| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

ファイアーエムブレム~ユグドラル動乱時代に転生~【外伝】

作者:脳貧
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

とある騎士の昔語り---その4---

 
前書き
今回もグロいきます……
前半書いてて鬱になって時間がかかりました、すみません。 

 
 ……ヴォルツの元へ急使が向かっていたその最中(さなか)、村は平穏に包まれていたかと問われれば、さにあらず。



 討伐隊の到着に安堵してへたりこむ者が居た。
 それはつまり、" 何か " があったことの証左であろう。
 完全な証言者は存在しない。
 なぜなら……



 回収されたマノンとエリクだったものを納める棺など、すぐに用意できるはずもなく、かといって人目につくようなことなど及びもつかず、ひとまず仮棺のようなものがこしらえられ、弔いの儀式が行われるまで安置される運びとなったのだが………
 村長宅は対策本部となり使者の接受をはじめ他村からの応援の滞在先となるため、マノンの親族の元で葬儀の用意は進められていた。
 当然ドロテはそこに預けられていたが、熊害対策のために村長宅へ詰めている者達に軽食や飲料の差し入れに向かうおば(マノンの兄の配偶者)を手伝うため、そこを離れていた間にそれは起きた。
 その時、上は十を少し超えたばかりをはじめ四人の子供、それにマノンの母である祖母、守り手としてマノンの兄である家主がおり、そして家人夫婦とその間の子が一人といった具合に九人もの人間がいたのだが………生き残ったのは五名、その中には重症者が二人も居り、予断を許さない状態が続いている。
 家人夫婦は己の子では無く、主人の子の内二人を連れて村長宅へとほうほうの態で逃げ延びてきたことからも、事態が逼迫していたということを物語っていた。
 衝撃を受けた村人達が慌ててそこへ駆け付けたが既に襲撃者の姿は無く、幾つもの血だまりやそこに見受けられる肉片や骨、そして獣の排泄物の臭気に胸が悪くなる者、思わず嘔吐してしまう者……それを咎める者もいたわる余裕のある者も見受けられない惨状であった。
 そんな中、息があったのはマノンの兄だけであったのだが……
 息があったという表現だけはあり、彼の顔面の半分はぐずぐずの肉塊のようになっており、噛みつかれたとも引き裂かれたとも定かではないが腹部からはみ出た内臓、短槍を握りしめた手首よりも先の部分だけが転がっていたりなど、凄惨さを突きつける痕跡が見受けられた。

「これなら夜盗や山賊のほうがよっぽどマシだ……」

 絞り出すように、そうひとりごちた誰かの言葉を否定する者は誰一人として居なかった。

 半壊した屋敷のあちこちの柱や壁には爪でつけられたであろう一つ一つが大人の指一本よりも尚太い傷跡、それに大きな足跡が幾つも残されていた。
 それゆえ村人は見張りを立て篝火をかかげ、応援を待ち望んでいたのであった。





 翌朝までにマノンの兄と家人夫婦がなんとか連れ出せた子のうちの一人---頭部に重傷を負っていた---は息を引き取り、ひとまずは村人全員をトゥワロ村にまで避難させることを定めたヴォルツであった。
 とは言え、前日に他村へと送り出した使者が各村からの応援を連れてここで合流する運びとなっていたためその場を空けるわけにもいかず、思い悩んでいると村の猟師フレージルが少女(ドロテ)を連れてやってきた。
 言上したき儀があると言われたので続きを促すと、

「騎士さま、どうか、仇を討ってください」
「あぁ、約束しよう」

 幾分震えているような彼女を安心させるために(ヴォルツ)は出来るだけ大きな仕草で頷き、力強い声で応えたつもりであった。
 必ず討ち取る決意に曇りは無いが、その根拠は無いだけに若干彼の心に後ろめたさが残った。

  
「騎士さん、水を差すようですんませんが相手は名乗りを上げたら正直に向かってくるようなもんじゃないよ。 どうやって居所を突き止めて仕留めるんです? そりゃ馬鹿デカイ相手だけに足跡だとか見つけやすいと思っけど……けんども、足元とられやすかったり武器振り回しにくいとこで戦う羽目んなったら……」

 猟師のフレージルの言葉に内心、頷けるものばかりであったが、 " はいそうですか " と答えられない自身の立場を見透かされたようなそんな気さえし、腹立たしささえ覚えた。

「……ご無礼とはおもいますが、わたしにも役にたてることがあるとおもって、それで、猟師のおじさんにもおねがいして、ついてきてもらいました。 それで……」

 ……その後に続けられたドロテからの申し出はまさか村人の側から出るとは思わなかったが、どうしようもない場合の策の一つとして考えてはいたものであった。
 ソレは、自身が獲物をおびき寄せるための囮となるというものであった。
 



 


 ……猟犬の吠え声を辿り駆けつけ、対峙したソレはまさに『怪物』に相応しい威容を誇っていた。
 四肢を地に着いたままでも子供や小柄な女性に比肩するほどの体高があり、もし直立したならば成人男性二人分にも相当しようかと窺い知れた。
 距離を保ってこの巨熊に吠えかけるのは応援に駆け付けたモンソルという猟師の相棒であった。
 部下達や動員した村人達に周囲を大回りさせ、槍衾となるように体制が整ったのを見計らい、自身は長剣を抜き放つと従兵二名を従えて躍りかかった。
 それに同期して放たれた矢は五本を数えたが、どれも致命傷を与えるには及んでいない。
 長剣を振りかぶりながら去来(フラッシュバック)するのは少女との約束であり、お題目もいいところだが " 騎士たる者、己が主君、そして美しき婦人の為に剣を取れ " と、見習い時代に叩きこまれた掟であった。
 ほんの軽い仮眠を取っただけであったが、そのあとに飲み干した特別飲料(Sドリンク)のおかげか、すこぶる体の動きは良かった。



 ドロテの申し出による " 自身と犠牲者の遺骸を囮に迎撃適地におびき寄せる " という策を採ることをヴォルツは肯んじなかった。
 近衛騎士としての体面、それに安っぽい(プライド)り、これは今の彼を動かす行動理念の芯であって全てであり、それがカネと自分の命、それに気にいったことにすげ替わるのはもうすこし先の話であるからだ。



 ……左眼に突き刺さっていた矢はそのままであるのを既に確認できていた。
 死角となる向かって右へ回り込み浴びせかけた一太刀は、なまなかな相手であっても深手であったに違いない。
 だが、浅い傷に留まったことに(ヴォルツ)は嘆息した。
 巨熊の背後から放たれた矢が二本、突き立つ。
 ヴォルツに負わされた傷とその新たな矢傷への怒りであろうか。
 咆哮を上げた巨熊。
 しかし、いや、だからと言うべきか、方向を転じて突進とも逃走とも取れる動きを見せた。

「アルバン! デジレ! 気張れよぉ!」

 ヴォルツが名を呼んだ二人の兵士を中心に村人達もが突き出した長槍(パイク)の舳先へと巨熊は駆けたが、槍衾を目にした為か、さらに方向を転じた。
 叫ぶだけでなく、距離を詰めていたヴォルツは側面から長剣を突き刺す。
 肉や骨に食い込み、抜けなくなった長剣から手を離すと従兵からひったくる勢いで長巻を受け取り、一振りしてからまたもや脇腹に突き刺す。

()てぇ、斬鉄之剣(アーマーキラー)でもありゃいいんだが……」

 思わず無いものねだりをしてしまうが、その刹那、身を前に投げ出し一回転すると起き上がった。
 薙いだ巨熊の腕が、それまで彼の居た場所を通り過ぎたからだ。
 その際手放した長巻は地に転がり、無手となった彼だが目についた物があったのでそこを蹴りつけた。
 ……それは必死になってマノンが巨熊に突き刺し、いまだ巨熊に食い込んでいた小刀(マキリ)であった。
 このような巨獣であっても痛みというものはあるのだろう。
 悲鳴とも咆哮ともつかぬものを上げた際、ヴォルツの長剣はそのはずみで抜け落ちた。
 ソレが地に落ちる前に掬い取った(ヴォルツ)は、身体を半回転させながら浅く、二連、切りつけた。
 やおら二本足で立ち上がった巨獣は肩や胸に新たに矢を受けて(ひる)むかと見えたが、そんなものはお構いなしに、高みから勢いを付けた旋風が如き一撃を、咆哮を上げて振り降ろした……



 ……紙、六重くらいでソレを避けたヴォルツは、大きく開かれた巨熊の口内に長剣を突き入れていた。
 反動(カウンター)となったが為か、それともやはり外皮と異なるがゆえか、脳髄をも突き破り、切っ先は頭部から飛びぬけ、彼に生臭い血しぶきが降りかかる。
 それを避けようとしたことが幸いした。
 長剣から手を離したヴォルツは後方へ飛びすさったが、それまで彼の居た位置に再度、巨熊の腕が振り下ろされたからだ。
 恐るべき生命力を発揮し続ける巨熊は長剣を噛み折ろうとさえしていたが、やがてその動きを停めた……
 
 大きく息を吐き出した彼は、先ほど去来(フラッシュバック)した出来事の続きを思い出していた。





 ……


「いいかい、気持ちは嬉しいがお嬢ちゃん。 安心して任せてくんな」
「でも……わたしも……」
「……世界は広いよな?」

 突然の話題の転換に面喰った彼女はなんとも言えない表情を浮かべたが、構わず言葉が続いた。

「だが、その中でもグランベルは一番強い国って言われていてな……遊歴の騎士って知ってるかい?
まぁ、腕に覚えのある騎士が世界中旅して強敵を見つけてさらに腕を上げるってもんなんだが」
「……はじめて伺いました」
「オレがアグスティに居たころにはそんな遊歴の騎士の腕試しの相手を何度も務めたことがあったんだけどよ、    だーーれもオレに(かな)うヤツは居なかったんだぜ?  もちろんグランベルから腕試しに来たヤツだってたっくさん居たんだがな!」

 自身を鼓舞する意味もあり、自信たっぷりに、そして破顔したヴォルツは、ある言葉を口にした。



 ……

 討伐に参加した兵も村人も、皆、歓喜に沸いていた。
 涙を浮かべたり笑ったり、その両方を同時に行っていたり……
 討伐に参加した村人の一人が 歩み寄り口を開き、

「危ないかと思ってハラハラしたけど、騎士さま、あんた凄いよ」 
 
 彼の肩をバンバンと叩き、顔を涙と笑顔と汗でぐしゃぐしゃにしていた。
 その時、(ヴォルツ)少女(ドロテ)に告げたのと同じことを口にした。



「オレをやれるヤツはいねぇよ、この世界ひろしといえどもな・・・」



 
 

 
後書き
前のほうの話でも言葉だけさらっと出した家人、(けにん)とはステレオタイプの奴隷よりは
ずっと扱いのマシな奴隷だと思ってくださいましー
例えば主人と同じ家で寝起きを共にするのを許されているとか自身の家族を作ることや私有財産の所有が許されているなどなど 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧