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ワルキューレ

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第一幕その五


第一幕その五

「敵の大群を退けました。しかし」
「しかし?」
「私が倒した中に彼女の父や兄達もいたのです」
「ふむ」
 フンディングはその話を冷静に聞いていた。
「まさかとは思うが」
「彼女はそれを見て涙を流し私を非難し」
「そしてどうなったのだ?」
「一族の者達はさらに私に襲い掛かり私はさらに戦いました」
 忌々しげな顔で語るのだった。
「その結果私は敵を再び退けましたが」
「それでどうなったのですか」
「槍も楯も粉々になってしまい」
 その時に武器を失くしたというのである。
「その横に彼女も事切れていました」
 ここまで話してそのうえでこうも言うのだった。
「何故私がフリートムントと名乗らないのかこれでおわかりでしょう」
「それはわかった」
 フンディングはここまで話を聞いたうえで頷いた。
「だが」
「だが?」
「わしも言っておこう」
 こう述べてから彼も話すのだった。
「わしは荒々しい一族のことを知っている」
「その一族とは」
「他の人々には尊いことも彼等には神聖ではなくわしも他の者も彼等を嫌悪している」
 若者を睨み返しながらの言葉だった。
「わしが先程まで出ていたのは一族の復讐の為」
「一族の」
「一族の血の償いを果たせと呼ばれたのだ」
 今も若者を睨んでいた。
「しかしその仇を見つけることはできず屋敷に戻ってみるとそこにいた」
「あなた、それでは」
「そうだ、この男だ」
 彼を睨んだまま妻に答える。
「我が家は今日は君を守ろう。今夜だけはな」
「今夜だけは」
「そうだ、今夜だけだ」
 妻に対しても若者に対しても告げた。
「明日は戦いの日だ。死者達の弔いを果たす日だ」
 こう告げて若者にさらに言うのだった。
「明日の朝に決闘をしよう。そして忠告をしておく」
「忠告とは」
「己の身は己で守れ」
 彼が武器を持っていないことをわかっていての言葉である。
「それだけだ」 
 ここまで言うと場を後にした。残ったのは若者とジークリンデだけだった。若者は項垂れた顔で呟いた。
「父上は私に剣を約束してくれた」
「剣を?」
「私は困窮の時にそれを手に入れると」
 こうジークリンデに答えるのだった。
「私は今敵の屋敷の中に剣もなくいる」
「はい」
「復讐の人質だ。その私はどうするべきか」
 そして言うのだった。
「ヴェルゼよ」
 この名を叫んだ。
「ヴェルゼよ。貴方の剣は何処なのか」
 辺りを見ての言葉だ。
「嵐の中で振り回す、心の中の怒りに任せて振り上げるべき剣は」
 それを欲しているのだった。
「それは・・・・・・むっ」
 ふと木のところに。あるものを見たのだった。
「これは一体」
「何か」
「この木の幹から煌く光は一体」
 木の幹にそれを見たのである。
「この素晴らしい光が私の心に気高い炎を宿らせる。そして」
「そして?」
「貴女の目は」
 今度はジークリンデに対して言うのである。
「輝くような眼差し、まるで太陽の輝きの様だ」
「私は日だと」
「そうだ、日だ」
 それだというのである。
 
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