人鬼―ヒトオニ―
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人鬼―ヒトオニ―3
前書き
つかの間の
平穏
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携帯電話を開く元気すら、今の純平には無い。
純平は高熱を出し寝込んでしまっていた。
昨日の夜中から、間接のダルい痛みや目玉を裏から押し潰されるような感覚がずっと続いている。
うっすら涙が浮かぶほど、辛くて辛くてたまらない。
外では、雨が降り続いている。
横になって じっとしていると、色々考えてしまう。
いったい、今自分に何が起こっているのか、今日の夕飯はどうしようか、今回の期末試験は大丈夫だろうか。
そんな日常的な考えを全て押し退け、こんな考えが最前列にならんだ。
「昨日、風呂場で起きたこと。」
あの奇妙な出来事が、頭の中をグルグル回り続けていた。
なんだか吐き気がしてきた。
緊張している時に出る吐き気の感覚とよく似ている。
あれは何だったんだ?
誰があんな事をしたんだ?
そもそも、何のために?
その事だけで、純平の頭の中は埋め尽くされた。
雨はまだ降りやまない。
しばらくすると、雨音に混じって、玄関の戸を叩く音が聞こえる。
「おーい、ジュンペー。」
晴樹だ。
こんな雨の中、わざわざ訪ねてきて、いったい何の用なんだろう。
純平は重い体を引きずって、玄関の戸を開けに行った。
「ひゃーっ!!すっげぇ雨だなぁ。」
晴樹は、戸を開くなり飛び込むように部屋に入ってきた。
「何しに来たんだよ?学校はどうした?」
「何言ってんだよ。今日はもう終わったぜ?」
16時…たしかに授業は とっくに終わっている時間だった。
晴樹は手に持っているビニールの袋の中身をゴソゴソと出し始めた。
「びっくりしたぞ?どんだけ調子悪くても、ジュンペーが休んだ事って今まで一回も無かったしよ。あ、いや、小学生の時は何回かあったっけ…なんか、親がどうこうって…んまぁ良いや。」
そう良いながら、ビニールの袋の中身を次々と取りだていく。
ジュース、弁当、熱を冷ますための冷却シート。
全部純平の目の前に並べられた。
「…何これ?」
「何これって…見舞いだよ見舞い。カラオケでも誘いに来たように見えるか?」
「いや、そうは見えないけど…。」
「だろ?」
晴樹は へらっと笑った。
「おし、んじゃあ俺は帰るぞ。早く良くなって学校に来いよー?」
「ちょっ、まてよ…!」
晴樹は純平に礼を言わせる暇もなく、さっさと帰ってしまった。
純平は、礼が言なかった事にモヤモヤしながら再び横になった。
だが、内心ほっとしていた。
友人の晴樹が自宅に訪ねてきた事により、純平の生活に日常が戻ってきたような気がした。
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次の日、純平は授業に出られるほどに回復した。
朝 学校に着くと、真っ先に晴樹を探し昨日できなかった礼をした。
晴樹は、純平に礼を言われるといつもと変わらずへらへらと笑い「んなの良いっての。」と答えた。
いつも通りの友人の反応に、純平の心は落ち着きを取り戻していった。
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*噂*
それから、数日経った。
あれ以来、おかしなことは起きていない。
純平も、以前と変わらず過ごしていた。
しかし、世間では変なうわさが流れるようになっていた。
「ねぇ、知ってる?」「なにを?」「バネ足ジャックの噂」「知ってる知ってる。」
バネ足ジャック。
よく知られる年伝説でよく知られる『切り裂きジャック』の十数年前に現れた、もう一人のジャックらしい。
切り裂きジャックと同じで、年伝説的存在だが、切り裂きジャックよりも幻想的(または奇妙な)存在だ。
バネ足ジャックは、銀色の衣装に身を包み消防士、または警官と偽って女性宅を訪問、出てきた相手に火を噴きかけたり、ナイフで切りつけたりして逃走したと言う。
連続するバネ足ジャックの凶行の現場に駆け付けた警察官は、バネ足ジャックが その名の通り、足にバネでもつけているかのように飛び上がり、数メートルの塀を跳躍力だけで飛び越えて行ったそうだ。
しかし、今回のバネ足ジャックは少し様子が違った。
跳躍力だけで数メートルも跳びあがり、何処かへ逃げ去るのは同じだが、
この日本で出現したバネ足ジャックは見た目が違い、パーカーの着いた黒い服を着て、真っ白なマスクを付けているらしい。
犯行が行われる場所は必ず、十字路と決まっていた。
場所が場所なだけに、無差別と思っている人が多いようだが、一部の人が言うには『不正を犯している人を狙っている。』らしい。
それ故に、熱狂的なファンも存在するようだ。
正直、どんなに不正を犯した人を狙っていたとしても犯罪者は犯罪者だ。
そう思い、純平はその噂を嫌っていた。
「なー!ジュンペー!今日の新聞見たかよ!?また載ってたぜー!?」
晴樹も、バネ足ジャックの熱狂的なファンの一人だった。
「なんか、まるでヒーローみたいだよな!俺が昔好きだったヒーローに似てるぜ!闇にまぎれて悪を討つ!かーっけぇー!!!」
「…お前は小学生か。ヒーローヒーローって…来年 俺達3年だぞ?もう少し受験や就職の事を考えて…。」
「わかってるってーの!おめーまで親父みたいなこと言うなよ…。俺だって、もう少し夢見ていてーんだよ…。」
「そもそも、犯罪者は犯罪者だ。俺は好きになれねーよ。それに、道具も無しに跳躍力だけで数メートルも飛びあがるなんて信じらんねーよ。ぜってーなんかの見間違いだ。」
「いやでも、実際に事件が起こって…。」
「確かに事件は起こってるかも知んねーけどよ、誰かが話盛ってるって可能性もあるぜ?非現実的な所が多すぎる。」
それを聞くと、晴樹は子供のようにすねるような態度を見せた。
新聞に書かれたバネ足ジャックの記事を読みながら、次の授業の準備をしていた。
純平も次の授業に備え、教科書などの荷物をまとめた。
今日も、何事も無く時間が過ぎて行った。
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