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アマガミフェイト・ZERO

作者:天海サキ
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十三日目 十二月三日(土) 中編

 サーヴァントの戦いは、砂浜近くの海上へと舞台を変えた。
「へぇ、水を操るわけね。海の上に立てるのなら、確かに大きなアドバンテージを得れるわね。その杖のおかげなのかしら」
「まあな。この杖は海と繋がってるのさ。下の端が空間歪ませてるだろ。この杖がある限り、俺はどこに居ようと俺の力を帯びた水を呼びだせるのさ」
静かに波立つ海の上で、二人のサーヴァントが相対している。お互いまだまだ余裕がある様子だ。
「しゃべり過ぎね。あなた勝てないわよ。そんなに素直じゃあ」
「これくらい何ともねぇさ。大体、この杖の性能を解ったって俺の正体は解んねぇよ。なんたって、これはスキルで作ったもんなんだからな」
「なるほど。〈道具作成〉したって訳ね」
 各サーヴァントはスキルを二つ持っている。キャスターのスキルは〈陣地作成〉と、もう一つが〈道具作成〉なのだ。
「そういうあんたは、宙に浮けるってか。はん、だから空中で妙な動きが出来た訳だ。やれやれ、海の上にいようと直接攻撃出来るってか」
 キャスターが、おどけて肩をすくめて見せる。セイバーがにこりと笑った。
「ふふ、作戦を台無しにしちゃったみたいね」
「まぁ、どいつも簡単にやられちゃくれないとは思ってたよ」
「負け惜しみ?」
「さぁ、そいつぁどうかな」
 キャスターがにやりと笑う。杖が、水色の光を放ち始めた。
「水を操れるってことの、本当の恐ろしさを見せてくれるぜっ」
 直後、セイバーの足元から巨大な水柱が吹き上がった。セイバーが咄嗟に回避行動を取ったが、避け切れず、鎧の肩の装甲が少し吹き飛ぶ。その事実に、セイバーが少し顔をしかめる。
「魔力で強化した水を凝縮させたのさ。これなら、ダメージ与えられるだろう」
「そうみたいね」
「ここは海の上。弾丸は無限だぜ? どこまでかわしきれるかな」
「良い事を教えてあげる。宙に浮けるってことはね。飛べるってことなのよ」
 セイバーが飛翔した。天へと舞い上がると剣を構え、太陽を背にして、キャスターに向かって流星のごとく落下していった。水柱がいくつも立ち上り、飛翔するセイバーを打ち落そうとする。だがセイバーはどれも全て軽やかにかわし、キャスターに迫る。
(あまり時間をかけてはられないわね。かわし続けても勝負は終わらないし。決めるわ)
 セイバーが何事か口ずさみ、宝具の力を解放させていく。片手剣が紫色の光を放ち始める。
「ガチってか。なら、こちらだって!」
 キャスターの足元から水が吹き上がった。キャスターは、水の上に乗ったまま、天から降り落ちてくるセイバーを迎え撃つ。キャスターが何かを唱え、杖を歪みから引き抜いた。歪みの中から三叉の刃が姿を現す。杖の持ち方を変え、三叉の刃を前に向ける。今やキャスターの持っている武器は、杖では無く、三叉の槍へと変貌した。
「キャスターだからってな。武術が使えないなんてこたぁねぇんだよっ」
「ほんと、あなた面白いわねっ」
 キャスターが更に何かを唱えると、三叉の槍の前に厚い水の壁が現れた。
(この壁は、相手の攻撃はせき止め、こちらの刃は擦り抜けれるようにしてある。さぁ、どうするよ。気付いた時はもう遅いぜ?)
 降下するセイバーが獲物を狙う鷹だとしたら、波に乗って迎え撃つキャスターは、獲物目がけて加速する大鮫だ。人在らざる二人のサーヴァントは、獣の力のごとき凶暴な勢いで、今まさに激突する。
「エインへルヤルっ!」
 セイバーが力強く叫んだ刹那、剣が二回りも大きくなり、眩いばかりの紫の光が迸った。
 キャスターの武人としての鋭敏な感覚が、危険を感じ取った。敵の剣を防ぐ筈の壁は、何故か効果を失い、敵を貫く筈の槍は敵に弾かれた。水の壁をすっと紫に輝く剣が貫通してきた。
キャスターは、自らに魔法の光弾を当てる強引な回避を行い、セイバーの刃を、間一髪で避けた。セイバーの紫の刃が、キャスターが今さっきまで居た水柱を事も無く切断する。必勝の一撃がお互い不発に終わり、両者が共に距離を取る。
「へっ、やるじゃねえか。だが、解ったぜ」
 キャスターが三叉の槍を構えながら、心底楽しそうな顔を浮かべる。
「剣を持ち、天駆ける乙女。そしてエインへルヤルとくりゃあ、該当するのは一つしかねぇ。天の宮なるヴァルハラを治めし、片目の最高神オーディンの娘。死者をヴァルハラへと導く天駆ける戦乙女ヴァルキューレ。それがあんたの正体だ」
「まぁ解って当然でしょうね」
 セイバーもまた、剣と盾を構えながら戦いを楽しんでいる様子だ。真名を看破されても、動揺する素振りは微塵も無い。
「でも、私もあなたの正体に思い至ったわ」
 セイバーが鋭い目つきのまま、微笑を浮かべる。
「水を操る力に、巻貝、三叉の槍とくればね。ちょっと頭を働かせれば簡単よ。オリュンポス十二神の海を司るポセイドンの息子。深海の黄金宮殿に住み、波を操る法螺貝を持つ海の守り手トリトン。そうでしょう?」
「へぇ、やるじゃねぇか。けど俺はあんたの宝具の性能も、見えたぜ」
 キャスターが三叉の槍を掲げる。槍が水色に輝き出す。セイバーがそうはさせじと、飛び掛かる。
「エインへルヤルとは、ヴァルキューレが天へ連れ行く死した戦士の事。その名の通り、致命的なダメージを敵に与えられるんだろうよ。おまけに防御手段も無効化するようだしな。だがな」
 セイバーが再び真名を解放し、死の力を付加された紫の剣がキャスターに迫る。
「おまえは、剣を持ったまま勝負を仕掛けて来た」
 キャスターが、波に語りかける。キャスターが、波の力を補助として、迫るセイバーから高速で退避する。
「防御も無効化し、当たれば敵を倒せるんだったら、手に持ち続けてる必要は無い訳だ」
「剣士が、自分の剣を投げつけるわけないでしょう?」
 セイバーがキャスターを追う。
「違うな。投げると宝具の効果が失われるんだろ」
 キャスターの三叉の槍が、眩い光を放つ。直後、セイバーの足元に巨大な魔法陣が出現した。セイバーの四方に巨大な海水の壁が現れる。
「直接攻撃に、必殺の効果と防御無効の効果を付加する。そういう性能なんだろ?」
「答える義理は無いわっ」
 セイバーが水の壁に剣を振るう。だが、正面の水面から水の柱が突然現れ、セイバーに襲いかかる。横に避けるも、足元の海面からも水が吹き上がる。
 上昇するセイバー。しかし不意に天が陰ったかと思えば、頭上にも水の壁が現れていた。天から水の塊が、弾丸のように高速で落下してくる。
「くっ」
 顔をしかめて横に回避行動を取る。それすらも見逃さないように、周囲の水壁から、水流がレーザー光線のように発射されて、セイバーの逃げ道を奪う。
「落ちろやっ」
 頭上と左右からの波状攻撃。セイバーは、攻撃が来て居ない斜め下の海面に向かって身体を捻る。だが水流のレーザー群を完全にはかわし切れないと察知し、盾に身を隠しながら空いている空間に落下していく。
「もう逃げられないぜっ」
 海面がぼこっと盛り上がり、海面から巨大な水流のレーザーが発射された。セイバーの全身を飲み込めるくらい太い水流の柱が、落下してくる戦乙女に襲いかかる。
 横から来る無数の細いレーザーがセイバーの盾にぶつかって弾ける。爆音がして、セイバーが吹き飛ばされる。その勢いを殺さないようにして、限界を超えたスピードを出しながら、セイバーは更に回避を行う。だがもう限界だった。直撃は免れない。そう悟るや否や、セイバーは盾に力を込めた。轟音が轟いた。
「へへっ。今風に言えば、トリトンスペシャルってとこよ。終わりだ、セイバー。この水の檻からは逃げきれねぇよ」
 キャスターの勝ち誇った声が、水の檻の中に響き渡った。

「セイバーっ。くそっ、中が見えないっ」
「いよいよクライマックスってところかしら。橘君のセイバーと、私のキャスター。勝つのはどちらかしらね」
 並んで海を見つめる二人のマスター。純一の顔には焦りの色が浮かんでいるが、対する響はしごく冷静だ。
(この勝負、勝てるわ)
「……先輩、負けたらどうなるか、聞いてます?」
「この事に関する全てを忘れるそうよ。飛羽と夕月が言ってたわ。聖杯戦争の事は極秘だからって」
「結局そうなるのかよっ!」
 ポンプ小屋の事での二人のノリノリの様を思い出し、純一は戦慄した。
「私はね、自分を変えたかったらこの戦いに参加したの」
(令呪さえ使わなければ、勝利は確実ね)
 響には、水壁の中の様子が解っていた。響の着ている制服は、実はキャスターが〈道具作成〉したものであり、離れたところで闘うキャスターの様子を、魔術の力で響に伝えていた。
「〝女神の騎士″って綽名、嫌いじゃないんだけどね。その名前にふさわしい人であろうって頑張って、成長出来た面もあるし。でも、もう少し自分に素直になってもいいかなって、最近思うようになったの。……もうすぐ卒業だから、かな」
「えと、先輩、素直っていうのは?」
「……可愛い服着たり、その、彼氏探したり……とか」
「か、可愛い!?」
(ひ、響先輩が、もじもじしてる!? うぉっ、恥ずかしがって、赤くなってるじゃないかっ。いいぞ、いいぞ、もの凄くいいぞっ。……って、なんだあれ?)
「君は、どうしてこの戦いに参加したの?」
「……バーサーカー」
「え?」
 純一が指差すその先には、海の上を凄まじい速さで走る赤い輝きがあった。水の檻へと猛スピードで近づいていき、次の瞬間には爆発音と共に灼熱の赤い光が瞬いた。 
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