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プリテンダー千雨

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桜通りの吸血鬼編
  第二話

吸血鬼と遭遇した翌日の朝。登校中に私は変な物を見た。それは・・・

「お、下ろしてくださーい!!!」

「わがまま言うんじゃ無いの!!」

神楽坂に担がれた先生の姿だった。何でこんな事になっているのか。おそらく、経緯はこんな感じだろう。

昨日、私を吸血鬼と勘違いして攻撃→本性を現したマクダウェルに攻撃される→結構怖い目に遭った→今日の朝、マクダウェルの居る教室に行きたくないと駄々をこねる→神楽坂に無理やり連れ出された(今ココ!)

って所か?確か先生って神楽坂の部屋に居候してたハズだしな。にしても、教師が登校拒否なんてすんなよ。まあガキだし、怖い目にあったんならある意味当然か。




あの後、教室に着いたら恐る恐る扉を開けて中を見回していた。多分、マクダウェルの奴が居ないか確かめてるんだろうな。私も見回してみたが、マクダウェルの姿は無かった。その代わり、昨日倒れていた佐々木が登校していた。後遺症みたいな物はないようで、いつも通りバカみたいに明るい様子だ。
先生もその両方を確認して、二重の意味で安心したみたいだ。だが、その直後・・・

「マスターは居ません。いわゆるサボタージュです。」

「うわっ!?」

このクラスに何故か居るロボット“絡繰茶々丸”に声を掛けられて飛び上がった。
何で絡繰に声を掛けられて飛び上がるんだ?って言うか、あいつの言うマスターって誰の事だ?
そんな事を考えていると、絡繰がこっちに来て耳打ちして来た。

「マスター…エヴァンジェリン様があなたと話がしたいとの事です。放課後、マスターの家まで来て下さい。」

「っ!?」

何てこった。マスターってのはマクダウェルの事か。ん?待てよ・・・今の地球の技術力で絡繰みたいなロボットを作るとか不可能だろうし、やっぱデストロンとかクインテッサが関係してんのか?そうだとすると、私一人で行くのは危険かもしれないな・・・

「分かった。その代わり、もう一人連れて行ってもいいか?」

「その方もあなたの関係者ですか?」

「ああ、そうだ。」

「なら、構わないでしょう。マスターにも知らせておきます。」

そうやって話しているうちに予鈴が鳴ってしまったので、私と絡繰は各々自分の席へと着いた。




この日、先生はマクダウェルの事がまだ気がかりなようで授業に身が入っていない様子だった。まあ、確かに自分のクラスに通り魔まがいの事をしている奴がいたらそうだよな。私としては昨日先生が使った力の方が気になるけど。
そんな中、先生は当てられて教科書の一文を読んだ和泉にこんな事を聞いた。

「えーと、つかぬことをお伺いいますが…皆さんはパートナーを選ぶとして、10歳の年下の男の子なんて嫌ですよね…?」

・・・は?何言ってんだこいつは?マクダウェルの事で悩んでるんじゃ無かったのか!?つーか和泉!何でお前はそんなまんざらでも無さそうな様子なんだよ!!

「すみません。授業と関係ない質問しちゃって…忘れてください、何でもないですので。」

そう言うと先生は授業を終了してふらつきながら教室を出て行った。
・・・色んな意味で不安だな。

「アスナさん。これはどう言う事ですの?」

すると、うちのクラスのショタコン委員長“雪広あやか”が先生と一緒に住んでいる神楽坂に聞いた。確かに、神楽坂なら何か事情を知っていそうだよな。

「えーと、何かパートナーを見つけられなくて困ってるみたいよ。見つけられないとなんかやばいことになるみたいで…」

何かハッキリしねえな・・・って!そうじゃなくて何だよそれ!!

「パートナー…つまり、結婚相手って事?」

「やっぱり、ネギ先生って何処かの国の王子様なんだ!!!」

「これは玉の輿のチャンス!!」

ってうちのクラスの連中は何バカ騒ぎしてんだ!しかもその内容!!夢見る少女にも程が有るだろうが!!!





放課後、私は父さんと一緒にマクダウェルの家に向かっていた。住所は出席簿で確認したから迷わず行ける。

「なあ、父さん。絡繰の事を考えると、やっぱりマクダウェルはデストロンとかと関係があるのか?」

「それについてだが、実は千雨にクラスメイトにロボットが居ると聞いた時からその事について調べていた。」

そうだったのか!?って、よく考えりゃそうだよな。

「だが、いくら調べてもデストロンやクインテッサとの関係は見られなかった。」

え?じゃあ、どうやって絡繰を作ったんだ?そう考えながら私が首を傾げている中、父さんは話を続ける。

「ハッキングで設計図を盗み見てみた事もあったが、所々…特に動力部に我々にとって未知の技術が使われていた。」

未知の技術!?って事は、本当にデストロンでもクインテッサでも無いのか?

「いや、おかしいのはその茶々丸と言うロボットだけじゃなくてこの街全体だ。」

「・・・確かに、そうだよな。」

この街、麻帆良は色々とおかしい。絡繰の事もそうだが、それを見ても特に気にした様子の無い周りの奴らもそうだ。絡繰以外にも、人間離れした身体能力を持った奴らとか、ぬらりひょんみたいな頭をしたうちの学園長みたいなおかしい物を見ても別に気にした様子は無い。

「ダイバーとフェニックス、それにランダーもその事については気付いていた。だが、いくら調べても分からなかった。」

ダイバー、フェニックス、ランダー。この三人は父さんの友人で麻帆良学園都市全体で行われる学園祭、通称“麻帆良祭”では必ず遊びに来てくれる。彼らも父さんと同じでサイバトロンのプリテンダーだと言う話だ。

「ひょっとしたら、今日その謎が解けるかもしれない。」

そう言いながら、父さんは私の隣で歩を進めた。




マクダウェルの家は森の中にあるログハウスだった。吸血鬼なので古い洋館にでも住んでいるのだろうと思っていたが、大分イメージが違う。

「気を付けろ、千雨。どんな罠が仕掛けられているか分からない。」

そう言って父さんは警戒しながら玄関に近づくと、ドアをノックした。

「どうぞ。」

すると、中から声がした。多分、絡繰の声だと思う。父さんは私を後ろに庇うようにしながら、ゆっくりと扉を開けた。そこに居たのは・・・

「ようこそいらしゃいました。」

メイド服を着た絡繰だった。って!何でメイド服!?

「マスターがお待ちしております。こちらへどうぞ。」

私が心中でツッコミを繰り広げている中、絡繰は相変わらずの無表情で私と父さんをある部屋に案内した。そこに居たのは・・・

「よく来たな、長谷川千雨。」

当然、この家の主であるマクダウェルだった。マクダウェルは私を見ながらそう言うと、今度は父さんへと視線を映す。

「ん?そいつは確か貴様の父親だったな。」

マクダウェルが父さんを知っているのは前に授業参観に来たからだ。

「父親を連れて来るとは、流石は3-Aの“二大ファザコン”の一人と言った所か。」

「ちょっと待て!何だよそれ初耳だぞ!!」

「ん?何だ知らなかったのか?少なくとも3-Aの中では有名だぞ。」

はあ!?何だよそれ!!これってつまり私が中三にもなって“将来はお父さんと結婚する”とか言ってる明石と同類って思われてるって事か!?

「ふざけんな!私は明石ほど酷くはねえぞ!!!」

「ほお。つまり、明石祐奈ほどでは無いにしろ、ファザコンである事は認めるのだな?」

「そ、それは・・・」

マクダウェルの一言に私は言葉を詰まらせる。
だって仕方ないじゃないか!周りが色々とおかしい麻帆良の中で唯一の理解者だったんだから!!

「うおほんっ!それで、本題に入りたいんだが。」

すると、父さんが咳払いして話を戻そうとした。その顔が少し嬉しそうなのは多分気のせいじゃないと思うが、言わないでおこう。

「ああ、そうだな。では、教えてもらうぞ、貴様らの正体を。」

「分かった。だが、その代わりに君の…そして麻帆良の秘密を教えてもらいたい。」

「ふっ、いいだろう。」

父さんがそう言うと、マクダウェルはあっさりと了承した。




《エヴァSide》

互いに向かい合い席に座った二人、長谷川小鷹、千雨親子…正確には長谷川小鷹の話を聞いて驚愕した。奴は宇宙から来た機械生命体、つまり生きたロボットで今は人間の姿に擬態しているのだと言う。そして、娘である長谷川千雨は地球人とのハーフなのだそうだ。

「なあ、それは本当なのか?にわかに信じられんのだが?」

「そう思うなら、昨日千雨が変身したのはどう説明する?この地球であんな物を作る技術は無いハズだ。」

「まあ、確かにそうだな。あの二人でも多分無理だろう。」

「「あの二人?」」

私の言葉を聞いた長谷川親子は首を傾げる。

「なあ、それってまさか絡繰を作った奴の事か?」

すると、長谷川千雨が聞いてきた。

「ああ、そうだとも。」

「一体誰なんだ?」

「お前も良く知る二人さ。」

「まさか・・・」

どうやら、今ので分かったみたいだな。




《千雨Side》

私の知っている絡繰を作れるだけの二人の人間。それは直ぐに思いついた。

「千雨、分かったのか?」

すると、父さんが聞いてきた。

「ああ。同じクラスの“葉加瀬聡美”と“超鈴音”だ。この二人はとんでも無い天才で、麻帆良の頭脳とか言われてるんだよ。」

「なるほど。その二人か。」

どうやら、この二人の名前は父さんの働いている天文台でも知れ渡っているようで、直ぐに納得した。

「で、話が少し逸れてしまったが、我々の正体を話したんだ。今度はそちらと麻帆良の秘密を話してくれ。」

「ああ、分かっている。」

そして、マクダウェルは話し出す。

「私の正体の前にこの麻帆良について話そう。順番的にその方が分かり易いからな。」

「話してくれるのなら別にそれでも構わない。」

「私もそれでいいぞ。」

「では、単刀直入に言うぞ。この世界には“魔法”と言う物が実在している。」

「「は?」」

ちょっと待て。マクダウェルの奴、今何て言った?

「科学から生まれた貴様らには信じられないのは分かる。だが長谷川千雨。貴様が昨日見た坊やが使った力はそうでないと説明出来ないだろう?」

そう言えば、あの時先生は呪文みたいなのを唱えてたな。
私がそんな事を考えていると、父さんがマクダウェルに聞いた。

「それと麻帆良の秘密と何の関係があるんだ?」

「簡単な話だ。この街には坊や以外にも複数の魔法使いが居る。」

「何だって!?」

「目的は様々。魔法使いとしての修行のため。もしくは逆に修行に来た魔法使いを教育したりするためだ。ここは学園都市だから皆普段は教師や生徒として生活している。」

って事は先生は修行のために教師をやってんのか?でも、学校で先生やんのと魔法の修行に一体何の関係があるんだ?

「さらに、ここは同時に日本の魔法使いによる組織である“関東魔術協会”の本部も兼ねている。だから魔法使い達は外敵を排除するためにある程度の戦闘力も備えている訳だ。」

そんな事を考えているうちにマクダウェルの説明はどんどん進んで行った。
そして、聞き終わった父さんは一つの質問を投げかける。

「なるほど、そう言う事か。じゃあ、もう一つ聞きたい。」

「何だ?」

「この街で見られる異常な光景は魔法とやらが絡んでいる事は分かった。だが、それをここの住人が異常と見なしていないのは何故かについて聞きたい。」

「それなら、この街にかけられている“認識阻害”が原因だな。」

「「認識阻害?」」

「通常、魔法と言う物は世間に秘匿するのが当たり前なんだが、坊やみたいな新米だと完全に隠しきれなかったりする。それ以外にも、麻帆良には茶々丸を始めとした外には無い物が多いからな。だから、認識阻害の魔法である程度の異常を異常と認識出来ないようにしてる訳だ。」

何だよそれ・・・じゃあ、今まで私が苦しんできたのは・・・
そのまま、私は怒りのままに怒鳴り散らそうとする。だが・・・

「ふざけるな!魔法使いの都合で今まで千雨は苦しんできたのか!!」

その前に父さんが起こってしまったので、私はタイミングを逃してしまった。

「ど、どうしたと言うんだ!?」

それを見たマクダウェルはかなり驚いた様子だ。すると、父さんはマクダウェルに説明する。

「・・・人間ではなく、トランスフォーマーである私にはその認識阻害が効かなかった。私の血を引く千雨も同じだ。だが、大人として上手く周りと合わせられた私とは違い、幼かった千雨はその異常をどんどん周りに指摘して行って、そのせいで孤立してしまったんだ・・・」

「・・・そうか。それは、運が悪かったとしか言い用が無いな。」

「何だと!」

マクダウェルの無慈悲な答えに父さんは立ち上がりながら叫ぶ。

「待ってくれ!」

そんな父さんを私は止めた。

「私は別に大丈夫だ。周りがどんなに理解してくれなくても、父さんだけは理解してくれたから。もし、父さんが居なかったら私は壊れてたかもしれない。だから、私は今でも十分に幸せなんだ。」

「千雨・・・」

「まあ、もちろん魔法使いの連中には一言文句を言ってやりたいけどな。」

「ああ、そうだな。」

「・・・長谷川千雨。やっぱりお前ファザコンだろ。」

「なっ!?」

マクダウェルの野郎!せっかくいい感じになってたのに、余計な事を言いやがって!!

「私の何処がファザコンなんだ!!」

「いや、さっき貴様が父親に言った言葉を十人が聞けば十人が貴様はファザコンじゃないのかと考えると思うぞ。」

「どう言う意味だそれ!!」

「落ち着け、千雨。それに父さんちしてはそこそこファザコンであってくれた方が嬉しいぞ。」

「あんたは何言ってんだ!!」

「で、私の正体については聞かなくていいのか?」

「「あ。」」

マクダウェルに指摘され、私達はやっとその事に気付いた。




《ホークSide》

再び席に座り直し、私と千雨は再び席に就いた。すると、マクダウェル君が自分の正体について喋り出す。

「私の正体だが、桜通りの吸血鬼などと呼ばれている事から分かる通り、そのまんま吸血鬼だ。かれこれ600年は生きている。」

「600年!?」

彼女の年齢を聞いて千雨が驚いているな。トランスフォーマーは数百万年以上生きるので驚きは無いな。私も生きたのは数千年でまだ若い方だ。

「あれ?でも吸血鬼って日光浴びると灰になるんじゃねえのか?」

そのことに気付いた千雨が尋ねる。確かに、昼間マクダウェル君が学校に通っている事を考えるとそれはおかしいな。

「私はタダの吸血鬼ではない。最強種たる“真祖”だ。」

「「シンソ?」」

聞き慣れない単語が出て来たので私と千雨は首を傾げる。

「禁術を使って吸血鬼になった人間の事だ。日光が平気だったりとか普通の吸血鬼と比べて優れている部分がいくつかある。」

「へえ。それじゃ、何で夜に生徒を襲ってたんだ?やっぱり、血を吸わないと生きる事が出来ないからか?」

千雨がそう聞くと、マクダウェル君は突然表情を歪ませた。

「これには少々複雑な事情があってな。」

そこから、マクダウェル君によって彼女の過去が語られた。
15年前、千雨の担任のネギ先生の父親であるかつてサウザンドマスターと呼ばれた偉大な魔法使い“ナギ・スプリングフィールド”に戦いを挑んで負け、呪いを掛けられて弱体化させられた上、ここ麻帆良で女子中学生兼麻帆良防衛のための戦力をやる事になったのだと言う。ナギは中学を卒業する頃には呪いを解きに来ると約束したのだ来ず、さらに死んでしまったので15年間も中学生を繰り返しているのだと言う。
だが、そんな彼女にチャンスがやって来た。ネギ先生がやって来た事である。呪いをかけたナギの息子である彼の血をかなり吸えば呪いは解けるんだそうだ。だが、弱体化した彼女では新米とはいえサウザンドマスターの息子であり強力な力を持つ彼に勝つ事は難しい。ゆえに、力をつけるために夜な夜な生徒達の血を吸っていたのだそうだ。

「やっと巡ってきたチャンスなんだ!私は今度こそ“自由”を手に入れる!!」

“自由”か・・・クインテッサの支配を受けていた我々の先祖もそんな事を考えていたのどろうか・・・おっと、つい感傷に浸ってしまったな。
とりあえず、一つだけは彼女に聞いておこう。

「それで、自由になったらどうする積もりだ?」

「へ?」

すると、マクダウェル君は鳩が豆鉄砲を食らったような顔をした。どうやら、考えて無かったようである。

「そうだな・・・まあ、自由気ままに旅に出るとするかな。この15年で外がどんな風に変わったか見てみたい所だしな。」

「・・・そうか。だが、一つ言っておく。サイバトロン戦士として無関係な生徒に危害を加えるのは許せる事では無い。」

「ならどうする?ここで私を退治するか?」

「だが、自由を縛られる苦しさも分からない事は無い。それに、昨日あんな派手に事を起こしたんだ。私が何もしなくても、魔法使いが君に警告するハズだ。」

「その根拠は何だ?」

「さっき君が言ったハズだ。ここの魔法使い達は普段は教師や生徒をしていると。教師ならば生徒に危害を加える輩は許さないだろうからね。」

「ああ。確かにそうだな。近いうちにジジイから呼び出しを食らうかもしれん。」

「ジジイ?」

「ここの学園長だ。関東魔術協会の会長もやっている。」

ああ、千雨が言っていたあのぬらりひょんみたいな頭をしている学園長か。私も行事で何回か見たが、確かに地球人かどうか怪しい形の頭をしていたな。千雨と同じクラスに居るお孫さんは普通っぽかったが。
とりあえず、知りたい事は教えてもらったし、忠告もした。ので、私と千雨は帰る事にした。



続く

 
 

 
後書き
エヴァは自分が悪党だと言う事を千雨達に話していません。先にサイバトロンの性質を聞いたので、話がややこしくならないようにするためです。
 
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