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遊戯王GX-音速の機械戦士-

作者:蓮夜
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―大掃除―

 
前書き
第三期、開始……(?) 

 
 国際大会《ジェネックス》も終わって長期休暇に入ったデュエル・アカデミアでは、大分人数が少なくなったものの、例年に比べると結構な人数が学園に残っていた。
何故ならば、オベリスク・ブルーの生徒にはまだ仕事のような物が残っていて、その仕事を果たす為にオベリスク・ブルー生徒が学園に残っているからだ。

 ――そう、オベリスク・ブルー寮のペンキ塗り直しである。

 業者さんに頼んでくれれば良いものを、光の結社に入った生徒たちの自業自得と鮫島校長が判断した結果、万丈目の指揮の元オベリスク・ブルー生徒たちはペンキの塗り直しをしているのである。

 かく言う俺もジェネックス中は光の結社狩りをしていたものの、俺も光の結社に入っていたということで、一緒に帰る筈だったレイと別れてペンキの塗り直しをやっていた。
俺の仕事は主に内部の方の極一部分であり、他の人に比べれば担当面積はかなり狭かったのだが、それでも俺はここを担当したくはなかった。

 俺の担当場所は二つの部屋で、オベリスク・ブルー寮一の魔窟と名高い三沢の部屋と、ジェネックスの時には気づかなかったが……斎王に使われていたせいですっかり改造されている自室だった。
三沢の親友&自分の部屋だから、という理由でこの二つの部屋を押しつけられた俺は、まずは三沢の部屋の掃除をしていた。

「……大体片づいたか」

 所要時間は実に三時間半、それが三沢の数式やらが壁に所狭しと描かれた三沢のペンキ塗りと、研究所に送ってやる私物の整頓にかかった時間だった。
流石に私物は専門の業者さんに任せて送るものの、このままの部屋では業者さんの精神衛生上よろしくなかったので、掃除するついでに纏めておいた。

「さて、次は……俺の部屋か……」

 斎王の手によって使い道の無い謎の地下道が建設された俺の部屋は、他にも装飾品が全て白くなっていたり、呪われそうな占いの用具が収納してあったりという弊害があった。
未だに斎王は療養中であるらしいので、あの占い用具は美寿知の知り合いが取りに来ることになっている。

 肩を落としながら俺の部屋に向かおうとしたところ、三沢の持ち物であるカードフォルダーがポロッとこぼれ落ち、まとめてある場所から床に転がった。
反射的に拾い上げ、そのまま元の場所に戻そうとした時、とある考えが俺の頭を横切った。

 ……見るぐらい大丈夫だろうか、と。

 ジェネックス中に消えてしまった、三沢の代わりに部屋を掃除してやっているのだから、少しだけ三沢のカードフォルダーを見るぐらい良いのではないか……いや、当然の権利だと主張しよう。

 頭の中で勝手に考えを自己完結させておくと、三沢の膨大なカード知識の一片であるだろう、カードがコレクションされているカードフォルダーを開けた。

 開かずとも大量にカードが詰まっていると解る、そこにあったカードたちは……



 白魔導師ピケル白魔導師ピケル白魔導師ピケル白魔導師ピケル白魔導師ピケル白――

 俺は根源的な恐怖を感じて反射的にカードフォルダーを閉じると、きっと幻覚でも見たのだろうと結論づけて、深呼吸してからもう一度カードフォルダーを開いた。

 ――魔導師ピケル白魔導師ピケル白魔導師ピケル白魔導師ピケル白魔導師ピケル白魔導師ピケル白魔導師ピケル白魔導師ピケル白魔導師ピケル白魔導師ピケル白魔導――

 ……幻覚ではなかったようだ。

 開けても開けても開けても白魔導師ピケルしかないという、ある意味三沢の部屋以上に、精神に異常をきたしそうなカードフォルダーであった。
もちろん三沢のデッキには、シナジーも何もない白魔導師ピケルがゲシュタルト崩壊しかねないカードフォルダーを、もう一度苦笑いをしつつペラペラとめくり返す。

 本当に白魔導師ピケルしかないカードフォルダーを、俺はこんなものを見なかったことにしようと、そのまま未練もなく閉じ――

「……ああ、いた。遊矢、私も掃除を手伝いに着たんだけど……?」

 ――る前に、すっかり全快した明日香が三沢の部屋の扉を開けて入ってきて、バッチリと白魔導師ピケルのカードフォルダーを眺めている変態の姿を視界に捉えた。

 ……不幸なことにその変態は持ち主ではなく、何故か俺だったのだが。



「へぇ、三沢くんが……何だか意外ね」

 その後しどろもどろになった俺の説明を、じっくりと三回ほど聞いた後に明日香は状況を全て理解してくれ、心底意外そうな表情をしていた。
確かに三沢はモテるのに浮いた話が一つもなく、噂には疎いので俺は知らないものの、三沢の『そういう』話題は噂にすらなったことがないらしい。

「まあ、誰にだってアイドルカードぐらいあるさ」

 アイドルカードとは、効果やステータスなどは全く関係なく、ただただイラストが気に入っているだけというカードの総称である。
一度こんな話になった時、翔は《雷電娘々》と答えたが、十代は良く解っていないようで《バーストレディ》と答えていたことがあった。

「誰にでもって……遊矢にもあるの?」

 明日香のその心から疑問に思っているかのような口調に、俺は自ら墓穴を掘るようなことを言ってしまったのだと気づいた。
下心や後ろめたい気持ちもなく、単純に好奇心で聞いてくる明日香の視線を直視出来ない。

「いや、俺はその……ないさ」

「怪しすぎるわよ、遊矢……でもそう言われると、何だか気になって来たわね」

 墓穴から更に墓穴を掘った俺の一言に対し、何だか明日香の目に炎が灯ったような錯覚を覚え、話を切り上げようと急いで立ち上がった。

「さて、掃除の続きといく……ッ!?」

 急いで立ち上がった衝撃からか神の悪戯か、ポケットからとあるデッキケースが明日香の前へと転がっていく。
いつもの【機械戦士】を入れているデッキケースは、俺のベルトにきっちりと保管しているにも関わらず。 

「デッキ? 【機械戦士】じゃないみたいだけど……」

「あ、ああ。新しいデッキなんだ」

 そのデッキを見られたくない事情がある俺は、何とかそのデッキを返してもらおうと、明日香にありがちなことを言った。
だが明日香がとった行動は、三沢の荷物にあったデュエルディスクに、そのデッキを入れて俺に渡そうとすることだった。

「デュエルしない遊矢? 私が勝ったら、あなたはアイドルカードのことを話す。私が負けたら……そうね、後の掃除は私がやるわ。どう?」

 ……どうも何も、明日香の手にあのデッキが握られている時、俺には選択をはねのけることなど出来ようもない……アレはそれぐらい重要なものなのだ。

「……解った、受けよう。だからデッキを返」

「それじゃ決まりね」

 明日香は口早に俺の台詞を被せて、自分のデュエルディスクを準備し、俺にデュエルディスクを渡して少し離れた。
無駄に広いことに定評のあるオベリスク・ブルー寮だ、一組ぐらいのデュエルならば、スペースには余裕があって余りある。

 だがデュエルディスクが戻ればこっちのものだ、早くこのデッキから【機械戦士】に入れ替えさせて――

 ――デッキが抜けない!

 明日香がデュエルディスクを俺に渡す前に、後はデュエルを宣言するだけの状態にしたのだろう、もはやデッキを変えることも適わなかった。

「どうしたの、遊矢?」

 ……やはり明日香も解っていたか、このデッキに何か俺の秘密が隠されていることを……

「……いや、何でもない」

 ……やるしかない……【機械戦士】ではないデッキで明日香に勝てるかは解らないが、俺の未来の為にも勝たねばならないのだ。

『デュエル!』

遊矢LP4000
明日香LP4000

「俺の先攻、ドロー!」

 デュエルディスクは俺に先攻を示し、カードをドローして六枚の手札を見て、一息溜め息をついた。

「……明日香。デュエルの前に言っていた条件を変更したい」

 手札が悪いから、条件を少しでも軽くしてもらおうと思っているわけではなく、手札はこのデッキにしては良い方だ。

「何かしら?」

「お前が負けた時の条件を掃除じゃなくしたい」

 そもそも掃除をしてもらうと言っても、残っているのは俺の部屋であり、そこを任せるわけにはいかなかった。
明日香に向かって指を差すと、胸に秘めていた事を言い放った。

「俺が勝ったら…………明日香、お前は去年のコスプレで明日一日過ごしてもらおう!」

「なっ――――」

 俺の予想だにしていなかったのだろう一言に明日香は絶句した後、去年の姿を思いだしたのか顔を赤らめた。
オシリス・レッドのコスプレデュエル大会……その大会にて明日香は、自身のフェイバリットこと《サイバー・エンジェル-弁天-》のコスチュームを着て、場を大いに盛り上げた。

「なっ、何言って……」

「嫌なら良い。このデュエルを中止するだけだ」

 ……むしろ俺としてはそちらの方が好都合だ、と言いたくなったのを堪えて、顔を真っ赤にした明日香の返答を待った。

「…………良いわ。その条件を飲みましょう。一度やったデュエルだもの、途中で止める訳にはいかないしね」

 ……明日香の性格ならばこうなるだろうと解ってはいたが、結局はデュエルになってしまった為、俺はこのデッキを晒さなくてはならない。

「俺はモンスターをセット! 更にカードを二枚伏せてターンを終了する!」

「その布陣……確かに【機械戦士】じゃないみたいね……私のターン、ドロー!」

 いつになく守備に力を入れた俺の布陣に対し、やはり明日香は違和感を覚え、未知のデッキに対して緊張感を高めた。

「私は《聖騎士ジャンヌ》を召喚!」

聖騎士ジャンヌ
ATK1900
DEF1300

 聖女でありながら鎧を着て最前線に立つ聖騎士、《聖騎士ジャンヌ》が剣を構えながら攻撃の態勢を示し、俺のセットカードの正体を暴かんと様子見で攻撃した。

「バトル! 聖騎士ジャンヌでセットモンスターに攻撃! セイクリッド・ディシジョン!」

 聖騎士ジャンヌが攻撃する時、攻撃力が300ポイントダウンするものの、そんなことは関係なく俺のセットモンスターがその姿を現した。

 ファンタジー世界の基本となる魔法使いのローブを羽織り、緑色の髪の毛をたなびかせながら、その手に持ったロッドで懸命に攻撃を防ぐ――少女。

「……俺のセットモンスターは《風霊使い ウィン》だ!」

 もはや隠し通すことなど出来はしない、ヤケクソ気味にむしろノリノリに、そのモンスターカードの名前を叫んだ。

風霊使い ウィン
ATK500
DEF1500

「ウィ、ウィン……? ……ええと、破壊しなさい《聖騎士ジャンヌ》!」

 明日香の命令は動揺していたものの、聖騎士ジャンヌの剣は揺るぎなく、ロッドを構えて守備の態勢を取っているウィンへと振り下ろされた。
だがその剣が振り下ろされる前に、ウィンを守るように一つのバリアが出現した。

「俺は二枚のリバースカードを発動していた! 一枚目は《ガガガシールド》! 発動後ウィンに装備され、この戦闘では破壊されない!」

 右手にロッドを持左手にガガガシールドを持ったウィンは、聖騎士ジャンヌの攻撃を防ぎながら、更にロッドで次なる呪文を唱えていた。

「そして二枚目のリバースカードは《DNA移植手術》! 宣言する属性はもちろん『風属性』。……よってウィンのリバース効果により、風属性となった《聖騎士ジャンヌ》のコントロールを奪取する!」

 ウィンの呪文によって聖騎士ジャンヌが明日香のコントロールを離れるのを見て、意外なほどコンボが上手くいったのを実感したが、その代償に何か大事なものを失った気がする。

 このデッキは俺の……その、アイドルカードである《風霊使い ウィン》を主軸にしたファンデッキ、【風霊使い ウィン】である。
もちろん趣味だけで作ったので実戦には耐えないし、羞恥心の塊のようなデッキなのだ……

 そんなデッキを使いだした親友の姿を見る、明日香の心境や如何に。

「【コントロール】デッキとはね……やられたわ。カードを二枚伏せ、ターンエンド」

 ……どうやら俺が本当に、【コントロール】デッキを組んだのだと考えたようだ……大丈夫だろうか、このデュエル馬鹿は。

「……あ、ああ。カードが足りなくてウィンを使ってるがな。俺のターン、ドロー!」

 明日香のデュエル馬鹿さ加減と隠れ天然具合に感謝すると、出来れば【コントロール】デッキと隠し通せますように、と祈りながらカードを引いた。

「……バトルだ、聖騎士ジャンヌでダイレクトアタック! セイクリッド・ディシジョン!」

「伏せてある《ガード・ブロック》を発動し、戦闘ダメージを0にして一枚ドロー!」

 残念ながらアタッカーをドローすることが出来ず、聖騎士ジャンヌの攻撃は明日香の前に出現したカード達に防がれ、一世一代のチャンスを逃した気がする。

「……ターンエンドだ」

「私のターン、ドロー!」

 明日香のフィールドにはリバースカードが一枚だけだが、まだデュエルは始まったばかりだ、手札はまだまだ潤沢にある。

「私は《融合》を発動! 手札の《エトワール・サイバー》と《ブレード・スケーター》を融合し、《サイバー・ブレイダー》を融合召喚!」

サイバー・ブレイダー
ATK2100
DEF800

 明日香の融合のフェイバリットカード、サイバー・ブレイダーがフィールドを滑りながら融合召喚され、俺は自分のモンスターの数を見て歯噛みした。

「相手のモンスターの数が二体の時、このモンスターの攻撃力は倍になる。パ・ド・カドル!」

 これでサイバー・ブレイダーの攻撃力は、何も装備していないモンスターとしては規格外の4200となり、早くもこのフィールドを制圧する。
不安定ながらも三つの強力な効果を持つ明日香のエースモンスターが、コントロールを奪った聖騎士ジャンヌへと牙をむいた。

「バトル! サイバー・ブレイダーで聖騎士ジャンヌを攻撃! グリッサード・スラッシュ!」

「ぐああっ……!」

遊矢LP4000→1700

 サイバー・ブレイダーの鋭い蹴りで聖騎士ジャンヌはあっさりと破壊され、俺のライフポイントの半分を容易く削りきった。

「ターンエンドよ!」

「俺のターン、ドロー!」

 最近はジェネックスやら斎王関係のデュエルばかりをしていたこともあって、少しばかり久しぶりの明日香とのデュエルは、やはり楽しいものだ。

 ……デッキがこんなでも、だ。

「俺は《暗黒プテラ》を守備表示で召喚!」

 剣山が《超進化薬》のコストに使っていた翼竜が、俺のフィールドに翼を畳んで守備表示を示しながら召喚される。
これで俺のフィールドのモンスターは二体となり、サイバー・ブレイダーの攻撃力は再び4200となる。

「カードを二枚伏せ、ターンエンド」

「私のターン、ドロー!」

 明日香はカードをドローしたものの、どうやら俺にトドメを刺せるカードではなかったらしく、手札に加えてからサイバー・ブレイダーに命令を下した。

「バトル! サイバー・ブレイダーで……」

「リバースカード、《風霊術-雅》を発動!」

 攻撃しようとしたサイバー・ブレイダーの前に、風霊使い ウィンがロッドを持って立ちはだかると、暗黒プテラを一陣の風としてサイバー・ブレイダーへとぶつけた。

「暗黒プテラをコストに、サイバー・ブレイダーをデッキの一番下に送る!」

 三沢の切り札《火車》と同じように、デッキの中へと送るという最大の除去に、サイバー・ブレイダーであろうと第一の効果の時では耐えられはしない。

「暗黒プテラの効果により、暗黒プテラを手札に戻す」

「くっ……私は《サイバー・プチ・エンジェル》を守備表示で召喚!」

サイバー・プチ・エンジェル
ATK600
DEF900

 機械化《プチテンシ》とでも言うべきサポートカードにより、明日香は自身のデッキのキーカードをデッキからサーチする。

「サイバー・プチ・エンジェルが召喚された時、デッキから《機械天使の儀式》を手札に加えるわ。……ターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 俺のフィールドには《ガガガシールド》を装備したウィンしかいないが、明日香のフィールドとて《サイバー・プチ・エンジェル》しかいない。
それに俺のウィンはこのターン、新たな呪文によって明日香へと攻勢に出る……!

「俺は《暗黒プテラ》を召喚! そして《風霊使い ウィン》と《暗黒プテラ》を墓地に送ることで、ウィンに憑依装着する! デッキから《憑依装着-ウィン》を特殊召喚!」

憑依装着-ウィン
ATK1850
DEF1500

 ウィンはまたも《暗黒プテラ》を触媒に、自身の使い魔たる《プチリュウ》を召喚すると、自分の腕に風と共に憑依装着という呪文で装着する。
当然《暗黒プテラ》は、戦闘以外によって墓地に送られたため、そのまま俺の手札へと戻る。

「この効果で特殊召喚されたウィンは貫通効果を得る! バトルだ、憑依装着-ウィンでサイバー・プチ・エンジェルに攻撃!」

 腕に装着されたプチリュウから放たれた風圧に、サイバー・プチ・エンジェルを貫通して明日香にまで威力を届かせた。

明日香LP4000→3150

 ロッドを捨ててプチリュウ砲を持ったウィンが、サイバー・プチ・エンジェルを破壊して俺のフィールドへと戻ってくると……やはりソリッドビジョンは、素晴らしい発明だと再実感した。

「ターンエンドだ!」

「私のターン、ドロー!」

 しかし明日香には《サイバー・プチ・エンジェル》により、キーカードである《機械天使の儀式》が手札にある。
明日香のサイバー・エンジェル達が、このターンにでも儀式召喚されるかも知れないのだ。

「私は《高等儀式術》を発動! デッキから《ブレード・スケーター》を二体墓地に送り、《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》を儀式召喚!」

サイバー・エンジェル-荼吉尼-
ATK2700
DEF2400

 俺の予想とは違ったが、最強のサイバー・エンジェルの姿が儀式召喚によって現れ、ウィンに向けてその刃を構えた。

「サイバー・エンジェル-荼吉尼-が特殊召喚された時、相手はモンスターを一体選んで破壊する……あなたのモンスターは一体だけだけどね」

 サイバー・エンジェル-荼吉尼-が八つ手にそれぞれ持っている刃で、憑依装着-ウィンを文字通り八つ裂きにすべく、近づいてきた。

「ああ……! ……ウィン……」

 俺はそれを見ることなど出来よう筈もなく、横を向いている間にウィンの姿は、刃を構えたサイバー・エンジェル-荼吉尼-の前に消えていた。
しかし効果破壊されたウィンのことを偲んでいる暇もなく、サイバー・エンジェル-荼吉尼-の刃は、今度は俺に対して向けられた。

「バトルよ! サイバー・エンジェル-荼吉尼-でダイレクトアタック!」

「リバースカード《ダメージ・ダイエット》を発動! 戦闘ダメージを半分に……ぐあっ!」

遊矢LP1700→450

 恐らくはウィンと同じように――いやいやきっと違う――サイバー・エンジェル-荼吉尼-の刃に切り刻まれ、俺のライフは《ダメージ・ダイエット》のバリアがあっても、もうライフポイントに後がない大ダメージとなった。

「ふふ、私はこれでターンエンドよ」

「俺のターン、ドロー!」

 俺のデッキに残るは永続罠《DNA移植手術》のみで、明日香のフィールドには《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》にリバースカードが一枚と、圧倒的に俺が不利……

「俺はカードをセットし、魔法カード《ブラスティック・ヴェイン》を発動! 今セットしたカードを破壊し、二枚ドロー! ……さらに破壊したカードは《フライアのリンゴ》。このカードは破壊された時、一枚ドロー出来る」

 いつもならばマイフェイバリットカードの出番だが、今回は大人しく手札増強に務めると、逆転の目が見えるカードをドローした。

「俺はモンスターをセット! そして通常魔法《太陽の書》を発動! セットモンスターを表側表示にし、当然このモンスターは《風霊使い ウィン》!」

 二回目の登場となるこのデッキのキーカード……いや、存在意義であるウィンはロッドを構え、サイバー・エンジェル-荼吉尼-のコントロールを奪うべく呪文を詠唱をし始めた。

「ウィンの効果を発動! サイバー・エンジェル-荼吉尼-の効果を奪わせてもらう!」

「それを待ってたわ。チェーンして伏せてあった《サイクロン》を発動! 《DNA移植手術》を破壊するわ!」

 明日香の伏せてあったカードから旋風が巻き起こり、俺のフィールドに発動されていた《DNA移植手術》を破壊した。

「なに!?」

 《DNA移植手術》が発動していたからこそ、発揮していたこのコンボであった為、《風霊使い ウィン》のリバース効果も不発となってしまう……低い攻撃力を晒したまま。

「……カードを二枚伏せてターンエンド」

「私のターン、ドロー!」

 サイバー・エンジェルが儀式召喚されるにしても、ある一体が儀式召喚されることを強く願う……それ以外の二体では、ほとんど俺の敗北が決定するようなものだ。

「私は《機械天使の儀式》を発動! 手札の《サイバー・プリマ》を捨てて、《サイバー・エンジェル-弁天-》を儀式召喚!」

サイバー・エンジェル-弁天-
ATK1800
DEF1600

 明日香の儀式のフェイバリットカード、サイバー・エンジェル-弁天-が儀式召喚され、その手に持った二つの扇を構えた。
その効果は戦闘破壊したモンスターの守備力のダメージを与える、というバーン効果で、戦闘ダメージが防がれてもバーンダメージで決着をつけるつもりだろう。

「バトル! サイバー・エンジェル-弁天-で、風霊使い ウィンに攻撃!」

 再びウィンが破壊されてしまう状況に陥ってしまったが、今度は目を逸らさずに攻撃してくるサイバー・エンジェル-弁天-を見据え、俺はウィンの前に立って代わりに攻撃を受けた。

「えっ!?」

 明日香が驚愕の声を挙げるものの、俺に庇われたウィンが唱えた呪文によって、俺の前には二種類のバリアが形成されていた。

「二枚のリバースカード《スピリットバリア》に《アストラルバリア》! 俺のフィールドにウィンがいる限り、明日香、お前の攻撃は届かない」

 アイドルカードのファンデッキには必須とも言うべき二種類のバリアに、サイバー・エンジェル-弁天-の攻撃はウィンに届きはしない。
もしも儀式召喚されていたのが、《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》ならウィンは効果破壊されてしまい、《サイバー・エンジェル-韋駄天》なら《サイクロン》を回収されてバリアの片方が破壊されてしまっただろう。

 感謝することではないが、サイバー・エンジェル-弁天-には少しだけ感謝しておこう。

「……私はターンを終了するわ」

「俺のターン、ドロー!」

 しかし、いつまでもこのバリアが破られない筈もなく、これではただの時間稼ぎにしか過ぎない。

「俺は《プチリュウ》を召喚!」

プチリュウ
ATK600
DEF700

 もはや【コントロール】デッキとは何ら関係もないが、やはり【風霊使い ウィン】デッキとしては、使い魔であるこのモンスターも投入すべきだろう。

「……プチリュウ?」

「こう使うのさ。通常魔法《馬の骨の対価》を発動! プチリュウを墓地に送って二枚ドロー!」

 若干、このデッキのことを疑問に思ったような明日香を納得させつつ、俺はプチリュウを墓地に送って二枚ドローする……良し。

「俺は速攻魔法《月の書》を発動し、ウィンを裏側守備表示にする。そして《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》に装備魔法《幻惑の巻物》を装備する!」

「……しまったわね」

 《DNA移植手術》以外にも、相手の属性を変える手段はある――明日香のフィールドのサイバー・エンジェル-荼吉尼-に巻物が巻かれて属性が再び《風》となり、先程裏側守備表示にしたウィンの効果の対象外となる。

「ウィンをリバースして効果発動! サイバー・エンジェル-荼吉尼-のコントロールを奪わせてもらう!」

 最強のサイバー・エンジェルこと《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》のコントロールを奪い、その攻撃力は明日香へと向けられる……使っていて何だが、俺は【コントロール】は使うのも使われるのも好きじゃない。レイの《恋する乙女》のような笑えるものなら良いのだけれど、どうも自分や相手の好きなカードを奪われるというのは嫌いだった。

 ……効果を度外視して好きなカードこそ、アイドルカードなのだが。

「バトル! サイバー・エンジェル-荼吉尼-で弁天を攻撃!」

「くう……」

明日香LP3150→2250

 サイバー・エンジェル同士が攻撃しあうことになり、俺のフィールドのサイバー・エンジェル-荼吉尼-が、明日香のサイバー・エンジェル-弁天-を切り裂いた。
最強のサイバー・エンジェル、という名は伊達ではないということか……そしてまだ、俺の攻撃は終わっちゃいない。

「ウィンで明日香にダイレクトアタック!」

 ロッドを構えて呪文を唱えると、風がカマイタチとなって明日香を襲い、少しながらも確実にダメージを与えていく。

明日香LP2250→1750

「カードを二枚伏せてターンエンド!」

「……私のターン、ドロー!」

 ウィンは攻撃表示のままだけれど、二種類のバリアに加えて二枚のリバースカードもある……恐らくは問題ないだろう。

「私は《貪欲な壺》を発動し、二枚ドロー……《高等儀式術》を発動! デッキの《ブレード・スケーター》を墓地に送って、《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》を儀式召喚!」

 汎用ドローカードの使用からの《高等儀式術》により、俺のフィールドにいる個体と鏡のように同じモンスター、サイバー・エンジェル-荼吉尼-が儀式召喚される。
俺のフィールドにいるモンスターと違うところと言えば、特殊召喚時に発動する効果を、すかさず発動しようとしていることだろうか。

「解ってると思うけど、サイバー・エンジェル-荼吉尼-の効果を発動! 特殊召喚した時、相手はモンスターを一体選んで破壊するわ!」

「……俺は《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》を破壊する」

 せっかくコントロールを奪ったサイバー・エンジェル-荼吉尼-だったが、同じモンスターに破壊されて明日香の元へと戻っていってしまう。
この効果でウィンを破壊されるわけにはいかなかった……いや、好き嫌いとかそういうことではなく、ウィンの効果の関係上だ。

「バトル……したいどころだけど無駄ね。このままターンエンド」


「俺のターン、ドロー! 速攻魔法《手札断殺》を発動してお互いに二枚捨てて二枚ドロー!」

 愛用の手札効果カードによって二枚捨てて二枚ドローし、何とかサイバー・エンジェル-荼吉尼-を処理する手段を思いつく。

「俺は《ターボ・シンクロン》を召喚!」

ターボ・シンクロン
ATK100
DEF500

 緑色のF1カーを模したチューナーモンスターの登場となったが、今この状況でシンクロ召喚をする気は毛頭ない。
エクストラデッキは【機械戦士】と共有しているので、ウィンとチューニングすれば、一応《アームズ・エイド》をシンクロ召喚することは出来るが。

「リバースカード、オープン! 《チューナー・ボム》! 俺のフィールドのチューナーモンスターを墓地に送り、その数と同数の相手モンスターを破壊し、破壊した数×1000ポイントのダメージを与える!」

 俺のリバースカードの発動と共に、ターボ・シンクロンがサイバー・エンジェル-荼吉尼-に突撃して爆発し、その誘爆は明日香にまで及んでいく。

「くっ……墓地から《ダメージ・ダイエット》を除外し、効果ダメージを半分にするわ!」

明日香LP1750→1250

 俺の《手札断殺》によって墓地に送られたのだろう、《ダメージ・ダイエットによる薄いバリアが明日香を包み込み、チューナー・ボムによるダメージを半分にした。

「まだだ! ウィンでダイレクトアタック!」

「墓地の《ネクロ・ガードナー》を除外して攻撃を無効にする!」

 ……結果論でありどうしようもなかったのだが、どうやら《手札断殺》を使用したのはミスだったようで、俺の攻撃は明日香の墓地からことごとく防がれた。

「……ターンエンド」

「私のターン、ドロー!」

 俺のフィールドには攻撃表示のウィンが一体とリバースカードが一枚、そして俺とウィンの身を守る二種類のバリア、《スピリットバリア》と《アストラルバリア》。
対する明日香はリバースカードもなく、手札消費が荒いためにそろそろ息切れする頃か。

「私は《エトワール・サイバー》を守備表示で召喚」

エトワール・サイバー
ATK1200
DEF1600

 明日香の融合のフェイバリットカード、《サイバー・ブレイダー》の融合素材モンスターが守備表示で召喚され、そのまあまあ高い守備力で明日香を守る。

「ターンエンドよ」

「俺のターン、ドロー!」

 さて、エトワール・サイバーの守備力はリクルーターを防ぐ程度ではあるが、それでもウィンの攻撃を止めるには充分すぎる程だ。

「ウィンを守備表示に。ターンエンドだ」

「私のターン、ドロー!」

 千日手のような状況に陥ってしまったものの、この千日手は明日香が《サイクロン》に類するカードを引けば、それで終わりという不安定なものだ。

「私は《思い出のブランコ》を発動し、墓地から《ブレード・スケーター》を特殊召喚! そして魔法カード《馬の骨の対価》を発動し、墓地に送って二枚ドロー!」

 あわや《サイバー・ブレイダー》再登場かと思ったが、そうではなくドローソースとして利用され、《ブレード・スケーター》は再び墓地に送られる。
……個人的には二枚ドローよりも、《サイバー・ブレイダー》の融合召喚の方が遥かに良かったのだが。

「……《サイバー・プチ・エンジェル》を召喚し、効果によってデッキから《機械天使の儀式》を手札に加えて発動! フィールドの《エトワール・サイバー》と《サイバー・プチ・エンジェル》をリリースし、《サイバー・エンジェル-弁天-》を儀式召喚!」

 またもや儀式召喚されるサイバー・エンジェル-弁天-だったが、先の儀式召喚よりも俺は更に警戒を強めていた。
何故ならば、今このタイミングで儀式召喚する理由で考えられるのは、明日香の攻撃の準備が整ったからではあるまいか。

「いくわよ遊矢! 魔法カード《大嵐》を発動! フィールドの魔法・罠カードを全て破壊する!」

 遂に発動されてしまう全体除外魔法《大嵐》に、俺の生命線となっていた二種類のバリアは破壊され、残るもう一枚のリバースカードも破壊されてしまう。

「だが、破壊されたリバースカード《リミッター・ブレイク》の効果を発動! デッキから《スピード・ウォリアー》を守備表示で特殊召喚する! 来い、マイフェイバリットカード!」

『トアアアアッ!』

スピード・ウォリアー
ATK900
DEF400

 いくらアイドルカードがウィンだろうと、マイフェイバリットカードはこのスピード・ウォリアーだ、もちろんデッキには投入したものの……この状況でどうするか。

「スピード・ウォリアー……関係ないわ、バトル! サイバー・エンジェル-弁天-で、風霊使い ウィンに攻撃! エンジェリック・ターン!」

 その名の通り舞うような扇での連撃がウィンに迫り、破壊すれば弁天のバーン効果によって俺は敗北する。
……敗北するとか関係なく、ウィンは破壊させるわけにはいかないが!

「墓地の《シールド・ウォリアー》を除外し、戦闘破壊を無効にする!」

 《手札断殺》を明日香だけに利用される訳もなく、《シールド・ウォリアー》がサイバー・エンジェル-弁天-からウィンを守り抜いて除外され、何とかウィンと俺のライフは繋ぎ止められた。

「防がれるなんて……カードを二枚伏せてターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 俺のやるべきことは、明日香の攻撃を凌ぎきった時にもう決まっている……ファイナルターンだ……!

「俺はウィンとスピード・ウォリアーを墓地に送り、《憑依装着-ウィン》をデッキから特殊召喚する!」

 マイフェイバリットカードとアイドルカード、形は違えども二種類のモンスターが力を併せ、風霊使い ウィンが最高の力を発揮する。
その攻撃力は50と言えどもサイバー・エンジェル-弁天-を超え、特殊召喚と共に、フィールドには風が吹きすさんでいた。

「更に通常魔法《アームズ・ホール》を発動し、デッキから一枚墓地に送って《ニトロユニット》を手札に加え、《サイバー・エンジェル-弁天-》に装備する!」

 《アームズ・ホール》の通常召喚出来なくなるデメリットなどもはや関係なく、サイバー・エンジェル-弁天-に一撃必殺の威力を誇る爆薬《ニトロユニット》が装備される。

「バトル! 憑依装着-ウィンでサイバー・エンジェル-弁天-に攻撃! スピード・ウォリアーの力を借り、ソニック・エッジ!」

 ウィンの腕に装着されたようなプチリュウから、風となったスピード・ウォリアーが発射されて、サイバー・エンジェル-弁天-の胸元にある《ニトロユニット》を破壊せんと向かっていく。

「リバースカード、オープン! 《ドゥーブルパッセ》! その攻撃を私のダイレクトアタックにするわ!」

「……なっ!?」

 そこで明日香が使用したのはクセの強すぎる罠カード《ドゥーブルパッセ》で、スピード・ウォリアーの攻撃はサイバー・エンジェル-弁天-ではなく、そのまま明日香へと向かっていく。
憑依装着-ウィンのダイレクトアタックを受ければ、《ドゥーブルパッセ》の第二の効果を発動するまでもなく、明日香の敗北が決定するのだが……?

 ……と、不審がっている俺の前で、急激に風と一体化していたスピード・ウォリアーが小型化していった。

「二枚目のリバースカード、《ミニチュアライズ》! 憑依装着-ウィンの攻撃力を1000ポイント下げるわ! ……きゃっ!」

明日香LP1250→400

 指定した相手モンスターの攻撃力を1000ポイント下げる罠、《ミニチュアライズ》――その効果に指定された憑依装着-ウィンには、明日香のライフポイントを0にすることは出来なかった……ウィンがミニチュアライズされたのも見てみたかった気もしたが、残念ながらミニチュアライズしたのは攻撃そのものだった。

「《ドゥーブルパッセ》の効果により、遊矢にダイレクトアタック! これで終わりよ、エンジェリック・ターン!」

 そんな邪な考えを持っていた天罰のように、俺はサイバー・エンジェル-弁天-の扇に切られた後、ご丁寧に返却された《ニトロユニット》で爆発するのだった……

「うおおおおおっ!?」

遊矢LP450→0


 三沢の部屋で軽く大爆発を起こして倒れた俺に、明日香は優しく手を差し伸べた後にこう言った。

「デュエル前の約束……覚えてるわよね?」

 その時の明日香の笑顔は、負けても良かったと若干思ってしまう程の笑顔だったと、ここに追記しておく。

 ……この後「サボるな」と万丈目に俺だけが怒られたのは言うまでもない。 
 

 
後書き
お ま け

明日香「そう言えば遊矢。このデッキ【風霊使い ウィン】デッキなのに、関連カードの《吹き荒れるウィン》が入ってないけれど……」

遊矢「アレは良いんだ」

明日香「……そうなの。何故かしら?」

遊矢「何でもさ」

……第三期開始に何でこんなデュエル書いたし。

感想・アドバイス待ってます。 
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