鋼殻のレギオス 勝手に24巻 +α
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
ある約束の戦い (後)
前書き
注意・皆の口調がなんか違う。感嘆符等がほとんどないので分かり難いと思いますが感じ取ってください。
「自慢にならないけど俺っちじゃあんなのどうしようもないさ」
ただでさえ馬鹿デカイ天剣の剄をはるかに凌駕した女王の衝剄、天剣としては圧倒的に剄量の少ないハイアにとってはどうしようもないとしか思えない攻撃が放たれる。
リンテンスが僅かに角度をつけそらした衝剄が威力を保ったままグレンダンに向かって直進してくる。ハイアにとって小細工で何とかなるレベルを超えた衝剄に対しできるのはありったけの剄をぶつけ少しでも威力を減衰させることだけであり、レイフォンもできる限りは受け止めようと鋼糸の陣を張ろうとする。
準備するのは外力系衝剄の変化、繰弦曲・雪崩崩し。
大抵の攻撃ならばこれで十分に防げるのだが、リンテンスがこの剄技で防ごうとしなかったことを考えるとどこまで通用するかレイフォン自身にもわからない。だがそれでも後ろにいるリーリンや孤児院の弟妹を守るため決死の覚悟で立ち向かおうとする。
だがそれらが必要になることはなかった。目の前に現れた小さな黒い球体、それがすべてを変えた。
外力系衝剄の化錬変化・暗黒天魔。
他者の剄技に対し強烈な引力を発生させる剄技、それは技を放ったのが天剣であろうと女王であろうと変わることはなく、女王の放った衝剄を吸い寄せる。
「バーメリン!」
「ちっ」
トロイアットが叫ぶのと同時にバーメリンが球体に向け真下から最大剄量でもって砲撃を放つ。
それもまた吸い込まれた瞬間、真上に向けてど太い剄の柱が立ち上った。本来であれば吸い込んだ剄を吐き出す向きもトロイアットが自由にすることができるのだが、今回は膨大な女王の剄を余すことなく吸い込まなければならないためそこまで制御の余裕がなかった。それでバーメリンの砲撃によって偏りを作り空へと逃がすようにしたのである。
「ったく、冗談じゃない」
「あんのクソ陛下、ここから撃つぞ」
「あーやめとけ、そんなことしたらこっちに向けて撃ってくるぞ」
悪態をつくバーメリンと返す言葉にも元気のないトロイアット。
「おい、また来そうさ」
『リンテンス様は気付いているようですが陛下は無理みたいです』
「ってことはまた何とかしないといけないですよね」
「次も二人で何とかできれば楽なんだけど、どうさ」
「あんなの連続で出来るわけないだろ、今度はそっちで何とかしてもらいたいね」
次弾が飛来して来そうな状況だが、さすがのトロイアットも女王の剄を防ぐほどの剄技をすぐに使えるほど剄量が回復していない。トロイアットは回復に専念しなければならないのでレイフォンとハイアが覚悟を固める。
だが次に起こったのは超絶の武芸差である彼らにとっても信じがたい光景だった。
エルスマウが察した通りリンテンスは後ろの状況にも気がついていた。そんな所へ女王から第二弾が撃ち出される。
天剣であってもこんな馬鹿みたいに巨大な衝剄を受け止めようなどと考えるのは戦闘狂のサヴァリスか『盾』であるリヴァースくらいであろう。だが対するリンテンスはそれを避けようともせず待ち構える。
外力系衝剄の変化、繰弦曲・真綿包み。
半球状に形作られた鋼糸の網が衝剄を包み込む。周囲の地面に張られた鋼糸が衝撃を散らすとともに包囲した鋼糸から放たれる衝剄と極狭い間に幾重にも層を造った鋼糸とが柔らかいクッションのように威力を削り取り、終には消滅させる。
天剣であれ驚愕の結果を生み出したリンテンスだが次のアルシェイラの動きにまでは対応できなかった。
一時的にリンテンスがそちらに集中した隙を突き接近したアルシェイラにむけて鋼糸を向かわせるが最前ほどのキレはなく、強引に掴まれ網に穴をあけられそこから侵入してきた手刀をさしものリンテンスも躱し損ねる。
宙に舞うのは吹き出す血、地に落ちるのは二の腕から断たれたリンテンスの左腕。剄の供給を断たれた半分程の鋼糸から力が抜け、そのうちの何割かが地に墜ちる。全てが墜ちないのは空間に放たれる剄の波紋をも利用する武器のため今までと同じ様にはできなくともすぐに全てが使えなくなるわけではない。
「どうリン、私の勝ちかしら」
「馬鹿か、この程度で終わるわけがないだろう」
汚染物質が充満していた頃ならば勝負は決まっていた。怪我をするという事はそれだけで死ぬという事、それ以上の戦闘継続は不可能だったからだ。だが今はその影響はない。
片腕を落された。その痛みを無視することができないのは勿論のこと、両手で使う武器であれば当然、片手武器であったとしても己の重心が不安定になり同じ動きをすることはできない。リンテンスにしても使える鋼糸が半分ともなればアルシェイラの攻撃を捌くことは出来ないだろう。
故にアルシェイラだけでなくこの戦いを見ている天剣たちも勝負がついたと思った。ただ一人、リンテンスを除いて。
そのリンテンスが動く。右手側から伸びる鋼糸の一本と活剄で止血すると足を動かす。そこは落ちた腕の近くだった。
力を失い地に臥せていた左手の鋼糸に剄が戻る。
「嘘でしょっ」
外力系衝剄の変化、繰弦曲・魔弾。
全方位からの刺突がアルシェイラを襲う。油断していたアルシェイラが急いで防御を行うが完全ではなく何本かが四肢に突き刺さる。即座に体内に剄が放たれようとするがぎりぎりで防御の剄が間に合い肉体を破壊されることは避けられた。
傷自体は女王の強力な活剄ですぐに塞がるとはいえそのロスを見逃すリンテンスではない、鋼糸の群れが次々と襲いかかる。
対する女王も衝剄を放って応戦する。
次々と迫る鋼糸を跳ね返すが直接衝剄が当たらなかったものはその隙間から侵攻し続ける。無差別な衝剄によって大気はうねり気流の乱れも尋常ではないがその影響を受けていないかのように静かに空気の隙間を縫うようにアルシェイラに向けて飛んでいく。
「リンテンスの旦那もさすがだな、本当に封殺しちまったぜ」
「ウザッ」
「なんなんさあれ、何であれで同じ様に戦えるんさ?」
さすがの天剣たちにも信じがたい光景だった。
何の細工もないただの衝剄、ただし細工がない分正面から受け止めるのは困難極まりないものを見事に受け止め腕を落されたというのに常と変らぬ鋼糸の技を披露する。
「先生が……」
「ん、そういえばお前旦那の暇つぶしでなんか教えてもらってたな」
「あ、はい。先生から最初に言われたのは全身どこからでも剄を流せるようにってことだったので」
「ってもしかして糸の旦那、錬金鋼は手に復元されるけど足だろうが頭だろうが同じ様に操れるってことなんかさ」
「僕も見たことがあるわけじゃないけど……多分」
その場を覆った空気は一言で言うと『信じられねー』という絶句だった。
(いなされると不味いとは思ってたけどここまでされるとは思ってもなかったわよ)
今は衝剄と鋼糸の打ち合いで一種の小康状態となっている。
(こうなったら無理にでも突っ込んでぶん殴るしかないわね)
覚悟を決めると一気に剄を放出し一瞬だけ鋼糸の波に隙間を作る。
その隙間を一気に踏破しリンテンスへ迫る。次から次へと迫る鋼糸をあるいは衝剄で跳ね除け、あるいはぎりぎりのところでかわすが完全には避け切れず浅い傷を幾つも負ってしまう。
だがリンテンスの鋼糸の海を潜り抜けた結果、この位の怪我で済んだという事自体僥倖というより奇跡的であると言える。何しろ察知できるのは天剣だけ、だがその天剣授受者ですら避け切れるかどうか試してみたいとは思わないのがリンテンスの鋼糸だからだ。
膨大な剄を持つ女王がその剄をふんだんに使いまくった結果ですらこれである。他の者の場合どうなるかは推して知るべきであろう。
衝剄に転化させることなくリンテンスを殴りつける。
届く前に鋼糸の網がブロックし逆に切り刻もうとするのを無理矢理掴む。手の内で暴れる糸に掌を傷つけられるがその痛みは無視し、腕に這い上がろうとする物は衝剄で押しとどめる。
掴んだ鋼糸を引き上げる。嘗てはこのまま引き倒せたがその動きにも柔軟に対応される。
だがそれによって鋼糸の密に若干の偏りが生じ、そこに乾坤一擲の勝負を賭す。
拳がリンテンスを撃つ。
尋常ではない威力が込められた攻撃を受け吹き飛ぶリンテンス。踏み止まろうとすれば首が折れることは必至であるため自らその流れに乗って衝撃を緩和する。飛ばされながら鋼糸を動かし追いかけてきた強烈な、しかし細い衝剄に対処する。
外力系衝剄の変化、繰弦曲・深淵。
筒状になった鋼糸に吸い込まれた衝剄は進むにつれて放たれるによって先細り消え去る。
しかも吹き飛ばされながらも鋼糸を網ではなく布状に織り上げクッションのようにして勢いを殺す。空を飛ぶ勢いが死んだところで空中に張り巡らせた鋼糸の上に着地し、そこからアルシェイラを見下ろす。
アルシェイラからの更なる追撃はない。何故なら彼女もまた痛手を負っていたからだ。リンテンスを殴りつけた瞬後、その腕は断ち切られていたからだ。
追撃として飛ばした衝剄はアルシェイラのものとしてはか細かった、だがそれでも全力で放たれたのだ。
「終わりだ」
アルシェイラの周囲には鋼糸の網が幾重にも張られ衝剄を飛ばしたとしても全て受け止められるだろう。全力で行ければ話は別だがそこまで剄を練る暇を今更リンテンスが与えるとは思えない。
だがそこまででなくとも自分が通る為の隙間を作る為なら話は別だ。鋼糸の網に接触するタイミングで衝剄を放ち鋼糸を撥ね飛ばす。これまでやってきたことと変わらない。
そう考えたアルシェイラが動こうとした時、予想だにしていなかったところから変化が現れた。
足元だ、地を裂いて現れた鋼糸の群れ。
外力系衝剄の変化、繰弦曲・魔王 終曲。
地の底より現れたアルシェイラを掴む魔王の手、その手を振り払おうとするがその前に周囲から新たな手が伸びる。伸びる手が次々とアルシェイラに襲い掛かり身動きを封じていく。
一瞬の後、鋼糸の繭に包まれた様になったアルシェイラの姿があった。
無理矢理に衝剄を放ちまとわりつく鋼糸を弾き飛ばそうとした瞬間、体の内部で何かが動くのを感じる。感覚の全てに引っかからないように侵入した鋼糸、そこから衝剄が撃ち出されたのを感じ取ったのだ。
だがそれにアルシェイラが気付いたのは意識が暗黒に呑み込まれた後だった。
目を覚ますとそこは王宮にある自室ベッドの上だった。切断されていた右腕はすでに繋がっており、身体中についていた傷も全て治癒されており激戦の痕はなかった。
「あーあ、ついに負けちゃったか。ほんと、どうしようかしら」
呟き目を覆う。その手の下には一筋の光があった。
「陛下、よろしいですか」
「何」
蝶型の念威端子、エルスマウの声が響く。体勢を変えずベッドに横たったままどこか力のない声で返事をする。
「リンテンス様から伝言ですが……、『賭けの取立てだ、来い』、とのことです」
「そんなこともあったわね、でどこに行くの」
リンテンスが指定した場所、そこは外縁部の中でも特に人気のない一角だった。人の住むところからも離れた、云わば忘れられた一角のようなものだ。
先に来ていたリンテンスに近づく、意地でしっかりと化粧もし普段通りを装っている。
「それでリン、望みってわけじゃないけど何をさせたいわけ」
無言のまま背中を見せるリンテンスに独り言のように言葉が漏れるのを止めることが出来ない。
「世界の危機とやらも終わっちゃって私の役割はもう無いし、他にあった約束もリンと戦って終わっちゃったし、私はどうすればいいのかしらね」
弱気な言葉が続けられるのを止めようと思うが自分では止めることは出来ない。
「引っ越してやってもいい」
「えっ」
そんな中、出てきたリンテンスの言葉は意外なものだった。
「え、それってどこに。今ならどこだって空いてるし、それこそあいつらが住んでたところもたくさんあるから選びたい放題だけど」
リンテンスの言葉の真意がわからない。
「王宮に住んでやる」
それはまさに不意打ちようにやってきた。いきなりのことに頭の中にまで入って来ない。ゆっくりと理解出来ていくのと同時に込み上げるものがある。
「リン、それって……」
感情のままに抱き付こうるがいきなり鋼糸に阻まれる。
「寄るな、香水臭い」
「今それを言うーーー!!!」
外縁部に、いやグレンダンの空にアルシェイラの叫びが響き渡った。
それから数日後、アルシェイラはある屋敷にいた。
一番いい客間のソファにふんぞり返り、屋敷の主はその前で苦い顔を隠そうともしない。
「で、どう。あんたもしなさいよ、結婚。バーメリンと」
「どうして私まで」
後ろで侍女長が煽っているのを感じ、ミンス・ユートノールは額を抑える。
「だって前あんたが言ったことだし、カナリスは死んじゃったからもうバーメリンしかいなじゃない」
「もうそんなことに拘らなくてもいいのではないですか」
世界の危機も終わりグレンダン三王家が先祖返りを目指す必要もなくなったため、バーメリンを選ぶ必要はないのではと言ってみる。だからと言って他に候補がいるわけではないのだが。
「ふふん、そう簡単に変えられないから慣習っていうのよ」
ドヤ顔でふんぞり返る女王を見ながら狼面衆の暗躍に対処しなくてよくなり心労の種は減ったはずなのに依然として減ったように感じない。
頭と胃の痛みが増し疲労感だけが蓄積されていくミンスの日々はこれからも続くのだった。
後書き
戦闘の最後の部分が適当です、すいません。天剣の実況(感想?)も無いですし。
勝手に作った二つの剄技、大した名前じゃないのに考えるのに何十分も悩んだのは秘密です。
戦闘がしょぼいのは殺「死合い」をしたいわけではないので『崩落』も使えなければ『グレンダンの槍』も使えない。鋼糸は細いから耐久性に難有りのはずだけど天剣だから千切れないってチートすぎじゃね。
リンテンスが飛んで走って戦う姿が想像できなかったので、どうしても立っているリンテンスに対してアルシェイラが色々と仕掛けるという形になってしまいました。それにアルシェイラの攻撃と言ったら馬鹿でかい衝剄か活剄による殴りつけかしかないし、リンテンスは殺傷力強すぎるしで殺さない戦いには向かないので。
と、いう言い訳もありますがもっとも重大なのは筆者の力量不足のせいです。自分で読んでスピード感が足りないな、と。
『王宮に住んでやる』の部分、『俺の女になれ』にしようかとも思いましたがキャラとして後者の方が違うと思ったのでやめておきました。
感想等があればぜひお願いします。
書きたいと思うネタがあって書こうという気がオーバーフローすればまた何か書くと思います。(一応書きたいなと思っているのは途中でぶった切ってしまった『私が書いた24巻』の続き、需要があるかはわかりませんが)
ページ上へ戻る