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IS 〈インフィニット・ストラトス〉~可能性の翼~

作者:龍使い
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第一章『セシリア・オルコット』
  第二話『英国淑女の宣戦布告』

「頭が痛い……」
「自業自得だろ……。
 事前にある程度叩き込んでおいて正解だったわ……」
頭を抑えて机に突っ伏してる一夏に、俺は溜息をつきながら言う。
二時限目の授業で、参考書を捨てたと馬鹿正直に言った一夏は、千冬さんに数回は叩かれたのだ。
「しょうがないだろ……。
 掃除中に見たあの分厚さは、そう錯覚したっておかしくはないんだから」
「お前のその発想の方が絶対おかしいわ。
 なんで俺と一緒に勉強しておいて、電話帳と間違えて捨てる」
呆れてものも言えなくなってきたよ、この大馬鹿者は……。
「とにかく、今後は学校が終わったら授業の要点を纏めて教えるから、追いつくように努力しとけ。
 織斑先生の言う通り、望む望まざるに関わらず、ここで生きていくには必要な事なんだからよ」
「分かってるよ」
俺の台詞に、一夏はやや真剣な表情で頷く。
千冬さんにも関係があると、本当に表情が違うよなぁ……こいつ。
そんな事を考えていると、俺達の前に一人の女子が声をかけてきた。
「ちょっとよろしくて?」
「へっ?」
一夏は素っ頓狂な声を上げ、俺は黙ってその女子の方を向く。
目の前にいたのは、わずかにロールがかった金髪が鮮やかな女子だ。
容姿から言って、恐らくはイギリス系女子であり、良い所の御息女と言った所だろうか。
白人特有の透き通ったブルーの瞳がやけに印象的だったが、その瞳の奥に潜む、ある感情がその美しさに曇りを見せる。
ISが世に出てから僅か十年。 この世界の構図は狂ってると言っても良い。
世界に僅かとしか言えない程しか存在しないIS、それを扱えるのは俺と一夏という例外を除けば殆どが女性。その状況が世界を狂わせ、【女尊男卑】という思想を生んだ。
その結果、適正があるなしに関わらず、女性は異常と言えるほどの優遇をされ、男性は奴隷か労働力扱い。
街中でただすれ違っただけで男をパシらせる女性すらいるのは今じゃ珍しくもない。
そう言った女性には、ある感情が必ず瞳の奥に潜む。侮蔑や軽蔑といった、人を見下すような感情……。
見た目とは裏腹に、その感情が隠れていなければ、良い女性として育ったかもしれないんだが……。
「訊いてます? お返事は?」
「あ、ああ。訊いてるけど……どういう用件だ?」
彼女の言葉に一夏がそう返すと、彼女はわざとらしく声を上げた。
「まあ! なんですの、そのお返事。
 わたくしに話しかけられるだけでも光栄なのですから、それ相応の態度というものがあるんではないかしら?」
「…………」
(……はぁ)
彼女の言葉に一夏は黙り、俺は内心で溜息をついた。
俺も一夏も、この手の手合いは苦手だ。
ISを動かせるのは女性であり、それが国家の軍事力になる。【女尊男卑】のこの世の中、その事でこう言う女性がいる事は珍しくはない。
だが、その事で力を振りかざして他者を見下す……そういう人間は、男女問わず俺は嫌う。
一夏も同じ心境なのだろう。顔を若干しかめているのが分かる。
「悪いな。俺、君が誰だか知らないし」
「同じく、だな」
一夏の言葉に、俺も続けてそう言葉を紡ぐ。
俺は彼女の名を『一応』聞いてはいるが、ああいう態度をとる奴に対して素直に返事をするほど、俺は聖人君主ではない。
一夏の場合は……まぁ、本気で知らないんだろうけどな。
俺達の言葉に、彼女は男を見下した口調でそう返す。
「わたくしを知らない? このセシリア・オルコットを?
 イギリス代表候補生にして、入試主席のこの私を!?」
「あ、質問いいか?」
一夏はそんな彼女の話を遮り、質問をする。
「ふん。下々のものの要求に応えるのも貴族の務めですわ。よろしくてよ」
(貴族って……道理でテンプレっぽい話し方だと思ったわ)
内心で呆れつつ彼女の言葉を聞いてた俺は……。
「代表候補生って、何?」

――すっぱーんッ!

その後に続いた一夏の台詞に、思いっきりハリセンを食らわせていた。
何処から取り出したとか、そういう無粋な突っ込みは無しにしてくれ。
「何するんだよ、修夜!?」
「あまりの馬鹿な質問に突っ込みを入れただけだ、この阿呆!」
周囲を見れば、数名の女子がずっこけており、オルコットに至っては口をパクパクさせながら一夏を指差してる。
「あ、あ、あなたっ、本気でおっしゃってますの!?」
「おう。知らん」
「……入学前に、基礎部分は散々叩き込んだだろうが」
「すまん、忘れてるかもしれない……」
頭を抑えている一夏に対して、俺は呆れながら説明する。
「代表候補生、国家代表IS操縦者を選出するために選ばれたエリート達の事だ」
「なるほど……」
「そう! エリートなのですわ! だというのに、信じられませんわ……。
 極東の島国というものは、こうまで未開の地なのかしら。常識ですわよ。テレビもないのかしら……」
「テレビどころかPCだってあるわ。 むしろ、こいつの頭が馬鹿過ぎるだけだ」
「ひでぇ……」
そんな俺達のやり取りを無視して、オルコットはビシッと人差し指を俺たちに向けた。
「とにかく、本来ならわたくしのような選ばれた人間とは、クラスを同じくすることだけでも奇跡……幸運なのよ。
 その現実をもう少し理解していただける?」
「そうか。それはラッキーだ」
「……馬鹿にしてますの?」
馬鹿にするも何も、それほどラッキーな事とは俺には思えないんだがなぁ……。
「大体、あなたISについて何も知らないくせに、よくこの学園に入れましたわね。男でISを操縦できるときいてましたが、とんだ期待外れですわね。
 まぁ、こちらの方は多少、知識はあるようですがそれもどうだか……」
「俺に何かを期待されても困るんだが」
「同じく。というか、勝手に期待して勝手に呆れる方がどうかと思うぞ、俺は」
「ふん。まあでも? 私は優秀ですから、ISのことでわからないことがあれば……泣いて頼まれたら教えて差し上げてもよくってよ。
 何せ私、入試で唯一教官を倒したエリート中のエリートですから」
「あれ? 俺も教官を倒したぞ」
「ああ、俺もだ」
「……は?」
俺達の言葉に、オルコットの目が点になる。
俺の方は単純に、相手の動きを見切った上で、カウンターを叩き込んで勝利。
一夏の場合は、相手が突っ込んできたのを避けたら向こうのISが壁に突っ込んで勝利した感じだ。
「わ、わたくしだけと聞きましたが?」
「女子ではってオチじゃないのか?」
「まぁ、そうだろうな」
一夏の言葉に俺は頷きながら同意する。
実際問題として、俺と一夏はこの学園内でも例外なんだ。だったら、教官を倒すか否か自体は女子の方では関係ないだろう。
そんな事を考えていると、三時限目のチャイムが鳴った。
とりあえず、この無意味な問答は終わりそうだな。 正直、精神的に疲れる……。
「っ……! また後で来ますわ! 逃げないことね! よくって!?」
オルコットは踵を返し、自分の席に戻った。
「逃げるって、何処にだよ?」
「さぁな。気にしない方がいいんじゃないか?」
そんな事を言いつつ、俺達は授業の準備に取り掛かった。

――――

「授業を始める前に、来月に行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めないといけない」
教壇に立っている千冬さんが、そんな事を言った。
「クラス代表者とはそのままの意味だ。対抗戦だけではなく、生徒会の開く会議や委員会への出席……まあ、クラス長だな。
 ちなみにクラス対抗戦は、入学時点での各クラスの実力推移を測るものだ。
 今の時点で大した差は無いが、競争は向上心を生む。一度決まると一年間変更は無いからそのつもりで」
要は、代表となった者の実力次第では、周りがそれに追いつこうと努力し、個々の実力を上げていくって訳か。面倒なシステムだなぁ……。
つぅか、それを丁寧に教える千冬さんも千冬さんだな。 相変わらず一夏には容赦はなくても甘い……はっ!?

――ぱしっ!!

殺気を感じた俺は振り落とされる出席簿を白刃取りして防御すると、そこには千冬さんがいた。
「いきなり何をしますか、織斑先生!?」
「いやなに、貴様が余計な事を考えていたように感じたのでな……」
相変わらず師匠並に鋭い読心力だな、千冬さん!?
持っている出席簿は俺の白刃取りから抜けるために力を入れているが、そう簡単に抜けさせない。
「す…すげぇな……。相変わらず……」
一夏は俺が千冬さんの攻撃を防いだ事に驚いていた。クラスの女子達や山田先生も一夏と同様に驚いている。
「しかし修練は怠っていないようだな、真行寺。流石とだけは言っておこうか」
「そりゃ、師匠が師匠なものですからね……。そこはあなただって分かっているでしょう?」
「確かにな」
そう言って、千冬さんは出席簿を収めて教壇に戻る。
「さて、少々話の腰が折れてしまったが、誰が代表者になる?」
教室を見回しながら、千冬さんがそう言葉を紡ぐと……。
「はいっ。織斑君を推薦します!」
「私もそれが良いと思いますー」
「お、俺!?」
予想通り、一夏を推薦する女子が出る出る。
しかも、視線に『彼なら何とかしてくれる』という、無責任かつ身勝手な期待が込められてるし。
「では候補者は織斑一夏……他にはいないか?自薦他薦は問わないぞ」
ちょっ、千冬さん!? それを言ったら……!
「はいっ。真行寺君を推薦します」
「真行寺君なら、皆のことを引っ張ってくれそうだからいいと思いますっ!」
「しゅうやんに一票お願いしま~す」
……やっぱり出たよ、俺の名前…。
恐らくSHRの件もあるんだろう……一夏以上に俺を推薦する声が多い。
……というか、今しゅうやん言ったのは誰だ、おい!?
「ちょ、ちょっと待った! 俺はそんなの――」
「諦めろ、一夏……。織斑先生相手に撤回出来るなら、俺だって撤回宣言してるんだから……」
「……うぐ…」
俺の言葉に、一夏は思い至る事があったのか、渋々席につく。
「他にいないか? いなければこの二人に……」
「待ってください!」
突然、オルコットが千冬さんの言葉を遮って立ち上がり、言葉を紡ぐ。
「そのような選出認められません! 大体、男がクラス代表だなんていい恥さらしですわ!
 わたくしに、そのような屈辱を一年間味わえとおっしゃるのですか!?」
なぁ、オルコットの発言に俺は少しばかりイラッとしたが、気のせいか?
そんな事を考えるも、それでも向こうは続ける。
「実力から行けばわたくしがクラス代表になるのは必然。それを、物珍しいからという理由で極東の猿にされては困ります!
 わたくしはこのような島国までIS技術の修練に来ているのであって、サーカスをする気は毛頭ございませんわ!」
あのさ、イギリスも島国だって事理解した上で行ってるのか? しかも、ここにいるクラスメイトの大半はその島国で暮らしているんだぞ?
「いいですか!? クラス代表は実力トップがなるべき、そしてそれはわたくしですわ!」
ますますエンジンが上がっているオルコットは怒涛の剣幕で言葉を荒げる。
一夏も苛立ってそうな顔をしてるし、俺もまた堪忍袋の緒が切れるのを抑えている。
しかし――。
「大体、文化としても後進的な国で暮らさなくてはいけないこと自体、わたくしにとっては耐え難い苦痛で――」

――ブチッ!

オルコットのこの発言に、俺と一夏の堪忍袋が確実に切れてしまい……。
「イギリスだって大してお国自慢ないだろ。世界一不味い料理で何年覇者だよ」
「それに、人を見下す奴に猿扱いされたくねぇな。ああ、プライドが高いだけで周りが見えてない猿だから仕方ないか」
それぞれが思った事を口にして、今更とんでもない事を言ってしまった。
「なっ……!?」
しかし、今更後悔しても、後先に立たず……。
(し、修夜……)
(何も言うな……既に遅いから……)
恐る恐る後ろを振り向くと、怒髪天と呼ぶに相応しいオルコットが顔を真っ赤にして怒りを示していた。
「あっ、あっ、あなたたちは! わたくしの祖国を侮辱しますの!?」
「先に日本を侮辱したのはそっちだろうが……」
だが、俺の正論も今のオルコットには通じない。
「決闘ですわ!」
再びバンッと机を叩いて言って来るオルコット。
「おう。いいぜ。四の五の言うよりわかりやすい。修夜は?」
「売られた喧嘩なら、買うさ」
一夏の言葉に、俺は頷きながら言う
「言っておきますけど、あなたたちがわざと負けたりしたら私の小間使い、いいえ、奴隷にしますわよ」
「侮るなよ。真剣勝負で手を抜くほど、俺も修夜も腐っちゃいない」
「そう? 何にせよ丁度いいですわ。イギリス代表候補生のこのセシリア・オルコットの実力を示すまたとない機会ですわね!」
言ってろ。 要は負けなければ良いだけの話なんだからな。
だが、一夏には相手が女子である事に少なからず抵抗があったのだろう。
「ハンデはどのくらいつける?」
「あら、早速お願いかしら?」
「いや、俺がどのくらいハンデつけたらいいのかなーと」
そんな一夏の発言に、クラスからドッと爆笑が巻き起こった。
俺はと言えば、内心で頭を抑えていた。真剣勝負で手を抜かないと言っておいて、ハンデつけてどうするんだ、この馬鹿は。
「お、織斑君、それ本気で言ってるの?」
「男が女より強かったのって、大昔の話だよ?」
「織斑君と真行寺君が確かにISを使えるかもしれないけど、それは言い過ぎよ」
女子達の言うとおり、今の男は圧倒的に弱い。腕力は何の役にも立たない。
確かにISは限られた一部の人間しか扱えないが、女子は潜在的に全員がそれらを扱える。
それに対して、男は原則ISを動かせない。もし男女差別で戦争が起きたとしたら、男陣営は三日と持たないだろう。
それどころか、一日以内で制圧されかねない。ISは過去の戦闘機・戦車・戦艦などを遥かに凌ぐ破壊兵器なのだから。
「……じゃあ、ハンデはいい」
「ええ、そうでしょうそうでしょう。むしろ、わたくしがハンデを付けなくていいのか迷うくらいですわ。
 ふふっ、男が女より強いだなんて、日本の男子はジョークセンスがあるのね」
「やれやれ。その発言、後で後悔しても遅いからな」
俺はと言えば、呆れた口調でそう言葉を紡いだ。
「話はまとまったな。それでは勝負は1週間後の月曜。放課後、第3アリーナで行う。真行寺と織斑とオルコットはそれぞれ用意をしておくように」
千冬さんがパンっと手を打って話を終了させ、授業を再開した。 
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