| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

人鬼―ヒトオニ―

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

人鬼―ヒトオニ―

 
前書き
崩れ始める 

 
*崩れ始める*

↑↓←→

 次の日、純平は1時間目授業から、大きなあくびをしていた。

キーンコーンカーンコーンー…

聞き慣れたチャイムの音と共に、皆一斉に立ち上がり、友人の居る教室やトイレに用をたしに走った。

純平も、いつもなら皆と同じように友人のもとへ行きたいが、今はそんな事を出来る状態では無い。

「よー、ジュンペー。どーしたんだよ?」

陽気にヘラヘラ笑いながら、友人の斉藤 晴樹(さいとう はるき)が純平のもとまでやってきた。
晴樹は、明るくてとても良い奴なのだが、疲れている時に相手をするのは大変な奴だ。

「さっきの授業、やけに眠そうだったじゃん。ジュンペーにしちゃあ珍しいんじゃねぇの?」
「あー…うん。」
純平は、素っ気なく言葉を返した。
にも関わらず晴樹はどんどん話しかけてくる。

「熱でもあるんじゃねぇのか?保健室でも行ってくるか?なんなら俺、保健室まで送って行くぜ?
それとも、何か悩み事でもあんのか?あるなら俺に相談しろよ?俺だって、何か力になれるかもしれないからな。
おっと!もうすぐ授業が始まっちまう!ジュンペー!また後でな!」

晴樹はそそくさと、自分の席へ戻っていった。
…何だか一気に疲れた。
心配してくれるのは嬉しいが、流石にあのマシンガントークは疲れる。

純平は再び、目を閉じた。


気が付くと、6時間目も終わり、終礼が始まっていた。
今日は1日、ぼーっとしていて、授業が頭に入ってこなかった。
「…だめだ、もうすぐ期末考査なのに…。」

純平は、虚ろな目でバイトに向かった。


↑↓←→
バイトが終わり、純平がコンビニの外に出ると いつも暗くなっている。

そして その帰り道、近くの小さな弁当屋に寄って大好きなエビフライ弁当を買うのが 楽しみでたまらなかった。

エビフライについてくるタルタルソースが、なんだか懐かしい味がして好んで食べていた。

もちろん今日も買って帰っていた。



…おかしい。
弁当を買う所まではいつも通りだ。
だが何か様子が違う。

なぜだ。

おかしい。

なんなんだ。


同じ言葉が 重なるように何度も頭の中をよぎり、最終的に全ての言葉が固まり 結論へと変わった。
「気持ち悪い。」


その瞬間、純平の目の前は真っ暗になった。

↑↓←→


*蓄積*


―…シャー…―

そんな音が耳に入り、純平はベッドの上で目を覚ました。

辺りを見回すと、とても見覚えのある 小さな机、古ぼけた壁と天井、ゴワゴワゴワとしたカーペットの敷かれた床が目に入った。

「…どうやって帰って来たんだ…?」

何があったかさっぱり解らず、状況を整理しようと手で目を覆った。

―…シャー…―

…気が動転していて忘れていた。

あの『シャー』という音の事を。

どうやら、その音は風呂場から聞こえるらしい。

純平はあわてて 風呂場へ向かった。


風呂場の戸を開けると、浴槽に永遠とシャワーから水が注がれている光景が目にうつった。

「あーもう、なんだよこれ。出しっぱなしだ…。水道代がもったいないじゃないか…。」

そう呟きながら、シャワーの蛇口をキュッと閉めた。

純平は、ほぅっと安心したように息を吐き、その場を後にしようとした。

…なぜシャワーの蛇口が開いていて、浴槽に水が注がれていたんだ?

そんな疑問が頭の中を駆け巡り、純平は更に混乱した。

…鼓動が早くなる。

目の前がチカチカし始める。

息が荒くなる。

足が震える。

手が震える。



純平は恐る恐る、浴槽を覗き込んだ。

浴槽には、半分より少し少ないぐらい水が張られ、その中には自分のジャージが浸かっていた。

純平は、なんだか首元に寒気を感じた。
寒気と言うよりも、恐怖を感じたと言った方が良いかもしれない。


なぜ、誰が、どうしてこんな事をするのかは解らない。
それゆえに、更に恐怖を感じたのだった。

純平は 慌ててジャージを薄いビニールの袋に入れ、自分の目につかない場所に押し込めた。

まだ、息が上がっている。

ふらりとベッドに座り込み、膝を抱えて縮こまった。

「何なんだよこれ…。」

純平のすぐ耳元で、笑い声が響いた。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧