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インフィニット・ア・ライブ

作者:雪風冬人
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第九話「一夏VS千夏」

―――数分前、一夏のピット

「良かったのか? 」

 電子機器を持ったクロエに寸法を測られながら、一夏はタブレットPCを操作する束に尋ねる。

「もーまんたいさ。どう、くーちゃん?」
「問題ありません。全て誤差の範囲です」
「ご苦労様。でも、くーちゃんが話し掛けてるのは私じゃないから。椅子だから、それ」

 カラカラ笑う束に、クロエは測り終わった電子機器を渡そうとするが、見当違いの方角を向いていた。

「しかし、わさわざ測り直す必要なんてあるのか?」
「百聞は一見に如かずだよ。自分の目で確認しないとね。くーちゃん」
「はい。では一夏様、どうぞこれを」

〈コネクト!ナウ〉

 クロエがベルトの手形の部分に右手にはめた指輪をかざすと、電子音が響いて幾何学的な模様で構成された魔法陣が現れる。
 クロエは躊躇なく腕を突っ込み、引き出すと黒いコートが握られていた。

「いや、それロッカーだから。俺こっちだから」
「失礼。目が見えないもので」
「いやいや、『黒鍵』で見てるでしょ」
「いっくん。気持ちは分かるけど、時間がないから」

 束の言葉に一夏はコートを渋々羽織る。

「ちなみに、それはただの法衣だから、防弾防刃は完璧だけど飛べないから気を付けてね」
「え?魔戒騎士じゃないの?」
「ご安心を。ただ、原作を忠実に再現し過ぎたので」
「マジで!?ホラーもいないのに、ソウルメタル作れたの!?」

 流石は天災、と一夏が感心していると、クロエが別の指輪をはめ換えて再びベルトにかざす。

〈テレポート!ナウ〉

 すると、一夏の前に大理石のような白亜の台座と、それに突き刺さった一本の黄金の剣が現れる。

「さあ、一夏様。その剣を抜き、そこのウサギを斬るのです!」

 唐突に、クロエは束をビシッと指で指しながら叫ぶ。

「ちょ!?私、聞いてない!!」
「情けを捨てる覚悟がなければ、魔戒騎士を名乗る資格はない!!」
「委細承知!!」
「承知すんな!」

 や、やんのかこらー、と束は『なんでやねん』と金文字がプリントされたスリッパを持ってビクビクしながらも身構える。

「赦せ、ウサギ!」

 それに対し、一夏は台座から剣を躊躇なく引き抜いて構える。

「ウェイ!?」(0w0)

 それを見た束は、頬を痙攣させながら後ずさる。

「まあ、冗談はここまでにしてと。それじゃ、行ってくるわ」
「ご武運を」
「違うよー。それ、俺じゃなくてドアだから」

 クロエの行動にツッコミながら、一夏はカタパルトから跳んで・・・アリーナに出た。

「くーちゃん……」

 一夏を見送ったクロエが、電脳世界にダイブして試合を観ようとしていると、今まで弄られていた束がユラリ、と立ち上がる。

「少し、O☆HA☆NA☆SHIしようか」
「だが断る!」

〈フラッシュ!ナウ〉

 クロエに掴み掛かろうした束だったが、クロエがベルトにかざした指輪から閃光が迸ったことにより防がれる。

「目が、目がァァァアアア!!」
「ざまァないですね」

 某大佐のように目を抑えて悶える束をクツクツ笑いながら、クロエは悠々と電脳世界へダイブするのだった。


第九話「一夏VS千夏」



「ああそうそう。忠告しておくが、」

 試合開始のブザーが鳴り、先に動いたのは千夏だった。
 それに対し、一夏は牙狼剣を握ったままコートを風になびたせながら、静かに立っていた。

(もらった!)

 千夏は最適化が済んでいない状態でありながら、瞬間加速には及ばないものの、高速で一夏の背後に回る。

「俺の後ろに立つな」
「グハッ!?」

 千夏が接近した瞬間、顔面に衝撃が走り、直ぐ様後ろに下がる。
 見ると、一夏は鞘にしまったままの剣を振り向かずに突き出していた。

「だから、言ったろうに」

 やれやれ、と肩をすくめながら一夏は、鞘から牙狼剣を抜く。
 純白の剣身が陽光を受けて煌びやかに輝く。

「来いよ、神童(笑)」
「クッ!」

 千夏は『白式』に搭載された唯一の武装の近接ブレードを取り出して、下段に構えて斬り掛かる。
 一夏は左腕を突き出して、肘に剣身でなぞるように牙狼剣を滑らせる。

「ハアアァァァ!!」
「威勢は良いが、自分で敵に行動を教えるようなもんだぞ」

 突進してきた振り上げられる千夏の剣を上体を反らすことで避け、すれ違い様に脇腹を斬る。

KIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIN!!

「……うそーん」

 斬った瞬間、白式の斬り付けた箇所から黄金の波動が発せられて一夏の体がアリーナの外壁まで飛ばされ、砂埃が巻き上がる。


―――同時刻、管制室


「何だ、あの光は!?」

 白式から溢れた金色の光に、箒は思わず上体を乗り出しながら声を荒げる。

「私にも分からん」

 腕を組みながら険しい顔でモニターを眺める千冬。
 脳裏に浮かぶのは一夏・ウェストコットの初心者とは思えぬ、身の捌き方への疑問であった。

「大変です!大変です!」

 そんな中、計器を見ていた真耶が弾かれた様に声を出す。

「どうした、山田君?」
「彼、一夏くんなんですが、ISを装着していません!」
「何だとッ!?」
「正確に言うならば、ISは持っています。ですが、このままでは…」

真耶の言いたいことを察した千冬は黙り込む。
このまま試合続行となれば、一夏は最悪の場合、絶対防御も発動しない状態なので死ぬかもしれない。

(ふん!千夏をバカにする奴は、痛い目に合うのは当然だ!)

 各々が思考していると、アリーナでは砂埃の中に突っ込んだ千夏が、次の瞬間に吹き飛ばされて地面を転がっていた。


―――アリーナside

(クッソ!何でだ、何故天才である筈の僕が!!)

「認めよう。確かにお前は天才だ。だが、それだけだ」

 砂埃の中から現れる一夏を睨み、千夏は剣を強く握りながら立ち上がる。

「クソォォォオオオオ!!」
「型にはまりすぎだ。教科書通りの動きじゃ、すぐ読まれるに決まってるだろ。ちっとは、工夫しろ」

 冷静さを失い突進する千夏の剣を受け止めると、拮抗すると見せかけて左手で拳を握って、千夏の顔面に叩き込む。
 グラついた隙を逃さず、鍔迫り合っていた剣を弾き、千夏の胸元に一閃する。

KIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIN!!

「チッ!」

 再び、金色の波動で飛ばされそうになるが、地面に牙狼剣を突き刺すことで耐える。

「ハアハア!どうやら、僕を斬れないみたいだな!」

 勝機を見出した、とでも言いたげな余裕の表情に戻る千夏。

「斬り裂いてやるさ。それに、もう見切った!」

 一夏が牙狼剣を掲げ、頭上に円を描くとその円から、一筋の光が溢れ出す。
 千夏やアリーナの観客、そして管制室にいた千冬達も例外なく、あまりの眩しさに目を逸らしてしまう。

「何だ!?」

 光が収まり、そこには全身装甲フルアーマーをまとった一夏の姿があった。
 頭部と胸部の一部を除き、闇に溶け込むような漆黒の輝きを放ち、狼のような鎧の姿という、ISらしからぬ姿に観客達は息を呑む。

―――GARRRRR……

「姿が変わったくらいで、いい気になるな!」

 千夏はブレードを振り上げて、未だ棒立ちの状態の一夏に接近する。

(もらった!!)

パキィン!!

 勝利を確信した一撃は、一夏の鎧に下ろしたブレードが折れたことから覆される。

「嘘だ…」
「いいや、現実さ」

 ゆっくりと近づく一夏に、千夏は恐怖を感じながら後ろに下がる。
 そこで、千夏は気付いた。一夏が、今まで宙に浮かばずに戦っていたことに。

「そうか!お前は飛べないんだろ!?」

 あくまで希望的観測に過ぎず、普段の千夏ならもう少しマトモな行動を取っていただろうが、もはや、そんなことを考えていられる余裕などなかった。
 アリーナの上空のシールドギリギリまで上昇した千夏は、勝ち誇ったように笑みを浮かべる。

「……………」

 一夏は無言のまま左手の甲で、幅広・両刃で大型、束頭と刀身に紋様のついた牙狼剣を研ぐ。
 すると、剣身が金色に輝き、千夏に向けて振り上げると金色の弧を描く軌跡が放たれる。

「何ィ!?」

 咄嗟に避ける千夏だったが、目の前に金色の狼のバイザーが映ったことで驚愕し、動きが止まる。
 アリーナの地面にはクレーターができており、一夏は地面を蹴って千夏のところまで跳んだのだった。

「オオオオオオォォォォォォオオオオオオ!!」

 一夏は雄叫びを上げながら、動けない千夏の腹に牙狼剣を突き刺して降下する。

KIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIN!!

 途端に白式から金色の波動が吹き出し、それが漆黒だった鎧を黄金に染め上げる。

「こんな、こんなバカなァァァアアア!?」

〈最適化フィッティング、終了。一次移行ファースト・シフト、完了。単一仕様能力ワンオフ・アビリティー、武装の破損により使用不可〉

 降下中、白式からのメッセージを千夏は確認するが、状況はすでに手遅れだった。

「性能を活かしきれず、去ね!」

千夏は反撃もできず、地面に叩き付けられた衝撃で意識を失った。

「こんなものか…」

 千夏をクッション代わりにしたため、ダメージがあまりない一夏は千夏の上から降りる。
 鎧は漆黒から黄金へと変わり、その姿はまるで夜闇を斬り裂く一筋の光のようであった。

「……きれぃ」
「……うん」

 観客席では、観客達が一夏の鎧の美しさに心を奪われ、思わず呟く声があちこちから聞こえた。

『試合終了!勝者、一夏ウェストコット!』

 歓声が沸き上がる中、一夏は気絶した千夏を転がしたまま自分のピットへ向かった。 
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