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とある碧空の暴風族(ストームライダー)

作者:七の名
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幕間
  Trick24_なにやってるんですかね、学舎の園の警備



常盤台中学

信乃は校舎の修理を行っていた。

修理を頼まれてからかなり時間がたっているが、未だに終わっていない。

「ってか一人で学校一つ分の修理なんて早く終わるわけないだろ」

モノローグに突っ込みを入れてはいけない。

今はグラウンド側の校舎、壁の表面に何かを塗り込んでいる。

表面が少し風化しているだけで、特に大きなひび割れが起こっているわけではないが
ここは修理が必要だった。

「がんばってるね、信乃“さん”」

後ろから声がかかってきた。信乃を振り向かずに返答する。

「“さん”付けが無意味に強調されていますね、御坂さん。
 今日は“にーちゃん”と言わなかったことを無意味に自慢しているんですか?」

「あ、いや・・」

「その反応は図星ですね。それで何の用です?」

「用がなきゃ、来ちゃいけないの?」

「はい、今は授業中ですよ」

信乃は振り返ってグラウンドを見ると、そこでは身体検査(システムスキャン)をしていた。

身体検査(システムスキャン)は学生の能力レベルを測定するシステムで、定期的に
受けることが義務付けられている。測定の対象は、能力の威力、効果範囲、制御などである。

本日はその検査日。常盤台の全ての生徒が受けている。

空間移動(テレポート)や風力使い(エアロシューター)など、屋内では
計測できない生徒たちが体操服を着て、グランドで検査をしていた。

御坂も検査が終わってここに来たようで、同じく体操服。

身体検査(システムスキャン)が終われば自由よ。これを授業って言うのかしら」

「それでも授業中ですから。終わったなら大人しく教室に戻ってください」

「またそういう固いことを」

キーンコーンカーンコーン

丁度、本日の終了のベルが鳴る。

身体検査(システムスキャン)はその場の検査だけではなく、データの解析を
学園都市内の教師や学者が行う。

そのため、今日は午前中で学校は終わりになる。

グラウンドにいた生徒たちは校舎の中へと歩き始め、教師たちも検査機器を片付けて
同じように校舎へと入っていった。

「もう授業中じゃないから何も言わないよね?」

「・・・さっさと帰れ」

「イライラしてるね。どうしたの?」

「修理が面倒臭いんですよ。芸術品というだけあって、すごい工夫がされているのは
 認めますよ。夕陽の角度を計算して、夕方だけに校舎に鳳凰(ほうおう)の絵が
 校舎に浮かび上がるなんて金の無駄使いの素晴らしい作品ですね」

「え? うちの校舎、そんなの出るの?」

「数年前から壁表面の一部が摩耗して夕陽を反射する鉱物がなくなっているので
 今の生徒はだれも見たことないと思いますよ。

 ってかなんで雨風に弱い≪クロアマダイ鉱石≫なんて使ってんの?
 本当にただの道楽じゃないか、この校舎。何考えてるの理事長?金の無駄過ぎだし
 その仕事を受けたマリオさんもバカでしょ?二人まとめてぶち殺すよ?」

「後半が物騒な内容になってるけど・・
 まあ、そのクロロホルムってのを校舎に塗って直してるってわけね」

「クロロホルムって・・生徒全員を眠らせる気か俺は」

「名前なんてどうでもいいじゃない。それより、午後は暇?」

「ケンカ売っていますか? この状況を見てわざと言っていますか?」

信乃は笑顔で言う。口元だけが笑った笑顔で。

「あははは・・・雪姉ちゃんや黒子、初春さんと佐天さんを誘ってどこかに行こうかと
 思ってさ。あの、目だけ笑ってない笑顔を向けないで、恐いから!!」

「そうですか、楽死(たのし)んできてくださいね」

「字が恐いよ!」

「お姉様、信乃さんはどうでしたの?」

信乃と御坂のもとに白井がやってきた。
空間移動(テレポート)の検査も外で行っていた。

「ダメだって。忙しんだってさ」

「そうですの。信乃さん美雪お姉様くっつく作戦はできそうにありませんわね」

「そういう変なことは本人の前では言わないでくださいよ。  ん?」

信乃は手を止めてあたりを見渡し始めた。

「どうしたの?」

「ちょっと嫌な予感が」

「「いやな予感?」」

「・・・残念ながら、的中したみたいですね」

見渡していた視線が一か所に止まった。
白井と御坂もその方向を見ると、一人の男が校門から入ってきた。


男は2メートルを超しているのではないかと思うほどの大きな身長、
そして盛り上がった全身の筋肉で余計に大きく感じた。

服装は肩から切られた黒の皮ジャンに、穴のあいたジーンズ。
誰がどう見てもスキルアウトにしか見えない。

常盤台中学は女子高であり、信乃のような例外を除けば男子禁制の場所である。

そんな場所に堂々と正門から入ってきた男は、背格好のことも併せて不審者以外の
何ものでもなかった。


「あなた、ここが常盤台中学と知って入ってきていますの?」

男に一番に対応したのは白井だった。空間移動(テレポート)で男の5メートル前に
移動して警告をする。

一方、一番に男に気付いた信乃はなぜか動かないであたりの様子をうかがっていた。
男が見つかったのだから白井のように警告するなり行動を起こすのが
いつもの信乃のはずだが、今に限っては動こうとしない。

御坂はそんな信乃に不信を感じたが、すぐに白井の正面にいる男に目を向けた。

「わたくし、風紀委員(ジャッジメント)ですの。大人しく
 投降なさってくれませんこと?」

「クックック・・・」

男は不気味に笑った。

「なにがおかしいんですの?」

「いや、警備員でもすぐに来ると思ったんだがな。一番に来たのはこんな可愛らしい
 お嬢ちゃんとはな。それがおかしくってな」

「バカにしてますの? 先程も言った通り、私は風紀委員ですわ。あまり甘く見ると
 痛い目に」

男は白井の話の途中で、急に右手を上げた。

その行動に白井は警戒して身構えたが、何の変化もない。何も感じない。
男から能力が出てくるわけでもない。白井はそれを不審に思った。

「この状況で警戒するだけで動こうとしないとは、この程度か」

男はため息をつき、上げた右腕を降ろした。

「何の言ってま「白井さんすぐに下がって!!!」え?」

白井は大声を出した信乃の方を向いた。

そのわずかな動きが白井の命を助けた。

男が腕を降ろすと同時に、白井の左腕から血が飛び出た。飛んできたのはおそらく弾丸。

傷自体はかすり傷で大きなものではない。問題はその場所。

信乃の方向を振り向く。この動作をしていなければ怪我した腕の場所には白井の心臓が
あった。動かなければ心臓に当たっていた。

「っ!」

「運のいい嬢ちゃんだな。でも、これでサヨナラだな」

男の右腕が膨張し、常人よりも多かった筋肉が急激に膨れ上がった。
もはや、人間の腕の太さではない。能力で増強されている。

その腕を、拳を、傷口を抑えている白井へと向けて殴りかかった。

だが、白井の前に信乃が割り込みその拳を受けた。

信乃は攻撃を完全に受け止めることができず、真後ろにいた白井を巻き込みながら
一緒に飛ばされる。

「ちっ!」

信乃は体をひねり、白井を庇うようにして窓を破って校舎の中に入った。

「黒子、信乃にーちゃん!? あんた、一体何するのよ!?」

御坂は問答無用で電撃を男へ飛ばした。

しかし、電撃は壁にはじかれたように男に届かなかった。

「な!?」

「ほう、お前が常盤台の超電磁砲(レールガン)かな?お前と戦うのを楽しみに
 してたな。上の奴らには手出しさせない、楽しもうじゃないかな!!!」

「なんなのよあんた!!!」

再び電撃を、先ほどよりも大きな攻撃を加えたのだが、結果は同じだった。




ガラスのかけらをかぶり倒れていた二人だが、信乃だけがゆっくりと立ち上がる。
白井は飛ばされた衝撃で気を失っている。入ってきた教室は家庭科室。
信乃はガラスで怪我をしないように、白井を安全なテーブルの上に寝かせた。

軽くわき腹や腕を触ってみたが、白井は骨折はしていないようだ。
だが一緒に吹き飛ばされたために全身に打撲をしているだろう。
急いで携帯電話で救急車と警備員(アンチスキル)に連絡を入れる。

外で戦っている御坂を見ると電撃が通用しない事態になっていたが、この前の
幻想御手(レベルアッパー)事件を通して、御坂美琴(レベル5)の実力を
知ったので心配はしなかった。心配の必要がないと理解していた。

「いったいなにが・・・白井さん!!」

窓を突き破った音を聞いたのだろう、教室の入り口から一人の女性が入ってきた。
名前は知らないが、学校に出入りしていたから顔に見覚えがあった。

「確か、白井さんのクラス担任の方でしたよね? 救急車や警備員への連絡は
 終わりました。白井さんの事をお願いできますか?」

「は、はい!」

白井の側に来た女性に対し、信乃は数メートル後ろに下がった。


信乃が男への反応に遅れたのは、殺気が原因だ。
男が出した殺気ではない、学校の校庭全体に急に現れたかすかな殺気。
信乃が男を見る前に感じたのはこの殺気だった。

男が校門から入ってきたときに殺気を出していたのがこいつだと思ったが、
男から出ている強い殺気とは別の殺気だとすぐに分かった。
どこから出されている殺気かを探っているせいで動かなかった。

そして男が手を挙げたその時、確実な殺気が白井に向いた。白井はきずかなかったが
遠距離からの、銃撃による攻撃の殺気を信乃は感じて白井へ叫んだのだ。



(“学園都市に来てから平和”だったせいで勘が鈍ってやがる!)

信乃は心の中で自分に悪態を付けた。
幻想御手(レベルアッパー)事件程度なら信乃にとっては平和のレベルだ。

一呼吸し、そして目を閉じて集中する。
白井を攻撃した、銃撃したスナイパーの“魂を感知する”ために。


石凪調査室(いしなぎちょうさしつ)

表の人間では知っている人物は一切いない集団。
だが、表以外の人間であればこの集団の名前は有名だ。

人間でありながら『死神』と呼ばれ、生きているべきでない者、運命に背く者を殺す集団。
その彼らが十八番とするのが『人の魂を感知する』能力。

信乃は石凪に所属したわけではないが、知り合いに元死神がいて感知するための
“技術”を学んでいた。

第二の氏神誘拐事件、グラビトン事件の時にも発揮していた能力。


それを駆使して屋上にいる2人の不明な魂を見つけた。

「なにやってるんですかね、学舎の園の警備。不審者の侵入を3人も
 許しているんですけど」

信乃は教室の隅へ歩き出した。

教室の隅にある掃除用のモップ。普通の教室は専属の人が掃除をするが、
調理後に掃除ができるようにこの教室には道具一式があった。

信乃はモップの拭くための布を踏んで固定し、柄を回して柄だけの状態に分解した。

(遠距離からの攻撃・・・拳銃もしくはレベル3以上の遠距離攻撃の能力者。
 レベル3や拳銃持っている“程度”だとA・Tの使用はできないか・・・)

一度ため息をついた後、

「何とかやってみますか」

信乃は一番近くの敵を倒すために駆けだした。



つづく
 
 

 
後書き
作中で不明、疑問などありましたらご連絡ください。
後書き、または補足話の投稿などでお答えします。

皆様の生温かい感想をお待ちしています。一言だけでも私は大喜びします。
誤字脱字がありましたら教えて頂くと嬉しいです。 
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