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英雄伝説 零の軌跡 壁に挑む者たち

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22話

抗争寸前の不良集団のリーダーが顔を合わせることは緊張感漂う光景だった。
どちらも腕が立ちそうな雰囲気を持っており、赤いほうは無傷の人員を増やしていることから仲間がボコボコにされた敵討ちに来るかも知れない。
そう身構えていた支援課だったが、両チームのリーダーが最初にやったことは部下の統制だった。
先走るなと言ったろ、命令が聞けないのかと凄むと不良たちは萎縮して、どうやらさっきの喧嘩は止めるリーダーの命令無視で勝手に始めたことであり謝罪して従っていた。
青頭巾の連中は一声であっさり従ったが赤ジャージのほうは声がデカイ幹部ががなりたてて、こっちに聞こえるようにリーダーに従わせていた。
それが済むとお互いのリーダーは進み出た。

「相変わらず気色の悪い格好の連中だな。舎弟にそんな格好させてどこぞの宗教家気取りか?」

「みんな僕に憧れてやってるだけで強制してるわけじゃないよ。そっちこそ手下に当り散らしてばかりだとお山の大将だってことが知れるよ?」

お互いに薄笑いを受かべて挑発しあう二人の間には表面上険悪に見えたが、さっきまでの不良集団同士が持っていた軽蔑や敵対心などなくどことなく相手への敬意が内在して言葉の調子に棘がなかった。
これは手下たちが先走っただけでさっきの様子からリーダーがちゃんと止めてるのでこれ以上の喧嘩は起こらないかなと思うと二人の視線がこちらに向いた。

「それで、君たちが警察だってことだけど本当?とてもそうは見えないよ」

「そこの赤毛はガタイも良いしそこそこやりそうだが、茶髪や上玉の姉ちゃんはとても警察に見えねえなあ」

ランディとエリィがそりゃどうもと軽く流しつつ、何の言及もなかったティオは無言で睨んだ。

「“特務支援課”発足されたばかりの新部署に所属している、新人だが全員れっきとした警察の人間だ。」

リーダー二人に応対したロイドは警察学校を卒業したのは自分だけとかティオが出向身分であるとか細かい事情は説明せず警察官ではなく警察の人間だと曖昧に一括りにした。
だが、青頭巾のリーダーは、ああ、と思い至ると馬鹿にしたように皮肉っぽく笑った。

「クロスベルタイムズに載っていたアレね」

「うっ」

支援課全員がまずいと渋い顔をして支援課とまでは名乗る必要はなかったと後悔した。

「タイムズに載ってただぁ?こいつら何かやったのか?」

「ああ、ギルドのかませ犬として大活躍だったみたいだよ。いや、ゴメンゴメン。一応少しは役立ったんだっけ?」

この説明にさっき叩きのめした不良たちの眼の色が変わる。
本当に警察だったのか。遊撃士(ブレイサー)の噛ませって、もしかしてそんなに強くないのか。
ついさっきボコボコにやられて戦意喪失していた不良たちは遊撃士より弱いと知ると精神的に立ち直ってしまった。

「今日はもうなしだってば。ふふ、まあいじめるのはこれぐらいにして。僕はワジ・へミスフィア。テスタメンツの(ヘッド)をしている」

「ヴァルド・ヴァレスだ。サーベルバイパーの(ヘッド)をやってる」

不良グループのリーダーがわざわざ名乗ってくれたので、ロイドは自分も支援課のリーダーとして名乗るのが礼儀である。

「改めて。クロスベル警察、特務支援課のロイド・バニングスだ」

課長からリーダーだと指名され皆からも認められているけれども自ら名乗るのはまだまだ力不足で憚られた。

「二人共これ以上事を構えるつもりはなそうだし、ここは任させてもいいかな?」

警察だとわかった以上、このまま介入しても解散させられないだろうし、さっきの仕返しだと攻撃されたんじゃ面倒なので穏便に状況を収拾するであろうリーダーに任せようとした。
しかし二人のリーダーはロイドの言葉を聞いて笑い始めた。

「な、何がおかしい?」

「いやあ、おめでたいなっーて思ってさ。ねえ?」

「事を構えるつもりがないだぁ?何を寝ぼけたことを言ってんだ?」

「じゃあ」

「そうだよ。この場で手を引くのは単に準備が済んでないから、準備が終わり次第徹底的にやり合うつもりだよ」

「それも今までのセコイ小競り合いじゃねえ。どちらが生き残るかを賭けたお互い本気の潰し合いだ」

両リーダーはお互いに得意気に本格的な抗争をすると言い出して、支援課は驚くしかなかった。

「殺し合いでもするつもりか?」

「そうなっても不思議じゃねえだろうな。まあどっちが血反吐を吐くかは分かりきってるけどよ?」

「ふふ、言ってなよ。まあどっちしてもお呼びじゃないってことさ。腰抜けの警察の犬。止めるつもりならまた恥掻くだけだよ。警察の新部署、不良に負けるって」

「そういうことだ。邪魔するなら潰すぞ、能無しのチワワども。オラ、行くぞお前ら!」

「こっちも引き上げるよ」

そのまま不良グループはそれぞれ旧市街の奥に消えて行った。
支援課は脅威とも思われていないようで馬鹿にするだけして完全に無視され相手にもされていなかった。



「あの様子じゃ数日中に本気の抗争になるな」

不良グループの様子はランディの一言で集約された。

「でも喧嘩の仲裁は一応達成したので課長からの任務は終わったことになりますけど、これ以上は任務外になると思いますが、どうしますか?」

ティオの言う通り任務としては達成した。だが、目の前の火種は消せても根本的な問題は燻っている。

「まだ任務は終わってないと思う。これから抗争が起きようとしているのに放置すれば警察に対する市民の信頼は回復できないだろう。支援課はそのための部署だし、だから抗争を止めたいと思う」

判断をリーダーであるロイドに委ねて任務継続が決定し、3人ともこの判断を支持した。
任務外のことである、そう言ってこれ以上の捜査をしない選択肢もあったが、ロイドは自分が警察官として何が出来るのか、そして支援課が警察の信頼回復のためのに設立された部署であり、今後起こるであろう抗争を知ってしまった以上阻止したいという警察官として当然の判断だった。
それは3人とも同じだった。
リーダーであるロイドが理路整然とそう主張すればそれだけで十分だった。感情的にもあれだけ挑発されて行動を起こさないというのは気分が良くなかったことだし、納得する理由を提示してくれたのは助かった。
とはいえ問題はその抗争の止め方である。
ただ止めろと口で言って聞くような連中でないことはさっきの会話で分かっている。

「俺らが両チームに喧嘩売って言うこと聞かせちまうか?」

手っ取り早く制圧してしまおうというランディの案は難しかった。不良たちはさっき戦ってそれほどの強さではないことはわかっている。
だが、かなり強そうなリーダーが一人いるだけで状況は変わる。
一対一ならランディは二人のリーダーを相手にしても負けるつもりはないがそれだとエリィやティオを気遣う余裕もなくなるので大人数で来られると難い。

「あのリーダーさんがいると難しいのでは?」

「タイマンで一人ずつ倒していくか」

「いや、全員で来るから負けるって」

「じゃあ本部に応援を頼みましょう。私たちだけじゃ手に負えないならこっちも人を用意しましょう」

ランディの一騎打ち案を却下するとエリィは本部に救援案を出してきたが、ロイドは難色を示した。

「来てくれないじゃないかな。あの不良たちの態度を見ただろう?あれだけの騒ぎを起こしても気にしてないのはたぶん警察の巡回が来てないからじゃないかな」

「確かにデータベースによればここ最近、元々少なかった旧市街の巡回が大幅に減らされてるようなのでほとんど来てないんじゃないでしょうか。予算削減が理由のようですけど」

ティオは個人端末で調べた警察の巡回情報を根拠に同意した。
それはそもそも警察は旧市街の治安維持を切り捨てており、不良同士が自由に活動し喧嘩できるのも警察の邪魔が入らないから。

「だから旧市街にはルールがあるって言ってたのね」

「ここで何かしようとしたら自分たちで何とかするしかないことになる」

「なら尚更打つ手なしだぜ?抗争を止めろっつってもこれまでのいろいろな因縁があるだろうからさ」

全員が押し黙ってしまった。本当に打つ手がないのである。
仲裁の糸口もなく制圧して解決する方法は相手の方が数が多く4人では危険が大きく最後の手段だ。

「まずはその因縁を調べよう。本気で潰し合いの抗争に発展するには利害だとか感情的な対立があるはずだ。その理由がわかれば仲裁の糸口を見つけられるかも知れない」

捜査官として事件の全体像を知るには多くの情報が必要だと情報収集を開始することに決め、ロイドの方針は妥当だと頷いた三人。
糸口の見えない不安の中で特務支援課は初めての捜査任務を開始する。 
 

 
後書き
いよいよ不良抗争編。
この話自体がクロスベルの状況の縮図であり、力押しでは解決出来ないからこそ、倒しきることが出来ないからこそ交渉が重要になり、正面衝突しないようにバランスを取る。
クロスベルは常に二項対立の狭間にあり戦場となり被害を被り続ける。
だからこれ以上の被害を出さないように活動を続ける。
二つ同時に攻められたら大被害を受けてしまう。だからその緩衝としてのみ存在を許される。

不良抗争でも戦闘能力的に支援課の手に余るのに、これ以上は手も足も出ないからね。
基本的にロイドさんたちは、クロスベルという国もだが独力で勝ったことありません。何かしらの別勢力の援護や支援を受けて勝っていきます。だからこそ独立を自力で果たしたEDの感動が一層来るのだけど。 
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