| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

遊戯王GX-音速の機械戦士-

作者:蓮夜
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

―始業式―

『――新入生代表、早乙女レイ』

 明日香とともに始業式に駆け込むと、何とか新入生代表挨拶には間に合って……ないか、もう終わってしまったらしい。
ジェネックスの成績を認められた為に、高等部へ編入となったレイの代表挨拶を見ていてくれ、とレイには言われていたのだが……後でお小言確定だな、これは。

 本来ならば始業式はこれで終わりなのだが、鮫島校長先生が壇上にマイクを持って立ったことにより、生徒たちが『まだ何かあるのか』とうんざりした様子を漂わせる。
このタイミングでの発表ということは、ジムを始めとする――一人ということは無いだろう――留学生たちの発表なのだろう。

 鮫島校長の説明とともに、分校チャンプであるらしい留学生たちが、そのどれも特徴的な姿を本校の生徒たちの前に現した――約一名は遅刻しながらの到着であり、十代と何やら一悶着あったが。

 もはや説明不要というか、始業式の前にデュエルした男、サウス校代表であるジム・クロコダイル・クック。

 一礼しただけで隙を見せぬ黒人の巨漢で、軍人のような雰囲気を漂わせる、ウエスト校代表であるオースチン・オブライエン。

 眼鏡をかけた一番知性が感じられる好青年、といった印象のイースト校代表であるアモン・ガラム。

 そして遅刻して十代と一悶着あり、伝説の【宝玉獣】デッキを持つという、アークティック校代表であるヨハン・アンデルセン。

 何故かノース校からは留学生が来ていないのだが、どうやらノース校は万丈目を代表として扱っているらしく、現チャンプを送る気はないそうだ。
万丈目は確かにノース校のチャンプになったことはあるが、そもそも本校の生徒である筈なのだが……

 そして留学生とは扱いが違うものの、ウエスト校から特別講師としてやってきたという、オブライエンを超える巨漢であるプロフェッサー・コブラ。
コブラ先生は、紹介されるや否や鮫島校長からマイクを奪い取り、そのまま自らでマイクパフォーマンスを始めた。

「我が校の教育方針は『実戦あるのみ』。それで常に成果を示して来た。――よってその教育方針に従い、今すぐ本校の生徒と留学生のデュエルを行う!」

 プロフェッサー・コブラがそう宣言した瞬間、本校の生徒どころか留学生、そして先生方にもざわめきが広がっているところを見ると、これはプロフェッサー・コブラの独断のようだ。
クロノス教諭とナポレオン教頭のコンビが騒いでいるが、プロフェッサー・コブラは特にそれを意に介さず、マイクでデュエルする生徒を宣言した。

「留学生からはアークティック校代表、ヨハン・アンデルセン! 本校からはオシリス・レッド、遊城十代!」

 『何故十代なんだぁぁぁぁ!』などというノース校代表(仮)の声が聞こえるが、確かに何故十代が選ばれたのかは気になるところだ……確かに、実技の成績は飛び抜けているが。

「準備の時間は必要ない。今から開始する!」

 しかし、プロフェッサー・コブラから基準が説明されることはなく、そのまま生徒たちはデュエル場へと移動させられることになった。
まあせっかくだから、宇宙から来たヒーローVS伝説の宝玉獣という、夢のドリームマッチを楽しむのは悪くないのだが。

「……君が遊矢くんかい?」

 デュエル場へと続く道を歩いていると、後ろから聞き覚えのない声に呼び止められ、振り向くとイースト校代表――アモン・ガラムがそこにはいた。

「……アモン・ガラム?」

「ああ、アモンで良いよ。君のことは、ジムから聞かせてもらった」

 その知性的な外見に似合って、理知的な話し方をするアモンだったが、その視線は何か目的があることを俺に示していた。
ジムから俺の話を聞いたとは言ったが、アモンの他の留学生たちの姿は見当たらず、どうやらここにはアモン単独で来たようだ。

「君の腕前をジムから聞いてね。少し、僕とデュエルしてくれませんか?」

「デュエル? それなら構わないが……今は十代とヨハンのデュエルが始まるだろう?」

 むしろイースト校の代表とデュエル出来るなど、こちらからお願いしたいところではあるけれど、今から始まる十代とヨハンのデュエルも見たいのも確かだ。

「なに、今から始まる伝説のデュエルのデモンストレーションとすれば、皆さんも納得してくれるでしょう」

 アモンはそう言い放つとデュエル場へと歩いていき、観客となっている生徒たちの前に姿を現すと、どこからかマイクを出して喋り始めた。

「皆様すいません。伝説となるデッキ同士のデュエルが開始される前に、少し、デモンストレーションを行いたいと思います」

 アモンが突如として言いだしたその言葉に、観客の生徒たちはざわめきが広がっていき、俺にはどんどんと身体全体に冷や汗が広がっていく。

「僕と本校生徒のデュエル。伝説同士のデュエルには及ばないでしょうが、どちらも皆様を楽しませる実力はあると自負しています」

 アモンは全校生徒にそう宣言しながら、横目で俺に来るように示しているようだが……アモンがここまで言ってしまったので、もはや俺に逃れる術はないだろう。

「……何考えてるんだ……?」

 アモンが何を考えているかはさっぱり解らないが、逃げる術がないことだけは確かであり、観念してデュエル場へと出ると、少なからず野次と歓声が湧いた。
十代や三沢には適わないものの、俺とてこの学園での実力者だと自負しているのだから、このままアモンにナメられている訳にはいくまい。

「来てくれると思っていましたよ」

「……お前が何考えてるかは解らないが、何にせよデュエルで負ける気はない」

 プロフェッサー・コブラと十代にヨハンがデュエル場に入ってきたのを傍目で見たが、もはやデュエルが始まるのは止められないようで、ただ俺とアモンのデュエルを見るしか出来ないようだった。

『デュエル!』

遊矢LP4000
アモンLP4000

「僕のターン、ドロー」

 デュエルディスクが先攻を選んだのはアモンの方で、俺はアモンのデッキを観察する時間が出来たことに感謝する。

「僕は《雲魔物-羊雲》を守備表示で召喚!」

雲魔物-羊雲
ATK0
DEF0

「【雲魔物】、か……」

 低いステータスと多くの雲魔物にある自壊デメリットの代償に、様々なトリッキーな効果による変幻自在の戦術を見せる、まさに雲のようなカテゴリーとでも言うべきか。

 アモンの外見のイメージからすれば、デッキは【機械族】かと思っていたのだが……剣山の【恐竜族】の時のように、見た目だけで判断出来る方が珍しいか。

「僕はカードを一枚伏せてターンエンド」

「楽しんで勝たせてもらうぜ! 俺のターン、ドロー!」

 《雲魔物》は守備表示にしていたら自壊すると思っていたが、アモンのフィールドにある《雲魔物-羊雲》は守備表示。
例外的な雲魔物であることは間違いないが、俺がやるべきことはいつもと変わらない。

「俺は《マックス・ウォリアー》を召喚!」

マックス・ウォリアー
ATK1800
DEF800

 俺のデッキにおけるアタッカーの登場にも、アモンは表情一つ変えてこない……ということは、やはりアモンはジムから俺のデッキのことまで聞いているか。
しかしあのジムのことだ、俺のデッキの中身までペラペラ喋るようなキャラだとは思えないので、喋るにしても【機械戦士】であるということだけだろう。

「バトル! マックス・ウォリアーで雲魔物-羊雲に攻撃! スイフト・ラッシュ!」

 アタッカーによる三段突きが雲魔物-羊雲を捉えるが、守備表示なのでアモンにはダメージが無い上に、アモンのフィールドには二体の雲魔物が増えていた。

「雲魔物-羊雲は破壊された時、二体の《雲魔物トークン》を特殊召喚する」

 結果的にマックス・ウォリアーの攻撃は、アモンのフィールドに守備表示の雲魔物トークンを二体特殊召喚するという、あまり芳しくない結果に終わったようだ。

「マックス・ウォリアーのレベル・攻守は半分になる……カードを一枚伏せてターンエンドだ」

「僕のターン、ドロー!」

 続いてアモンのターンだが、あの二体の貧弱なトークンで何をするつもりなのだろうか……?

「僕は再び《雲魔物-羊雲》を召喚」

 最初のターンと同じように召喚された雲魔物-羊雲だが、初手と大きく異なる点は、その雲魔物-羊雲が攻撃表示であること。
あのステータスで攻撃表示とは、自爆特攻をしてトークンを特殊召喚するにしては、ライフに被害が多すぎる。

「バトル! 雲魔物-羊雲でマックス・ウォリアーに攻撃!」

 アモンは、マックス・ウォリアーの半減した800程度ならば問題ないと判断したのか、そのまま雲魔物-羊雲を自爆特攻させてくる。
当然マックス・ウォリアーは返り討ちにするが、アモンへのダメージはバリアのようなものに吸収されていた。

「戦闘時、伏せてあった《スピリットバリア》を発動し、戦闘ダメージを0に! そして《雲魔物-羊雲》が破壊されたため《雲魔物トークン》を二体守備表示で特殊召喚する」

 初手に伏せてあったあのリバースカード、アレは【雲魔物】の必須だという《スピリットバリア》だったらしく、俺はモンスターがいる限り戦闘ダメージを与えられない。

「メインフェイズ2、永続魔法《宝札雲》を発動! 雲魔物を二体召喚したターン、エンドフェイズに僕は二枚ドローする。二枚ドローし、ターンエンド」

「……俺のターン、ドロー!」

 四体の《雲魔物トークン》と《スピリットバリア》で守備を固めつつ、《宝札雲》による二枚ドローで手札を溜めていく……アモンが何を狙っているかは解らないが、とにかく良い感じはしない。

「俺は《レスキュー・ウォリアー》を召喚!」

レスキュー・ウォリアー
ATK1600
DEF1700

 一刻も早く《雲魔物トークン》の防壁を突破したいところではあるが、残念ながら今の手札で出来ることは、《レスキュー・ウォリアー》を召喚するだけだ。

「バトル! マックス・ウォリアーとレスキュー・ウォリアーで、それぞれ雲魔物トークンに攻撃!」

 リバースカードが無いアモンには防ぐ手段もなく、そして防ぐ気もないようで、雲魔物トークンの数は一気に半分に減じた。

 そして相手モンスターを破壊したマックス・ウォリアーも、破壊したのはトークンの為にデメリット効果は発生しない。

「ターンエンドだ」

「僕のターン、ドロー!」

 今までのターンは不気味な沈黙を見せてきたアモンだが、手札もフィールドも潤沢なのだから、そろそろ攻めに転じてきてもおかしくないと思うが……

「僕は《雲魔物-タービュランス》を召喚!」

雲魔物-タービュランス
ATK800
DEF0

 周囲の雲を飲み込まんとする雲魔物が現れると、実際にはその体内から三つの小さな雲が出現し、雲魔物-タービュランスに纏わりついた。
スタンダードな《雲魔物》が持っている効果の一つで、召喚した際にの効果の触媒となる、《フォッグカウンター》を自身に乗せる能力である。

「タービュランスは自身に乗ったフォッグカウンターを一つ取り除くことで、デッキから《雲魔物-スモークボール》を特殊召喚出来る。二つのフォッグカウンターを取り除き、スモークボールを二体、守備表示で特殊召喚!」

雲魔物-スモークボール
ATK200
DEF600

 デッキから特殊召喚された新たな雲魔物自体は脅威ではないものの、アモンのフィールドには五体の雲魔物が埋まっており、二体召喚したことによって《宝札雲》の発動が決定する。

「そして装備魔法《団結の力》をタービュランスに装備し、攻撃力は4800となる!」

「くっ……!」

 俺も愛用してるが故に馴染み深いその装備魔法により、他の雲魔物からタービュランスへと力が終結していくと、タービュランスは他とは比べられない程巨大な雲となる。

 トリッキーな効果とその展開力、そして攻勢に出た際のこの攻撃力……これが【雲魔物】デッキの恐ろしさと言っても過言ではない。

「バトル! タービュランスでマックス・ウォリアーに攻撃!」

「リバースカード、オープン! 《ガード・ブロック》! 戦闘ダメージを0にし、一枚ドロー!」

 マックス・ウォリアーは破壊されてしまったが、俺へのダメージは無数のカード達が防いでくれて事なきを得たものの、タービュランスの圧倒的な攻撃力はそのままだ。

「メインフェイズ2、更に永続魔法《雲魔物のスコール》を発動し、《宝札雲》により二枚ドローしてターンを終了する」

「俺のターン、ドロー!」

 新たに発動された永続魔法《雲魔物のスコール》は、アモンのスタンバイフェイズにフィールドにいるモンスターに《フォッグカウンター》を乗せるというもので、いつまでも放っておけばフィールドがフォッグカウンターだらけになってしまうだろう。

 しかし《雲魔物のスコール》より前に、俺のフィールドにはレスキュー・ウォリアーのみだが、アモンのフィールドは魔法・罠ゾーン一つ以外全て埋まっているという、この絶望的なまでの差をどうにかしなければ。

 アモンのフィールドには《団結の力》を装備して攻撃力4800の《雲魔物-タービュランス》を初めとして、《雲魔物トークン》が二体に《雲魔物-スモークボール》が二体ずつ。
そして魔法・罠ゾーンには、戦闘ダメージを無効にする《スピリットバリア》と攻撃力4800を与える《団結の力》、ドローソースの《宝札雲》にフォッグカウンターを与える《雲魔物のスコール》が控えている。

 タービュランスは《団結の力》により攻撃力4800を誇り、《団結の力》を破壊してもタービュランスは戦闘では破壊されず、《スピリットバリア》にて戦闘ダメージは発生しない。

 ならばタービュランス以外の雲魔物を狙って攻撃力を下げようにも、次なるターンで《雲魔物のスコール》によるフォッグカウンターで再び特殊召喚され、《宝札雲》で二枚ドローされるだけだ。

「……こういう状況を一枚のカードで突破するのが、デュエルモンスターズの面白いところだな。俺はチューナーモンスター、《チェンジ・シンクロン》を召喚!」

チェンジ・シンクロン
ATK0
DEF0

 先のジム戦でも活躍したチューナーモンスターの登場に、アモンもシンクロという想定外のモンスターが出て来ることに顔を歪めた。

「チューナーモンスター……シンクロ召喚か!?」

「正解だ! レベル4の《レスキュー・ウォリアー》に、レベル1の《チェンジ・シンクロン》をチューニング!」

 レスキュー・ウォリアーの周りをチェンジ・シンクロンが変化した光の輪が包み込むと、シンクロ召喚するべくレスキュー・ウォリアーも四つの光の球となった後、一際大きな光を発した。

「集いし勇気が、仲間を護る思いとなる。光差す道となれ! 来い! 傷だらけの戦士、《スカー・ウォリアー》!」

スカー・ウォリアー
ATK2100
DEF1000

 シンクロ召喚される傷だらけの機械戦士……そのステータスは外見とレベルの通りあまり高くはないが、雲魔物たちは圧倒している上に何よりも重要なのは、シンクロ召喚に使用したチェンジ・シンクロンの方だ。

「チェンジ・シンクロンがシンクロ素材となった時、フィールドのモンスターの表示形式を変更する! タービュランスを守備表示に!」

「しまった……!」

 雲魔物は戦闘破壊耐性の代償として、『守備表示になれば自壊する』という重いデメリットがついていて、低いステータスと併せて使いづらいと言われる所以である。
《チェンジ・シンクロン》によって突いたのはその弱点であり、その圧倒的な攻撃力が嘘のように、タービュランスはあっさりと《団結の力》ごと自壊する。

「バトル! スカー・ウォリアーでスモークボールを攻撃! ブレイブ・ダガー!」

 スモークボールではスカー・ウォリアーの攻撃は防げず、守備表示の為アモンにはダメージを通さないだけで精一杯のようだ。

「これでターンエンドだ!」

「やはりなかなかやる……僕のターン、ドロー!」

 攻撃力4800のタービュランスは破壊したが、《チェンジ・シンクロン》ではタービュランスを破壊するのが限度であり、まだまだアモンのフィールドは潤沢のままだ。

「《雲魔物のスコール》により、フィールドのモンスターは全てフォッグカウンターが乗る。更に《雲魔物-スモークボール》をリリースし、《雲魔物-ニンバスマン》をアドバンス召喚!」

雲魔物-ニンバスマン
ATK1000
DEF1000

 基本的に小柄であった今までの雲魔物たちとは異なり、ずんぐりとした見た目の雲魔物-ニンバスマンがアドバンス召喚されると、二体の《雲魔物トークン》がニンバスマンに吸収されていった。

「ニンバスマンは、アドバンス召喚の時に好きな数水属性モンスターをリリースでき、リリースした数だけこのモンスターにフォッグカウンターを乗せる! ダウンパワーシャワー!」

 リリースした二体の《雲魔物トークン》の分、フォッグカウンターがニンバスマンの周囲に浮くが、ニンバスマンはどのようにフォッグカウンターを使うのか。

「そしてニンバスマンは、フィールドのフォッグカウンターの数だけ攻撃力が500ポイントアップする。よってニンバスマンの攻撃力は、2500ポイント!」

 ニンバスマンに乗っているカウンターが二つ、スカー・ウォリアーに乗っているカウンター一つ……よってニンバスマンの攻撃力は、アモンが言う通り2500ポイント。
タービュランスの4800よりはインパクトが小さいが、ニンバスマンは《雲魔物のスコール》によって、アモンのスタンバイフェイズごとに攻撃力を上げる。

「バトル! ニンバスマンでスカー・ウォリアーに攻撃!」

「だが、スカー・ウォリアーは一度だけ戦闘では破壊されない!」

遊矢LP4000→3600

 不退転の戦士という別名を持つスカー・ウォリアーは、その名の通り一度の戦闘で破壊されるようなことはなく、ニンバスマンの攻撃に耐える。

「カードを二枚伏せ、ターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 俺のフィールドにはスカー・ウォリアーしかおらず、アモンのフィールドには攻撃力2500ポイントのニンバスマンに、リバースカードが二枚と《宝札雲》・《スピリットバリア》・《雲魔物のスコール》。

 ニンバスマンも早く破壊したいところではあるが、アモンの戦術を支えるあの三枚のカードも厄介なことこの上なく、あれだけ展開しているのにアモンの手札はまだある。

「俺はチューナーモンスター《ニトロ・シンクロン》を召喚!」

ニトロ・シンクロン
ATK300
DEF100

 消火器のような形をしたチューナーモンスターを召喚し、二体のモンスターにシンクロ召喚をとらせる。

「レベル5の《スカー・ウォリアー》に、レベル2の《ニトロ・シンクロン》をチューニング!」

 スカー・ウォリアーとニトロ・シンクロンが力を併せてチューニングし、シンクロ召喚するのは相手モンスターが雲だろうと焼き尽くす、機械戦士で最も高火力を誇るシンクロモンスター……!

「集いし思いがここに新たな力となる。光さす道となれ! シンクロ召喚! 燃え上がれ、《ニトロ・ウォリアー》!」
ニトロ・ウォリアー
ATK2800
DEF1000

 悪魔のような形相をした緑色の機械戦士がシンクロ召喚され、背後で炎が燃え盛っていくと雲魔物-ニンバスマンを睨みつけた。

「ニトロ・シンクロンがシンクロ素材になった時、一枚ドロー……そしてバトル! ニトロ・ウォリアーでニンバスマンに攻撃! ダイナマイト・ナックル!」

 ニトロ・ウォリアーはシンクロ召喚されるや否や、即座にニンバスマンを殴りに行ったものの、アモンに近づくにつれてその身体が小さくなっていく……!

「伏せてあった速攻魔法《収縮》を発動! ニトロ・ウォリアーの攻撃力を半分にしてもらう」

 だがニトロ・ウォリアーの攻撃力が半分になる代わりに、ニンバスマンの前には神々しく光る聖杯が掲げられていた。

「こっちも速攻魔法《禁じられた聖杯》を発動し、ニンバスマンの攻撃力を400ポイントアップさせる代わりに、その効果を無効にする!」

「くっ、相打ちか……」

 どちらの魔法カードの効果処理が完了した光景を見て、アモンがふとそう呟いたが、まだ俺のモンスターの効果処理は終わっていない。

「それはどうかな?」

 まずアモンの《収縮》によってニトロ・ウォリアーの攻撃力は半分になったが、《禁じられた聖杯》によってニンバスマンの効果は無効になって攻撃力は1400ポイントとなり、ニトロ・ウォリアーは自身の効果で攻撃力は2400ポイントとなる。

「改めてニトロ・ウォリアー、ダイナマイト・ナックル!」

 シンクロ召喚する前の俺の見込み通り、相手が雲だろうとニトロ・ウォリアーは素手でニンバスマンを攻撃し、その熱量でニンバスマンを溶かし尽くした。

 《禁じられた聖杯》のおかげで戦闘破壊には成功したが、アモンの《スピリットバリア》のせいでアモンにはダメージは通らない。

「これでターンエンドだ!」

「僕のターン、ドロー!」

 アモンのターンのスタンバイフェイズ、《雲魔物のスコール》でフィールドに雨が降ると、俺のニトロ・ウォリアーへとフォッグカウンターが乗った。

「そして《雲魔物-ゴースト・フォッグ》を召喚!」

雲魔物-ゴースト・フォッグ
ATK0
DEF0

 新たに召喚された雲魔物は、ゴーストの名の通り雲というより幽霊のような外見で、イメージ通りにニトロ・ウォリアーへと纏わりついていた。

「更に《リミット・リバース》を発動し、《雲魔物-ニンバスマン》を特殊召喚」

 先のターンにてニトロ・ウォリアーに破壊されたニンバスマンだったが、早くも墓地から蘇生されたものの、フィールドのフォッグカウンターは一つのため攻撃力は僅か1500。

「バトル。雲魔物-ゴースト・フォッグでニトロ・ウォリアーに攻撃、クライシスクリープ!」

「また攻撃力0で攻撃か……!」

 もちろん攻撃力0のゴースト・フォッグでは、ニトロ・ウォリアーにはまるで適わず破壊されたが、問題はそういうことではない。

 《雲魔物-羊雲》の時と同じく攻撃力0での自爆特攻で、ニンバスマンを特殊召喚したということは、ゴースト・フォッグの効果は攻撃力を下げる効果、もしくは……

「ゴースト・フォッグが破壊された時、破壊した相手モンスターのレベル分フォッグカウンターをモンスターに残す。よって、ニンバスマンにフォッグカウンターを7つ乗せる!」

「……フォッグカウンターの方か!」

 ニトロ・ウォリアーの攻撃力を下げる方が良かったのだが、破壊されたゴースト・フォッグの破片がニンバスマンに纏わりつき、七つのフォッグカウンターとしてフィールドに残り続ける。

 今のフィールドにあるフォッグカウンターは、《雲魔物のスコール》によってニトロ・ウォリアーに一つ、ゴースト・フォッグの効果によってニンバスマンに七つ。
合計八つのフォッグカウンターの存在によって、ニンバスマンの攻撃力はその効果も含めて5000……!

「バトル! ニンバスマンでニトロ・ウォリアーに攻撃!」

「ぐあああっ……!」

遊矢LP3600→1400

 フォッグカウンターのありすぎで肥大化したニンバスマンには、さしものニトロ・ウォリアーでも抵抗することすら出来ず、容易く破壊されて俺に大ダメージを与える。

「僕はターンエンド」

「くっ……俺のターン、ドロー!」

 ニトロ・ウォリアーを破壊したことによりフォッグカウンターが一つ消え、ニンバスマンの攻撃力は4500となったが、まさに焼け石に水といったところか。

「速攻魔法《手札断殺》を発動し、お互いに二枚捨てて二枚ドロー!」

 手札交換カードによって墓地に送ったカードで、反撃の狼煙を上げるように、フィールドに旋風を巻き起こしてもらうとしよう。

「墓地に送ったのは《リミッター・ブレイク》! デッキ・手札・墓地から《スピード・ウォリアー》を特殊召喚する! 来い、マイフェイバリット!」

『トアアアアッ!』

スピード・ウォリアー
ATK900
DEF400

 墓地の《リミッター・ブレイク》により特殊召喚された、反撃の狼煙ことマイフェイバリットカードだったが、今回は新たな機械戦士に繋いでもらおう。

「スピード・ウォリアーをリリースし、《サルベージ・ウォリアー》をアドバンス召喚!」

サルベージ・ウォリアー
ATK1900
DEF1500

 上級モンスターではあるがニンバスマンと殴り合えるモンスターではなく、真髄はその網によって墓地からチューナーモンスターを釣り上げることにある。

「サルベージ・ウォリアーがアドバンス召喚に成功した時、手札か墓地からチューナーモンスターを特殊召喚出来る! 墓地から《ニトロ・シンクロン》を特殊召喚!」

「またシンクロ召喚か……」

 そう呟くアモンの口調からは、俺のシンクロ召喚にうんざりしているという訳ではなく、ましてや十代のように次にどんなシンクロモンスターが来るかワクワクしているという訳でもない。
ただただフィールドを冷静に観察しているのみと、俺が今までデュエルした者たちとは、三沢や神楽坂といった人物を連想させた。

「レベル5の《サルベージ・ウォリアー》に、レベル2の《ニトロ・シンクロン》をチューニング!」

 ニトロ・ウォリアーに引き続きレベル7のシンクロモンスターの登場に、ニトロ・シンクロンの頭の上にあるメーターがリミッターを超え、シンクロモンスターのラッキーカードを召喚する準備が整う。

「集いし願いが新たに輝く星となる。光さす道となれ! シンクロ召喚! 現れろ、《パワー・ツール・ドラゴン》!」

パワー・ツール・ドラゴン
ATK2300
DEF2500

 更なるシンクロ召喚が行われたのは黄色のボディを持つラッキーカード、《パワー・ツール・ドラゴン》の出番であり、その鋼鉄の身体から内部にいるドラゴンが嘶いた。

「パワー・ツール・ドラゴンの効果を発動! デッキから三枚の装備カードを裏側で見せ、相手が選んだカードを手札に加える! パワー・サーチ!」

 俺が選ぶのは《ダブルツールD&C》・《レインボー・ヴェール》・《魔界の足枷》の三種類で、そのどれもがアモンのニンバスマンを突破できる可能性を秘めていた。

「……右のカードだ」

「なら俺は《ダブルツールD&C》をパワー・ツール・ドラゴンに装備する!」

 効果によって手札に加えられた装備魔法を即座に装備し、パワー・ツール・ドラゴンの両手にドリルとカッターが付くと、まずはドリルが勢い良く回りだした。

「更に装備魔法《サイクロン・ウィング》を装備し、バトル! パワー・ツール・ドラゴンで、ニンバスマンを攻撃!」

「攻撃だと!?」

 攻撃直前に取り付けられた鋼鉄の翼から暴風雨が巻き起こり、ニンバスマンを攻撃するより早く、その暴風雨がアモンを襲った。

「サイクロン・ウィングの効果発動! 装備モンスターの攻撃宣言時、相手の魔法・罠カードを破壊する! 俺は……《スピリットバリア》を破壊!」

 二枚の永続魔法《宝札雲》・《雲魔物のスコール》と、ニンバスマンを蘇生した《リミット・リバース》のどれを破壊するか迷ったものの、戦闘ダメージを全てシャットアウトする《スピリットバリア》を選択した。

 更にニンバスマンの効果と戦闘破壊耐性だろうと、今のパワー・ツール・ドラゴンの前では無力となるのだから。

「ダブルツールD&Cは、戦闘する相手モンスターの効果を無効にする! よってニンバスマンは、攻撃力1000のただのモンスターだ! クラフティ・ブレイク!」

「ぐっ……ぐあああ!」

アモンLP4000→1700

 《スピリットバリア》が消えた為に、パワー・ツール・ドラゴンがアモンへの会心の一撃を叩き込むと、俺とアモンのライフがほとんど並んだ。

「ターンエンドだ!」

「……僕のターン、ドロー!」

 俺のフィールドには《ダブルツールD&C》と《サイクロン・ウィング》を装備した《パワー・ツール・ドラゴン》しかなく、アモンのフィールドには対照的に《宝札雲》と《雲魔物のスコール》しかない。

「手札のこのカードは墓地の《雲魔物》を除外することで特殊召喚出来る。二体の雲魔物を除外し、《雲魔物-ストーム・ドラゴン》を二体特殊召喚!」

雲魔物-ストーム・ドラゴン
ATK1000
DEF0

 風を纏ったドラゴンの姿を模した雲が二体特殊召喚され、トリッキーな小型雲魔物で場をかき回すだと、何が来るか用心しておく。

「更に《雲魔物-キロスタス》を召喚し、自身にフォッグカウンターを三つ乗せる」

雲魔物-キロスタス
ATK900
DEF0

 他の雲魔物よりも大柄な雲魔物-キロスタスが召喚されると、フィールドの雲魔物の数……即ち三つのフォッグカウンターがキロスタスに乗る。

「キロスタスはフォッグカウンターを二つ取り除くことにより、相手モンスターを破壊できる! パワー・ツール・ドラゴンを破壊せよ、キロスタス!」

「甘い! パワー・ツール・ドラゴンは破壊される時、装備魔法を自身の身代わりに出来る! ダブルツールD&Cを代わりに破壊する! イクイップ・アーマード!」

 雲魔物-キロスタスの効果である、フォッグカウンターを砲弾のように発射する攻撃に《ダブルツールD&C》のドリルとカッターは破壊されてしまったが、パワー・ツール・ドラゴン本体は無傷であった。

「まだそんな効果があったか……ならば二体のストーム・ドラゴンの効果を発動! フィールド場のモンスターにフォッグカウンターを乗せることが出来る。一体をキロスタス、もう一体をパワー・ツール・ドラゴンに!」

 ストーム・ドラゴンの尾からフォッグカウンターが生成され、それぞれパワー・ツール・ドラゴンとキロスタスに纏わりつき、そのどちらもフォッグカウンターは二つになった。

「キロスタスの効果により、パワー・ツール・ドラゴンを破壊する!」

「《サイクロン・ウィング》を身代わりに、破壊を無効にする!」

 キロスタスの第二打によってサイクロン・ウィングも破壊されたが、依然としてパワー・ツール・ドラゴンは無傷なのだ、まだまだ次なるターンに立て直しは可能だろう。

「……僕はカードを二枚伏せ、《宝札雲》の効果で二枚ドローしてターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 アモンのフィールドを守っていた《スピリットバリア》が破壊され、ニンバスマンのような強力なモンスターもいない今、リバースカードが二枚あろうと攻め込むチャンス……!

「パワー・ツール・ドラゴンの効果を発動! デッキから三枚の装備カードを裏側で見せ、相手が選んだカードを手札に加える! パワー・サーチ!」

 選ぶのは先のターンと似たような感じで、《レインボー・ヴェール》・《魔界の足枷》・《団結の力》の三種類を選択すると、《レインボー・ヴェール》が選ばれるよう強く願った。

「先程と同じく、右を選ぼう」

「……パワー・ツール・ドラゴンに《団結の力》を装備!」

 その願いは《レインボー・ヴェール》には届かなかったものの、パワー・ツール・ドラゴンの攻撃力は3100にまで上昇し、アモンのライフをオーバーキル出来る程となった。

「バトル! パワー・ツール・ドラゴンでキロスタスに攻撃! クラフティ・ブレイク!」

「リバースカード、《ガード・ブロック》をオープン! 戦闘ダメージを0にし、一枚ドローする」

 戦闘では破壊されないがステータスは低い雲魔物とは相性が良いのだろう、無数のカード達によってアモンへのダメージは阻まれ、キロスタスも自身の効果により破壊されない。

「ならばメインフェイズ2、《ワンショット・ブースター》を召喚する!」

ワンショット・ブースター
ATK0
DEF0

 戦闘破壊が出来なくとも破壊する手段はいくらでもある、パワー・ツール・ドラゴンを効果破壊する気のキロスタスに、まずはそれを教えてやろう。

「ワンショット・ブースターの効果発動! このカードをリリースすることで、戦闘で破壊されなかった相手モンスターを破壊する! 蹴散らせ、ワンショット・ブースター!」

 ワンショット・ブースターに装備されていた二体のミサイルが発射され、正確にキロスタスに直撃すると、爆発して雲はそのまま気体となった。

「そして、ターンを終了する」

「僕のターン、ドロー!」

 永続魔法《雲魔物のスコール》によって、パワー・ツール・ドラゴンに新たなフォッグカウンターが乗せられ、このターンのストーム・ドラゴンの効果で五つとなるが……ニンバスマンを召喚されてもまだ耐えられる範囲だ。

 だがアモンには、最初からフォッグカウンターなど眼中に無かったようだ。

「ストーム・ドラゴン二体をリリースし、出でよ! 《雲魔物-アイ・オブ・ザ・タイフーン》!」

雲魔物-アイ・オブ・ザ・タイフーン
ATK3000
DEF1000

 二体のストーム・ドラゴンをリリースされてアドバンス召喚されたのは、一つ目の雲の巨人――もはやそうとしか呼べない、雲魔物最強のモンスターであった。

「フッ……バトル! 雲魔物-アイ・オブ・ザ・タイフーンで、パワー・ツール・ドラゴンに攻撃!」

 攻撃宣言時に発動する効果は、アタッカーだろうと壁モンスターだろうとその存在価値を無くし、ただただアイ・オブ・ザ・タイフーンに飲まれるだけのモンスターとなる……!

「アイ・オブ・ザ・タイフーンが攻撃する時、全てのモンスターは表示形式を変更する! 更にリバースカード、《断頭台の惨劇》を発動!」

 突如として発生した風を受け、無理やり守備表示となったパワー・ツール・ドラゴンを断頭台が捕獲し、中世の処刑台のようなそれはパワー・ツール・ドラゴンを狙っていた。
相手モンスターが攻撃表示から守備表示となった時、表側守備表示のモンスターを全て破壊するという効果の処刑台は、寸分違わずパワー・ツール・ドラゴンの首を狙ってギロチンを振り下ろした。

「《団結の力》を身代わりに、パワー・ツール・ドラゴンの破壊を無効にする! イクイップ・アーマード!」

 頭上から振り下ろされたギロチンの刃は《団結の力》を犠牲にすることで何とか防ぎきったものの、パワー・ツール・ドラゴンは断頭台に捕獲されたままであり、その前にアイ・オブ・ザ・タイフーンが漂っていた。

「これで厄介な装備魔法は消えた! パーフェクト・ストーム!」

「パワー・ツール・ドラゴン……!」

 アイ・オブ・ザ・タイフーンは台風を巻き起こし、《断頭台の惨劇》とのコンボによってパワー・ツール・ドラゴンを破壊すると、アモンのフィールドに守護神のように舞い戻っていった。
不幸中の幸いと言って良いものか、パワー・ツール・ドラゴンはアモンのコンボの影響で守備表示のため、俺にダメージはないが……

「ターンエンドだ」

「俺のターン、ドロー!」

 アイ・オブ・ザ・タイフーンにはニンバスマンと違って超火力はないものの、この局面では壁モンスターの意味を成さなくなるアイ・オブ・ザ・タイフーンの効果の方が厄介であり、超火力ではないと言っても攻撃力は3000を誇る。

 その表示形式変更効果を逆手に取り、あえてモンスターを攻撃表示にしたとしても、その瞬間にニンバスマンが召喚されれば俺は負けてしまう。

 ……ならば。

「俺は《マッシブ・ウォリアー》を召喚!」

マッシブ・ウォリアー
ATK600
DEF1200

 ここで召喚されるのは戦闘ダメージをシャットアウトしつつ、一度の戦闘では破壊されない要塞の機械戦士《マッシブ・ウォリアー》。
アイ・オブ・ザ・タイフーンを破壊する手段がない今は、この状況に最も相応しい機械戦士である。

 先のターンで《ワンショット・ブースター》を使ってしまったことが悔やまれるが、使わなければ敗北していたことを考えれば、思った通りにはいかないものだ。

「カードを一枚伏せ、ターンを終了する」

「僕のターン、ドロー……大空を漂う雲に対して壁なんて無駄さ」

 なんとも俺にとって不吉な台詞を呟きながらアモンのターンはスタートし、毎ターンお決まりの《雲魔物のスコール》が起きると、その後に一体のモンスターがデュエルディスクにセットされた。

「《雲魔物-ポイズン・クラウド》を召喚」

雲魔物-ポイズン・クラウド
ATK0
DEF1000

 新たに召喚された雲魔物のステータスを見て、攻撃力が0ではマッシブ・ウォリアーすら突破出来ない……と思った次の瞬間、ポイズン・クラウドの姿が消えていた。

「通常魔法《フォッグ・コントロール》を発動。雲魔物を一体リリースすることで、フィールドのモンスターに三つのフォッグカウンターを乗せる!」

 元々はポイズン・クラウドであったそのフォッグカウンターは、アイ・オブ・ザ・タイフーンではなくマッシブ・ウォリアーに纏わりつき、これでマッシブ・ウォリアーに乗っているフォッグカウンターは四つとなった。

「フォッグカウンターが四つ……しまった!」

「知っているようだな。速攻魔法《ダイヤモンドダスト・サイクロン》! フォッグカウンターが四つ以上乗っているモンスターを破壊し、四つ分だけカードを一枚ドローする!」

 小さな氷の結晶を内包している旋風がマッシブ・ウォリアーを襲い、俺のマッシブ・ウォリアーを破壊するとともにアモンにドローをもたらすと、俺のフィールドはがら空きとなった。

「バトル! アイ・オブ・ザ・タイフーンでダイレクトアタック、パーフェクト・ストーム!」

「手札から《速攻のかかし》を捨てることで、バトルフェイズを終了させる!」

 手札から巨大化した《速攻のかかし》が飛び出ると、アイ・オブ・ザ・タイフーンの攻撃を俺の代わりに受け、パーフェクト・ストームに吸い込まれていく。

 《速攻のかかし》にはいつもすまないが、おかげで俺のライフは無事だ。

「くっ……カードを一枚伏せ、ターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 《マッシブ・ウォリアー》と《速攻のかかし》が俺を守ってくれたおかげで出来るドローだ、それに感謝しながらカードをドローすると……逆転の為に待ち望んでいたカードが姿を見せた。

「行くぞアモン! 来い、《スピード・ウォリアー》!」

『トアアアアッ!』

 このデュエルにおいて二度目の登場となるマイフェイバリットカードは、体積が倍以上違うアイ・オブ・ザ・タイフーンの前に、果敢にも立ちはだかった。

「……そのモンスターで何をする気かな」

「こうするのさ。アイ・オブ・ザ・タイフーンに装備魔法《スピリット・バーナー》を装備する!」

 三つの効果を内蔵した装備魔法《スピリット・バーナー》がスピード・ウォリアーではなく、アモンの切り札アイ・オブ・ザ・タイフーンに装備され、まずは第一の効果がアイ・オブ・ザ・タイフーンへと発揮される。

「スピリット・バーナーを装備したモンスターは、一ターンに一度守備表示に出来る! アイ・オブ・ザ・タイフーンを守備表示に!」

 たとえ最強の雲魔物だとしても、守備表示になれば自壊するデメリットは存在するため、《スピリット・バーナー》はアイ・オブ・ザ・タイフーンはその弱点をついた。
守備表示になったことにより自身のデメリット効果が発動し、アイ・オブ・ザ・タイフーンの雲の身体がバラバラになると……

 ……その後に身体を再結集させ、再びアイ・オブ・ザ・タイフーンの身体を形成した……!?

「リバースカード、《アグレッシブ・クラウディアン》の効果。雲魔物が自身の効果で自壊した時、その雲魔物をそのまま特殊召喚する」

「ならば速攻魔法《旗鼓堂々》! 墓地から《スピリット・バーナー》をアイ・オブ・ザ・タイフーンに装備する!」

 このターンの特殊召喚が出来なくなる代わりに、装備魔法を墓地から装備するという速攻魔法《旗鼓堂々》により、再び墓地から《スピリット・バーナー》がアイ・オブ・ザ・タイフーンに装備された。

 雲魔物専用蘇生カードで完全蘇生を果たしたのに悪いが、もう一度《スピリット・バーナー》によって自壊してもらおう……!

「スピリット・バーナーの効果を発動! アイ・オブ・ザ・タイフーンを守備表示に……出来ない!?」

「《アグレッシブ・クラウディアン》で蘇生された雲魔物は、カードの効果で守備表示になりはしない」

 つまりは自壊デメリットを帳消しにして特殊召喚されたということで、もはや《スピリット・バーナー》の効果は通じず、こちらは《旗鼓堂々》のデメリット効果により特殊召喚も出来なくなった。

「そちらはスピード・ウォリアー一体、どうする気だ?」

 俺の逆転の策を《アグレッシブ・クラウディアン》で防ぎ、もはや攻撃表示のスピード・ウォリアーしかいない俺のフィールドを見て、アモンは勝利を確信した笑みを浮かべ……俺はそれに負けず劣らずの不敵な笑みを浮かべた。

「スピード・ウォリアー一体か……充分じゃないか! バトル! スピード・ウォリアーの攻撃力は、召喚したターンのみ倍になる!」

「バトルだと!?」

 スピード・ウォリアーの攻撃力は1800、アイ・オブ・ザ・タイフーンの攻撃力は3000と、もとより圧倒的な差でアイ・オブ・ザ・タイフーンは戦闘破壊耐性持ち。
アモンのライフは1700ポイントの為、このターンで決めるには4700ポイントの攻撃力を叩き出す必要がある。

 まあ、そんなことをする気は全く無いのだが。

「こっちが俺の本当の狙いだ! リバースカード、オープン! 《大成仏》! 装備カードを装備したモンスターを、全て破壊する!」

「なっ……!?」

 本来ならば装備カードを多用する俺のようなデッキのメタになるカードだが、装備カードを多用するということは相手モンスターにも装備出来るということで、このカードを発動する機会は驚くほど多い。

 このフィールド場にいる中で装備カードを装備しているのはアイ・オブ・ザ・タイフーンだけであり、中空に浮かんだ雲からなる雷によって――雲魔物が雷で成仏するというのもおかしな話だが――破壊されたことにより、アモンのフィールドががら空きとなった。

 ……そしてアモンのライフポイントは先程の通り、1700ポイントというスピード・ウォリアーより低い数値からなる。

「スピード・ウォリアーでアモンにダイレクトアタック! ソニック・エッジ!」

「うわああっ!」

アモンLP1700→0


 マイフェイバリットカードの攻撃と生徒たちの歓声により、俺とアモンのデュエルは決着すると、アモンが俺に近づいて握手をするようなポーズをしていた。

「楽しいデュエルだったぜ、アモン」

 俺はもちろんそれに応じると、アモンも薄く微笑んで生徒たちに俺と握手しているシーンを見せた……悪い奴ではないのだが、演出家というか策謀家というか、アモンからはそんな気質を感じさせた。

「僕も楽しいデュエルでしたよ……ですが、君は早く逃げた方が良いかもしれませんね」

 アモンの意味深な言葉とともにその視線を追うと、様々な予定外なことが重なって機嫌が悪い、クロノス教諭とナポレオン教頭がタッグを組んで、デュエル場への通路でこちらを睨んでいらっしゃる……!

「……悪い、ありがとう」

 アモンの忠告に従ってその場を急ぎ離れると、背後から』待つノーネ!』だの『待つのでアール!』だのノーネでアールだのなんだの聞こえたが、気にしないでこの後のデュエルを見れる場所へと移ることにした……


 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧