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SeventhWrite

作者:完徹
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一日目~四日目

「引き受けて……くれるの?」

 僕の返答が予想外だったのか、唐橋さんは目を見開いて驚いている。とはいえ一番驚いているのはこの僕だったのだけれど。
「引き受ける、受けないは内容によるけど」
 僕はこの時あまり深く考えていなかったんだろう。いや考える事を拒んでいたのかな?どっちでも良いけど、とりあえずこの重苦しい雰囲気を変えたかった。
 そのいい加減な考えがいけなかったんだろう。
「その、離婚したその子の両親なんだけど、つい最近再婚したの、今ではここじゃなくて父親が住んでいた場所に引っ越しちゃったんだけど………いやそんな事はどうでもいいか、問題は峰岸君のお母さんだから」
 母さんが?
「とりあえず言ってみて」
 するとさっきまでの饒舌な唐橋さんとは思えないほどあたふたしていて話が進まず催促する。彼女は一息つき、あのね、と前置きした。
「彼女の両親が再婚してきっと峰岸君のお母さんが悲しんでいるから支えてあげて」
 そんなの、言われるまでも無い事だ。父さんがいないから僕しか母さんを守る人がいないんだから。と考えるより先に僕は彼女の両親という言葉で”その子というのは女の子なんだな”と妙に安心していた。なんて事だろう、僕はこんな時にその二つ年下の子に嫉妬を感じていたなんて………

 どれだけ現実逃避してるのかな、僕は?

「ごめんなさい、呼び出しておいて辛い話をしちゃって、でも最後まで聞いてくれてありがとう、ずっと気になってたの、峰岸君のこと」
 唐橋さんが何か言ってるけど耳に入ってこない、大好きな唐橋さんが意識出来ない程にこの時の僕は参っていた。


  ~~~~~~~~~~~~


 あれ?何で僕は家にいるの?
 気がついたら自宅のアパートの一室で僕は立っていた。壁に掛けてある時計を見ると十四時二十分を過ぎていた。五限目がそろそろ終わる時間だ。格好は制服のままで鞄も足元に置いてある。

 え~と~…………あ……

 唐橋さんに心配されて早退したんだった。
 いけね、ど忘れしてたよ。
 適当にブレザーを脱ぎハンガーにかけて部屋着に着替え始める、実際に身体で辛い所は無いので別に休む必要は無いのだけどとりあえず休んだほうがいいと思った。
 そして自室のベットによこたわり目を瞑ると、ふと昼休みの唐橋さんの言葉が頭の中で木霊する。

『ずっと気になってたの、峰岸君、好きです!!』

 違う、そんな事言ってない。
 頭の中の幻覚を振り払い、記憶の方に意識を向けた。

『きっと峰岸君のお母さんが悲しんでいるから支えてあげて』

 これだ。
 何故あんなことを彼女が僕に頼んだのだろうか?よく考えてみれば僕にあの話をした理由が分からない。予想では唐橋さんは女の子の両親の事情を調べているうちに僕の母さんに同情したのだと思う。
「違うな」
 そうだとしてもまずあんな話をした時点で僕が父親を憎むと予想するだろう、そして頼みごと所ではなくなる。もしくは僕が信じないとか。
 駄目だ、唐橋さんの真意がさっぱり分かんない。
 う~ん、もしかして
「やっぱりドッキリかな?」
 これが一番無難で現実的なことだろうけども種明かしもされずに今僕は早退しているので納得しきれない。

「そうだ!」

 手っ取り早い方法がある、母さんが帰ってくるのがパートを終えた十八時過ぎだから………
「調べてみるか」
 僕は普段入らない母さんの寝室に向かった。
 とはいえここは2DKなので自室から五秒もかからない。寝転んですぐに立ち上がるのは億劫だったけど、このままだと寝そうなので、勢いをつけて飛び起きた。母さんの部屋は畳まれた布団に衣装ケース、本棚に小さな金庫、そして学習デスクがある四畳半の部屋だ。
「母さん、ゴメン……」
 まず学習デスクの引き出しを開けた。
 一つ目の引き出しには会計リストやレシート、メモ帳や文具が詰まっていた。ここには何もなさそうだ。
 二つ目の引き出しを開けるとアルバムとノートが数冊入っていた。アルバムは僕の写真で埋め尽くされていた。なんか恥ずかしい……、ノートのほうはパート先の仕事内容が主でこれといって気になるものは無い。
三つ目、最後の引き出しを開けると……

「ここには何も入って無いか」

 手当たり次第に引き出しを開けたりして写真やメモ帳などを探しているのにこれといって不自然なものは無かった。
 衣装ケースなんてのは調べる対象に無い。母さんの服を漁るなんてしたくない。
 それでも今やってることは空き巣同然なんだけど。
 布団の下?ポルノ雑誌を隠してる中学生じゃあるまいし。
 そしてあと残っているのは

「となると、やっぱり気になるのはこれだよな」

 まだ探してない所といえば、小さな金庫だった。その金庫は四つの数字を合わせて開けるダイヤル式だ。
 つまり
「一万通りか……」
 地道な作業になりそうだった。
 それでもいきなり0000から始める気も無く、いじる前の数字を確認すると0605で、それは気になる数字だった。
「なんか見たことあるなこの数字、もしかして僕の誕生日とか?」
 ちなみに誕生日は六月六日だ。
「駄目か………」
 思い付きだもんな
「やっぱり………え?」 

 ガチャ

 開いた。
 その瞬間僕は後悔した。唐橋さんの話を真剣に聞いた事と、母さんの部屋を調べた事、そしてこの金庫を開けてしまったことを
 自分の誕生日で驚いたのだけどその中身にはそんな事が比べられないほど信じられないものが入っていたから。

「なんで………………?」

 年季の入った小さな金庫の中には古びたノートが数冊と

「………なんで…………」

 一枚の写真と

「………どうして……ナイフなんかはいってるんだよ?」

 夢で見た物と同じバタフライナイフが入っていた。 


  ~~~~~~~~~~~~


 そのナイフを見つけてから一体どのくらい固まっていたのだろうか、口の中の異常な渇きで唾を飲み込もうとするけど、それすら出来ない事に気付き、キッチンへと向かい水をコップに注ぎ一気に飲み干す。

「っぷは!…………何なんだよ…あのナイフは?」

 喉の渇きが癒えて少しずつ頭がまわり始めた僕は一番の疑問を口にしていた。どう考えても金庫の中にナイフを入れておく理由が分からないからだ。
 未だに自分の見たものを認める気にはならない、だけど金庫は開いたままでそのままにしておく訳にはいかないという気持ちもある。
「せめて、元通りにしとかないと……」
 そうすることでさっき見たものが幻覚だったんじゃないかと祈りを込めて。
 もちろんそんな事はなくて再び絶望するのだけど……いやそれだけじゃない、悪化した。

「うわぁぁぁ!!」

 再び金庫の中身を見て新しく気付いた、このナイフ……血がついてる!?
 バタフライナイフを開いて刃を出すとそこには赤く錆びたような汚れがついていた。
 何だよこれ、これはもう………目を背けてては駄目だ。
 僕は完全にこの金庫の中身を調べることを決心した。そして金庫に入っている写真を見る、母さんと見知らぬ男のツーショットだった。これが………母さんに浮気していた男か………
 引き裂きたい衝動を抑えてその写真を戻して、次にこのナイフについてのことが書いてあるだろうノートに手を伸ばす、全部取り出すと六冊あって一冊ごとにナンバーが書いてあり、まずナンバー1を開いた。


『×月×日
 私と彼の間に子供が出来てしまった。しかし、彼は別の女(ひと)との結婚が決まっている、この事を彼に伝える訳にはいかない、この子は私一人でも絶対に育て上げてみせる』

 …………最初の一文はそう書かれていた…………

 これで唐橋さんの言っていた事の裏付けがとれてしまった………
 湧き上がってきたのは怒りだ
 誰への?
 そんなの…………


 「っ分ぁっかんねぇよぉお!!」

  
 勢いに任せてコンクリート剥き出しの壁をぶん殴った、一発、二発、三発……そこで壁に付いた自分の血を見て頭が冷えた。
「なんなんだよ……一体……どういうことなんだ?」
 悪い冗談だ、こんなの、認められるか……いや……
 みっともなく慌てても意味ないじゃないか………だったら

 放り出したノートを拾い上げて、そのノートを読みだした。


  ~~~~~~~~~~~~


 僕は母さんが帰ってくるまでに六冊のノートを読み、壁を拭き、金庫を閉め、部屋を入る前と同じ状態にした。
 どうやら僕が固まっていたのはほんの数分だったようだ、そして母さんが帰ってきて一緒に夕食をとり(母さんには早退したことは言わなかった)、今では夕食を終えて自室でノートパソコンを立ち上げていた。
 このノートパソコンは母さんが入学祝にくれたものだ。高校生にもなってケータイを持たずにノートパソコンを持ってるのもあの男からの贈り物だからだそうだ。全く、そんなものを使ってたなんて、嫌になる。
 でもそれが現在進行形で役に立ってるんだけど。

「確か唐橋さんは父親のほうに引っ越したって言ってたよな………」

 あのノートにはこれから僕がすべき事が記されていた。浮気していた男のことは母さんも知っていて覚悟を決めた事だからまだいい、だけど……あの女だけは………母さんが自殺しようとするまで追い詰めた奴だけは………絶対に許さない。
「あるかな?………よし、ここだ」
 僕は一人、部屋で笑った……ここならきっと、誰も来ない。


  ~~~~~~~~~~~~


 こんなに朝が待ち遠しいのは初めてだった。
 母さんがパートに出かけてすぐに僕は母さんの部屋に行き、金庫を開けた。
 中には相変わらずナイフとノートと写真が入っている、その中からナイフだけを取り出し、ポケットにしまう。
 これでよし
 格好は制服にした。この格好なら身分が分かるだけ警戒されないと思ったからだ。ポケットには奴の住所をメモした紙とあの場所へ行く地図とバタフライナイフと通帳が入っている。
 バイトは休まずに母さんの目を盗みつつ連休を使い準備は整った。

「さぁ、行くか」

 ちょっと遠足に行くくらいの気軽さで僕は呟く。
 心の中の黒さを紛らわすように、顔に憎しみが出ないように。
 今からまるで登校するように僕は歩き出す。 


 杵島一美、君に遭うために……… 
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