プリテンダー千雨
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桜通りの吸血鬼編
第一話
父さんから自身の正体を聞いて暫く経ち、新学期を迎えて私は中学三年生になった。父さんに貰った腕時計は周りには進級祝いに貰ったと言って誤魔化した。
そして、新たにスタートした3-Aは担任の挨拶から始まる。
「皆さん!おはようございます!!!」
その担任と言うのがこの“ネギ・スプリングフィールド”とか言うガキ。何でも、ケンブリッジ大学を若干十歳で卒業した天才とか言う話だが、労働基準法とかの問題がありまくりだ。だが、このクラスには担任だけでなく生徒にも見た目が小学生とか大学生くらいの奴とか、アホみたいな運動神経している奴とか非常識な奴で一杯だ。まあ、普通だと思っていた私も結構な非常識(宇宙人、それもロボとのハーフ)だったんだけどな。
ホームルームが終了した後、私らは身体測定のために着替えをしていた。その直前、子ども先生が失言をしてからかわれていたがどうでもいい。
「ねえ、“桜通りの吸血鬼”の噂ってしってる?」
そんな中、クラスメイトの一人の“柿崎美砂”がそんな事を言い出した。何でも、満月の夜にボロボロのマントを纏った吸血鬼が桜通りに現れるらしい。前の私なら下らないと聞き流していただろうが、自分と父親の正体を知ってしまった今ではそうはいかなくなっった。
(まさか、デストロンとかクインテッサの仕業か?ちょっと調べてみるか。)
別に自分から厄介事に首を突っ込もうって訳じゃない。デストロンかクインテッサの仕業だと分かったら直ぐ逃げて父さんに知らせる積りだ。その時だった・・・
「大変や!まき絵が!!」
保険委員の“和泉亜子”が教室に飛び込んで来た。
保健室へ向かうと、そこのベッドの上で今日欠席していた“佐々木まき絵”が眠っていた。規則正しい寝息を立てており、見た所外傷は無い。
話によれば、佐々木は桜通りにある桜のうち一本に寄りかかって寝ていたらしい。持ち物と服装からして大浴場から寮へと帰る途中らしかった。
周りは甘酒を飲んで寝てしまっただけだろうとか言ってるが、デストロンやクインテッサの存在を聞いた私はあまり楽観視出来なかった。
その時、子供先生が佐々木を見ながら難しい表情をしていた。まさか、何か知ってんのか?
「どうしたの、ネギ?」
すると、同じクラスの“神楽坂明日奈”もそんな先生の様子を不振に思ったのか話しかけた。すると、先生はこう答える。
「いえ。まき絵さんは心配ありません。ただの貧血かと。」
何と無く、何か隠してるような気がする。とりあえず、少しやばそうだから調べるのは父さんと一緒にする事にしよう。
放課後。既に日は落ちた時間に私は父さんを誘い桜通りのパトロールをする事になった。ただ、この桜通りはかなり広いので手分けをしている。
(別に異常は無いみたいだな・・・)
やっぱり吸血鬼と言うのはタダの噂だったか。そう考えながら歩いていると、向こうの方から同じクラスの宮崎が歩いてきた。
「あ、長谷川さん。」
すると、宮崎の奴は私に声を掛けてきた。
「こんな時間にどうしたんですか?」
「何って・・・散歩?」
「え?もうこんなに暗いのにですか?」
「いや!夜桜っていうのも中々風流だからな!!」
必死に誤魔化す私。すると、宮崎はどこかホッとした様子で言った。
「でも、長谷川さんに会えて良かったです。昼間にあんな噂を聞いて少し不安だったから・・・」
「そっか・・・んじゃ、寮まで一緒に居てやるよ。」
「いいんですか?」
「まあ、どうせ散歩だし。」
本当は違うが、もしここで放っといてその吸血鬼とやらに襲われたら寝覚めが悪過ぎるからな。
「そんじゃ、行くぞ。」
「はい。」
そして、宮崎を連れて寮へ向かおうとする。だがその時、桜の木が揺れる音がした。風は吹いてなかったから何だろうと思い、二人で上を向いた。すると・・・私達の目に街灯の上に立つ魔女みたいなトンガリ帽子をかぶってボロボロのマントを羽織った小さな影が飛び込んで来た。
「25番 長谷川千雨に27番 宮崎のどかだな・・・」
「「っ!?」」
奴は何故か私達の事を知っていた。私はとっさに宮崎を後ろに庇う。
「悪いけど少しだけその血を分けてもらうよ。」
そして、奴…おそらく吸血鬼は飛びかかってきた。
「逃げろ!宮崎!!」
私はそう言って宮崎を突き飛ばす。その直後、吸血鬼が私の首筋に噛み付いた。
「ぐっ…!?」
首筋に何か尖った物が数本刺さる感覚があり、さらにそこから血液が吸い出される。宮崎の方を見ると、突き飛ばす力が強過ぎたのか桜の木にぶつかって気絶していた。
(まずい!このままじゃ私の次に宮崎の奴が犠牲に!!)
そう考えた時だった。吸血鬼は私の首筋から口を離すと思いっきり後ろに飛び退いた。一体何があったのかと私がその方向を向くと・・・
「オエエエエエエエエ!!!」
奴は私から吸った血を吐き出していた・・・って、何でだよ!?そんなに不味かったのか、私の血は!?助かったけどこれはこれで傷つくぞ!!!
「何と不味い血だ。機械油でも飲んだかと思ったぞ。」
しかも何だその例えは!確かに私は半分ロボットみたいなモンだけど、幾ら何でも血の代わりに機械油が流れている何て事は・・・無いと思う。
「まあいい。代わりに宮崎のどかの方の血を貰うとするか。」
すると、奴は私を無視して宮崎の方に向けて歩き出した。って、させるか!
「スーツオン!!」
私はそう叫びながら腕時計のボタンを押す。そしてバトルスーツを身に纏った。因みに、顔が見えないようバイザーを追加してある。この場合、変身前の姿を見られているから意味は無いだろうけど。
「何だと!?」
突然変身した私を見て吸血鬼は驚く。その隙に私は主武装であるレーザーライフルを取り出して発砲した。父さんに正体を告げられた後、しっかりと訓練してもらったので百発百中とまではいかなくても八割くらいの命中率はある。だが、発射されたレーザーはかなり逸れて奴の帽子だけを撃ち抜いて吹き飛ばした。それにより吸血鬼の顔が露わになる。
「お、お前は!?」
吸血鬼の正体。それは同じクラスの“エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル”だった。
「どう言う積りだ!何でこんな事を・・・」
私はマクダウェルに掴みかかり、問い詰める。だが、その時・・・
「ぼ、僕の生徒に何するんですかあああああ!!!」
先生の叫び声が聞こえた。私がその方向を向くと・・・なんと、魔女の箒みたいにいつも持っているデカイ杖の上に跨って猛スピードでこっちに向かって来ていた。
「ラス・テル・マ・スキル・マギステル 風の精霊11人 縛鎖となりて敵を捕まえろ 魔法の射手・戒めの風矢‼」
そして、呪文みたいなのを唱えて何か空気弾みたいなのを発射してきた。それはマクダウェル・・・ではなく、私に向かっていた。
「うおっ!?」
私は慌ててマクダウェルを離して後ろに飛び退く。すると、地面に着弾した空気弾は結構派手な爆発を起こした。
「エヴァンジェリンさん、大丈夫ですか?」
そして、先生はマクダウェルを庇うように私の前に立ちはだかった。
(これってまさか、先生勘違いしてるのか?)
現在、マクダウェルの顔は露わになっていて、逆に私の顔はバイザーで覆われてしまっている。つまり、先生からすれば自身の生徒(マクダウェル)が見知らぬ不審者(私)に襲われていたように見えた訳だろう。
(訳を話そうにもややこしいことになりそうだし、ここは・・・一時撤退!!)
そして、私は背中のスラスターを吹かして一気に戦線を離脱した。
《ネギSide》
危なかった。エヴァンジェリンさんが襲われていた時はどうしようかと思ったけど、何とか追い払えたみたいだ。でもあの人、吸血鬼とは大分イメージの違う格好をしてたなあ・・・
あ、でも助けるためとはいえ、エヴァンジェリンさんに“魔法”を使った所を見られちゃったけどどうしよう・・・
「中々やるな、坊や。」
と思っていたらエヴァンジェリンさんが話しかけてきた!とりあえず、早く記憶を消さないと・・・
「10歳にしてこの“魔力”。流石は“奴”の息子なだけはある。」
え?魔力ってまさかエヴァンジェリンさんって魔法を知っていたんですか?いや、それよりも・・・
「エヴァンジェリンさん。その“奴”って、僕のお父さん“ナギ・スプリングフィールド”の事ですか!?」
「他に誰が居ると言うのだ?」
やった!まさかこんな近くにお父さんの手掛かりがあったなんて!!
「エヴァンジェリンさん!お父さんについて、教えて下さい!!」
「ふむ。どうやら坊やは一つ勘違いしているようだな。」
え?それってどう言う・・・
「桜通りの吸血鬼の正体はあの女ではなく・・・私なのだよ!!」
そう言ってエヴァンジェリンさんは魔法薬を取り出し、それを容器ごと投げつけてきた。
《千雨Side》
何とか撒く事が出来たみたいだな。でも、今更気付いたけどさ、さっき先生が使った力は何だったんだ?
「千雨!大丈夫か!!」
って考えてる間に父さんがやって来た。
「ああ。何とか逃げてきたけど・・・正直訳の分からない事ばっかりだ。」
「何があったんだ?」
私はさっき見て体験してきた事を父さんに話した。
「・・・聞いた事の無い力だな。」
「やっぱり、デストロンとかクインテッサとは無関係なのか?」
「そうとは言い切れないがね。だがまあ、そのマクダウェルさんと言う子からは明日以降に接触があるだろうから、覚悟しておいた方がいい。」
「分かってるって。」
そう答えると、私は父さんと分かれて寮へと帰って行った。
続く
後書き
地球にやって来たホークが触れたのは人間の表側の世界だけで、魔法とかについては知りません。
あと因みに、ホークは麻帆良の天文台で働いています。
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