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IS 〈インフィニット・ストラトス〉~可能性の翼~

作者:龍使い
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第一章『セシリア・オルコット』
  第三話『部屋割り事件と活殺の心得』

「……うぅ」
「大丈夫か、一夏?」
「ぜ…全然大丈夫じゃない……」
放課後、机の上でぐったりとうな垂れている一夏に俺は声をかけるが、当の本人がノックアウト状態だった。
「い、意味がわからん……。なんでこんなにややこしいんだ……?」
「……むしろ、基礎的な事を叩き込んでそれと言うお前の処理能力がややこしいわ…」
「……うぅぅ」
呆れた表情で言う俺に、うめき声で返す一夏。
「……それよりさ、悪かったな、修夜」
「なにがだ?」
「三時限目の事だよ。あの時、俺があんな事を言わなかったら、お前は……」
「気にすんな」
恐らく俺の内心に気付いていたであろう一夏に、そう言っておく。
「けどよ……!」
「あの時に俺がとやかく言ったところで、オルコットも含めた全員が勝負の真剣さを理解するとは思っていない。
 むしろ、お前と箒、ちー姉に迷惑が掛かるだけだ。だから、我慢した」
そう、俺はあの時、内心では怒りを抑えるのに必死だった。
幼い頃から武術を学び、勝負の世界を学んできた俺にとって、彼女達の発言は、勝負の世界に生きるもの全てを侮辱するに等しいものだと感じていた。
だが、その事で怒る訳には行かなかった。怒った所で理解できるものではなく、逆に一夏や俺が不利になるだけだからだ。
ましてや、あの場で力を振るえばそれは暴力にしかならない。それは俺だけではなく、一夏や箒といった知り合いにまで迷惑が掛かるのだ。
「…………」
「んな顔するな、一夏。どっちにしろ、来週にはオルコットと勝負する。
 その時に、俺やお前が勝てば皆納得するさ。だから、深く考えるな」
「……分かったよ」
苦笑いを浮かべて言う俺に、一夏も渋々納得する。こう言う他人を気遣うところは、昔から変わらないな。
「ああ、織斑くんに真行寺くん。まだ教室にいたんですね。よかったです」
そんな話をしていると、山田先生が書類を片手に俺達の所に来た。
どうでもいいが、この人はやっぱり身長が低い印象が強いな。実際は平均の身長なんだろうが、身長と体系が微妙にアンバランスだからそういう印象が強いんだろうな。
「何か用ですか、山田先生?」
「えっとですね、寮の部屋が決まりました」
そう言って、部屋番号が書かれた紙と鍵を渡す山田先生。
ここIS学園は全寮制で、生徒は全員寮で生活を送る事が義務付けられている。
理由は、将来有望なIS操縦者たちを保護する目的であるといわれてる。
実際問題、国の未来が関わるとなれば、各国が我先にと動くのも無理はないんだが……。
「俺達の部屋は決まっていないんじゃなかったのでは? 一週間は自宅から通学してもらうって話でしたが」
「そうなんですけど、事情が事情なので一時的に部屋割りを無理やり変更したみたいです」
……恐らく、政府が動いたっぽいな。何せ、俺と一夏は世界でただ二人の男性操縦者だ。
マスコミやら各国大使やら、果ては研究機関の連中が動く中、一週間とはいえ学園の外から通学と言うのは危険と判断したんだろう。
俺としては、傍迷惑な事この上ないけどな……どっちにしろ、体の良い籠の中に入れられているようなもんだから。
「そういう理由なら分かりましたけど、荷物はどうなるんですか?」
「あ、いえ、荷物なら……」
「私が手配しておいてやった。ありがたく思え」
山田先生の声を遮って、千冬さんがそう言いながら教室に入ってくる。
「生活必需品だけだが、着替えと携帯電話の充電器があれば十分だろう」
「質問いいですか、織斑先生」
ふと気になった俺の言葉に、振り向く千冬さん。
「一夏は織斑先生の判断ですが、俺の場合は家に【あいつ】がいます。
 事前に連絡はしたんですか?」
「問題ない。状況を説明したら納得してくれたからな」
「分かりました、ありがとうございます」
……とりあえず、千冬さんが考える以上に荷物は充実してそうだな。あいつ、そこの所は一応しっかりしてるし。
「じゃあ、時間を見て部屋に行ってくださいね。
 夕食は六時から七時、寮の一年生用食堂で取ってください。ちなみに各部屋にはシャワーがありますけど、大浴場もあります。
 学年ごとに使える時間が違いますけど……えっと、その、お二人は今のところ使えません」
「まぁ、当然でしょうね。同年代の女子と入るのは、俺達としても遠慮願いたいですし」
入ったら入ったで、俺と一夏の人生が破滅しかねんからな……。
「ああ、そっか。そうだよな」
俺の言葉に一夏が得心言ったように頷く。……気付いてなかったな、この阿呆は。
しかし、山田先生は俺の予想を越える勘違いを披露してくれました。
「ええっ? 二人とも女の子に興味がないんですか!? そ、それはそれで問題のような……」
「何をどう聞いたらそのような結論になるんですか、山田先生!?」
俺と一夏は至ってノーマルですから! つか、常識の問題でしょう!?
「真行寺くん達、男にしか興味がないのかしら……?」
「それはそれで……いいわね」
「もしかして……お互いにそう言う関係じゃ……?」
「それ以外にも中学時代の交友関係を洗って! すぐにね! 明後日までには裏付けとって!」
「そこの腐女子どもは、いらぬ勘違いしてるんじゃねぇ!」
もうやだ、この学園……。
「えっと、それじゃあ私たちは会議があるので、これで。二人とも、ちゃんと寮に帰るんですよ。道草くっちゃダメですよ」
寮までの僅かな距離でどうやって道草をくえと言うのですか、山田先生……。
そりゃまぁIS学園には様々な設備があるが、今の俺たちには関係ない。
それに、今日は色々あり過ぎて疲れているので早めに休みたい。主に女子の視線による心の疲弊だが……。
「ふー……」
「やれやれ……」
千冬さんと山田先生が教室から出て行くのを見送り、一夏と俺は溜息を吐く混じりに立ち上がった。
「一夏、分かってると思うが……」
「皆まで言わなくても分かってるよ……」
俺と一夏は互いに頷いて教室を出た。教室内外ではまだあれこれと騒がしいが、今日の所はもう完全無視する事に決めた。

――――

「えーと、ここか。1025室だな」
「俺は1026室だから隣部屋か」
俺と一夏はそれぞれの部屋番号を確認しながらそう言う。
と言うか、隣部屋にするなら無理にでもいいから同室にしてくれや……と思うのは、俺だけじゃないはず…。
まぁ、一ヶ月後には同室になるだろうから、それまで何とかやってけばいいんだろうけどな。
「それじゃな、修夜」
「ああ、また明日な、一夏」
そう言って、俺と一夏はそれぞれの部屋に入って行った。
「あれ~、しゅうやん?」
部屋に入ると、袖丈が異常に長い着ぐるみを着た女子がいた。
この娘は確か……布仏本音(のほとけ ほんね)だったな。部屋番号は間違えてないはずだから、彼女と同室と言う事か。
……ってか、三時限目の「しゅうやん」はこの娘が言ったんかい!
「どしたの~? もしかして、同じ部屋?」
「まぁ、部屋番号が間違ってなければそうなるんだろうけど……てか、しゅうやんって何?」
「ほぇ? しゅうやんはしゅうやんだよ~?」
……あだ名みたいなもんか、要するに…。
って言うか、なんか調子狂うなぁ……まぁ、のほほんとしてるせいか、癒されそうな気配もするけど。
「……まぁ、いいや。とりあえず、一月の間よろしくな、本音」
「よろしく~、しゅうやん」
にへらと笑う彼女に思わず微笑んでしまう俺。なんだこれ、予想以上に癒し効果が半端無いぞ!?
そんな事を考えつつ、俺は届いているであろう荷物を見つけ、中身を確認する。
「わっ、しゅうやんは荷物が多いねぇ」
興味津々に俺の荷物を見た本音が驚いた声を上げる。
荷物の中身は、着替えや日常品だけでなく、本やゲーム機にノートパソコン等々。後は俺が愛用している修行道具に二振りの刀だ。
因みに言っておくが、刀にはちゃんと登録証が付いているからな? 流石にそれ無しで持ち歩くほど、常識知らずな訳じゃない。
「まぁ、必要なものとなると、どうしても多くなるからな。これでもまだ少ないほうさ」
どちらかと言えば、俺がよく使うものを最低限を詰め込んだ形だな。よく分かってるなぁ、あいつも……。
そんな風に本音と話していると……。

――ズドンッ!

隣から、なにやら分厚い壁でも突き破ったかのような音が響いた。
「な、なんだぁ……?」
同じくきょとんとしている本音と顔を見合わせる。
音の位置からすると……一夏の部屋か? 何やったんだ、あいつ?
「ちょっと様子を見てくる。あ、荷物には触れるなよ。確認中なんだから」
「うぃ~、りょうか~い」
俺の言葉に手を挙げながら答える彼女……プラチナイオンでも出てるんじゃないか、この娘は。
とりあえず、部屋を出て隣の部屋を見ると、そこには息絶え絶えな一夏がいた。
「……何やってんだ、一夏?」
「し、修夜か! ほ、ほ、箒がぁ……!」
若干涙目になりながら俺の方を向く一夏。……本気で何があった?
「落ち着け一夏、箒がどうし……っ!?」
一夏に近づこうとした俺は、部屋から出る殺気に気付いて慌てて距離を取り……。

――ズドンッ! パシッ!!

本日二度目の白羽取りを披露する事になった。
(……あ、あっぶねぇ……気付かなかったら大怪我負うところだった……!)
冷や汗が背を流れるのを実感する……。なぁ、ここは学園だよな、戦場じゃないよな!?
「し、修夜、大丈夫か!?」
「な、何とか……ってか、なんだよこの状況は!?」
白羽取りしたのは、どうやら木刀のようだった。そして、目の前には木製の扉……。
普通に考えれば、木刀で突き破ったと考えるのが妥当だが、問題は何でそんな状況になっているかだ。
「そ、それが、部屋に入ったら箒がいて、いきなり……」
「はぁ……!?」
箒がやったってのは理解したが、なんでそういう状況になるかな!?
とりあえず、事情を聞かないことには埒が明かない事は分かった。
さっきから木刀を引き戻そうとする力が加わっている事から、下手したらまた突くかもしれないし……。
ってか、今気付いたけど何時の間にか周囲にはラフな格好をした女子達がいる。この状況に加えて、これは流石にやばすぎる!
「箒、俺だ、修夜だ! とりあえず、木刀を納めて中に入れてくれ!
 てか、周囲の状況が色々やばいんだ、頼む!」
大声でそう言って木刀を離すと、ゆっくりと切っ先が室内に戻っていく。
数瞬の沈黙後に扉が開き、剣道着姿の箒が言葉を紡ぐ。
「……入れ」
「あ、ああ。一夏」
「お、おう」
俺と一夏は、周囲の女子達に解散するように言った後、部屋に入った。

――――

その後に事の顛末を聞いたんだが……。
「こいつは明日まで没収」
「な、何故だ!?」
事情を聞き、木刀と竹刀を手に取る俺に、箒が食って掛かる。
「当たり前だ、馬鹿!
 状況が状況だけに一夏に非が無いとは言わないが、仮にも武芸者が、くだらない理由で本気の突きを放つとはどういう事だ!」
「うっ……!?」
俺の本気の睨みに、思わずたじろぐ箒。
「武芸をやっている者が本気を出したらどうなるか、理解できないわけじゃないだろ!?
 お前は一夏を殺したいのか!?」
「そ、そんな事は……」
言い淀む箒に、俺は更に言葉をぶつける。
「だったらさっきの突きはなんだ!? 扉を貫通するって事は、下手をすれば人体に大きな傷を与えるって事だぞ!?
 そうなれば入院、最悪は死亡だってありえる! そうなったらお前は責任が取れるのか!?」
「……」
「ま、まぁ落ち着けよ、修夜。箒だって今は反省して……」
「一夏は黙ってろ!」
俺を宥めようとする一夏に一喝し、黙らせる。
「……箒、俺だってお前の荷物を没収することには申し訳ないと思う。だがな、一介の武芸者としてこいつは許せることじゃない。
 武術は、使う人間の心次第では暴力どころか殺人術にもなる。それを理解していて、一夏にそれを振るったのなら、お前は武芸者失格だ!」
「……っ!」
俺の言葉に、箒は拳を握り締めて頭を垂れる。
「……一晩頭を冷やせ。それまでは没収だ、異論は無いな?」
「……わかった」
辛うじて言葉を紡ぐ箒を一瞥し、俺は部屋を出る。
「おい、修夜!」
その後を、一夏が追ってくる。
「……なんだよ?」
「言い過ぎなんじゃないか!?」
「だが、箒はそう言われるだけの事をした」
俺は振り向かないままそう答えた。
「けど……!」
「お前がそう言いたくなる気持ちもわかる。だがな、武術の根源は殺人術なんだよ」

――剣は凶器。剣術は殺人術。人も護るために人を斬り、人を生かすために人を殺す。それが、剣術の真の理じゃよ。
――忘れるな、活人術と殺人術は表裏一体だと言う事を、の。

俺が、師匠に武術を教えてもらう際に、初めに教わった剣術の理。そして、全ての武術にある最初の心得。
「どんな理由があろうと、怒りに任せて剣を振るえばそれは殺人剣だ。
 武芸者として未熟といえばそれまでだろうが、だからと言って容認できるほど武術は甘くない」
「……」
俺の言葉に一夏は黙る。
「覚えておけ、一夏。どんな力にだって、人を生かす術もあれば殺す術もある。
 それはISだって例外じゃないし、お前が【誰か】を護りたいと願う想いもまた、人を殺す可能性を秘めている。
 その力や想いを、どちらに使うかは己の心次第だ」
そう言って、俺は振り返る。
「それと、本当に箒の事を思うならば、時にはその優しさを捨てろ。
 甘やかせば、それだけあいつはお前に甘え、自分の間違いに気付かないまま力を振るう。
 そうなれば、最悪……彼女は自分の間違いで、何かを失うだろうからな」
一夏を真っ直ぐに見据え、言葉を紡ぐ。
そう、彼女を真に思うのならば、あの時の一夏の優しさは邪魔にしかならない。
こいつは、誰にでも優しすぎる。それは確かに、こいつの美点であり長所だ。
だが、今回の場合は違う。こいつの優しさで俺が説教を止めてしまえば、箒は自分の間違いを完全に理解しないだろう。
俺とて、女の子を傷つけたり泣かせたりするのは好きじゃない。だけど、箒は武芸者だ。
何かしらの力を振るう者、それを極めようとする者ならば、力の使いどころを常に意識しなければならない。
ただ感情の赴くままに振るってしまえば、それはただの暴力、最悪は殺人術にまで発展する。武芸者は、それをまず自覚しなければならないのだ。
箒の父親であり彼女の師にあたる篠ノ之柳韻(しののの りゅういん)は、その事を箒に教えている筈なんだが、彼女が引っ越した後の彼の所在は不明なので、今の段階では彼に聞きようがないがな。
「……だったら」
「ん?」
「だったら俺は、そうならないように努力する。
 時には優しさを捨てないと誰かを救えないなら、捨てずにすむように力をつけて誰かを救う。
 その為の力が、今の俺にあるんだから」
一夏もまた、俺の目を真っ直ぐに見据えて言う。一夏らしい決意といえば、一夏らしいと言えるな。
だが、その言葉に俺は溜息をつく。
「阿呆か、お前は」
「んなっ!?」
「一人で全てを護れるほどお前は強いか? 一人で全てを救えるほどお前は聖人君主か?
 違うだろ。俺もお前も、大切な人を傷つけられれば怒るし、全てを救おうと思うほど人間が出来ちゃいない」
「けど……」
俺の言葉に顔を伏せる一夏に、俺は続ける。
「別に否定しやしない。それがお前だってのは、よく分かってるからな。
 けど、間違いを間違いと言う強さもまた、必要だって事だ。例えそれが幼馴染みや実の姉であってもな」
「………」
「優しさだけで誰かを護れるほど世界は簡単じゃないし、強さだけで生きられるほど単純でもない。
 そして、その両方だけで全てを救えるほど優しくもない。……【一人】じゃぁな」
「えっ……?」
顔を上げる一夏に、俺は微笑んで言う。
「それでも尚、そうしたいなら周りを頼れ。【仲間】を作れ。
 それだけで、可能性は広がるんだからな」
「修夜……」
「もし、お前にとって本当に困難な場面に遭遇した時は、素直に俺や箒に頼れよ。一夏。
 お前が本当にその道を真っ直ぐに進みたいなら、な」
そう言って、俺は再び背を向け、自室へと戻っていった。

――――

因みに……。
「お帰り~、しゅうやん」
「……布仏さん、何をしていらっしゃるのかな?」
「しゅうやんのノートPCでゲームやってる~」
「確認中だから荷物触るなって言っただろうがー!?
 つか、何勝手に人のPC弄ってんだ、己はー!?」
「ふにゃ~!?」
留守番をしていた本音が、何故か俺のノートPCでMMO系ゲームのSoB(Sword of Bullet)をプレイしていたので、お仕置きしておきました。 
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