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遊戯王GX-音速の機械戦士-

作者:蓮夜
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―三年生、開始―

 ジェネックスやらオベリスク・ブルーのペンキ塗り直しやら長期休暇やら、色々なことが終わって、俺たちは遂に三年生を迎えた。
『これから』に向けて大事なこの時期に、今年ばかりは変なイベントに巻き込まれるのは御免だと思っているが……また何か起こらないかワクワクしている自分がいるのも事実である。

 まあ二年生の時と同じように、俺たちの周りには大して変化は――無くもないが、そう劇的に日常が変わることなど早々ない。

 そんな新学期だったが、俺はいつもの池で釣り竿を垂らしてボーッとしていた。
始業式の時間になるまでの暇つぶしのつもりで始めたのだけれど、やはりというべきか熱中しすぎてしまい、ふと時計を見ると始業式の時間が迫っていることに気づいた。

「遊矢、やっぱりここにいたのね。そろそろ始業式よ」

「悪い悪い」

 本校の方から呆れ顔で歩いてきた、明日香に感謝して釣り用具を片付けようとしたものの、釣り竿が池に飲み込まれるぐらいの勢いで引っ張られた。

「ちょ、ちょっと待ってくれ明日香! 大物だ!」

「まったく……」

 背後で明日香の呆れたような声がしたが、二年間この池で釣りをしてきたにもかかわらず、こんな力で引っ張られるのは初めての経験だった。
太平洋のド真ん中ということで、魚自体は本土よりも元気であるのだが、この池にはそんな力を持った魚などいなかったはずだ。

 釣り上げたいという気持ちと、どんなモノが釣れるのか確かめたいという思いが合わさり、力の限りリールを巻くがそれでは足りないようだ。
釣り竿が池に巻き込まれそうになったその時、俺の手に二つの手が重なって、釣り竿に新たな力が加わった。

「私も手伝うわよ、遊矢」

「ありがとう明日香……今だ!」

 力を貸してくれた明日香と、不思議なほど息のあって釣り竿を引っ張ることが出来、池の中にいる何かを釣り上げることに成功する。

 通常水の中に住んでいる魚というのは、陸上ではその身動きが出来なくなる筈なのだが、その釣り上げたモノは陸上であるにもかかわらずまだ動いていた。
何故ならそれは魚などではなく、長い吻と扁平な長い尾を持ち、背面は角質化した丈夫な鱗で覆われており、眼と鼻孔のみが水面上に露出するような配置になっている――

 緑色の肉食性水棲爬虫類――ワニだったのだから。

「ワニ!?」

 セブンスターズ事件の折りに、森の中で虎とエンカウントした時もそれは驚いたものだが、まさかワニを釣り上げるとは思いもよらなかった。
ワニは釣り上げたこちらを怒っているようで、こちらを見て威嚇しながら徐々に這い寄って来る。

「明日香、ワニって背中見せずに目を離さずに逃げれば良いんだっけ?」

「……それは熊よ、遊矢。じゃなくて早く逃げないと!」

 なんだかんだでパニックになっている俺と明日香を尻目に、ワニは俺たちへと迫って来ていて、もはや逃げることも適わない距離に接近されていた。

「明日香っ!」

「Hey.カレン! Wait a minute!」

 せめて明日香だけでも護らなくてはならない、と前に出た俺の行動と共にそんな声が響き渡り、ワニがその場に止まった。

 声がした方向を見ると、カウボーイのような服装とテンガロンハットを目深に配り、その左目は包帯によって隠されているという……どう見ても、このアカデミアの関係者ではない人物が立っていた。
カレンと呼ばれたワニはその人物の元へ歩いていくと、そのままカウボーイ男に背負われて静かになった……どうやらあのワニは、カウボーイ男のペットらしい。

「sorry.君たち。ケガはないか? niceな池だったからカレンを離してしまったが」

 その流暢な英語を混ぜながら話す独特な言葉は、そいつがどう考えても日本人でないことを再実感させ、なおさらカウボーイ男が不審者に見えてしょうがなくなってしまう。

「あ、ああ。それは大丈夫だが……お前は?」

「これは何度もsorry.俺はsouth校から来た留学生、ジム・クロコダイル・クックだ、よろしく!」

 不審者とも疑っている俺の言葉を知らない訳でもあるまいに、何ともカウボーイ男――ジム・クロコダイル・クックというらしいが――は、ノリノリで自己紹介をしてくれた。

「……留学生? 聞いてるか、明日香」

 留学生というのが本当であれば不審者ではないのだが、どうも自分には噂には疎いところがあるもので、後ろの明日香に聞いてみるものの、明日香も難しい顔をしていた。

「……留学生……いえ、聞いてないわね」

「何てこった! まさかsurpriseだったのか!」

 確かに鮫島校長先生であれば、始業式でサプライズ発表というのは有りそうな話であるし……何より、このカウボーイ男が不審者とは思えない。

「ところでyouはオベリスク・ブルーか……どうだ、俺とデュエルしないか?」

 そう言ってジムはデュエルディスクを構えると、デュエルをする準備を完了し、後は俺がデュエルを了承するだけという状態となる。
デュエルディスクは念のために形態してはいるが、もう少しで始業式が始まってしまう時間でもある。

「いや、もう少しで始業式が……」

「Don't worry.それまでにfinishだ」

 その言葉を受け取ると無意識にデュエルディスクを構え、俺もジムと同じようにデュエルの準備を完了させた。
どうやら自信はあるようだが、そこまで言われてしまっては受けなければ、デュエリストとしてのプライドに関わる。

「you.名前は?」

「黒崎遊矢だ。名前で呼んでくれて構わない」

 その態度からは、先程の『すぐに終わらせてやる』といった態度は万丈目のようなエリート意識などでなく、本当にただ自分の実力に見合った自信なのだと感じさせる。

「本校のオベリスク・ブルーの実力、見せてもらうぜ!」

「そっちこそ留学生なんて扱いで来るんだ、サウス校のレベルを見せてもらおう!」

 お互いにやる気は充分だ、明日香は俺の後ろから少し離れると、安全にデュエルを見れる場所へと移動した。

「頑張ってね、遊矢」

 ……ジムに本校の実力をナメられる訳にもいかないし、せっかく応援してくれた明日香の前で、負けるわけにはいかないな……!

『デュエル!』

遊矢LP4000
ジムLP4000

「先攻は俺から。ドロー!」

 デュエルディスクは俺ではなく、ジムを先攻に選んだ……せっかくの後攻なのだから、どんなデッキなのか存分に見せてもらおう。

「速攻魔法《手札断殺》を発動! お互いに二枚捨てて二枚ドロー!」

 初期手札が悪かったのか、いきなり俺も愛用する速攻魔法《手札断殺》が発動され、手札をお互いに二枚捨てて二枚ドローする。
……俺にとってはそれだけではなく、俺の墓地から一筋の光が浮かび上がったが。

「墓地に送った《リミッター・ブレイク》の効果を発動! このカードが墓地に送られた時、デッキから《スピード・ウォリアー》を特殊召喚する! 来い、マイフェバリットカード!」

『トアアアアッ!』

 まだ俺のターンに回って来ていないにもかかわらず、勇んでマイフェバリットカードが特殊召喚され、俺とジムの間を走り抜けた。

「《スピード・ウォリアー》……そのデッキ、【機械戦士】か?」

「……ああ」

「……抑えてよ、遊矢」

 ジムのある意味予想出来ていた反応に、明日香からポツリと心配するような声が聞こえたが、結果的にはそんな心配はいらなかった。

「ってことはperhaps、【機械戦士】で【アームド・ドラゴン】に勝った奴か?」

「あ、ああ……」

 随分懐かしい話を持ち出されたせいか、ジムの反応が予想外であったせいか、若干尻すぼみな回答になってしまったが、ジムは全く気にしてないようだった。

「miracle! 本校に来て初戦の相手がそんなpublicとは! ……始業式までには終わりそうもないが、全力で行かせてもらうぜ!」

「……もちろんだ!」

 デュエルが終わってみたら話してみよう、こいつとは仲良くなれそうだ……今のジムの言葉は俺にとっては、そう思わせるに足る発言だった。

「まずは、《守護精霊ウルル》を守備表示で召喚する!」

守護精霊ウルル
ATK0
DEF2300

 満を辞して召喚されたのは岩石族のモンスター《守護精霊ウルル》であり、その守備偏重なステータスは、下級モンスターでは突破は難しい。

「カードを一枚伏せ、ターンエンドだ」

「楽しんで勝たせてもらうぜ! 俺のターン、ドロー!」


 ジムの前に構えている《守護精霊ウルル》は、そのステータスもさることながら、その効果により魔法・罠・効果モンスターには破壊されない。
その壁モンスターとしては理想的な《守護精霊ウルル》の前では、アタッカーである《マックス・ウォリアー》とて届きはしない。

 ……だが俺にはもう、マイフェバリットカードが付いている。

「俺はチューナーモンスター、《チェンジ・シンクロン》を召喚!」

チェンジ・シンクロン
ATK0
DEF0

 俺のデッキにあるチューナーモンスターの一種である、小型のシンクロンがスピード・ウォリアーと並ぶと、ジムはその表情に不敵に笑みをこぼした。

「シンクロ使いか……rareな相手と会えたようだ」

「なら遠慮なく味わっていくんだな。魔法カード《下降潮流》を発動し、《チェンジ・シンクロン》のレベルを3にする! そしてレベル3となった《チェンジ・シンクロン》に、レベル2の《スピード・ウォリアー》をチューニング!」

 通常魔法《下降潮流》でレベル3となった――下降していないが――《チェンジ・シンクロン》が三つの光の輪となって、マイフェバリットカードを包み込んでいった。

「集いし勇気が、仲間を護る思いとなる。光差す道となれ! 来い! 傷だらけの戦士、《スカー・ウォリアー》!」

スカー・ウォリアー
ATK2100
DEF1000

 短剣を武器とした、傷だらけの機械戦士であるスカー・ウォリアーがシンクロ召喚され、その前に半透明の《チェンジ・シンクロン》が浮かび上がった。

「《チェンジ・シンクロン》がシンクロ素材になった時、フィールドのモンスターの表示形式を変更する! 《守護精霊ウルル》を攻撃表示に!」

「shit! 守護精霊ウルルの攻撃力は……」

 守備偏重のステータスである《守護精霊ウルル》の攻撃力は、その代償で0という最低の数値であり、《チェンジ・シンクロン》の効果により攻撃表示を晒す。

「バトル! スカー・ウォリアーで、守護精霊ウルルを攻撃! ブレイブ・ダガー!」

「リバースカード《ガード・ブロック》を発動! 戦闘ダメージを0にし、一枚ドローする!」

 守護精霊ウルルはスカー・ウォリアーの短剣で破壊出来たものの、ジムへのダメージは現れたカードたちによって防がれてしまい、更に一枚のドローも許してしまう。

「くそ、ターンエンドだ」

「dangerousだぜ……俺のターン、ドロー!」

 今破壊した《守護精霊ウルル》は岩石族であるが、壁モンスターとしては汎用性が高いカードである為に、岩石族だからといって【岩石族】デッキとは限らないので、ジムのデッキはまだ何のデッキなのかは分からない。

「俺は《フォッシル・ハンマー》を発動! youのフィールドのレベルが一番高いモンスターを破壊する!」

 ジムの魔法カードが発動されると共に、空中から化石で出来たハンマーのような物が出現すると、スカー・ウォリアーを大地に打ちつけた。

「そして、その破壊したモンスターよりレベルが低いモンスターを、相手の墓地から攻撃表示で特殊召喚する! youの墓地から《スカウティング・ウォリアー》を特殊召喚だ!」

スカウティング・ウォリアー
ATK1000
DEF1000

 スカー・ウォリアーの代償としてか、最初の《手札断殺》で墓地に送っていた、特殊召喚が可能な機械戦士《スカウティング・ウォリアー》が特殊召喚される。
十代の《ネクロイド・シャーマン》の効果と、似たような魔法カードが来たということは、あまり特殊召喚されたのを喜べない状況だが。

「《チェンジ・シンクロン》はチューナーモンスター、《スピード・ウォリアー》はyouのfavoriteモンスター! だからソイツを特殊召喚させてもらった! 《風化戦士》を召喚!」

風化戦士
ATK2000
DEF1200

 スカウティング・ウォリアーを特殊召喚した理由と共に召喚されたのは、身体が風化した化石のようになっている岩石族の戦士……まさかジムのデッキは。

「バトル! 風化戦士でスカウティング・ウォリアーに攻撃だ!」

「リバースカード《くず鉄のかかし》を発動! 風化戦士の攻撃を無効にする!」

 ジムのデッキが何なのか一つ思い当たったが、そんなことを考えるより《風化戦士》の攻撃を防ぐことを優先し、《くず鉄のかかし》が攻撃を止めてセットされた。

「くっ……エンドフェイズ、《風化戦士》の攻撃力は600ポイントダウンする。ターンエンドだ」

「俺のターン、ドロー!」

 ジムのフィールドにいる《風化戦士》は、その名の通りに化石の身体が風化していき、攻撃力を減ずるというデメリットがある。

「俺は《ロード・シンクロン》を召喚!」

ロード・シンクロン
ATK1600
DEF800

 金色のロードローラーを模したチューナーモンスターが登場し、俺のフィールドにいるスカウティング・ウォリアーとチューニングの態勢をとった。

「またチューナーモンスターか!?」

「ああそうさ。レベル4の《スカウティング・ウォリアー》に、自身の効果でレベル2となった《ロード・シンクロン》をチューニング!」

 ロード・シンクロンのデメリット効果によって合計レベルは6となり、二つの光の輪となったロード・シンクロンがスカウティング・ウォリアーを包み込む。

「集いし拳が、道を阻む壁を打ち破る! 光指す道となれ! シンクロ召喚! 現れろ、《マイティ・ウォリアー》!」
マイティ・ウォリアー
ATK2200
DEF2000

 巨大な片腕を持った機械戦士、文字通りに腕自慢の戦士であるシンクロモンスターが大地を叩きつけながら現れる。

「バトル! マイティ・ウォリアーで風化戦士に攻撃! マイティ・ナックル!」

 マイティ・ウォリアーの強靭な腕は、《風化戦士》の風化しつつある身体を易々と吹き飛ばし、その破片はジムの元へとダメージを与えに戻っていく。

ジムLP4000→3200

 更にまだまだマイティ・ウォリアーの攻撃は終わることはなく、マイティ・ウォリアーはその自慢の腕をジムに向けて構えた。

「マイティ・ウォリアーが戦闘で相手モンスターを破壊した時、そのモンスターの攻撃力の半分のダメージを与える! マイティ・ショット!」

 元々の攻撃力が高かろうとデメリット効果によって攻撃力が下がる《風化戦士》は、マイティ・ウォリアーの効果の標的としてはありがたいモンスターだった。
《風化戦士》の破片とともにジムに飛んでいったロケットパンチは、ジムに更なるダメージを与えてマイティ・ウォリアーの元へと帰ってくる。

ジムLP3200→2200

「カードを一枚伏せ、ターンエンド」

「もうライフがhalfか……俺のターン、ドロー!」

 俺のフィールドにはマイティ・ウォリアーとリバースカードが一枚で、ジムのフィールドには何もない……のだが、ジムのデッキが俺が予想している通りならば、まだまだ一筋縄ではいかなそうだ。

「niceなカードだ。魔法カード《化石融合-フォッシル・フュージョン》を発動!」

「やっぱりそうか……!」

 ジムのデッキは予想通り岩石族と除外ギミック、そして専用の融合カードをメインにしたデッキ【化石融合】であり、その効果は他に類を見ない唯一の効果。

「俺はyouの墓地の《スカー・ウォリアー》と、俺の墓地の《風化戦士》を化石融合! 遥かな古代より現れろ、《中生代化石騎士 スカルナイト》!」

中生代化石騎士 スカルナイト
ATK2400
DEF900

 俺の墓地のモンスターとジムの墓地のモンスターを融合するという特徴を持つ化石融合により、スカー・ウォリアーの力を借りた《中生代化石騎士 スカルナイト》が化石融合召喚された。
更に嫌になるところは、融合素材に選ばれたモンスターは除外されるということで、除外ギミックが入っていない自分にはどうしようも無くなってしまう。

「更に二枚の速攻魔法、《サイクロン》and《ハーフ・ライフ》! リバースカードを破壊し、マイティ・ウォリアーの攻撃力をhalfにしてもらうぜ!」

 速攻魔法《ハーフ・シャット》の相互互換カードであり、相手モンスターの攻撃力しか半分に出来ず、戦闘破壊耐性も一回しかその効果を発揮しない。
こう聞くと完全下位互換カードのようでもあるが、どんなカードであろうと何事も使いようである。

 そして同時に発動された《サイクロン》による竜巻で、リバースカードとなった《くず鉄のかかし》を破壊したということは……攻勢に出るということだろう。

「バトル! 中生代化石騎士 スカルナイトでマイティ・ウォリアーに攻撃!」

遊矢LP4000→2700

 化石騎士の名に恥じぬ化石の剣がマイティ・ウォリアーを切り裂くが、ジムの魔法カード《ハーフ・ライフ》の効果によって、攻撃力は半分になったものの一度限りの戦闘破壊耐性を得ている。
よってマイティ・ウォリアーは、そのバトルで破壊こそされなかったが、むしろ破壊してもらった方が幸運だった。

「中生代化石騎士 スカルナイトは、相手フィールドにモンスターがいるならもう一度攻撃が出来る! スカルナイト、second attack!」

「ぐああっ……!」

遊矢LP2700→1400

 《ハーフ・シャット》の難点は、トドメを差しきれなかった場合相手フィールドにモンスターを残してしまうことだが、《ハーフ・ライフ》は一度しか破壊耐性を与えない為に問題はない。

「カードを一枚伏せ、ターンエンド!」

「くっ……俺のターン、ドロー!」

 《中生代化石騎士 スカルナイト》と《《ハーフ・ライフ》のコンボにより、俺にダメージを与えつつマイティ・ウォリアーは破壊されたが、まだまだ終わるわけにはいかない。

「俺は《チューニング・サポーター》を召喚し、魔法カード《機械複製術》を発動! 増殖せよ、チューニング・サポーター!」

チューニング・サポーター
ATK100
DEF300

 中華鍋を逆さにして頭に被ったようなモンスターが、召喚されるや否や《機械複製術》によって増殖し、三体のチューニング・サポーターがフィールドに現れる。

「そんなsmallな機械でどうする気だ?」

「コイツ等だけじゃ何も出来ないな。伏せてあった《リビングデッドの呼び声》を発動し、墓地の《ロード・シンクロン》を特殊召喚!」

 汎用蘇生カードにて再びフィールドに金色のロードローラー、チューナーモンスターである《ロード・シンクロン》が現れたことで、またもやシンクロ召喚をする準備が整った。

「効果でレベル2となった《チューニング・サポーター》二体と、レベル4の《ロード・シンクロン》をチューニング!」

 ロード・シンクロンが本来のレベル4でシンクロ召喚するのは、その本領を発揮出来ている証拠であり、専用のシンクロモンスターがシンクロ召喚される証拠でもある。

「集いし希望が新たな地平へいざなう。光さす道となれ! シンクロ召喚! 駆け抜けろ、《ロード・ウォリアー》!」

ロード・ウォリアー
ATK3000
DEF1500

 シンクロ召喚されたのは、身体が金色に包まれた機械戦士たちの皇、その効果によって更なるシンクロ召喚の呼び水となる。

「チューニング・サポーターは、シンクロ素材になった時一枚ドロー出来る。よって二枚ドロー! 更に《ロード・ウォリアー》の効果発動! デッキからレベル2以下の戦士族・機械族モンスターを特殊召喚出来る! 来い、《ニトロ・シンクロン》!」

ニトロ・シンクロン
ATK300
DEF100

 ロード・ウォリアーの背中から抜き放たれた剣が光を発し、発した光によって作られた道から特殊召喚されたのは、消火器型のチューナーモンスター《ニトロ・シンクロン》。
そして俺のフィールドには、まだシンクロ召喚に使用していない《チューニング・サポーター》がいる。

「まさか……まだシンクロ召喚するのか!?」

「自身の効果でレベル2となった《チューニング・サポーター》と、レベル2の《ニトロ・シンクロン》をチューニング!」

 俺のエクストラデッキのシンクロモンスター、その中でもレベル4モンスターは一体しかおらず、こうなったら後はシンクロ召喚をするだけだ。

「集いし願いが、勝利を掴む腕となる。光差す道となれ! シンクロ召喚! 《アームズ・エイド》!」

アームズ・エイド
ATK1800
DEF1200

 機械戦士たちの補助兵装となる異色のシンクロモンスター、《アームズ・エイド》がシンクロ召喚され、その効果を活かすべくロード・ウォリアーに装備される。

「アームズ・エイドは俺のフィールドのモンスターに装備し、攻撃力を1000ポイントアップさせる! ……バトルだ、ロード・ウォリアーで中生代化石騎士 スカルナイトに攻撃! ライトニング・クロウ!」

「wait! カウンター罠《攻撃の無力化》を発動!」

 ロード・ウォリアー+アームズ・エイドのオーバーキルをも狙えた攻撃は、残念ながら時空の穴に吸い込まれて無力化されてしまい、中生代化石騎士 スカルナイトには届かない。

「……ターンエンドだ」

「俺のターン、ドロー!」

 しかし《アームズ・エイド》を装備したため、4000の攻撃力を誇るロード・ウォリアーならば、そうそう容易く戦闘破壊はされないと思いたいが……

「通常魔法《奇跡の穿孔》を発動し、岩石族モンスターを墓地に送って一枚ドロー! ……更に《貪欲な壺》を発動して二枚ドロー!」

 罠カード《岩投げエリア》の相互互換カードにより一枚ドローした後、更に汎用ドローカードによって二枚のドローを果たす。

「good! まずは《アースクエイク》を発動! ロード・ウォリアーを守備表示に!」

「……しまった!」

 アームズ・エイドが装備されていようと守備力は上がらず、ロード・ウォリアーの守備力は1500とリクルーターを止められる程度と、中生代化石騎士 スカルナイトを止められはしない。
ロード・ウォリアーが破壊されることは覚悟したものの、ジムの行動はまだ終わってはいなかった。

「永続魔法《魔力倹約術》を発動し、《タイム・ストリーム》を発動! 『中生代』と名の付くモンスターを逆進化させる!」

 通常魔法《タイム・ストリーム》――本来、化石融合召喚でしか特殊召喚出来ないモンスターを、対応する新生代・中生代モンスターをエクストラデッキに戻すことで特殊召喚するカード。
【化石融合】の切り札とも言えるカードだが、ライフを半分にするという強大な代償がある……が、《魔力倹約術》の効果によってその代償は無い。

「《中生代化石騎士 スカルナイト》をエクストラデッキに戻し、更なる古代より現れろ! 《古生代化石騎士 スカルキング》!」

古生代化石騎士 スカルキング
ATK2800
DEF1300

 中生代化石騎士 スカルナイトが『逆進化』し、更なる力を得た姿となった《古生代化石騎士 スカルキング》が《アースクエイク》で割れた大地から現れる。
こういった魔法カードは蘇生制限を満たせないのが常だが、ジムの化石融合モンスター達は、最初から融合召喚以外の特殊召喚は不可能だ。

「バトル! 古生代化石騎士 スカルナイトでロード・ウォリアーに攻撃! 古生代に逆進化したスカルナイトは貫通効果を持つ!」

「貫通効果!?」

遊矢LP1400→100

 予想外の《古生代化石騎士 スカルナイト》の貫通効果によるダメージだったが、何とか首の皮一枚繋がった、そう俺に感じさせるライフポイントだけが残った。

「ギリギリremainingか! これでターンエンド!」

「く……俺のターン、ドロー!」

 まさかロード・ウォリアーが破壊されるとは思っていなかったが、そんなことよりはジムのフィールドにいる《古生代化石騎士 スカルナイト》だ。

「どうした、主軸のシンクロモンスターはthe endか?」

「主軸? 悪いが、【機械戦士】の主軸はシンクロじゃない。《戦士の生還》の効果を発動して《スピード・ウォリアー》を手札に戻し、そのまま召喚する!」

『トアアアアッ!』

 シンクロモンスターが主軸でないという俺の言葉と、再びフィールドに舞い戻るマイフェイバリットカードに、ジムは驚きを露わにした。

「シンクロがmainじゃない……?」

「ああ。俺のデッキの主軸は《機械戦士》全員だ! スピード・ウォリアーに装備魔法《バスターランチャー》を発動!」

 俺の前に巨大なビーム砲である《バスターランチャー》が出現し、そこにスピード・ウォリアーが飛び乗って引き金を引ける位置へと移動する。

「バトル! スピード・ウォリアーで古生代化石騎士 スカルナイトに攻撃! バスターランチャー、シュート!」

 攻撃力が2500以上のモンスターとバトルする時、装備モンスターの攻撃力を2500ポイントアップさせる装備魔法《バスターランチャー》は、いつも通りに相手の切り札を撃ち抜いた。

「ぐっ……!」

ジムLP2200→1500

 古生代化石騎士 スカルナイトは胸を貫かれた衝撃か、化石の身体をそのまま四散させ、ジムの方へと降り注いだ。

「カードを二枚伏せ、ターンエンド!」

「俺のターン、ドロー!」

 俺のフィールドには《バスターランチャー》が装備されたスピード・ウォリアーとリバースカードが二枚で、ライフポイントはギリギリ残った僅か100ポイント。
ジムのフィールドには何もいない上に、ライフポイントは1500とそろそろ危険域に入っている。

「やるじゃないか、機械戦士…… bat.これでfinishだ! 《化石融合-フォッシル・フュージョン》を発動!」

 二回目の発動となる化石融合-フォッシル・フュージョンにより、俺の墓地から《ロード・ウォリアー》の化石、ジムの墓地から《古生代化石騎士 スカルナイト》の化石が現れる。
墓地から現れた二体の化石と、スピード・ウォリアーに破壊された《古生代化石騎士 スカルナイト》の化石が融合していき、徐々に恐竜型の化石モンスターの姿を形成していく。

「化石融合! 《古生代化石竜 スカルギオス》!」

古生代化石竜 スカルギオス
ATK3500
DEF0

 そうして化石融合召喚が完成していき、ジムのフィールドに剣山が見たら怒り出しそうな、巨大な竜の化石が出来上がる。
攻撃力3500という破格の数値を誇る化石モンスターで、バスターランチャーを加味したスピード・ウォリアーの攻撃力でも3400と及ばず、そして俺の残りライフポイントは100ポイントと、まるで計ったかのようにジャストギルとなる。

「バトル! スカルギオスでスピード・ウォリアーに攻撃!」

「だが返り討ちにさせてもらう! リバースカード《ミニチュアライズ》を発動! スカルギオスの攻撃力を1000ポイント下げさせてもらう!」

 スカルギオスの身体が小さくなると共に攻撃力が2500ポイントとなり、それでもまだ《バスターランチャー》の適用攻撃力のため、スピード・ウォリアーの攻撃力は3400となる。

「迎撃しろ、スピード・ウォリアー! バスターランチャー、シュート!」

 切り札とも言えるカードであろうカード、スカルギオスが迎撃されるという状況であるのに、ジムの表情から余裕の表情は消えなかった。

「ならば、こちらも《古生代化石竜 スカルギオス》の効果を発動! 相手モンスターを攻撃する時、相手モンスターの攻撃力と守備力を入れ替える!」

「なに!?」

 スピード・ウォリアーの守備力は僅か400で、バスターランチャーの効果適応は攻撃力のみ……よって、最終的にスカルギオスの攻撃力は2500、スピード・ウォリアーの攻撃力は400……!

 バスターランチャーのビーム砲は消えていき、スピード・ウォリアーはスカルギオスに噛み砕かれてしまうものの……俺へのダメージは無数のカードが防ぎきっていた。

「伏せてあった《ガード・ブロック》を発動していた! 戦闘ダメージを0にして一枚ドローする!」

 伏せてあった《ガード・ブロック》のおかげで、何とかゲームエンドになることは防ぐことが出来たが、マイフェイバリットカードは破壊されてしまうという結果に終わった。

「finishにはまだ早かったか……モンスターをセットし、ターンエンド!」

「俺のターン、ドロー! ……《マジック・プランター》を発動し、《ミニチュアライズ》を墓地に送って二枚ドロー!」

 スカルギオスの攻撃力は元々の3500に戻ってしまうが、このまま《ミニチュアライズ》を残していても、今の俺の手札ではどちらにせよスカルギオスを破壊は出来ない。

「……俺は《レスキュー・ウォリアー》を守備表示で召喚する」

レスキュー・ウォリアー
ATK1600
DEF1700

 ならば《マジック・プランター》で二枚のドローに変換し、逆転のカードに賭けたのだが……残念ながら、スカルギオスを破壊出来るカードはドロー出来なかった。

「カードを一枚伏せ、ターンエンド」

「俺のターン、ドロー! ……セットモンスターをreverse!」

 先のターン、メインフェイズ2に伏せられていたセットモンスターが反転召喚され、その姿をフィールドにさらけ出す……《メタモルポット》だ。

メタモルポット
ATK700
DEF600

 《メタモルポット》の特徴たるそのリバース効果が発動し、お互いに手札を全て捨てて新たに五枚ドローすると、ジムは更なる追撃に出た。

「メタモルポットをリリースし、《地帝グランマーグ》をアドバンス召喚する!」

地帝グランマーグ
ATK2400
DEF1000

 アドバンス召喚されたのは揺るぎない大地の帝《地帝グランマーグ》であり、その効果のお誂え向きとばかりに、俺のフィールドにはカードが一枚セットしてあった。

「地帝グランマーグがアドバンス召喚された時、セットカードを破壊する!」

 天空から降り注ぐ岩雪崩に俺の伏せていたカード――《奇跡の残照》――が破壊されてしまい、もはや俺を守るのは《レスキュー・ウォリアー》のみとなった。

「バトル! まずは《地帝グランマーグ》で攻撃する! バスター・ロック!」

 またも天空に発生した岩雪崩がレスキュー・ウォリアーを襲い、レスキュー・ウォリアーにその攻撃を防ぐ術は無かったものの、盾を持った機械戦士が全ての岩雪崩を防ぎきった。

「墓地の《シールド・ウォリアー》を除外することで、一度だけ破壊を無効にする!」

 《メタモルポット》の効果で墓地に落ちていた《シールド・ウォリアー》がレスキュー・ウォリアーを守った為、一度は破壊を免れたものの、まだジムのフィールドには巨大なモンスターが控えている。

「ならば、古生代化石竜 スカルギオスで攻撃! スカルギオスは貫通効果を持ってるから、守備表示でもmeaninglessだぜ!」

「こっちもレスキュー・ウォリアーの効果! レスキュー・ウォリアーのバトルで、俺は戦闘ダメージを受けない!」

 レスキュー・ウォリアーは、スピード・ウォリアーと同じようにスカルギオスに破壊されてしまうものの、その遺した水流のバリアが俺の戦闘ダメージを防ぐ。

「……カードを一枚伏せ、ターンエンド!」

「俺のターン、ドロー!」

 《レスキュー・ウォリアー》と《シールド・ウォリアー》の効果で何とか耐え抜き、《メタモルポット》のおかげで手札も潤沢……攻勢に出れる。

「俺は《ドドドウォリアー》を召喚してリリースし、《ターレット・ウォリアー》を特殊召喚!」

ターレット・ウォリアー
ATK1200
DEF2000

 リリースした仲間の力を受け継ぐ機械戦士は、通常召喚出来る中で最強の機械戦士であるドドドウォリアーをリリースしたことにより、その攻撃力はスカルギオスと並ぶ3500。

「そして装備魔法《ニトロユニット》を地帝グランマーグに装備し、バトル!」

 地帝グランマーグの身体に大きく爆弾が取り付けられ、地帝グランマーグが破壊されると共に誘爆するそれに、ターレット・ウォリアーの銃口は狙いをつける。

「ターレット・ウォリアーで地帝グランマーグを攻撃! リボルビング・ショット!」

「リバースカード、オープン! 《移り気な仕立て屋》! equipmentされた《ニトロユニット》を、スカルギオスにequipmentする!」

 まさかの装備魔法《ニトロユニット》の対象変更という防御手段に俺は対応出来ず、ターレット・ウォリアーは地帝グランマーグを撃ち抜いたものの、《ニトロユニット》を誘爆させることは出来なかった。

「……がっ!」

ジムLP1500→400

 ジムのライフポイントも400という危険域に入ったものの、トドメを差しきるつもりだった為に失敗と言って何ら差し支えはないだろう。

 ……しかも俺の手札には、次なるターンのスカルギオスの攻撃を防ぐ手段がないのだから。

「……ターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 俺のフィールドには、攻撃力3500の《ターレット・ウォリアー》のみでリバースカードはなく、ライフポイントは一握りの100ポイント。
対するジムのフィールドには、同じく3500の攻撃力を誇る《古生代化石竜 スカルギオス》のみで、ライフポイントは400ポイント。

 一見拮抗しているように見える――事実拮抗しているのだけれど――スカルギオスの効果には、ターレット・ウォリアーでも太刀打ちすることは出来ず、攻撃を防ぐ手段もリバースカードもない。

「今度こそfinishだ、バトル! スカルギオスでターレット・ウォリアーに攻撃!」

 ターレット・ウォリアーとスカルギオスの攻撃力は同じ3500であるが、スピード・ウォリアーがやられたように、スカルギオスには攻撃力と守備力を入れ替える効果がある。

 当然のことながらスカルギオスはその効果を発動し、ターレット・ウォリアーをその化石で出来た牙で噛み砕かんとした時――

 ――一体の機械戦士がターレット・ウォリアーに力を与えていた。

「手札から《牙城のガーディアン》の効果! このモンスターを手札から捨てることで、指定したモンスターの守備力は1500ポイントアップする! ……よって、お前が入れ替えるターレット・ウォリアーの守備力は3500!」

「what!?」

 これで攻撃力と守備力が入れ替えられようとも、ターレット・ウォリアーの攻撃力は3500のままでスカルギオスとバトルすることになる……守備力と攻撃力を入れ替える効果は、確かに変則的で防げないが、相討ちにすることぐらい出来る……!

「……迎え撃て、ターレット・ウォリアー!」

 スカルギオスの巨大な牙は《牙城のガーディアン》が防いでいたが、直に防ぎきれずにターレット・ウォリアーを破壊しだすが、その隙をついてターレット・ウォリアーは一点を攻撃した。
その一点とは、《地帝グランマーグ》の身代わりに装備された《ニトロユニット》のことであり、その一点のみを狙った砲撃が《ニトロユニット》を貫いた。

 ……そうだ、相討ちでも全く構いはしない。

 ターレット・ウォリアーと牙城のガーディアンが、スカルギオスに噛み砕かれるのと同時に《ニトロユニット》に砲撃が直撃し、巨大な爆発はジムをも飲み込んだ……!

「ぐあああっ……!」

ジムLP400→0

 《ターレット・ウォリアー》と《牙城のガーディアン》、そして《ニトロユニット》のバーンダメージにより、何とかジムとのデュエルに辛勝する。
しかし、流石に本校に留学生として来るだけはある実力者ということか、ここまで追い込まれるとは思わなかった。

「【機械戦士】……その本当のmainはシンクロじゃなく、カードたちのunity、ってことか……負けたぜ……」

「いや、危なかったぜ」

 ワニを背負いながらうなだれるカウボーイ風の男、というとてつもなくシュールな図を見かねて声をかけるや否や、ジムは勢い良く立ち上がった。

「そっちの……明日香、だったか? も同じぐらい強いのかい?」

「遊矢ほどじゃないけど、やれるつもりよ」

 いきなり会話の矢面に立たされたにもかかわらず、腕組みしながら自信たっぷりに言えるところは、流石はオベリスク・ブルーの女王……

「遊矢、何か変なこと考えてない?」

 微笑みながら睨むという、器用なことをやってのける明日香から目をそらしていると、ジムの台詞が始まったので事なきを得たようだ。

「これが本校のオベリスク・ブルーの男子と女子か……この留学、楽しめそうだ。good-bye.エンジョイボーイにトゥモローガール!」

 そう言いながら、ジムはワニのカレンを背負いながら、森をものともせずに本校へと走っていった。

「エンジョイボーイ……?」

「トゥモローガール……?」

 それが俺と明日香の名前をモチーフにした、ジムなりのジョークを含んだ愛称だと気づいたのは、ジムが本校に走りだした理由……始業式がもう少しで始まるのを思い出し、明日香と二人してジムを倣って走りだした。

 
 

 
後書き
始業式前、まずはジムとのデュエルからとなりました。

しかし話し方、こんな感じで良いのかな……

感想・アドバイス待ってます。 
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