インフィニット・ア・ライブ
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第十話「仮面 ~rider~」
―――???side
「おお イチカよ 死んでしまうとはなさけない」
不意に響く声に一夏の意識は覚醒した。
「何処だここ?」
確か千夏の腹に剣を突き刺していた筈、と辺りを見渡す。
時々黒い古代文字のようなものが流れる純白の空間の中に、一夏はいた。
「無視ですか?いい加減、泣きますよ」
視界に入り、なるべく無視していた存在に声を掛けられ、一夏はげんなりする。
それは、意識がここに来る前に自分がまとっていた、黄金の牙狼の鎧だった。
しかも、聴こえてくるのは女性の声とはこれは如何したものか?
「コホン。話を進めるが、ここは真魔界に続く心の内なる魔界だ」
「え、マジ?そこも再現しちゃったの?」
再現度の高さに、改めてDEMインダストリーの変態共のオーバーキルっぷりを実感する一夏。
「では、試練を」
「セイッ」
「いや、人の話は最後まで、……ってなんじゃこりゃぁぁあああ!?」
牙狼の鎧は、一夏がいきなり剣を握り、その剣が自分の腹に生えていることに絶叫した。
「色々とめんどかったんで、つい殺っちゃった」
「まあ、いいでしょう。正直、私も面倒だと感じてましたし」
腹に剣が突き刺さったまま、顎に手を当ててウンウン頷く牙狼の鎧。
随分と、シュールな光景である。
「さてさて、試練は合格です。おめでとうございます。一次移行も完了し、牙狼の鎧は黄金の輝きを取り戻しました」
「そりゃどうも。結局、これは何の意味があったんだ?」
パチパチ、とおざなりの拍手をする牙狼の鎧に尋ねる一夏。
「至極単純ですよ。白式のコアにあった私の意識を、こちら側に移すためです。潜在的であれ、顕在的であれ、コア人格がなければISは動かない代物ですからね。抽出するのが牙狼剣、飛び出した私のデータを回収するのが牙狼の鎧、といったところです。あと、このような形をとったのは趣味です。あの変態共の」
「それは、仕方ないな」
一夏は牙狼の鎧に同情していると、視界がだんだんボヤけてきたのに気付く。
「どうやら、時間がきたようですね。では、あのポンコツをギャフンと言わせるのに期待してますよ、マイマスター」
「いや、ギャフンは死語じゃ……」
ブラックアウトする直前、一夏の視界に映ったのは牙狼の鎧が白いワンピースを着た少女に変わり微笑んだ姿だった。
第十話「仮面~rider~」
「ウェストコット、やり過ぎだ。これは実戦ではないのだぞ」
試合を終え、ピットに戻った一夏を出迎えたのは仏頂面の千冬だった。
「いいえ。ISを使う以上、命の危険を伴います。故に、俺は実戦の心構えで臨んでます」
素人であるならば確実に失神するであろうプレッシャーが千冬から発せられるが、一夏を含め非戦闘員である筈の束やクロエでさえ全く動じず無言で睨み返す。
「……まあ、いい。織斑が目を覚ます気配がない。アリーナの使用時間も限られている。よって、次の試合はお前とオルコットだ」
「了解しました」
先に折れたのは千冬で伝えることだけを伝えると、ピットから出て行った。
「ふむ。こんなものですか、世界最強は」
盗聴されていないことを確認したクロエは、落胆したことを隠すことなく吐露する。
「まあ、人間の常識の範疇なら最強だろうよ。ただまあ、最強であって無敵ではないからな。ところで、任せていいか?」
「ノープロブレムです、一夏様」
「くーちゃん、それ牙狼剣と一緒にテレポートさせちゃった仏像だから」
相変わらず見当違いの方角を向いて会話するクロエに苦笑しつつ、一夏はアリーナへ向かい、束達はピット内を先程とはうってつけたように視線を鋭くして見渡す。
「さてはて、意外なもんを差し向けるもんだね。そんなにお気に入りが傷つけられたのが、癪かい?」
「ここは、私一人で十分です」
〈ドライバー・オン!ナウ〉
虚空に睨む束の前に、クロエが左手の中指に琥珀色の宝石の原石のようにゴツゴツした指輪をはめる。
「変身!!」
手形のベルトが形を変えたドライバーの手形を左手から右手にシフトさせると、それに右手をかざす。
〈チェンジ!ナウ〉
魔法陣が現れ、それがクロエの体をすり抜けると、金の線が走る白いローブをまとい琥珀色のマスクを被り、両肩には指輪のような装飾が施された、さながら白い魔法使いのような姿へと変わった。
……GARUUUuuuuuu!!
クロエの姿が変わると同時に、部屋の角から・・・一メートルほどの大きさで半透明な犬であって犬でないような体躯の獣が現れる。
聴く者を発狂させるような不気味な唸り声でクロエを威嚇する。
「猟犬如きが、私に勝とうなんざ二万年早いぜ!!」
「いや、くーちゃん。それ、いっくんが牙狼剣を抜いた時に偶々斬って落ちた仏像の首だから」
「さあ、ショータイムです」
正体不明の犬に怯えた様子もないクロエのボケっぷりに束はツッコムが、気にした様子はなくクロエと犬と対峙する。
束はこんなので大丈夫だろうか、と不安になったが、大丈夫だ、問題ない、と結論を出して一歩下がる。
GURRRRRAAAAAAA!!
〈コネクト!ナウ〉
魔法陣からトーンホールの代わりに指輪がはまっているフルートのような槍を取り出し、この世ならざる犬と激突する。
―――同時刻、IS学園近海
「……えと、後でシメる。絶対に」
『やや、確かにその心情は分かるけど落ち着こうよ』
ポツン、と緑のレインコートに兎耳をつけ、左手には兎のパペットをはめた青い髪の少女が、IS学園からそう遠くない波打つ海面に立っていた。
ふと、何かに気付いたのか視線を足元、海中へと向ける。
『おやおや?お出ましみたいだね』
チャプン
静かに海面が波立ち、少女の姿は海中へと沈む。
『四糸乃、聴こえる?』
「…えと、感度良好です」
突如無線が入り、水中でありながら平気で移動する四糸乃は応える。
『学園内で動きがあったわ。そっちは?』
「…えと、こちらも予想通り、来ました」
無線の報告から、面倒事が増えたと言わんばかりに顔をしかめる四糸乃は、あるモノを視界に捕えて移動を止める。
『やっぱりね。それじゃ、予定通りよろしく』
「…えと、了解です」
『今までの鬱憤を晴らすのに、付き合ってもらうよ~!』
無線を切り、IS学園へ向かって海中を移動しているモノの前に四糸乃は立ち塞がる。
……ceRi!…cE……!te……rIIII!!
邪魔をするな、とでも言うように解読不能な叫びを繰り返すモノに、四糸乃はめんどくさそうにため息を吐く。
「…えと、一応は、貴方の同族に私達をこの世界に招いてもらった・・・・・・・恩があるからね。去るなら、追いませんよ」
RIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIII!!
人語を理解できたのか、四糸乃の言葉に激昂したように襲い掛かる。
「…交渉決裂。それじゃ、逝こうか。華麗に!激しく!!」
どこから取り出したのか、四糸乃の手にはチェンーンソーが握られ、それを四糸乃はふかす。
『さあて、メッタメタにしてんよ!』
やけに楽しそうにチェーンソーを振り回しながら、見た目幼女に不釣り合いな武装でイイ笑顔で寄られたモノでも流石に引いたような様子を見せているがお構い無しで突撃するのだった。
かくして、常人には知る由もない戦いの火蓋も切って落とされた。
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