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ワルキューレ

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第一幕その四


第一幕その四

「私はヴォルフェの子、ヴェルフィングの一族です」
「ヴェーヴァルトにヴェルフィング」
 呟くフンディングの声は不吉なものだった。
「その名はわしも聞いたことがある」
「そうでしたか」
「だが会ったことはなかった」
 そしてこうも言うのだった。
「そして御父上は今は」
「はい」
 若者はさらに話すのだった。
「ナイディングの一族は我々を追ってきて森の中を彼等や野獣達と戦い逃れて生きてきました」
「戦いの中でだな」
「その通りです。その中で父を生き別れ長い間探しましたが」
 若者の話は沈痛なものになる。
「見つけたのは狼の毛皮だけでした。そして森を出て」
「彷徨っていたのか」
「人に会い友を求め妻を得ようとしました」
 人としての幸福を望んだということである。
「ですがその度に追われてきました」
「何て気の毒な」
 ジークリンデはその彼に対して同情的だった。
「そうして彷徨っておられたなんて」
「私には正しいと思えるものが人には悪しきものに思われ」
 彼はさらに言う。
「私が悪しきものに思えるものが人には正しきものに思え」
「人に受け入れられなかったのか」
「行く先々で怒りに襲われ反目を受けました」
 フンディングの言葉に答える。
「歓喜を求めると悲痛がより。ですから私はヴェーヴァルトなのです」
「ノルンは君を愛していなかったのだな」
 運命を司る三柱の女神達だ。フンディングは今彼女達の名前を出したのだった。
「そしてだ」
「そして」
「君を見知らぬ客として迎え入れた男もまた」
 他ならぬ彼自身のことである。
「君の来訪を喜んではいない」
「あなた」
 その夫に対して怪訝な顔で言うジークリンデだった。
「この方は武器を持ってはいません」
「そのようだな」
 それは彼も見ていることだった。
「どうやらな」
「何故武器を持っておられないのですか?」
 ジークリンデは怪訝な顔で彼に問うた。
「それは何故」
「それはです」
 彼はそれに応えて話しはじめた。
「ここに来る前に」
「はい」
「全て失くしてしまいました」
 こう答えるのだった。
「そう、全てをです」
「それは何故ですか?」
「悲しき娘がいました」
 こうジークリンデに対して告げる。
「その娘が私に助けを求め」
「悲しい娘ですか」
「一族に望まれない結婚を強制されていました」
「えっ・・・・・・」
 彼のその言葉を聞いてはっとした顔になったジークリンデだった。だがその顔は一瞬で消してそのうえで再び彼の話を聞くのであった。
「そうだったのですか」
「私は彼女の為に戦いました」
 そして彼はまた言った。
 
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