魔法少女リリカルなのは平凡な日常を望む転生者 STS編
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第35話 なのはVSバルトマン
前書き
忙しくて中々来れなかった。
やっぱパソコン買おう………
「状況はどうなっとるんや!!」
「はい!只今中庭にて戦闘が開始!現在その場に居た高町なのは、フェイト・T・ハラオウン両隊長と八神ヴィータ副隊長が戦闘を行っています!」
報告を聞き、安堵するはやて。六課でも………いや、管理局でもトップレベルの魔導師達である。
「戦闘は彼女達に任せる。こっちは非戦闘員の避難を優先するで!!」
「現在40%完了。ザフィーラさんが護衛に付いています」
「敵の増援もあり得るで、油断せえへんでな」
「「「「「はい!!」」」」」
そんなロングアーチのメンバーの返事を聞き満足そうに頷く。
(せやけどあの闘い方、強さ、まさにバルトさんやな………いや、ちゃうな。バルトさんが同じなんや………)
映像に出ている戦闘光景を見て、そう思うはやてだった………
「ちっ!?」
空へと上がった2人。向かってきたアクセルシューターを気にせずなのはに対して突っ込むが、近づいた瞬間ノーモーションに近い状態で放ったディバインバスターがバルトを襲う。
「くううっ!!」
疑似聖王の鎧の力で大きなダメージは無い。しかし自分が思うようにいかず、イライラが募る。
「このおおお!!」
苦し紛れに斧を振るが、なのはは難なく避ける。
「ボルティックランサー!!」
バルトも負けじと雷の槍を飛ばしなのはを襲うが………
「プロテクション」
なのはの作り出した盾の前に全て遮られてしまった。
「がああああ!!」
しかしそれこそバルトマンの狙い。
動きの止まったなのはに高速で近づき、斬りかかろうとするが、
「なっ、バインド!?」
斬りかかろうとした瞬間になのはが設置していたバインドに引っ掛かり動けなくなった。
「ちっ、こんなもの直ぐに………」
「抜け出せるでしょ?だけどそれじゃ遅い!」
そう言って再びディバインバスターを今度は近距離から発射した。
「ぐっ!?」
何とか斧で受け止めるが、その勢いを押さえきれるわけもなく、吹き飛ばされた。
「ちぃ………!!」
「行くよ!!ディバインバスター!!」
体勢を整えているバルトマンに向かって再度ディバインバスターを放った。
先程とは違い、時間をかけての攻撃。速射出来ないものの、高威力の砲撃がバルトマンを襲った。
「うおおお!!」
時間をかけた分、バルトマンは体勢を整えられたが、それでも防御するのが精一杯だった。
そのまま地面に向かって落ちていった。
「ったく………俺を随分研究してるんだな………やりづらくて仕方ねえ。まるでウォーレンを相手にしているみたいだ」
うまく着地したバルトマンはゆっくり降りてくるなのはを見ながら小さく呟いた。
「いや、ウォーレンの場合はもっと巧みに攻撃してたか………だけど面倒だな、今日はコイツの相手をするために来た訳じゃねえのに………」
斧を担ぎながらなのはを見てそう呟くバルトマン。
「それに時間をかけすぎたか?これ以上は更に増援が来そうだ………」
既にヴィヴィオの守りに入っているヴィータ、そして今なのはの隣に立ったフェイトがなのはと一緒に下りてくる。
「………貴方は誰ですか?」
「誰だと?嬢ちゃん、俺を知らないのか?」
「貴方に似ている人は知っています。だけど貴方は知らない」
「いや、実は気づいているんだろ?どっちが“本物”か」
「黙りなさい!!」
再びディバインバスターを速射するなのは。
しかしその攻撃はバルトマンを捉える事は無かった。
「俺を見て感じたんだろ?奴と俺の関係を?」
昼頃………
「はやてちゃん、何………これ………?」
「落ち着いて聞いて欲しいんや。これは前の健康診断の時に神崎君の要望で密かにDNA検査をしたんや。その結果がこれや………」
重々しくはやての言葉は耳に入らず手渡された資料から目が離せない。
「どう言う事………?」
「書かれている通りや。………バルトさんのDNAの80%がバルトマン・ゲーハルトとほぼ同じ。そして残りは………誰だかデータが無いんやけど、おそらく別の誰かや」
「えっ………それって………」
「バルトさんは………フェイトちゃんと同じように………」
「バルトマン・ゲーハルトを元に造られたんとちゃうかな」
そんなはやての言葉に暫く押し黙っていたなのはだったが、ふと小さく笑い始めた。
「なのはちゃん?」
「あはは………何か自分が恥ずかしくなっちゃって。だってバルトさんはバルトさんでしょ?フェイトちゃんもフェイトちゃんの様に。結局似てるってだけでバルトさんがバルトマンって訳じゃないから」
「………まあそうやな。せやけど一度バルトさんに話を聞こうと思っとる」
「うん、私も秘密にされている事がおおいから色々聞きたいんだ」
これがはやてとなのはの会話である。
実際この事実を知っている者はまだはやて、なのは、シャマルの3人である。
なのはは既に気が付いていた。しかし認められなかった。
目の前の男とバルトが全く同じだと言う物言いに………
「違う!バルトさんと貴方は全然違う!!」
「バルトか…………また懐かしい名前を出しやがって………」
「懐かしい………?」
「まあ名乗らなくても感づいていると思うが、俺はバルトマン・ゲーハルト。旧名、バルト・ログスバインだ」
「バルトマン・ゲーハルト………何故?大悟君に負けて行方不明だって聞いていたのに………」
「アイツに負けたか………?ふん、まあいい………今ではどうなるかは分からんしな」
「何の事………?」
「関係無い話だ。………さて、これ以上時間をかけてもこちらが不利になるだけだ、悪いがそろそろ本気でやらせてもらう!!」
そう言うとバルトマンの体が全身雷に包まれる。
遠目から見てもバチバチと雷がほとばしり、それはまさに雷神そのままであった。
「何これ………バルトさんとは比べものにならない………」
「当たり前だ、偽者と一緒にするんじゃね………まあこれを使って負けてから使わねえ様にしていたんだが………まあお前等相手なら問題ないだろう」
「私達をあまり舐めないで………!!!」
「てめえ等こそ、偽者と一緒に考えんじゃねえ!!!」
そう叫ぶと一気に駆け出した。
「ラウンドシールド!!」
なのははすかさずバルトマンの前にプロテクションとは違う固いシールドを展開した。
「ヴィータちゃん、フェイトちゃん、ヴィヴィオちゃんを!!」
しかしラウンドシールドはバルトマンの斧の一振りで真っ二つにされ、足止めにもならなかった。
「行かせない!!」
そんなバルトマンを受け止めたのはフェイトだった。
正面からぶつかり、勢いを止めようとする。
「邪魔をするなあああ!!!」
「行か………せない………!!」
しかしそもそもの力も違い、尚且つ雷神化の影響で身体能力そのものが上がっている。
「きゃああああ!!」
数秒耐えきったがそれが限界でフェイトもふきとばされ、バルトマンは進む。
「やらせねえ!!」
「ガキが、先に死にてえか!!」
「ガキじゃ………ねえ!!」
バルトマンの斧を受け、膝が地面に付きそうになるが何とか耐えきったヴィータ。
「あんまり六課の魔導師をなめるなと………!!」
「うるせえ、退け!!」
「がっ!?」
ぶつかり合っている斧に雷を放出、一瞬動きが止まったヴィータを払いのけ、ヴィヴィオの元へ行こうとするが………
「エクセリオンバスター!」
なのはの砲撃がバルトマンを襲った。
「ふん、そんな攻撃………何!?」
バルトマンが避けようと動くとそちらへ向かっていくように軌道が変わる。
「拡散して………なるほど、それで捕らえようとしてか!だが甘い!!!」
四方から包み込むようにバルトに向かっていくが、雷神化しているバルトマンにとって対した驚異にもならない。
「狙いは良かったが甘かったな!」
「………さっきも言ったけどあんまり私達を舐めないで!!」
「何!?」
避け、逆になのはへ向かおうとしたバルトマン。しかし砲撃は包み込む様に纏まるどころか更に四方に分かれ、最低限の動きで避けたバルトに直撃する。
「くおおっ!?」
「今だよヴィータちゃん、フェイトちゃん!!」
「豪天爆砕、ギガントシュラーーーク!!」
「ジェット………ザンバー!!」
動きが止まったバルトマンに退けた2人の高威力の攻撃が容赦なく降り注がれる。
特大のハンマーに特大の雷剣。
その場に居た誰もが勝負が決したと思った。なのはでさえ完璧にいったと思ったほどだ。
「えっ………?」
「なっ!?」
バルトマンはそのどちらの攻撃を受け止めた。
「くそが………可愛い顔してえげつない攻撃をしてくる………」
「嘘………耐えきった………?」
なのはも驚愕してバルトマンを見ていた。
「耐えきった………とは言いがたいがな。流石管理局最強の魔導師達だ。俺の聖王の鎧もボロボロだぜったく………ガキ1人処分するのに何でこんなに苦労しなきゃいけねえんだよ………」
「それを許すわけにはいかないの。約束したし、ヴィヴィオちゃんは私の大事な子なの」
「ふん、まるで母親みたいな言い分だな。………だが、そのガキを生かしておけば文明を破壊する事態に陥るかもしれねえんだぞ?」
「あの子にそんなこと出来ません!!」
「ガキ自身には無理だろうよ。………だがそのガキの存在自体が危険なんだよ」
「………もしそうだとしても私がさせません。………いいえ、私達がさせません!!」
「そうだ!させてたまるか!!」
上空から飛来する影。銀色の斧を振りかざし、そのまま叩きつけるかのように振り下ろした。
「来たか偽者!!」
「殺しに来たぜ本物!!」
バルトとバルトマン、2人は互いに互いを見て嬉しそうに叫んだのだった………
「部隊長!バルトさんが!!」
「ホンマか!?」
そう言われ映像を出してもらうとバルトマンの斧をバルトが自身の斧で受け止めている映像が映し出された。
「間に合ったんやな………それに後もう少しで出掛けているメンバーも帰ってくる筈や」
「そうですね!良かった大事にならなくて!!」
「こら、最後まで油断したらアカンよ、援軍が現れんとも限らんしね。引き続き警戒してな」
「は、はい!!」
はやてにそう言われ慌てて画面に集中する職員。
「グリフィス君、バルトマン拘束した方がええと思う?」
「………機動六課はロストロギア専門ですし、拘束するとなると被害が甚大になるかもしれないです。深追いは止めておいたほうが良いと思いますが…………」
「まあなのはちゃん達が簡単に負けるとは思えへんし、いざというときは私も出ればいくらバルトマン・ゲーハルトでも倒せるやろ。出来るところまでやっとこう」
「分かりました。引き続き非戦闘員は避難したままその場で待機させておきます」
「お願いね」
そう指示した後、再び映像へ視線を戻した。
(何で今まで姿をくらましとったのにいきなり現れたんや?何かを狙って………?せやけど六課には別に重要な物はあらへんし………イマイチ狙いが分からへん………一体何しに来たんや………?)
はやては問い詰めるように映像をじっと見ているのであった………
「ほぅ………確かに奴が言った通り、若い俺そっくりだな!!」
「うるせえよ。黙って殺されろ」
「俺がお前にか?冗談もその存在だけにしろよな劣化品!!」
「その劣化品にお前は負けるんだよ、言い訳考えておきな。………人の娘に手を出しておいてただですむと思うなよ………?」
「娘………クク、クハハハハハハ!!!」
「何がおかしい………?」
「人形同士で家族ごっこか!!!こりゃあ傑作だ!!!奴も何て面白いものを作ったんだよ!!!王と騎士どころか家族ごっこしてるぜコイツら!!!」
大声でゲラゲラ笑うバルトマン。
そんなバルトマンにフェイトが前に出て口を開いた。
「さっきから何ですか!!偽者とか劣化品とか人形とか!!まるで………」
「私みたいってか?」
「!!」
その瞬間バルトマンに向かってピンク色の砲撃が放たれた。
「もう喋らなくていい………貴方の声を聞くと不愉快なの」
「そこの劣化品と同じ声だぜ?」
「一緒にしないで!バルトさんと貴方は全然違う。バルトさんは口が悪いけど言葉に愛がある。本当にヴィヴィオちゃんを愛してるって分かる。それこそ人間らしいって事だと思う。私にとって貴方の方が劣化品だと思います!!」
「人間らしい………?そんなもの強くなるために捨てた。俺にはそんなもの必要ない、今もこれからも………」
「だからこそテメエは勝てねえんだ、ウォーレン・アレストにも、黒の亡霊にも」
「ウォーレン?黒の亡霊………?」
バルトの隣で2人の話を聞いていたなのはは、最近知った敵の名前を聞いて少し驚いていた。
「何を根拠に………」
「俺はお前だ。本当のお前は強くなりたいって言うのよりも死にたがっている。あの時の無力だった自分を消すため、あるいは捨て去るためにお前は強者を求めた。自分が殺されても仕方がないって思えるような相手をな」
「黙れ………」
「お前は俺以上に劣化したままだ。俺はお前が失ったものをヴィヴィオとなのはもお陰で取り戻した。全てを取り戻した訳じゃないが、それでも変わることが出来た。お前はどうだ?」
「黙れ!!」
今まで怒りの形相を見せなかったバルトマンが初めてバルトに見せた。
憎悪にも近い様な睨み方でバルトを見つめる。
「………リクの野郎、余計な物まで造りやがって………同じ顔だけなら未だしも心の内まで見透かされるのは屈辱だ………もういい、あのガキだけのつもりだったが、ここ全て消し去って『ストップだよバルトマン』………リクか………」
完全に戦闘体勢に入ろうとして居たバルトマンに通信が入った。
『これ以上は無理だよ、一度撤退しておくべきだ』
「口出しするな!!せめて目の前のこいつだけでも………」
『バルト・ベルバインは今の所必要だよ。聖王器にも選ばれているしね』
「だが!!」
『バルトマン、当初の目的を忘れないでくれ。私達はクレイン・アルゲイルの計画を止めるために動いているのだろう?』
「………ちっ、分かったよ」
そう話した後、バルトマンは自分の斧を戻し、懐から小さな機械を取り出した。
「次は必ず殺す」
「俺からも一言だ。カリムはずっと待っているぞ」
「………」
そんなバルトの一言に何も反応せず光に包まれたバルトマンは光の中へ消えていった。
「消えた………?」
「転移だ。それよりも………」
そう言ってなのはにゆっくり近づくバルト。
「バルトさん?」
「なのは………」
そう小さくなのはの名前を呼んだバルトはそのままなのはを抱き締めた。
「バッ、バッ、バルトさん!!?」
「本当にお前が居てくれて良かった………」
抱き締められているなのははともかく、近くに居たフェイトとヴィータも固まっていた。
「………だからこそこれ以上大事な者を傷つける訳にはいかない」
なのはを解放したバルトはなのはに背を向けた。
う
「!?待っ………「バルト!!!」」
嫌な予感を感じたなのはは、直ぐにバルトを止めようとするが、なのはよりもヴィヴィオが声をかけていた。
「………どうしたヴィヴィオ?」
「また何処かに行っちゃうの………?」
「ああ、お前を守るためにお前を利用しようとする奴全てを潰す為にな。だからお前は心配するな」
「バルトは?バルトはどうなるの………?」
「戦うだけさ。戦って戦って………そして必ず勝つ。だから俺の事を気にする必要ない」
「ヴィヴィオも行く!!ヴィヴィオだって役に立つもん!!」
「駄目だ、お前は連れていかない」
「やだ!!行く!!!」
「理解しろヴィヴィオ!!バルトマン以外にも必ずお前を利用しようと現れる奴が出て来る。だからといってバルトマンの言うようにお前を殺そうだなんて事も思わない。お前は管理局最強の魔導師が揃っているここで守ってもらうのが一番だ」
「やだやだ!!私も行くの!!」
「いい加減にしろ!!!この戦いはお前が攫われでもしたらその時、全てが取り返しのつかない様な事態に陥る事だってあるんだ!!お前はただ足手まといになるだけだ!!!」
「バルトさん、流石にそこまで………!!」
直ぐに訂正させようとしたなのはを目で制した。
ヴィヴィオは俯いているがその肩は震えていた。
「………ねえバルト」
「………何だ?」
「何で私なの?私は誰なの…………?」
顔を上げて話すヴィヴィオは今にも泣き出しそうな顔であった。
「お前はヴィヴィオ・ベルバイン。元気が取り柄の生意気なガキで俺の大事な娘だ」
「でも私もバルトもクローンで………」
「知ったことか!血が繋がっていようが繋がっていまいが関係ねえ!!世の中には血の繋がってない家族のために無茶するバカや命まで懸けて戦った男だっているんだ。血やクローンとか関係ねえ!!!
………俺達は家族だヴィヴィオ」
涙を拭うヴィヴィオ抱き寄せ、頭を撫でながら優しくバルトはそう答えた。
「だからこそ父親としてお前を脅かす奴はぶっ飛ばす!!………だから少しお前から離れるが我慢してくれ。なっ?」
「うん………!!」
そんなバルトの言葉にヴィヴィオは静かに頷いた。
「良かったねヴィヴィオちゃん………」
今度はなのはがヴィヴィオを後ろから包み込むように抱き締めた。
「バルトさん、何かスッキリした顔してますね」
「ああ、一番の悩みの種が消えたからな。………なのは、ヴィヴィオを頼むぞ。敵はバルトマンじゃない。まだヴィヴィオの事がバレていない以上時間はあるが、ヴィヴィオを利用されればそれこそミッドチルダは崩壊するかもしれん」
「バルトさん、何の話ですか………?それにヴィヴィオちゃんを狙う理由って………」
「全てが済んだら教えるさ。今教えたところでこの六課の立場を危うくするだけかもしれない」
「そう………」
「そうだ、最後に聞いていいか?何で俺がクローンだと知っていたんだ?」
「今日はやてちゃんとシャマルさんに言われたの。前回の身体検査で密かに行ったDNA検査でバルトマン・ゲーハルトとそう変わらない結果になったって。………だけど私は関係ないって思った。だってバルトさんはバルトさんだから………」
「本当、お前って奴は………」
再度抱き締め、そう呟くバルト。
「バルトさん………」
軽く赤みた顔で口を近づけるなのは。
しかしその顔はバルトの手によって遮られた。
「悪いがこんな色んな人に見られている時にする気はない。野郎共を敵にもしたくないし、何より六課の狸隊長に弱味を握られたくない」
「そ、そうですね………」
残念そうに俯くなのは。
そんななのはにバルトはため息を吐いて、
「だから………今度な」
「は、はい!!」
耳元で言われたバルトの言葉で笑顔が戻った。
「じゃ、多分2、3日したら戻る」
穏やかに流れていた筈の空気が一瞬固まった。
「……………えっ………?この流れだと解決するまで戻らないと思ったんですけど………」
予想外の言葉になのはも驚きを隠せないでいた。
「俺はそんな事一言も言ってないぞ?」
「でもヴィヴィオを任せたって………」
「俺が留守の際だ」
「えっ!?でも………」
「俺はそれでもいいが、困るのははやてだぞ。バレたら確実に七課からねちねちと………」
「あ、あはははは………」
容易に想像できる光景になのはも苦笑いするしかなかった。
「だから有給で休みにしといてくれって言っといてくれ」
「有給は流石に………」
「このミッドチルダの為とでも言ってくれ。じゃ行ってくる」
「あっ、はい!」
「バルト早く帰ってきてね!!」
「ああ、なるべくな~!!」
そう言ってバルトは飛んでいってしまった。
「行っちゃったね………」
「そうだね、空飛んで………ってバルトさん、緊急時以外ミッドの街中で空飛んじゃ駄目!!」
しかし既にバルトは豆粒のように小さくなっていた。
「なあフェイト………」
「何ヴィータ?」
「茅の外だな私達………」
「そうだね………」
そんな中、会話に混ざるのは流石に悪いと気を使った2人は最後まで茅の外であった………
「そんな有給通るわけ無いやんか!!!」
「は、はやて落ち着いて………」
「ですよね………」
なのは作、有給申請書を机に叩きつけるはやて。
そんなはやてを宥めるフェイトを見ながら苦笑いしながらなのはは呟いた。
全ての事態が終息した後、はやての元へ事態の説明をしていたなのは。
先にフェイトにバルトの秘密を教え、先ほどの事件をなのはが説明したのち、怒りをぶつけた結果であった。
「大体ミッドを守りため?何の説明もされていないんやけど!?クローンは分かったけどその目的は?結局純愛ものの映像しか見せられていないんやけど!!」
「はやてちゃん落ち着いて………」
「大体何時も勝手すぎや!!夜飲みに行くくらいは大人だしええと思ってたんやけど、流石に理由もなしにしかも有給を付けろだなんて………普通の職場ならクビや!」
「まあそうですね………」
「はぁ………取り敢えず2、3日で戻るんやったよね?」
「うん、一応そう言ってたけど………」
「有給は駄目や。普通の休みにさせてもらうで」
「うん、それでいいよ」
そうなのはが肯定したことで一旦落ち着いたはやて。そして別の話になった。
「………で、今回バルトマン・ゲーハルトが襲撃してきた件やけど………」
「狙いはヴィヴィオちゃんとバルトさんの命………」
「うん………バルトマンも言ってたし、バルトさんもヴィヴィオちゃんを守れって」
「………」
「はやてちゃん?」
「………実は私心当たりあるんや」
「心当たり?」
フェイトとなのはが首をかしげながら聞き返した。
「以前神崎君がヴィヴィオの事で呟いていた事があったんや。『オッドアイ………確か聖王と同じ………』って」
「聖王………?もしかして聖王オリヴィエ!?」
「そうや、もしかしたらヴィヴィオちゃんは?聖王オリヴィエのクローンなんじゃないんか?」
「まさか………でも………」
「カリムから聖王の聖遺物はあるって聞いたことがある。恐らくそれでクローンを造ったんちゃうかな?」
「ああ、盗まれたんだっけ?………って言うことは………」
「そうや、また5年前みたいな事件が起こるかも知れんて事や。ともかく私達はヴィヴィオちゃんの保護を優先にするべきやな。後は………バルトさんに聞くしか無いね」
「バルトさん何処へ行ったんだろ………」
「さて来たのは良いが………こんなに時間がかかっちまうとはな………」
バルトが地球にやって来た時には既に21時を回っていた。
通行人も少なく辺り一帯静寂に包まれている。
「取り敢えず今日は野宿して明日探してみるしかないか………ちくしょう、連絡先くらい聞いておけば良かったぜ………」
舌打ちしながら野宿できそうな場所を探すバルト。
「………ってか1週間ちょっとでまた地球に来るとは思わなかったな………ってか腹も減った………そう言えば夕食食い忘れてた………」
そう思うと一気に空腹感が込み上げてきた。
「気が付けばここか………」
3連休の際、なのはとヴィヴィオと泊まりに来た高町家の前へとやって来ていた。
「………いやいや、何考えてんだ俺は………あんなデカイ事言ってなのは達の元を去ったのに早速居所がバレちまったら意味がない、さっさと離れ………」
「あれ?バルトさんじゃないですか!どうしたんです家の前に立って………?」
タイミングが悪いことにビニール袋を持った美由希が居た。
「………久しぶりだな」
「あれ?何でかあんまり歓迎されていないような………それよりもバルトさんはどうして地球に?なのはやヴィヴィオは一緒じゃないの?」
「あっ、いや今回は………」
グウウゥゥゥ………
バルトの腹の音が鳴る。
音自体は大きくないが、静かな分美由希にもしっかり聞こえた。
「お腹減ってるんでしたらよければ家に………」
「………お邪魔します」
今のバルトに断る力は残っていなかった………
「あらバルトさんいらっしゃい!」
「やあ、バルトさん!」
「お邪魔します、桃子さん、士郎さん………」
家に入ったバルトは気兼ね無く向かい入れられた。
(どうも不用心過ぎる気がする………まあもし何かあっても簡単に撃退しそうだがな………)
早速「夕飯の残りでごめんなさいね」とバルトの食事を用意してくれた。
「………美味い!」
「ありがとうございます!」
桃子は嬉しそうに先程までしていた洗い物の続きを始めた。
「バルトさん、飲むかい?」
「頂こう」
士郎さんにお酌をしてもらい注いで貰ったビールを飲み干した。
「おお!相変わらず良い飲みっぷりだね!いつも飲んでいるのかい?」
「酒は好きだが隊舎じゃ酒でないんでな、飲むのに許可が必要だから面倒なんだよ………」
「なるほど………それは拷問だね………」
「はやてが考慮してくれてるからまだマシだけどな」
そう言いながら今度は自分でビールを注ぐバルト。
「………で、テレビの前でこっちを見てる夫婦はどちら様?」
「ああ、長男とその彼女さんだよ」
「初めまして、高町恭也だ」
「月村忍です」
ソファーから立ちあがって自己紹介する2人。
女性の方は大和撫子を彷彿とさせるいかにも雅と言った女性で、かなりの美人である。
対して男性の方もイケメンと呼称される様な男性であるが、そこから滲み出る雰囲気は強者と相対するような感覚を覚えた。
(………ってか何であんなに睨んでんだお兄さんよ?)
心の中でそう思いながら受け流すバルト。
そして忍の方を見るとふと、誰かが浮かび上がってきた。
「ん?その顔何処かで………」
「別荘で妹がお世話になりました」
「ああそうだ!!月村すずか!!おお、言われてみると確かに似てる!!全然気がつかなかったぜ!!」
「あの子も大人っぽくなりましたからね」
自分の事のように嬉しそうに話す忍。
「姉妹仲は良さそうだな」
「当然です!」
「そうか」
忍と話せているが相変わらず恭也は睨み続けていた。
(何か感じ悪いな………喧嘩売ってるのか?)
「それでねバルトさん、2人は近々結婚する予定なんだ」
「ほう!!そりゃあめでたい!!!」
「それで今仕事の合間に式のプランを考えているところだ。あまり時間が無いが決めておかないと更に時間がかかりそうなんでね」
何か覚悟を決めたような顔をする恭也に少々疑問を覚えたバルトだが気にしないことにした。
「まあ良かったな2人共」
「はい」
「ああ」
「そう言えばバルトさん?」
「ん?何だ?」
「今回はどうして地球にやって来たんです?」
「………そうだ!!」
洗い物を終えた桃子に質問され、慌てて本来の目的を思い出したバルト。
「しまった………あまりにも心地良いんですっかりのんびりしちまった………なあ士郎、有栖零治の住んでいる所分かるか?」
「零治君………?」
「ふあっ~」
「眠そうですねレイ」
「ああ………大学生はレポートとの戦いだからな………本当、パソコンは疲れる」
「すぅ………すぅ………」
「………そしてライが重い」
ソファに座る俺の膝にライが枕代わりに寝ていた。
「ライずるい………私も………!!」
「まあ今回だけは多目に見て上げろ。ライも馴れないオリエンテーションに疲れたのだろう」
ライを退かそうとする優理を夜美が止めた。
ライは今日実習のオリエンテーションだったらしく、それはもうボロボロだったようだ。
ライの進路先の一つ、療法師系の仕事はどうしてもお客さんとのコミュニケーションが必要となってくる。
誰とでも仲良くなれるライにとってそこは問題ないのだが、相手はお客さんなのだ。
先ず慣れ慣れし過ぎる口調を注意され、周りよりも足りない知識を指摘されたようだった。
当然ライも一生懸命勉強しているのだが、それでも足りなかった。
その頑張りを有栖家みんなちゃんと見守っていた。
「どうぞレイ」
「ありがとう星」
お茶を受け取り口をつける。
「はぁ………美味い………」
「ふふっ、ありがとうございます」
「星済まないが………」
「夜美もですね」
「私も~!!」
「ハイハイ………」
少し呆れながらも嬉しそうにキッチンへ向かう星。
「ん?電話だ」
「夜美お願いします」
「分かった」
そう言って立ち上がった夜美は読みかけの小説を机に置き、受話器のある場所へ向かった。
「もしもし有栖ですが………ああ、桃子さんお久し振りです。………ええ、私もライも元気ですよ。私も寄りたいとは思っているのですが中々………我?あ、ああ!!あの一人称は………」
夜美もすっかり私に慣れ、違和感なく使い慣れているようだった。
………まあ家の中では相変わらず我だが、多少意地があるのだと思う。………主にキャラの濃さとか………可愛らしい限りである。
「そう言えばどうしたんです?こんな時間に電話なんて………えっ、レイ?分かりました代わりますね」
そう言って夜美は受話器を俺の所へ持ってきた。
「何だろう?今度の稽古の件かな?」
「分からんが電話には桃子さんが出てたぞ」
良く分からないが取り敢えず電話に電話に出ることにした。
「もしもし桃子さん?零治ですけど………」
『よう、有栖零治』
「ん………?ってバルトマン!?」
「あぎゃ!!熱っ!?痛っ!?………何地震!?うえぇ~服がびしょびしょ………」
思わず立ち上がった事でライが転げ落ち、手に持っていたお茶まで溢してしまった。
「レイ何して………」
慌てて零治の元へ来た星も零治の表情を見て固まる。
『落ち着け、バルト・ベルバインだよ』
「あっ!!すいません、つい声が似ていたもので………」
『まあいい。………久しぶりだな』
「って程じゃないですけどね………どうしたんです?六課のに居る貴方が地球に居るなんて………もしかしてまた地球に何か………」
『いや違う、今回来たのは私的な頼みがあったからだ。………明日時間あるか?』
「えっ、まあ明日は学校なのでそのあとであれば………」
『なら翠屋に来い。そこで大事な話がある。いつでも良い、明日は翠屋に居るからな。………じゃ、頼むぞ』
そう言って電話は一方的に切れた。
「………何だ?」
「レイ………?」
「何だラ………」
そこまで言って固まった。
Tシャツ一枚で寝ていたライは何故か濡れていてピンクのブラジャーが透けて見えていた。
そして露わになる有栖家一の巨乳。
「相変わらずでかいな………」
「ありがとう。………ねえ、何で寝てた僕がこんな格好していると思う………?」
「ん?………!!!」
そこで気がついた。
持っていたお茶が空になっていた。
膝枕していたのに立ち上がった。
「あははは………」
「レイ何か言うことある………?」
「水も滴る良い女………ぎゃああああ!!!」
電撃を喰らい、悶絶し倒れる。
「「「バカ………」」」
最後に聞こえたのはライ以外の冷たい一言だった………
後書き
パソコンが欲しいけどお金が無い………ううっ………
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