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SeventhWrite

作者:完徹
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嘘つき

 
前書き
サブタイトルを数字から変えました。 

 
 蘭に電話してしてから十分後、どうやら水瀬君は今図書室に居るって返事が来た。
 さっき会ったあの男を思い返して歩いていると今朝寄った小学校前にいた。別に目指していたわけではなく、学校に戻ろうと歩いていたら着いた先がここだった。

「あの子、怒られなかったかな?」

 そこでふとそんな暢気なことを呟いていた。蘭の事をちゃんと知るきっかけになった女の子、今は家でお兄ちゃんの看病でもしているのかな?
 いやそんな事考えている場合じゃないな、とりあえず今は水瀬君に会いに行ってあの物語について問い詰めないと。

 ブ~~~~~~~~~

「ん?電話かな」
 かと思ったらすぐに止まった、メールかな?
 ポケットから携帯電話を取り出すとバッテリー切れだった。
「あ…………………」
 そして思い出した、最初に携帯電話を取り出した理由を
「………お父さんに電話すればいいんだった………」
 なんで気付かなかったんだろう?なんて思っても遅すぎた。
「しかたないな、なら学校に戻ろう」
 そしててくてくと今朝通った道を思い出して繰賀中学校を目指す。
 別に日向未来に会ったところで現状が解決するわけじゃないけど、あまりにも今の状況は非日常すぎた。
 とりあえず中学校までの道のりで今自分に起こっていることをまとめてみよう。

 一つ目、道に迷った
 二つ目、隣の席の水瀬君が書いた小説の登場人物が目の前に現れた。
 三つ目、その人はあたしの事を知っていた。

 こんなところかな、今の状況では彼があたしになにかしら危害を加えることは無いと思うけど、いや違うかな、彼の目はまるで何かを隠し、抑えているような目だった。
 あたしはあの目を知っている、だって………あたしはあの目を毎日見ていたから。

「……美咲お姉ちゃん……」

 助けてよ………
 あたしは、両手で自分の頬を挟むようにバチンと叩いた。いつもならこれで負けるもんかって思えるんだけど、駄目だった。
 …急いで学校に行こう、水瀬君が帰っちゃう。


「あれ?君、さっき帰ってたんじゃないのかな」


 気が付いたら前方五メートルの位置に彼が立っていて、場所は既に繰賀中学校に着いていた。

「……忘れ物、取りに来たんです」

 しまった。
 彼があたしを探して学校に来ることをまるで考えてなかった。
 む、無視しよう。
 そうだ、それがいい。
 話さなきゃいけない訳じゃないし。
「それじゃ、転校生に会えるといいですね」
 そう言ってそそくさと学校に向かう。
 これでいい、彼だって私を止める理由が無い。


「もう部活動終わってるよ」


 でもあたしを止める小さな声がした。
 あたしは前を向くと、そこには同じクラスの幽霊みたいな女の子、月村依都子が立っていた。

「え?」

「この学校はね少し完全下校時間が早いの、だからもう部活動してないよ」

 あ、まずい、その言葉は…まるで、私が”転校生みたい”に聞こえちゃう。

「ぁぁ、そうだよね、あたしったらうっかり忘れ…」

「へぇ、そうか君が転校生だったんだ。まさか真っ先に会うとはね、僕はついてる」

 遅かった。
 彼は、気付いた。
 あたしが、杵島一美であることに。

「…水瀬さん、その人だぁれ?」

 ………ん?あぁ!そっか今はあたし、水瀬なんだった。
 これは、いけるかも。

「さぁ、あたしは知らない人だよ月村さん」 
「え?水瀬、水瀬って…君は杵島じゃ…それに月村?月村って」
 彼は困惑したように呟いた。そして何故か月村さんの名前も何か知っているみたい。
「杵島…誰ですかそれは?」
 月村さんは自分に聞かれたと勘違いしたのか峰岸大樹に答える。もちろん彼女はあたしの旧姓を知らない。
 そして彼の注意が月村さんに向いた。

 今だ!

 あたしは、二人を残し、校舎へと続く道へ走り出した。

「…………っぱぁ!!」

 何とか気付かれずに校舎内にたどり着き、止めていた息を一気に吐き出す。振り返って見るとどうやら追ってくる気配は無いみたい。
 助かった…思わず置き去りにしちゃったけど、月村さんは大丈夫かな?いや、彼はあたしを探しているんだし、彼女に何かすることはない…と思う。

 とりあえず今は早く水瀬君に会わなきゃ。

 あたしはそう思って歩き…出せなかった。
 そういえばあたしこの学校まだ全部周ってない。
 体育館とか移動教室等の場所は大体案内されたけど図書室は何処か分からない。
「聞くしかないか」
 そして、朝振りの職員室へ向かう、今度は桜先生が居た。なんでか少し辛そうだけれど
「何だ水瀬?もう下校時刻だぞ、こんな遅くまで部活見学していたのか?」
「えっと、はい…その…今からちょっと図書室に用があって…」
 桜先生は見た目がガッチリしているから一対一で向かい合うと何か緊張する。

「図書室?もう閉まってるぞ、さっき月村が鍵を閉めていたからな」

 え?閉まってる?
「あの、水瀬君は…図書室にいなかったんですか!?」
「あ?水瀬は三、四十分前に下校しているのを職員室から見たが………」


 なに………それ………


「いいから、早く下校しろよ、水瀬とは明日になっても席が隣なんだから」
 何か変な勘違いをしながら桜先生は職員用トイレに入っていった。
 なんてどうでもいい。
 三、四十分前って電話した時にはもう学校に水瀬君は…居なかった?
「何で……どうしてこんな時に嘘なんてつくの?」
 タイミング悪すぎだよ…………

 その時のあたしがもう少し冷静だったら”一人”で学校から出ることは無かったと思う。
 でも蘭に裏切られたかのような気持ちになっていたあたしはそれがどんなに馬鹿なことか気付いていなかった。
 その結果がこれ………


「あ…………………」


 校門の前には汗だくの峰岸大樹が立っていた。 
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