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人鬼―ヒトオニ―

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人鬼―ヒトオニ―2

 
前書き
平凡な日々が崩れ出す。 

 
*平凡な日々*


-雨の降る闇の中で足音が掛ける。-

その小さな足音は、行く宛てもなく、途方に暮れたように立ち止った。

そして、しゃがみ込む。
小さな体を更に小さくかがめてしゃがみ込む。
何者にも見つからないように、身を小さく抱えていた。

「こっちか?」「いや違う。」「きっと向こうだ。」「わかった。」

小さくなって隠れていると、そばを いくつもの大きく太い声が通り過ぎて行った。

全てが通り過ぎて行った後を見送ると、小さく ほうっと溜息をついた。

そして、少し息を整え、顔や体に着いた 汗や泥や涙、そして 人に流れる赤い体液を、限りなく打ちつける雨で洗い流した。

↑↓←→

 とあるコンビニ。
週刊誌を立ち読みする男や、飲料水を選ぶ女性、人が入る度にピロリロと曲が流れる入口。
そこには、ごく普通の日々、時間が流れていた。

「…合計で640円です。」高校生ぐらいのアルバイトの店員が、笑顔を絶やさず 商品を丁寧に薄いビニールの袋に詰め、女性に手渡していた。

何も変わらない、普通な日々。
こんな何も変わらない日々に、満足している者が居た。

このコンビニのアルバイト、高校2年生の三木純平(みき じゅんぺい)だ。
小・中と、叔父の家で暮らしていたが、あまり叔父と上手く行っておらず、高校に上がり、すぐにバイトを見つけて一人暮らしを始めた。


 純平には 父と母が居ない。
幼い頃、とある事件に巻き込まれ命を落としたらしい。
純平は、その事件の事は覚えていないという。
それ程ショックだったのか、事件の事を尋ねると、笑顔が消え 黙り込む。
そして最後にはいつもの笑顔に戻り 必ず、
「なにもないさ。」
と、一言答えるのだった。

↑↓←→

バイトを終え、純平は自宅に帰って来た。
とても安い古いアパートだ。

部屋に入って早々、純平はベッドにどさりと倒れ込んだ。
「ふぅ…。あー…つかれたぁ…。」
あくびまじりに いつも通り呟くと、体をぐっと伸ばし、リラックス出来る体制をとる。

今日もいつも通り、何も変わらなかった。

うん、これで良いんだ。これが、俺にとっては一番幸せなんだ。

純平は、幸せそうにゴロンと寝がえりをうった。

『本当にそんなんで良いのかよ?』
「!!?」

純平は慌てて飛び起きた。

すぐ近くで声が聞こえた。

一人で居た筈なのに。

隣の部屋は、空き部屋になっていて誰も居ない筈なのに。


「…気のせい…か。」
純平は再び横になった。

きっとバイトのし過ぎで疲れているんだ、
純平は そう確信した。

『おいおい、解ってんだろ?気のせいじゃねぇって。』

聞こえた。
再びはっきりと。
声も解る。
「なんだよこれ…?」
『おいおい、忘れちまったのかよ?』
「忘れちまった…?な、何の事かさっぱり…。」
『まぁ良いさ、すぐ解るぜ。』
「解る…!?な、何が…。」
『…。』

それ以降、声は聞こえなくなった。 
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