魔法少女リリカルなのは平凡な日常を望む転生者 STS編
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第34話 真実
「これは………」
思わず資料を握りしめ、凝視する。
「“聖王を守る騎士として最強と呼ばれるバルトマン・ゲーハルトが採用される。それと同時進行で新たな計画を始動することを決定”………新たな決定?一体何の事だ?」
そう呟きながら次の資料へ目を向ける。
「“聖王のクローン製造が上手くいかず。バルトマン・ゲーハルトの複製も困難を極める。恐らく同時進行で行った計画の影響であると予想付けられた。担当者レーフィル・アルテルは計画を断念。その後、レーフィル・アルテル死亡。何者かに殺害された模様。結果計画は両方共完全に凍結することとなった”………凍結!?じゃあヴィヴィオは何故居る!?」
読み返しても淡々と同じ内容が書かれていた。
「くそっ、その後の事が何も書かれていねえ………!!」
思わず破りそうになった紙を破る直前で止め、懐にしまった。
「………まだこれが正しいとが決まった訳じゃない。もっと部屋を見てみるか………」
立ち上がったバルトはD室を後にした………
「ちっ、目につくような物はねえな………」
その後辺り潰しに研究室を回ったが、特に有力な情報は得られなかった。
「電子機器がすべて死んでるし、重要な事は紙に残していないのじゃ………?いや、だからこそハッキングを想定して紙でも残しているはずだ。後は俺が見逃しているのかも知れねえな………」
今居るG室を見ながらバルトは1人呟く。
既に探し初めて2時間が過ぎていた。
「さて、次は………おっ、そう言えば………A、B、C室はまだだったな。先に回るとするか」
ふと思い出し、元来た道へと戻る。
「D…Cと。うん?確かこの部屋は………」
C室の前に立ったバルトは何処か見覚えのある部屋の前で頭を動かす。
「そうだ!!ここでヴィヴィオを見つけたんだった!!」
思い出したバルトは直ぐに部屋の中へと入った。
「ん?」
中に入ると依然降りていった階段への扉がそのまま開いたままとなっていた。
「そうだ、やはりこの部屋が………さて、となればこの部屋に何か手がかりがあるかもな………」
そう呟き、捜索を始める。
「F計画概要………バルトマン・ゲーハルトバイタルデータ………この野郎、人を実験動物みたいに扱いやがって!!」
怒りを覚えながら次々と探していく。
「聖王製造計画研究記録………これは!!」
バルトはその部屋にあった椅子に座り、資料に目を通した。
「“かつて聖王教会から盗まれた聖王の聖遺物、そのかけらを入手した我々は密かに聖王のクローンを作ることに決めた。その研究資金は天才科学者クレイン・アルゲイルから研究費用を得て研究を始めた”………クレイン・アルゲイル!!やはり………」
何となく予想出来たバルトはあまり驚く事は無かった。
「“研究は中々行かず難航していた。そんな中、聖王を守る騎士としてA室でバルトマン・ゲーハルトのクローンを製造することに決まり、新計画として最近見つけたベルガントの墓から採取したDNAを交ぜ、彼の力を加えたクローン体の作成を始めた。しかしこの試みが更に計画を難航させた”………なるほど、これが中止になった理由だな」
「“そして責任者のレーフィル・アルテルは計画の中断を決定。その数日後レーフィルは殺害された。計画は完全に凍結。計画に関連する資料も全て消去され、聖王の聖遺物やベルガントに関する物もすべて消去した”………やはり完全に計画は凍結されたみたいだな。そしてここから先は無いか………」
先程と同じく研究記録の紙をしまい、再び周辺を探してみる。
「………ちっ、特に有益な情報はもう無いか」
そう舌打ちし、視線は秘密の地下室へと向いた。
「行ってみるか………」
あまり気乗りしないがバルトは地下へと進むことにした………
「これは………!!!」
下に降りてみるとヴィヴィオの居た場所はかなり荒らされていた。
既に息絶えていた他のクローン体の試験管も全て壊されており、中のクローンも何処にもいなかった。
「一体何が………いや、ここの場所を知っているのは実際に実験していた科学者………だがこの研究所を見る限り口封じに殺されている可能性が高そうだ。………だったらクレインか?だが死体まで集める様な奴だったか?」
そんな疑問を持ちつつ、その部屋を捜索する。
「………くそっ!!何もねえ!!」
イライラ混じりに近くの機械を蹴飛ばした。
出来ればバルト自身ここには来たくなかった。
道具のように管理されたヴィヴィオの顔が浮かび、怒りが混み上がる。
「ちっ………」
自分を落ち着かせるように自分にビンタし大きく息を吐く。
「らしくねえ、落ち着け………」
自分に言い聞かせるように今度は深呼吸。
「………よし!」
そして何時もの状態に戻ったバルトは再び捜索を開始し、そして………
「何だこれ………?記録チップか?」
ヴィヴィオが入っていた場所の近く小さなメモリーチップがあった。
バルトは早速見ようと周りを見渡すが、映像を再生する機器どころか、生きている機械さえ無い状態だった。
「………まあいい、次の部屋に向かうか」
もう収穫は無いと感じたバルトはその場を後にした………
「さて………」
B室を捜索するが収穫は無く、時間も既に4時間を過ぎていた。
「今から帰っても食堂は終わっちまうな………仕方がねえ、どっかで食って帰るか………ついでにお土産買って帰ればヴィヴィオも文句ねえだろ」
そう呟きながらA室の中に入った。
「ここが俺が居た部屋か………」
相変わらず暗く、部屋の中に何があるか全く分からない。
「さて、ライトを………」
ライトを照らし、周りを見る。
「ん?あまり荒らされていねえ………どう言うことだ?」
A室は他の部屋とは違い埃っぽいが、本や紙が散乱している事もなく、物なんかも壊れた様子がなかった。
「もしかしたら………!!」
部屋の奥にある機械を弄るバルト。
すると機械は動きだし、ディスプレイが展開された。
「生きてる!!よし、早速………」
先程のチップを入れる。
するとディスプレイにチップ内にあったデータが表示された。
「ゆりかご………?」
そこには“ゆりかご”と書かれていた。
「何かの船の見取り図って所か………しかしでかいな………巨大空母って言った方が良いか。………ん?ゆりかご?確か聖王教会にまだ居たときそんな言葉を聞いたような………それにこの起動するための“鍵”って何の事だ………?」
とそこまで呟いているとふと、あることを思い出した。
「クレインも“鍵”を探していたよな………なるほど“鍵”」
そう考えはバルトは直ぐに記録チップを取りだし、他の資料と共に懐へしまった。
「よし、後はもう少し別の部屋を………誰だ!!」
何かの視線を感じ、振り向くとすかさず逃げる人影が。
「逃がすか!!」
バルトも直ぐに追いかけた………
「はやてちゃん」
バルトが研究所に居る頃、はやては1人書類の処理をしていた。
そんな中、同じく休日返上で働いていた医務員のシャマルがはやての元を訪れていた。
「お疲れさんシャマル。だけどどうしたんや?今日はこの前の診断結果を取りに行くって言っていた筈やけど………もしかして誰か問題が………」
「そもそも今回の身体検査って大悟君の発案で行ったことなの」
「神崎君が?」
「ええ。バルトさんの事でね」
「ちっ………」
直ぐに廊下に出たバルト。しかし人影は何処にも無く、とても静かだった。
「こんなに静かだと言うことは何処かに隠れたな?転移って手もあるが必ず痕跡が残る筈。仕方がねえ、1つ1つ探していくか………」
ヴォルフバイルを展開し、周りを見渡しながら各部屋を探していく。
A室からずいぶん進んだが、人影すら無かった。
「………いねえ。隙を突かれて逃げられたか?いや、逃げたのなら足音だってする筈だ。だからこそ扉を開けっ放しにしているのに………」
更にバルトはサーチャーも廊下に展開し様子を観察していた。
「サーチャーも反応はねえ………まさか幽霊とか?ヴィヴィオに話したらテンション上がるんだろうな………」
そんな事を思いながら小さく笑う。
イライラしていた気分も落ち着いていた。
「ヴィヴィオさまさまだな」
そう呟いて、次の部屋の部屋の前で止まる。
「K室か………結構進んだな………」
振り替えって廊下を見るが当然誰もいない。
「気のせい………なのか?」
サーチャーは廊下に展開したままバルトはK室へと入っていった………
「ぶぅ………」
「ヴィヴィオ不機嫌そうだな………」
「まあバルトさんに何も言われずに置いていかれちゃったのが許せないんだよ」
1人、ベンチにポツンと不機嫌そうに座るヴィヴィオを見ながらそう話すヴィータとフェイト。
時刻は14時を過ぎ、今は1人で居るヴィヴィオ。
「ん?なのはは?」
「飲み物じゃないかな?ほら………」
フェイトが指を指した方向から両手にアイスを持ったなのはがやって来た。
「なるほど、ご機嫌とりのためにアイスを取りに行ったのか………」
「ちゃんと母親してるよねなのは」
そんななのはの様子を見ながらフェイトが呟く。
「ああ。それは間違いないと思うぞ」
「私も。………だけどなのは昨日小さく呟いたんだ。『最後の大きな壁がどうしても突破出来ない』って」
「壁?」
「私にもよく分からない。もしかしたらバルトさんとヴィヴィオちゃんには人には言えない何か秘密があるのかもしれない」
「秘密?でもどんな………?」
「先ず2人の関係性。何で本当の親を差し置いて他人のバルトさんが親しくしているのか?本当の親はどうなっているのか?」
「フェイト………」
「分かってる。本人達の前では絶対に言わないよ。例え血が通って無くたって家族になれる。私はそんな光景を3度見てるしね」
「私の家とハラオウン家と有栖家だな」
ヴィータの答えにフェイトが頷く。
「だから私はなのはに心から上手くいって欲しいの。なのはも本気だったから」
「………まあ自分の親に紹介した時点で誰でもそう思うけどな」
「あはは………」
そんな呟きにフェイトが苦笑いした。
「まあ直球勝負もなのはらしいか」
「そうだね」
そんな長々と話していた2人。
「何してるの~?おいでよ~!!」
「早く遊ぼ~!!」
「呼んでるぜ」
「そうだね、行こっかヴィータ」
「おう!」
そんななのはとヴィヴィオに呼ばれ、ヴィータとフェイトは2人の元へ向かった………
「ここは………」
謎の誰かを探している内にある部屋にたどり着いた。
「バルバドスがあった場所か」
必要以上に無口なバルバドスの有無を確認しながら呟く。
部屋は中央に台座があるだけで他には何もなかった。
「………ん?」
しかしふと視線を感じ、周りを見渡す。
だがこの台座以外何も見当たらない。
「気のせいか?」
ヴォルフバイルでサーチしてみるも反応は無い。
「いや………」
『居るぞ』
「はああああ!!!」
バルバドスの声を聞いて、バルトは自分に蓄電した雷を自分を中心に放出した。
「嘘でしょ!?まさかそこまで出来るの!?」
「見つけた!!」
獲物は見つけた肉食獣の様に表れた男に襲いかかるバルト。
「シルバームーン!!」
『デュアル・プロテクション』
ヴィルフバイルを降り下ろそうとしたバルトの目の前に二重に重なった盾が現れた。
「うおっ!?」
いきなり現れた盾にバルトの勢いも止まる。………が、
「うっ!!」
突撃する前に飛ばしていたボルティックランサーが男を捉えていた。
「動くなよ。動いた瞬間それを飛ばす」
「いやぁ………油断した。流石バルトマンの力だね」
「お前………何者だ?」
「初めまして、私はマシロ・リク。元科学者だよ」
男は不適な笑みを浮かべてそう答えた。
「”マシロ“………だと?確かあの砲撃娘も真白って………」
「おっ、やはり君は機動六課に在籍しているんだね。何の因果かあそこには随分と変わった者達が集まる。だけどだからこそ安心できる」
「お前もしや………」
「出来れば娘には私の事を話さないで欲しい。本当は魔法には関わってほしくなかったんだが………」
「そんなのは知らん、俺が口出す事じゃねえ」
「助かるよ」
「………構わねえさ、人の家庭にはあまり首を突っ込まないって決めてるんでね」
返事を聞いたリクはホッとした顔で胸を撫で下ろす。
(ただの口約束なんだがな………まあ俺としてもここにいたとバレるのはヤバイしな………)
「さて、君は何故此処に居るんだい?もう此処に来る必要は無いだろう?」
「俺の娘を守るためだ」
「“娘”ね………まあ私の目論みには通り行ったわけだ。分の悪い賭けだったけど私は勝ったって事だね。だったら彼を行かせる必要はなかったかな?」
「………何を言っている?」
ここから先は聞いては不味いと何処からか警告されているように感じたがバルトは止まらなかった。
「それはね………ヴィヴィオとバルト・ベルバイン、この王と騎士を造ったのは私だからだ」
「遊んだな~久し振りだぜこんなにはしゃいだの」
「ヴィータちゃん、調子乗りすぎ!ボール取りに行くの大変だったんだから!」
「なのは、お前もいつも言ってるだろ?全力全開ってな」
「ヴィータ遊びは良いと思うよ」
爽やかな雰囲気の中、ヴィータ、なのは、フェイトが話している。
時刻は既に18時を回っており、空は徐々に赤から暗くなり始めていた。
「………」
「今日ご飯何だろう?」
「パスタだと思うぞ。食堂のおばちゃんが話してたし」
「カルボナーラ久し振りに食べたいな………」
「………」
「全く話に入ってこない………」
「ねえなのは、今日のヴィヴィオ変だよ。バルトさんと何かあった?」
「えっと………ちょっとね………」
返事に困ったなのはは誤魔化すように前を歩くヴィヴィオの元へ向かった。
「何だなのはも………?」
「何かあったんだね、それも結構重要な事………」
「最近更に仲良くなったと思ったけど私の勘違いだったか?」
「ううん、ホテルの一件まではなのはも本当に楽しそうだったよ」
「首を突っ込むべきじゃ………」
「無いよ。なのはも望んでないと思う」
「だよな………」
そんなフェイトの言葉に小さく頷くヴィータ。
2人にとってもヴィヴィオは妹のように可愛がっていたのだ、今の元気の無いヴィヴィオを見ていられなかった。
「あっ!!」
そんな風に思っているといきなりヴィヴィオの元気な声が聞こえた。
「バルト~!!」
中庭の入り口にバルトと同じ体格の男が立っていた。
全身を黒いマントで隠し、顔もフードを着けているためハッキリ分からない。
ヴィヴィオは名前を呼び駆け出した。
「!?待ってヴィヴィオちゃん!!」
なのはは慌ててヴィヴィオを捕まえ、横に転がる。
先程までヴィヴィオが居た場所に魔力刃が通り過ぎ、地面を綺麗に抉っていた。
「レイジングハート!!」
バリアジャケットを向け、直ぐにでも砲撃を放てるように構える。
「貴方は………誰ですか?」
警戒しながらなのはが問いかける。
「な、なのはお姉ちゃん………?」
いつもは滅多に見せない切羽詰まったなのはの雰囲気に戸惑うヴィヴィオ。
しかし男は何も答えず、右手を外へ出した。
「バルバドス、セットアップ………」
すると右腕に自分の体ほど大きい斧を展開した。
「あの時の斧………だけど銀色じゃない」
バルバドス、同じ名前の斧だがバルトのバルバドスが銀色なら、男の斧は黒色だった。
「じゃあやっぱり別人………?だけどこの雰囲気って最初にあったバルトさんと………」
そう呟いているとなのはに向け雷の槍が多数展開される。
「!?くっ!!」
「ボルティックランサー」
「ディバインバスター!!」
槍が集まっている前にディバインバスターを発射。
「!?」
男は一瞬驚いた後、ランサーを発射し、過ぐにサイドステップ。なのはの射線上から逃げるが、発射したボルティックランサーは全て飲み込まれた。
「コイツ………」
「何を驚いてるの?私は貴方と何度も戦っています。貴方との戦い方もよく分かってますよ」
「なのはお姉ちゃん………?」
睨みながら言うなのはにヴィヴィオは恐怖を覚えた。
「貴方は………バルトさんじゃない。バルトさんはどんなにヴィヴィオちゃんと喧嘩をしても攻撃することなんて無かった………もう一度聞きます、貴方は一体誰ですか!!」
大きな怒鳴り声を上げながら相手を睨み付けるなのは。
「………」
男は何も返さず斧に魔力を溜め込む。
「ヴィヴィオちゃん、フェイトちゃんとヴィータちゃんの所に、2人に守ってもらって」
「なのはお姉ちゃん………?」
「行って!!」
「う、うん!!」
怒鳴られ、慌ててフェイトの元へ走るヴィヴィオ。
しかし手から離れた瞬間何処から現れたのかいきなり出現した雷の槍がヴィヴィオに向かって飛んで行った。
「フェイトちゃん!!」
はなのはが名前を呼んだ瞬間、飛んできた雷の槍は全て落とされた。
「………ほぅ」
そんな光景に小さく声を漏らした男。
「余裕だね。………だけど容赦しないよ!スターライト・ブレイカー!!」
先に攻撃に動いたのはなのはだった。
集束した魔力がピンクの砲撃となって地面を抉りながら男に襲いかかる。
「ジェノサイドブレイカー」
なのはにワンテンポ遅れた形で男が巨大な斬撃をなのはに向かって発射した。
「はあああああ!!」
押しきられないようになのはは気合いを入れて放出し続ける。
バルトとなのはの模擬戦の時は結局なのはが力負けして負けてしまっていたが、今のなのはにはいつも以上の気迫があった。
「おおおお………!!」
徐々に押され始める男。しかしその口元は笑みがこぼれていた。
「いけえええええ!!!」
そしてなのはの砲撃がジェノサイドブレイカーを飲み込み、男に直撃した。
「なのは!」
「ヴィータちゃん、気を付けて。相手はまだまだ元気だよ」
発射後駆け付けたヴィータ。なのはに言われ、グラーフアイゼンを構え身構えた。
そして現れた男はマントが焼け落ちフードも取れていた。
「なっ!?」
「まさかアイツ………」
「やるじゃねえか嬢ちゃん、流石の俺もヒヤッとしたぜ………」
嬉しそうに笑みを溢す男。少し老けた顔からも大体30代後半から40代前半の年齢だと分かる。
しかしその顔はバルトにそっくりであった。
「バルトマン・ゲーハルト………」
なのはは名前を呟いて持っていたレイジングハートを握り締めた………
「造った………?」
「ああ。研究が凍結された後、バルトマン・ゲーハルトが隙を付いて脱走してね。混乱している内にデータと隠し研究室を拝借して何とか一体ずつ完成させた」
「おい、何を言っている………?」
「クレイン・アルゲイルに協力を持ち出されてね。その時の私は冥王教会から逃げていて捕まるわけにはいかなかった。新ベヒモスのデータを渡すわけにはいけなかったし、娘のためにも逃げ続けなければならなかった。」
「何の事だ………?何の話だ!!」
「先程言っただろう。君とあの聖王の子は私が造ったと。まあ聖王の子はともかく、君は私が造ったんだがね」
「聖王の子………?じゃあやはりヴィヴィオは………」
「そう、聖王オリヴィエのクローンだよ」
その話を聞いてバルトは静かに拳を握り締めた。ある程度予想はしていたが、出来れば外れていて欲しかった。
今までの資料、その全てが実験は失敗し凍結となっていた。ならばヴィヴィオは聖王のクローンとは別のただ何かの実験で使われるはずの普通の子供だったのではないかと思ったのだ。
しかしそんな願いは儚く消え去った。
「大丈夫かい?」
「ああ。………で、俺の事だが………」
「君はバルトマン・ゲーハルトのクローンだ」
ハッキリとそう言われ頭の中が一瞬真っ白になった。
足にも力が抜け、膝をつく。
「………ははっ、全く情けねえな………予想していなかった訳じゃないのに足に力が入らねえ………」
「それはそうさ。どんな人間だって自分の存在が造られたものだって聞かれれば信じられないさ。そう、普通は拒絶する。“俺は本物だ!!”って。だけど君は私を信じるのかい?」
「………ああ。今日来て………いや、恐らく自分の姿と目覚めたあの場所で何となく思っていたのかもな。“何で若返っているんだ”って………」
「そう、それは僕も予想外だった。記憶の共有、能力、思考。なるべくバルトマン・ゲーハルトに近づける為に君を造った。その結果が若返りだ。………いや、若返りは別に普通だ。クローンと言えど子供から成長させるからね。………だけどバルト・ベルバイン、君はちょっと違う」
「違う?」
「クローンと言うのは短時間で成長させるため、子供ならともかく、大人にするとどうしても肉体は脆く、寿命もかなり短くなってしまう。………だが君は違った。その肉体がオリジナルにとても近い状態だったんだ。だからこそ君は自分がバルトマン・ゲーハルトだと疑問に思わなかったんだと思う」
「確かに自分の記憶と同じ様に戦えた。………まあ多少足りない部分もあると分かったがな………」
「魔力だね?」
「ああ。バルトマン・ゲーハルトより1ランク、いや、2ランク程低いだろう………本来バルトマンは蓄電なんてしなくても雷を放出、自分に流し身体能力を上げることだって出来た筈だ。だからこそクレインも目を付けた」
そんなバルトの答えにリクは小さく笑みを溢した。
「全く、君もやはりバルトマンなんだね………まるで本人と話している様だよ。………まあ彼曰く、こうなったのは永遠の好敵手のせいだと言ってたがね」
「永遠の好敵手………ウォーレン・アレストか」
「彼はAランクほどの魔力しかなかったと聞いたんだが本当なのかい?」
「ああ、だがその攻撃は凄まじかった。力だけじゃ勝てないと思い知らされた」
「やはり同じことを言うんだね」
「そりゃ同じだからだろ………?」
「ふっ、あははははははは!!」
そんなバルトの答えに腹を抱えて笑うリク。
「私はね、バルトマン・ゲーハルトと言う男は嫌いじゃない。いや、むしろ好きだ。好戦的ではあるが強き者には紳士で、真っ直ぐだ。………まあ平気で犯罪に手を染める黒い奴ではあるが好敵手がいればその一面も完全に消え去る。………だからこそあの2人との戦いに水を差された事がご立腹でね。今回私に協力してくれているのもクレイン・アルゲイルにその借りを返す為だ」
「有栖零治と加藤桐谷か………ん?クレインの目的?お前等はそれを知っているのか!?」
「君も見ていた筈だ。大きな船の見取り図を」
「ああ。あのデータな」
「彼はあれを動かすつもりだ。そしてあれを動かし天使の歌を響かせる」
「天使の歌………?」
「それが何を意味するのか分かっていない。………だが文明を破壊したゆりかごを復活させる訳にはいかない。自分の身を守るためだとしても、自分で撒いた種は自分で取り除く」
「種………?」
「そう、ゆりかごの起動キー、聖王を始末することでね」
その瞬間、大きな斧がリクに向かって振り下ろされたが、リクはその斧をプロテクションで受け止めた。
「おお、怖い怖い………」
「貴様等………!!」
「いやいや、こんな事している場合じゃないと思うよ。今頃私の相棒があちらに着く頃だ」
「!?くそっ!!!!」
バルトは慌てて部屋を出ようとするが、そのバルトの前にリクが立った。
「退け!!!」
「落ち着け。今行ったところで間に合わないさ」
「ふざけるな!!貴様等が起こした事だろうが!!!」
「まあそうだね………実際私も彼を止めることは出来なかった。彼は『神崎大悟と佐藤加奈が居ない今なら問題無くあのガキを殺せる』と。互いに協力はしてるけど行動までは制限出来ない決まりだからね」
「何を他人事の様に………!!」
「まあ落ち着け。これを………」
そう言ってリクは自分のポケットから小さな機械を取り出した。
「これは?」
「一方通行の転移装置さ。転移装置がある場所へ割り込める。ただし、元居た場所には戻れない。だが君には問題無いだろう?」
「………いいのか?下手したらバルトマン・ゲーハルトを殺すかもしれないぞ?」
「構わないさ、君の実力も知っておきたいしね。そしてなにより娘を持つ親として娘よりも歳下の女の子が殺されるところなんて本当は見たくない」
「………分かった、借りるぞ」
「健闘を祈るよ、聖王の騎士様」
「父親だ、ヴィヴィオ・ベルバインのな」
そう言い残してバルトは発生した光の中へ消えていった………
「父親か………だけど果たしてその実力があるかどうか………みんながハッピーエンドで終わるって言うのは欲張りかな………」
リクは悲しそうな目で天井を仰いだ。
「後はあの計画。あの計画のお陰で本物のバルバドスは目覚めた。それがプラスに働いてくれれば良いんだけどね………」
そう呟きながら拳に力を込めるのだった………
ページ上へ戻る