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真・恋姫†無双 劉ヨウ伝

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第119話 劉協の複雑な想い 後編

 
前書き
話が短いですが後編を書きました。
前編と後編に分けなくてもよかったかなと思いました。
次回から気をつけようと思います。 

 
 劉協との取り留めもない話は数刻に渡りました。
 その間、宦官が茶を用意することがありましたが用が済めば直ぐ立ち去っていました。
 もっと、面倒な話を切り出されるのでないかと不安でしたが私の杞憂でした。
 「劉ヨウ、お前に忌憚ない意見を聞かせて欲しいことがある」
 劉協が唐突に話題を替えてきました。
 「皇子、私に答えられることであれば何なりとお聞きください」
 私がそろそろお暇しようかと思案していると劉協が私に質問を投げかけてきました。
 「お前は何を望む?」
 劉協は私を真摯な瞳で見つめていました。
 「皇子、唐突にございますね。望みとは如何様な意味にございますか?」
 私は劉協の言葉の真意を探るべく質問をしました。
 「私は見ての通り籠の鳥、世が乱れようと私に出来ることは大流に流されるのみ。だが、私は皇族として己の責務は務めたいと思っている。お前は今の世をどう想い、どうしたいと思っている? 私は世事に疎い、お前の存念で構わない。聞かせてくれ」
 「臣下の身で皇帝陛下のご治世に関して意見するなど不敬なことでございます」
 私は劉協の真摯な瞳から目を逸らしながら言いました。
 彼女の瞳を見ていると自分の気持ちを正直に答えてしまいそうです。
 彼女は平安の世であれば名君と称されていたかもしれません。
 しかし、彼の後援者になるであろう者達が宦官である限り、名君への道は険しいものになるでしょう。
 「お前も応えてはくれないのか」
 劉協は言葉に力がなくなっていました。
 「劉ヨウ、私は市井で民草がどのような生活を送っているのかわからない。しかし、最近起こった農民の反乱は今までと違うと思っている。この洛陽より大勢の兵士達が出立しておる。いかに非力な私にも尋常ならざる事態であるとわかる。私は知りたいのだ。お前は反乱を討伐するために兵を指揮していたと聞く、お前の見たもの聞いたものを聞かせてくれないか? 私の周囲に居る者は私に詳しいことを何も教えてくれない。私は皇族として漢の行く末を案じているのだ」
 劉協は意気消沈していましたが、直ぐに顔を上げ私に熱く語ってきました。
 応えるべきでしょうか?
 しかし、ここで応えては劉協の信頼を得る可能性があります。
 劉協の最大の支援者は張譲を筆頭した宦官達です。
 彼らは劉弁が皇帝になることを恐れているはず、劉弁が皇帝になった暁には何進による宦官達の粛正が間違い無く始まるでしょう。
 宦官の存在は官吏達にとって邪魔者でしかありません。
 皇帝の側近くに侍る宦官達はただ権力と金にのみ執着を持っている者達であり、金のためなら無法をまかり通そうとします。
 特に、皇帝の信頼を得た張譲のような宦官は金の亡者のような者達です。
 彼らの生い立ちを考えれば金と権力に執着する理由はわからないでもありませんが、それを見過ごしていては組織は腐敗していくだけです。
 どこかで根を立たなければならない。
 宦官を粛正したところで腐敗官吏を一掃できなければ組織の健全化を行なうことはできないです。
 何進が宦官を粛正したところで腐敗官吏の一掃は無理でしょう。
 大きな組織になればなるほど病巣を取り除くには荒療治が必要です。
 組織を破壊し一から作り直すことが一番の近道です。
 その結果、多くの犠牲を強いることになるでしょうが未来の者に安寧の世を与えるために必要なことです。
 この想いを劉協に語るのは流石に憚れます。
 私は既に現在の漢室を見限っています。
 劉協が幾ら名君となろうと組織を立て直すことはできず、無駄に腐敗した組織を延命させるのみです。
 ですが、何も語らなければ劉協の様子からして帰してくれそうにない気がします。
 劉協は歳若いですが皇族して漢室の行く末を案じているのだと思います。
 この歳で皇族としての責務を自覚しているとは惜しい人物です。
 当たり障りのない私の気持ちを言うことにします。
 でも、皇帝陛下への批判になる発言なので気が引けますが仕方ありません。
 「皇子、民草は飢えています。その日生きる糧を得ることも侭ならず、ただ死に行く者達が大勢おります。反乱を起こした者達も全てが全て生来の悪党でなく、生きるために加わった者達が大勢います。しかし、彼らを討伐しなければ世は更に乱れます。矛盾していると思われませんか? 民草が生きれる世を作るため皇帝陛下を補佐し努めることが本分である我らが、生きることができず賊に身を落とした民草を殺しているのです。真面目に生きる民も大勢いますが、彼らがいつ賊に身を落とすかわかりません。私は賊に身を落とした民草を賊として殺すことしかできません。殺さねば真面目に生きる民を賊に身を落とさせることになるからです。このままでは、いずれ真面目に生きる者が居なくなり、この世に民草はいなくなるかもしれません」
 私はそれを皮切りに自分の冀州で経験した黄巾の戦の話を語りました。
 劉協は私の話を黙って聞いていました。



 「そ、そのような、民草は酷い暮らしをしておるのか?」
 私の話が終わると劉協は暫し沈黙していましたが、彼女は瞳を潤ませ私に聞いてきました。
 歳若く深窓の令嬢である彼女には過激な話であったかもしれません。
 話すべきことであったか少し後悔しています。
 「人の上に立つ者が民草を見えなくなれば、このようになることは必定にございます。力持てる者に力無き者の痛みはわかりません。生まれながらにして力を持つ者であれば尚更です。皇子、あなた様も民草からすれば力を持つ者なのです」
 「・・・・・・」
 劉協は私の言葉に沈黙しまし私を真剣な瞳で私を見つめていました。
 「私の望みは民草が安寧に暮らせる世を創ることでございます。飢えぬ者を無くすことはできないかもしれません。ですが、少しでも多くの者が飢えない世を創ることは出来ると思っています」
 「私にはお前の望みは叶えてやることはできない」
 劉協は私の顔を見つめながら自嘲気味に言いました。
 「私にはせいぜい漢室を守ることしかできない。洛陽の都のみであれば飢える者を減らすことはできるかもしれない。だが、私にお前の望む世を創ることはできないだろう」
 劉協は己の力無さを悔しそうに下唇を噛み私に言いました。
 暫し私と劉協の間には重苦しい空気になりましたが、それを破ったのは劉協でした。
 「劉ヨウ、ありがとう」
 劉協は私に優しい笑みを浮かべ言いました。
 「皇子、臣でありながら不敬な発言をしてしまい申し訳ございません」
 「よい、私はお前の話を聞けたこと嬉しく思うぞ。劉ヨウ、今日は大義であった。帰ってよいぞ」
 劉協は元気な声で私に応えました。
 「最後に一つだけ聞かせてくれ。今日のように、また語らう日が来るだろうか?」
 彼女の表情は私への何かしらの期待を抱いている様子でした。
 いずれ、また劉協に会うことがあるでしょう。
 董卓は劉協を必ず支えることでしょう。
 私の知る董卓であれば、名君の素質を持つ劉協を無視できないはずです。
 賈詡は猛反対でしょうが、董卓の意を組み最後まで奮闘すると思います。
 それに賈詡は董卓に天下を取らせたいと思っています。
 賈詡の夢実現のためには中央に出る必要があります。
 今の董卓は地方の一勢力でしかなく、前回の黄巾の乱では大した戦功は立てていません。
 今のままでは董卓が天下に覇を唱えるなど夢のまた夢、最終的には危険な賭けと分かっても賈詡は選択せざる終えません。
 「皇子、生きていれば必ずまたこのように語らう日が来ることでしょう。私は皇帝陛下とお約束いたしました。仮に皇子と敵味方に分かれようと、貴方様の御身とお命はこの劉ヨウが父祖に誓って必ずやお護りいたします」
 皇帝陛下との約束は反古にするべきか悩んでいましたが、気持ちが定まりました。
 劉協は私が護り抜きます。
 揚羽が暗殺を計画しようと、この私が決して認めません。
 「そちは悪人には成れぬようじゃな・・・・・・。劉ヨウ、お前の真名を私に預けてくれぬか? 私は伴侶にしか真名を預けることはできない故、お前に真名を預けることはできない。替わりに私を『協』と呼び捨てで呼ぶことを許す」
 私の気持ちを察したかどうか分かりませんが、劉協は私に真名を預けて欲しいと言ってきました。
 彼女は私の近臣として招くとことはないでしょう。
 彼女も私の目指す先を薄々感じているのかもしれません。
 それでも私を咎めるのでなく信頼の証を示すということは彼女が私の想いを理解してくれたのかもしれません。
 私の勝手な思い込みかもしれませんが、私は今日話したことを彼女が他言しないように思いました。
 「私の真名は『正宗』にございます」
 「正宗、またお前と語らう日を楽しみにしている。その日まで私もお前に恥じぬ生き方をしよう。私には友と呼べる存在がいない。正宗、私と友になってくれないか」
 「皇子、いえ、協。喜んであなたの友とならせていただきます」
 「正宗、堅苦しいな。次に会うときは堅苦しい喋り方はなしだぞ」
 劉協は椅子より降り私に近づいてくると私を見上げながら笑顔で言いました。
 「はい、いや。わかった」
 「ははははは、それでいい。友の間柄で堅苦しいのはなしじゃ」
 劉協は爽やかに笑いながら私に言いました。  
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