近づき必殺技をコールすると、背中の槍が俺の周りに円を描くように降り、中に雷が発生する。


「「あばばっばばばばばばばばばばばば!」」

……


「かふぅ~………。」

「ケホッ、ケホッ。け、結構効くわね。」

『大丈夫か、主。』


ノワールの必殺――恐らく硬直状態・近距離用の必殺なのだろう。

ゲージ消費10%の割に、HPが一気に25%も持って行かれた。

対するノワールは・・・・既にHPが半分強しか残っていない。俺の必殺が10%、ノワールの必殺で35%。


「いくら軽装甲っぽいとは言っても、青系が防御力低い筈ないしな。………あ、まさか。」

「どうしたの?」

「ノワール、オウカに攻撃してくれるか?」

『えぇっ!?あ、主の命令とあれば……我慢します。』


まぁ、多分だと思うんだが。


「え、えっと………えい。」
バチン!
『あぅっ!!』


ノワールのデコピンで、オウカはクルクルと吹っ飛んでしまう。

慌てて抱き止め、HPバーを見ると・・・・なんと5%も減っている。手加減したデコピンで、5%。


「な、成程。だから本体の防御力が高めに設定されてるのか。もしくはHPが多いのか。」

「必殺技が当たろうものなら、全部吹っ飛ぶわね。」

『め、面目ないです、主……。』

「いやいや、まだLv1だからな。とりあえずレベル上げれば何とかなるだろう。」


そう言うゲームだし・・・・って、そうだ!"シールド"があるじゃないか!!


「≪シールド≫!」

『そっか!えいっ。』
パァァァァ―――


俺とオウカそれぞれを緑色のオーラが包み、HPバーの下に盾のマークが現れる。


『さぁ来なさい!』

「え?え、ええ。それじゃあ………えい!」
ベシン!


さっきより強めに放たれたデコピンだったが、しかし。HPバーは2%程度しか減らなかった。


「す、凄い効果だな!これなら行けるぞ!」

『そうですね、主!』

「ふ~む………≪ライトニング・サークル≫!」

「なっ、ばばばばばばばばばばばばばばば!!」

『きゃあぁぁぁあぁぁぁぁああぁぁあぁあ!?』


ガリガリガリガリ!とHPが削れて行く。

が、二人で食らっているにも関わらず、4割強削られるにとどまった。


「あ、あたたたた………。さ、流石に二連続はきっついなぁ。」

「これ、シュウの防御を上げて、総合値からいくらかがオウカちゃんにも流れてる感じね。」

「俺の防御力時自体はそんなに上がらないと。まぁそれで普通くらいだから、問題ないけど。」

『申し訳ない、主……。』


しかし使い勝手が良いな、この必殺達。問題は、一回フルチャージしないとダメって事だが。

一通り確認が終わり、HPを均等にししばらく待ち・・・タイムアップ、ドロー。


「さて、適当に乱入するか!」

「やっと本番って言うことね。腕が鳴るわぁ~……の前に。

このニューロなんとかって、調子悪いのかしら?体が動かしにくいわ。」

「そりゃ……このアバターのポテンシャルが、リアルの肉体よりヘボいからな。思い通りには動かないよ。」


レベル上げれば別だろうけど、と一応言っておく。

それに、めんどくさいと言いつつもやる気満々のノワール。実は格ゲー大好きなのだ。

次点で好きなのが木乃香と言うのがまた何とも。


ちなみに、今いる麻帆良をAWの東京に見立て、場所をリンクさせてあるので、リアル割れだけはしない、

対戦だけ楽しめる状況になっている。そのウチ、あちらにも行こうとは思っているが。


「ねね、この二人なんかどうかしら?」

「Lv4の二人組?いきなり高レベルすぎるって。やっぱりLv1なんだし、サシでやった方が良くないか?」

「嫌よ。いくら動かしづらいとは言っても、勝負にならないわ。

仕方ないわねぇ……あ、じゃあこの人達にしましょ。」


と、指差したのは・・・・・Lv4とLv2のタッグ。

そうですか、どうしてもそのくらいじゃないとダメですか。


「仕方ないなぁ、もう。」

「ウフフ、ありがと。それじゃ早速―――」


―――【HERE COMES A NEW CHALLENGER!!】
バシィッ!


次の瞬間、俺達の体は再びデュエルアバターへと包まれ、HPと必殺のゲージが左右に4本ずつ伸びる。

そして、その間にカウントが表示され・・・・・

―――【FIGHT!!】


「……………………………。」(ビキビキビキビキビキッッ

「あ、あははははは………よ、よかったじゃないか。ほら、相手Lv5とLv4だ。」

「…………そうね、気晴らしにするには良いわ。」


不機嫌オーラを全力で迸らせ、地面にヒビを入れんばかりに歩いて行く。

生身だったら、既に敵の前まで行って肉片が二つ転がっている事だろう。

とか思っていると、道路に仁王立ちした姿が一人見えて来る。


「Lv1が二人組んで何をしているかと思えば……ひょっとしてニュービーか?」

「ええ、ええ、ひょっとしなくても初心者よ。このゲームを知ったのはつい一時間前よ。」


前に立つ黄緑色のアバター・・・Lv4"ラクト・エンテファー"は、それを聞いて、ケタケタと笑う。

その間、俺はもう一人の"ティー・レンジ"とか言うアバターの姿を探すが、影すらも見えない。

おのれ、いつもなら気配で探知出来るモノを。


「いやいや、すまなかった。であれば……さっさと済ませてしまおうか。」

――――チュンッ!


向こう3~400mに光を見、瞬時に回避する俺とノワール。その間を、妙に長い銃弾(?)が飛んで行く。

普通ならしっかり見える物が・・・動体視力も落ちてるらしい。


「避けた……だと?」

「フン、こんなの朝飯前よ。」


ラクト・エンテファーは銃弾を避けたのを見ると、それまでの余裕を一切消し妙な構えを取る。

改めてみると、手足も妙に長い。そして―――


「まぁいい、所詮はLv1。Lv4の俺に勝てる道理は……無いッ!!」


掛け声とともに、ジャキッ!と腕がバラけ、螺旋状になる。

手に現れたそれは、ま、まさしく・・・・!!


「ド、ドリル!ドリルだぁ!いいなぁ、いいなぁ。羨ましいなぁ!!」

「お、おう?そうか?」

「うんうん!やっぱりカッコいいよね、ドリル!漢の武器って言ったらドリルだよね!!」

「そ、そうか、分かるかお前!いやぁ、俺も自分の武器がこれだって分かった時は小躍りしたもんだ。」


と、敵さんとキャッキャやっていると、ラクトの足元に10cmもあろう針

――恐らく先程の銃弾だろう――が突き刺さり、俺の足元には槍が数本突き刺さる。


「いつまでやってるの!!」「いつまでやっているっ!」


一つは俺の後ろから、一つはビルの上から聞こえてくる。

どうやらもう一人のスナイパー(?)、ティー・レンジは、痺れを切らしてこちらまで来たようだ。


「ラクト!貴様敵と話している暇があったら、その無駄な腕を一回でも多く突き刺せ!!」

「む、無駄とはなんだ無駄とは!」

「そーだそーだ!ドリルは漢のたまs「シュウ?いい加減残るわよ?」

すいませんでした………。」

「全く……!≪スティンガー・スティンガー・パラライズ≫!!」
カカカン!
「おっと、危ないわね。≪ランス・プロビネンスト≫!」


何とも締まらなくなったが、そこは冷静なパートナー達が戦い始めてくれた。

ビルの上から乱射される針軍を避けつつ、ビルの間を三角飛びで昇って行き、剣で斬り掛かる。


「お前さんのパートナー、凄いな………。」

「そっちこそ、大変みたいで………。」


はぁ、と二人同時に溜息をつく俺達。漢魂(ブラザーソウル)を分かち合った仲として、今は戦う気が起きない――

と言う事で、それぞれ友録を済ませる。

そして、あちらの決着がついた後を考え、戦場から離れるのであった。

………
……


―――【YOU WIN!!】

「あ、勝った。」

「Lv1がLv5に勝っただと………。マジで何モンだ、お前のパートナー?」


30分後、双方のHPが残ったまま、決着がつく。

ノワールは60%残っているのに対し、ティー・レンジは40%強も残っていた。

ノワール相手に、遠距離の赤系が40%も残っている事に驚く。レベル差が付くとこうまで違うのか。


「ハハッ、結構楽しかったぜ!また遊ぼうな!」

「うん、また今度な!」


手を振ると、フッと目の前が暗くなり、居間に戻される。

本当の初戦―――戦わなかったが―――は、思ったよりも楽しいものとなった。"俺は"。


「ク、ククククククク………あの牝狗…………。

私を辱めた罪、償って貰うわよぉ………?」


・・・隣に座るノワールは、相手を倒し切れなかった事に物凄い不満を覚え、

重力魔法かと思うほどのプレッシャーを放って来る。


「シュウ!!」

「はぃいっ!」

「次、行くわよ!!」

「サー・イエッサー!!」


・・・・今日は、長くなりそうだった。

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